2022年10月号Vol.128

【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】インボイス制度、準備は進んでいますか?

株式会社TKC 自治体DX推進担当部長 松下邦彦

 インボイス制度(適格請求書等保存方式)が来年(2023年)10月に始まります。自治体も来年3月31日までに税務署に登録申請が必要です。まだ手続きが完了していない場合はお早めにご対応ください。本稿ではインボイス制度の概要と、自治体の実施事項、および将来の展望について解説します。

インボイス制度の概要

 消費税は、物品やサービスを購入する消費者が負担しますが、それをまとめて申告し納付するのは物品やサービスを販売する事業者です。一般に事業者は物品やサービスを販売するために、他の事業者から物品等を〝仕入れ〟ます。事業者が販売で受け取った消費税を申告するにあたっては、他の事業者からの仕入れで支払った消費税額分を差し引くことができます。これが「仕入税額控除」という仕組みです。
 例えば、消費者が小売店から150円の商品を購入する場合、売価の10%(15円)の消費税を小売店に支払います。小売店がこの商品を製造元から100円で購入し10%(10円)の消費税を支払ったとすると、小売店は消費者から受け取った消費税15円から、自分が仕入れで支払った消費税10円を控除した5円を申告します。さらに製造元が別の事業者から原材料を購入している場合も同様です。
 19年に消費税率が10%に引き上げられた際、飲食料品等は8%に据え置かれて複数の税率が混在する状況になりました。仕入税額控除も複数税率に対応させる必要があります。そのため、暫定的に運用されている区分記載請求書に替えて導入されるのが「インボイス(適格請求書)」です。
 インボイスは〈売手が買手に対し正確な適用税率や消費税額等を伝えるための手段〉であり、請求書、納品書、領収書、レシート等の書類に所定の事項が記載されたものです。売手は、買手に対してインボイスを交付すること、および、交付したインボイスの写しを保存することが必要です。
 インボイスを交付するには税務署に「適格請求書発行事業者」として登録しなければなりません。一方で買手は、仕入税額控除を利用するために、売手から受け取ったインボイスを保存する必要があります。

自治体の実施事項

 自治体は物品やサービスを住民や企業に販売する売手です。
 一般会計では庁舎の使用料、公共施設の入場料、公共施設の命名権、広告掲載料、公営駐車場の料金等で売手として収入を得ています。また、特別会計では上下水道事業、工業用水事業、病院事業、交通事業等が売手です。自治体が販売する物品やサービスを企業が購入する場合、企業は仕入税額控除を利用して自分が仕入れで支払った消費税額を控除して申告します。従って、自治体は売手として買手に対してインボイスを交付しなければなりません。
 インボイスを交付するには、適格請求書発行事業者として一般会計と特別会計のそれぞれで税務署に登録申請が必要で、特別会計が複数ある場合は特別会計ごとに申請が必要です。インボイス制度が始まる来年10月に登録を受けるには、原則、来年3月末までに税務署に登録申請書を提出することが求められています。
 自治体の一般会計は消費税の申告義務がなく、仕入税額控除を利用することはありません。それに対し、特別会計の事業は消費税の申告・納税義務があり、また事業を実施するにあたって他の事業者から商品やサービスを仕入れるため、仕入税額控除を利用します。従って、特別会計では仕入れ先の事業者から受領したインボイスを保管し、制度に沿った仕入税額控除の計算を実施して消費税を申告します。
 このようにインボイス制度を運用するためには、インボイスの交付と写しの保管、インボイスの受領と保管、制度に沿った仕入税額控除の計算といった機能をシステムに実装する必要があります。自治体で改修が必要なシステムは、一般会計では公会計(財務会計)システムや公共施設案内・予約システム、また、特別会計では公営企業会計システム、および水道等の事業を運営するためのシステムです。

電子インボイスで
バックオフィス業務のデジタル化

 インボイスは紙の帳票だけでなく、電子データによる運用も予定されています。この「電子インボイス」によって、自治体においても請求書などの授受や取引内容の確認、支払い処理といったバックオフィス業務の効率化が期待されます。
 まず、インボイスの交付や受領を、郵送やファクシミリによる手作業からシステムによる自動処理に切り替えられます。また、交付したインボイスの控えや受領したインボイスは手作業による保管からシステムによる電子保存に切り替えられ、保管スペースも削減できます。さらに、受領したインボイスに基づいて伝票を起票するにあたっては、インボイスの内容を自動的に転記できます。
 自治体のバックオフィス業務を電子インボイスによって効率化するには、自治体だけでなく、自治体が取り引きする事業者も電子インボイスを利用しなければなりません。
 民間企業における電子的な商取引は、EDI(電子データ交換)として製造業、流通業、建設業等で長い歴史があります。とはいえ、従来は、原材料、中間製造物、最終製造物、販売等のサプライチェーンを構成する特定の企業間でのみ運用されており、自治体を含めた社会全体では紙やファクシミリによる取り引きがいまだに主流です。
 電子インボイスは、数多くの事業者が利用するさまざまな情報システムの間で交付と受領が行われます。こうした情報システム間の相互運用を実現するには標準仕様が不可欠です。デジタル庁は、グローバルな標準仕様である「Peppol」(ペポル)をベースに、わが国における電子インボイスの標準仕様を民間と連携して定め、その普及・定着に取り組んでいます。
 標準仕様は電子インボイス本体のデータレイアウトを定める「文書仕様」だけでなく、電子インボイスを送受信するための「ネットワーク」と「運用ルール」を含みます。ペポル仕様のネットワークはデジタル庁が認定したペポル・サービス・プロバイダーが運用するとされており、TKCは今年8月にペポル・サービス・プロバイダーの第一号認定を受けました。

◇   ◇   ◇

 バックオフィス業務をデジタル化して効率化することは、自治体を含む社会全体の課題です。インボイス制度、および電子インボイスは、これを促進する大きな一歩なのです。

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