対談・講演

決算書の信頼性を見極める「記帳適時性証明書」

坂本孝司 TKC全国会会長 × 飯塚真玄 TKC名誉会長 TKC全国会最高顧問

金融機関へ情報開示する仕組みとして「TKCモニタリング情報サービス」が2016年10月に開発され、本年7月には利用申込件数11万件を突破した。この推進運動の根底には、「決算書の信頼性」を裏付ける巡回監査とその実践を証明する「記帳適時性証明書」がある。「記帳適時性証明書」は、「税務と会計の一気通貫」が行われている(電子申告した内容と同じ決算書等である)ことを、株式会社TKCが第三者として証明するものである。この「記帳適時性証明書」の意義と課題について、坂本孝司TKC全国会会長と飯塚真玄TKC名誉会長が語り合った。

司会:会報「TKC」編集長 石岡正行
とき:令和元年6月28日(金) ところ:TKC東京本社

巻頭対談

「決算書の信頼性は識別可能である」と金融機関トップに伝える必要性を痛感

 ──本年4月、坂本会長は「TKCモニタリング情報サービスの爆発的な普及を願う」との緊急提言を全会員に発信されました。この中で坂本会長は、TKCモニタリング情報サービスの推進によって「決算書の信頼性は識別可能である」ことを金融機関に周知して、金融機関との連携強化を図るべきと示されています。
 現在、各地域会では金融機関トップの方と地域会執行部との対談が行われていますが、緊急提言を発信された背景を踏まえ、税理士と金融機関との連携関係についてどのようにご覧になっていますか。

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 坂本 TKC全国会会長に就任して2年半の間、20地域会の会長の皆さんには、金融機関経営幹部の方と直接お会いしてTKC全国会運動の意義をお伝えするトップ対談をお願いしてまいりました。これは金融機関と税理士との強固な連携関係強化を目指して取り組んだ運動ですが、トップ対談開始当初は「門前払い」のような対応をされる金融機関もあり、大変辛い思いをされた方も少なくなかったと聞いています。そういった環境下においても、金融機関からの理解を得るために努力し続けてくださった地域会会長や執行部の皆さんには感謝しかありません。
 皆さんのご努力の甲斐あって、現在では我々TKC会員事務所の業務を理解してくださる幹部の方も増えてきました。またTKC専用融資商品をリリースしてくださる金融機関も登場するなど、感触は徐々に良くなってきています。
 ただ一方で、TKC全国会会長として、またTKC全国政経研究会会長として行政や金融業界の方とコンタクトする中で、本音では「中小企業の決算書は信頼できない」と言う方もおられるのが現実です。話をよく聞くと「在庫を過大計上している」「5年前の債権が売掛金に載っている」といったことが理由のようですが、それは少数派である破綻先企業の一部に見られる特徴であって、正常な経営をしている大半の健全企業には当てはまりません。一部の極端に悪い例が全体のイメージを悪くしているという印象を持ちました。
 特に、現場出身の金融機関トップの方にとっては、中小企業から提出された決算書が粉飾されていた──というかつての苦い経験が忘れられないようで、中小企業の決算書には信頼を置けないとお考えのようでした。したがって、金融機関と税理士とが真の連携関係を築いて中小企業を支援していくには、決算書の信頼性にはグラデーションがあること、そして「決算書の信頼性は識別可能である」ことをもっと金融機関トップの方にご理解いただく必要があると痛感したんです。
 そこで、TKCモニタリング情報サービスを爆発的に普及せしめることによって、①どの税理士が関与しているのか(TKC会員)、②月次巡回監査を実施しているのか、③電子申告した内容と同じ決算書等であるのか(一気通貫)、④中小会計要領への準拠(中小会計要領チェックリスト)、⑤税理士法第33条の2に基づく添付書面──の五つが「信頼性ある決算書」の分水嶺であるということを金融機関に認知していただき、誠実な中小企業と誠実な税理士の未来を切り拓いていきたいと考え、緊急提言を発信した次第です。
 最近のトップ対談では、「決算書の信頼性は識別可能である」ことを意識的に強調して金融機関の方に説明を加えてくれていて、金融機関側にも少しずつ理解の輪が広まってきています。ただし、私はまだまだ入口段階という認識でいます。慢心せずに、引き続きトップの方との対話を継続して、「決算書の信頼性は識別可能である」ことの理解をさらに深めていただく必要があると思っています。

