ユーザー事例

株式会社長野製作所 様

画期的ツールの導入で海外子会社の業績を完全把握

長野喜髙社長

長野喜髙社長

 静岡県沼津市松長。北面にたたずむ愛鷹山の背後に白装束の富士山の頂がわずかに覗く。そんな風光明媚な地に長野製作所は敷地1万平方メートル超の本社工場を構える。主に生産しているのは自動車配管用のフレアナット(商品写真参照)と呼ばれるねじ部品。パイプをジョイントするためのもので、ハイテクノロジーのかたまりともいえる自動車の内部に使われるだけに第一級の精密な成形と耐久性が求められる。

 この会社がすごいのは、そのフレアナットを月に3,500万個も生産しているということ。車にして約300万台分である。主に国内の大手パイプメーカーを通して、ほぼ全世界の自動車メーカーに供給されており、日系で約75%、世界シェアで約40%を占めているという。

 だが、そのことを話題にしても、長野喜髙社長は淡々とした語り口を変えることはない。

「長年やっている間に、品質はもちろん、生産力とコスト競争力がついてきて、結果として他社の参入障壁になったのでしょうね。いずれにせよ、モータリゼーションを予見し、自動車部品に特化した先代(現会長)に先見性があったということです」

米国拠点の業績を見える化

米シカゴのナガノ・インターナショナル・コーポレーション

米シカゴのナガノ・インターナショナル・コーポレーション

 長野社長が社長に就任したのは、1993年の4月。この2代目の先見性も出色だった。先代の意図を継いでフレアナットの生産への注力を着実に続けたことはいうまでもないが、そこにプラスしたのが自社によって描いた「世界戦略」だった。

 就任して3年後の96年には米国法人をシカゴに設立(ナガノ・インターナショナル・コーポレーション:NIC)。長野社長は当時をこう述懐する。

「輸出事業としてアメリカのパイプメーカーとの取引がもともとあり、当初の米国法人は、在庫を抱える販社のようなものでした。ところが次第に現地でつくってくれないかという要求がでてきて、2003年に米国工場(4,500平方メートル)での量産品の生産を開始したのです。そうすれば納期も早くなり、輸送費もかかりませんからね」

 現在、NICの売り上げは全体の13%(約2億6,000万円)。現地メーカーと日系メーカーなど3社の大口取引先があり、ここ数年も堅調な伸びを示している。しかし、ただひとつ悩みがあった。

 同社の税務・会計コンサルタントである税理士法人トップの八木悟所長代理はこういう。

自動車配管用フレアナット

自動車配管用フレアナットで世界シェア40%

「NICは長野製作所の子会社なのですが、われわれが目にするのは現地の会計士のつくった年に1回の決算書だけ。それも総務の方が必死に翻訳し、はじめてそこで業績が分かるという状態でした」

 そこで八木所長代理は、TKCの海外ビジネスモニター(OBM)の導入を提案する。OBMとは、海外子会社の仕訳データをTKCインターネット・サービスセンター(TISC)にアップロードし、日本の親会社と海外子会社双方で適時・正確な財務データを閲覧できるクラウドサービスだ。海外の会計システムと連携し、親会社の科目体系に変換して、現地の会計データを確認できるのが特徴である。長野社長はこう話す。

「やはり不便さは感じていました。国内は『FX2』(TKC戦略財務情報システム)で毎月の業績をリアルタイムで見ることができます。それだけに、米国法人のような年1度の決算書だけでは不安になる。NICも本社と同じように見ることができればとはずっと思っていました」

富士山と長野製作所

 だとすればOBMは最適のツールである。さっそく昨年の夏、八木氏と長野社長は連れだって上京し、OBMのプレゼンを体験。その後、八木氏が中心となりながら、NICで使用しているアメリカ製の会計ソフトと連携可能であることを確認の上、そのソフトとTKCの勘定科目コードを対応・連携させる作業を行った。昨秋にははやくも稼働がスタートする。その間わずか数カ月。長野社長は、『FX2』で表示される変動損益計算書と同じスタイルでNICの毎月の業績を、もちろん日本語で、見ることができるようになったのである。当初は長野製作所の経理部門が変換作業を行っていたが、いまではすべてをNICの担当者が行い、本社側は見るだけの状態になっている。

次なるターゲットは中国

 八木氏はいう。

「非常にスムーズでした。というのも、NICの経理担当の日本人女性が非常に優秀な方で、きっちりと業績管理を行われていたのです。その女性に、来日してもらい、OBMとTKCシステムの考え方(月次決算後の遡及的な訂正・加除の禁止など)への理解を深めてもらい、現在の体制ができあがりました」

 長野社長は、OBMを使いながら「いままでなぜこのようなツールがなかったのかが不思議」と首をかしげる。実は、あるにはあったのだが、高額かつ複雑なもので、中小企業が気軽に導入できるものではなかったのである。また、OBMにはドリルダウン機能(データの集計レベルの掘り下げ)によって勘定科目から伝票レベルまでさかのぼって確認できるため、原因究明や打ち手の早期化はもちろん「内部牽制になる」(長野社長)といった利点もある。

長野汽車零配件(珠海)有限公司

長野汽車零配件(珠海)有限公司

 さて、長野社長の次なるターゲットは中国である。取引先のパイプメーカーの誘いもあり、広州で現地法人を設立(右写真)。すでに営業活動をスタートしている。また、機械もほぼ搬入済みで、生産活動も当局の承認待ちの状態。もちろんOBMも導入する予定だ。長野社長は続ける。

「中国の会計ソフトにはOBMはほぼ対応済みですし、逆に、現地の会計士に使うソフトを指定してお願いしているところです。なので財務会計の透明化は大丈夫なのですが人材の問題、規制の問題など、経営的な不安は正直あります。当社にとってのビッグプロジェクトだと思っています」

 総投資額は3億円。長野社長の北米に続く世界戦略の第2の矢は、背景に中国や東南アジアという巨大市場が控えるだけに、大きな可能性を秘めている。

会社概要
名称 株式会社長野製作所 株式会社長野製作所
設立 1946年5月
所在地 静岡県沼津市松長670
売上高 約20億円
社員数 約100名
URL http://www.naganoproducts.co.jp/

『戦略経営者』2015年3月号より転載

掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、2015年3月現在のものです。
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