「金融機関が本当に必要とするデータ」を経営者と税理士が情報開示するTKCのFinTech

 ──TKCは1966年の創業以来、「会計事務所の職域防衛と運命打開」のためのシステム開発に尽力されています。飯塚名誉会長、2016年10月に開発されたTKCモニタリング情報サービスについて、サービス開発の背景や経緯をあらためて振り返っていただけますか。

TKC名誉会長 TKC全国会最高顧問 飯塚真玄

TKC名誉会長
TKC全国会最高顧問 飯塚真玄

 飯塚 TKCではイノベーションの源泉として、①法律の変化②社会制度の変化③ICTの変化④顧客の価値観の変化──という「四つの変化」を常に注視しているのですが、その観点を踏まえてここ5年のコンピュータ業界を俯瞰してみると、人工知能(AI)とクラウド化がブームになっているわけですね。
 つまりAIを採用しないIT会社は置いていかれ、システムはすべてクラウド化するのが正しい──という空気が充満しているのです。最近は少し冷静になってきましたが、去年くらいまでは特にAIに対する期待と畏れのようなものがコンピュータ業界の中で渦巻いていました。
 そうした中、2015年の終わり頃からAIとクラウドを掲げたクラウド会計ベンダーが登場してきました。そして金融機関にものすごいアプローチをかけたわけです。貸出先に自社のクラウド会計ソフトを導入すればその企業の取引内容をつぶさに見ることができ、新しいビジネスローンを提供できるようになります。なおかつ、その企業に貸すべきか否かの判断はAIが行います──と。
 その頃は金融行政の変化もあり「FinTech」という言葉が世の中を席巻していて、かつ多くの金融機関は人口減少などで業績が悪化していましたから、藁にもすがる思いがあったのでしょう。クラウド会計ベンダーとの提携関係を結んだ金融機関はずいぶん多くありました。
 私は、金融機関が貸出先の取引データを見られたとしても、そのデータは玉石混淆で融資に役立てることはできないだろうと思っていました。けれどもTKCは、「会計事務所の職域防衛と運命打開」をミッションとしている会社ですから、職業会計人を軽視した彼らの攻め口を看過するわけにはいきません。この流れへの対抗策を議論している最中、TKCのメインバンクの一つである常陽銀行の寺門一義頭取(当時)から、「FinTechに関して、TKCさんと共同でシステム開発をしたい」とのお申し出を頂いたのです。2016年3月のことでした。そうして開発を進め完成したのが、TKCモニタリング情報サービスです。
 このサービスを開発するにあたって最も重要なポイントは、「どこまで情報を開示するか」でした。実は他社のクラウド会計ベンダーの契約内容を読みますと、金融機関経由でクラウド会計ソフトを導入した場合には、全ての取引データを当該金融機関に開示することになっているんですね。要するに、クラウド会計ベンダーは金融機関に企業の取引データを売っているというわけですよ。

 坂本 金融機関に対してクレジット明細や預金口座を含めた全取引をオープンにするというのはまさに裸同然。企業にとっても良いこととは思えませんね。

 飯塚 これには、金融庁が求める「事業性評価」を推進したいという金融機関側の思惑も関係しているのでしょう。けれども「事業性評価」を行うための条件は、必ずしも全ての取引データを見ることではなく、貸出先と対話を重ねて良好な関係を築くことにその本質があるはずです。そのように考え、私どもは常陽銀行さんからアイデアを頂きながら開発を進め、TKCモニタリング情報サービスでは「金融機関が本当に必要とするデータ」を中心に開示するようにしました。つまり、融資先の金融機関に対する開示義務に則った範囲内での情報提供に徹しよう──ということを決めたわけです。

 坂本 そもそも、多くのIT会社は職業会計人をバイパス(無視)すべき存在と見なしているようです。ですから、IT会社が職業会計人との協力体制を敷いているかどうかは、職業会計人にとって非常に重要なことなんですよね。
「AIやITの進化が職業会計人の職域を脅かす」との認識は、こうしたIT会社の開発姿勢とも直結していることなのです。その点、職業会計人の未来を常に考え、世界でも指折りの開発力を誇るTKCがサポートしてくださるから、我々TKC会計人はAIやITの進化を味方につけて業務を行える。この意味を、我々はあらためてよく考えるべきです。

中小企業金融の「橋渡し役」を果たす千載一遇のチャンスが到来している

会報「TKC」編集長 石岡正行

会報「TKC」編集長 石岡正行

 ──公開すべきものとそうでないものを切り分けて対応していく。TKCモニタリング情報サービスはいわゆる「オープン&クローズ」戦略に沿った画期的なサービスですが、なぜ無償にすることを決断されたのでしょうか。

 飯塚 私は、かつて中小企業再生支援全国本部顧問の藤原敬三さんから言われた言葉が非常に印象に残っているんですよ。「金融機関と税理士事務所の間には深い溝があり、お互い不信感に包まれてきた。けれども今後の中小企業の経営改善支援のために、この際会計事務所側から歩み寄ってほしい」と……。
 もしもTKCモニタリング情報サービスの利用が全国の金融機関に広まれば、これまで金融機関が抱いていた税理士事務所に対する不信感が一掃され、税理士は中小企業金融の仲介者としてのポジションを確立することができます。そうすると金融機関は税理士との提携が必須となりますから、税理士に対する尊敬心も芽生えてくるはず。つまり、TKCモニタリング情報サービスは金融機関の価値観を、もっと言えば社会の価値観を大きく変えるパワーを秘めていると私は確信したのですよ。だからこそ、有償ではなく無償で提供しようと判断したのです。

 ──社会の価値観を変える。そのことを飯塚名誉会長は「ソーシャル・イノベーション」と表現されていますね。

 飯塚 これには背景がありまして、今から6年ほど前、東京・新宿で開かれた税理士の先生方を対象としたセミナーに参加したんです。そのセミナーではある政府系金融機関の支店長さんが講師を務めておられ、その方は講演の中で「我々金融機関は、税理士の皆さんが作った決算書を信用していません」と言ったんですね。私は非常にびっくりして、「なんて失礼な」と……。非常に悔しく、腹立たしい思いでいっぱいでした。
 私にとりましてこの出来事は忘れられませんで、いつの日か、金融機関側から「税理士の先生方の指導の下で作られた中小企業の決算書が頼りです」と言ってもらえる社会にしたいと思ったんです。ですから私はTKCモニタリング情報サービスに秘められたパワーで、会員先生方と一緒に社会の価値観を変えたいと念願しているのですよ。

 坂本 一刻も早くそのような環境にしたいですね。日本と同じ税理士制度があるドイツでも、2018年4月から税理士が金融機関に決算書・申告書等を電子的に送信する仕組みが整備されています。この取り組みはドイツの金融業界が主導して始まったようですが、4月に行われた「DATEV‐TKCミーティング」で最新情報をお聞きしたら、この取り組みに参画するITベンダーはDATEVを含めて有料とのことでした。そうしたことを考えても、TKCが無償でTKCモニタリング情報サービスの提供を決断されたことに深い敬意を表します。
 先ほど飯塚名誉会長が触れられたように、我々税理士業務を営む職業会計人は、間接金融の仲介役としての役割を果たすべきです。私はこの20年来、職業会計人が中小企業金融の健全性を担保しているドイツの事例を研究しながら日本における有効手段を模索してきましたが、なかなか決定打がなかったのも事実です。それを、TKCモニタリング情報サービスという画期的な仕組みによって、税理士が中小企業金融の「橋渡し役」としての役割を発揮できる糸口が見えた。今はまさに千載一遇のチャンスなのです。
 加えて、金融行政の方向性と我々が目指す方向性とが一致していることも強調しておきたいと思います。『TKC会報』2019年7月号で対談させていただいた遠藤俊英金融庁長官は、地域金融機関に対して、「税理士の方々など外部専門家の協力も得つつ、(略)地域企業と深度ある対話を実行していくことを期待したい」とおっしゃっていました。金融行政からも大きな期待が寄せられている一方、本気で税理士とタッグを組んで中小企業を支えていこうという金融機関はまだ多くないのが現状です。それはTKCモニタリング情報サービスの取り組み実績がまだ足りないからだと考えられます。今こそオールTKCの英知を結集して、同サービスの爆発的な普及を図りましょう。

「記帳適時性証明書」の記載内容は「トレーサビリティー」「継続性」を証明

 ──「決算書の信頼性」を識別する有効な手段が、TKCモニタリング情報サービスで金融機関に送信できる「記帳適時性証明書」です。「記帳適時性証明書」は2009年に(株)TKCが第三者証明として発行を開始されましたが、開発を先導した飯塚名誉会長から、その意義についてあらためてお聞かせください。

 飯塚 「記帳適時性証明書」には、仕訳数・月次決算完了日(TKC会計人による巡回監査実施日)・決算書上の当期利益額・申告書上の当期利益額・電子申告がなされていること・書面添付実践の有無──が記載されています。
 すなわち、日々の記帳(仕訳)からスタートし、その正確性・適時性等を巡回監査で職業会計人が検証し、月次決算を終えた時点で帳簿を閉鎖します。これが年12回繰り返されて期末を迎えて、会計人の指導で決算書の処理が終わると決算書に計上された当期利益が税務申告書に連動して電子申告される──という、記帳から電子申告まで一貫したプロセスをたどっていること(一気通貫)を客観的に証明しているのです。つまり「トレーサビリティ(追跡可能性)」が確保されていることの証明書と言えるのです。
 そして「記帳適時性証明書」は、「税務と会計の一気通貫に関する証明書」とも言えるものなのです。これは(株)TKCの創業者である飯塚毅博士がTKC財務会計システムの第1版を設計するとき、記帳の重要性をうたうドイツの「正規の簿記の諸原則(GoB)」を念頭に置いていたからこそできた仕組みです。データの入り口(記帳)から出口(電子申告)まで一貫してトレースできるTKCの「記帳適時性証明書」は、世界に類を見ない証明書なんです。
 もう一つの重要な点は、「記帳適時性証明書」が「継続性」を証明していることです。同書には、「TKC財務会計システムの継続利用期間」が記されています。これは、関与先さんが一貫して帳簿の遡及訂正を禁止しているTKCシステムを使い続けていることを明示しています。また、顧問税理士であるTKC会員のTKC全国会への入会日(経過年数)も記されており、これは関与している会員先生がTKC全国会入会以来、「租税正義の実現」をその事業目的の最初に掲げて巡回監査を標準業務とするTKC全国会の方針の下で、日々研鑽・努力し続けている期間を証明するものです。
 つまり「記帳適時性証明書」は、会計記録と決算書・申告書の一気通貫性に加え、関与先さんと会員先生方が共に高い倫理観を共有しながら、継続して正確な会計帳簿に基づいて月次決算と適正申告を行っていることを証明している。いわば、「記帳適時性証明書」は先生方と関与先さんの日頃のご努力を集約して「見える化」した証明書でもあるわけですね。

 ──飯塚名誉会長は8年ほど前の『TKC会報』2011年1月号「新春メッセージ」で、「TKC会員事務所による毎月の巡回監査は、銀行からの信頼の基礎となる。巡回監査の実践の事実を、客観的に証明する唯一の手段が『記帳適時性証明書』である。」と述べられています。

 飯塚 その思いは今も変わっていません。むしろ強くなっていますね。ですから次のテーマは、巡回監査を翌月に行っていることの証しである「◎」印の多いTKC会員事務所がいかに立派か、そしてその関与先さんがいかに発展しているかを証明したい。これらを客観的なデータを用いて論証したいと考えています。

巻頭対談

「誠実な経営者」かどうか確認でき「情報の非対称性」を一挙に解消できる

 ──一般に中小企業は内部統制が不十分だといわれていますが、「記帳適時性証明書」は、中小企業と会計事務所が一体となってガバナンスを強化していることの証しであるともいえますね。

 坂本 ええ。現在、「経営者保証ガイドライン」の運用にあたっては「誠実な経営者」がキーワードになっていますが、「記帳適時性証明書」を継続して発行できるような経営を行っている経営者はまさに「誠実な経営者」。日々真面目に頑張っている経営者の方々が正当に評価されるよう、「記帳適時性証明書」の意義を金融機関に対しても啓蒙すべきですね。
 そもそも金融機関からすれば、信頼性の高い決算書であるか否か、「誠実な経営者」であるか否かを識別する術がありません。例えば、月次巡回監査をしているか、電子帳簿保存法に準拠した会計ソフト(JIIMA認証製品)を使っているかは金融機関には分からない。確認のしようもなく、できたとしても大変なコストと労力を払わなければならないでしょう。
 その点、TKCモニタリング情報サービスを活用して「記帳適時性証明書」を金融機関に提供すれば、我々職業会計人の業務プロセスが一目瞭然ですし、「信頼性の高い決算書」であるか否かがすぐに識別できるんです。ですから、「記帳適時性証明書」が金融機関にとって「宝の山」であることを分かっていただく必要がありますね。「情報の非対称性」を一挙に解消し、中小企業の決算書を一段と高く評価してもらえるチャンスなのですから。

 飯塚 実は、「記帳適時性証明書」の副題を変更しようと思っているのです。今までは「会計帳簿作成の適時性(会社法第432条①)と電子申告に関する証明書」だったのですが、「当法人は、日々の記帳から会計帳簿・月次試算表・決算書・税務申告書の作成と電子申告まで一気通貫です。」とすることを検討中です。

 坂本 それはありがたいです。まさに「名は体を表す」証明書となりますね。今後、地域会執行部の皆さんは金融機関とのトップ対談時に、会員先生方や職員さんは決算報告会の時に、「記帳適時性証明書」の意義やポイントについて丁寧に説明していただきたいと思います。
 今、多くの会員先生も職員さんも、そして中小企業も本当に頑張ってくれています。頑張っている人が正当に評価される社会を作るためにも、会員一人ひとりが汗を流して「記帳適時性証明書」の意義を金融機関にきちんと理解していただく運動を展開してまいりましょう。

書面添付を金融機関に注目してもらい「決算書の信頼性」を識別してほしい

 飯塚 「決算書の信頼性」を識別する手段として、「記帳適時性証明書」に加えて「書面添付」も有効ですよね。

 坂本 おっしゃる通りです。「記帳適時性証明書」にも書面添付実践の有無が記載されています。そもそも書面添付制度は、税理士法第1条に基づき、「独立した公正な立場」で税理士がどの程度自身の申告書作成に関わったかを、税理士法第33条の2にいう添付書面に記載するもので、税理士しか実践できない制度です。
 わが国は確定決算主義を採用していますから、会社法上の計算書類に基づいて税法上の課税所得計算を行い、申告書と添付書面を作成します。したがって書面添付は、申告書の基となる記帳(仕訳)の品質まで含めてチェックできていなければ、実践できない。すなわち税理士が租税正義を貫くことにより、その前提となっている会計帳簿や計算書類にも一定の信頼性が付与されると言えるのです。
 監査提供会社に対する非監査業務の同時提供は禁止されていますが、税理士業務を行う職業会計人(税理士・公認会計士)は、その限りではありません。これは大きなアドバンテージです。我々は租税正義の貫徹が「決算書の信頼性」に直結していることをかみしめ、積極的に書面添付を実践し、TKCモニタリング情報サービスで「記帳適時性証明書」とともに金融機関に添付書面を提供すべきなのです。そして、金融機関側にも書面添付の有無に注目して、「決算書の信頼性」の識別に役立てていただきたいですね。
 TKC全国会では、第3ステージ運動方針の1番目に「TKC方式の書面添付の推進」を掲げています。飯塚名誉会長が書面添付実践会員に対する株式無償譲渡を実施してくださって書面添付実践件数も伸びていますが、「決算書の信頼性」確保のためにも、さらなる実践に邁進してまいりましょう。

税理士が日本社会から必要とされる「税理士の黄金時代」の到来は目前

 ──最後に、お二人からTKC会員へのメッセージをお願いできますか。

 飯塚 税理士という職業を将来的に立派な職業とし、また中小企業の伴走者として大いに成果を挙げていただくためには、やはり坂本会長の言われる「税理士の4大業務」を自らの職業領域とし、自計化と書面添付を徹底実践し、そしてTKCモニタリング情報サービスの推進にも頑張っていただきたいと思います。
 少し前には「税理士が要らなくなる」といった論調もあり、税理士業界を悲観的に見る向きもありましたが、決して悲観的な業界ではなく、私はむしろ税理士先生方が日本社会から必要とされる黄金時代がすぐそこまで来ていると思いますね。

 坂本 飯塚名誉会長は、創業から2年後の1968年にTKCに入社されました。そのころTKCは赤字経営で、資金繰りに大変苦労されたと聞いています。TKCとTKC全国会の歴史をすべて理解されている唯一の当事者である飯塚名誉会長がずっと税理士業界を見られてきて、「今がチャンス」と言ってくださっているのは、我々TKC会員にとって本当に大きな自信になります。
 次の時代も税理士業界が輝かしくあるためにも、「今がチャンス」ということをしっかり捉えて奮起してまいりましょう。そのためにはTKC会員全体のレベルアップも必要です。もう一度、事務所の業務品質を見つめ直して「記帳適時性証明書」が発行できるレベルの事務所体制を作っていただきたいと切に願います。

 ──お二人のお話を伺い、TKCモニタリング情報サービスで「記帳適時性証明書」と「税理士法第33条の2に基づく添付書面」を金融機関に積極的に提供することの重要性をあらためて確認できました。大きな示唆を与えていただき、TKC会員が進むべき道がより明確になりました。本日はありがとうございました。

(構成/TKC出版 内薗寛仁・篠原いづみ)

(会報『TKC』令和元年8月号より転載)