2022年10月号Vol.128

【特集1 職員座談会】行政手続きオンライン化のすすめ――DX推進担当者に聞く〈あんな知恵〉〈こんな工夫〉

出席者(団体名50音順)
堺市 ICTイノベーション推進室 課長 松本 隆史 氏
東大阪市 情報政策課 総括主幹 小岩 克也 氏
藤井寺市 情報政策課 課長  杉本 勝紀 氏
守口市 デジタル戦略課 課長代理 渡邉 剛 氏
八尾市 ICT推進室 室長 金 廷成 氏
司会)株式会社TKC 執行役員 地方公共団体事業部営業本部 本部長 田熊 宏行

小誌4月号で、行政手続きのオンライン化について
先進団体の動向分析を取り上げたところ、大きな反響が寄せられた。
そこで本号では、電子申請システム(スマート申請システム)を活用して
積極的に手続きのオンライン化を進める5市にお集まりいただき
何を考え、どんな工夫をしているのか伺う。

市民をもっと便利に!
着々と進む手続きのオンライン化

──行政手続きのオンライン化について、推進状況を教えてください。

松本隆史 氏 堺市 ICTイノベーション推進室 課長

松本隆史 氏
堺市 ICTイノベーション推進室 課長

小岩克也氏 東大阪市 情報政策課 総括主幹

小岩克也氏
東大阪市 情報政策課 総括主幹

杉本勝紀 氏 藤井寺市 情報政策課 課長

杉本勝紀 氏
藤井寺市 情報政策課 課長

金 廷成 氏 八尾市 ICT推進室 室長

金 廷成 氏 八尾市 ICT推進室 室長

渡邉 剛 氏 守口市 デジタル戦略課 課長代理

渡邉 剛 氏
守口市 デジタル戦略課 課長代理

松本 堺市では、ICT戦略推進本部会議において、2025年度までに〈法令等で禁止されるものを除く全ての手続き〉をオンライン化することを決定しました。今年度末までに、〈阻害要因の少ない手続き〉のオンライン化を完了するとともに、〈オンライン化が困難〉なものについても今後のスケジュールを策定する計画です。
 オンライン申請で、比較的多く利用されているのが、「放課後児童対策事業に関する手続き」や「医療券・調剤券の依頼書」などです。
 また、庁内への推進ということではICTイノベーション推進室が各区・部署に“伴走”する形をとっています。その一例が毎月実施する「オンライン相談会」です。ここで手続きのオンライン化に関する相談を受けるとともに、その進捗管理も行っています。

小岩 東大阪市では『東大阪市情報化推進計画2021』(21年4月策定)で、行政手続きのオンライン化を推進する方針を打ち出し、21年度には〈地方公共団体が優先的にオンライン化すべき手続き〉を対象に取り組みました。
 今年度は、これに加えて〈年間の受付件数が1000件以上の手続き〉のオンライン化を進めています。該当手続きについては、情報政策課とICT推進課が所管部署へヒアリングして、できるものから順次対応しています。その際には申請フォームの作成を支援するなど、各課と二人三脚で進めている状況です。
 さまざまな申請手続きの中で、特徴的なのが「図書館の利用申し込み」です。東大阪市では蔵書数が国内最大規模を誇る「ひがしおおさか電子図書館」をオープンしており、この利用者登録をオンラインで受け付けています。
 さらに、入札参加資格の審査申請(事業者登録)の一部を今年からオンライン申請のみに変更し、事業者と市契約担当課の双方の審査・認定・登録にかかる〈事務負担軽減〉を図っています。

杉本 藤井寺市でも、今年1月から「藤井寺市オンライン窓口」サービスを開始しました。さまざまな申請手続きの中で他に類をみないのが、「保育所・幼稚園・小学校(放課後児童会)・中学校への欠席などの連絡」です。現在、この学校等への連絡がオンライン申請(1カ月で9000件程度)全体の約75%を占めています。
 学校等への連絡・手続きは非常に多く、特に欠席届は朝の忙しい時間帯に集中します。これをオンライン化することで〈市民の利便性向上〉だけでなく、学校職員の〈業務効率化〉にも役立つと考えました。また、この取り組みをきっかけとして、オンライン窓口サービスへの保護者層の登録が着実に増えています。今後は、学校等への諸手続のオンライン化をさらに拡充するとともに、この層に向けた新たなサービス展開も視野に入れています。

渡邉 守口市でも、さまざまな申請手続きをオンラインで受け付けています。
 オンライン申請システムの庁内での利用促進としては、主に①定期的な研修の開催、②デジタル戦略課職員による相談窓口の開設、③オンライン申請手続管理表による全庁的な進捗状況の管理──に取り組んでいます。中でも相談窓口は週1回実施しているもので、担当課職員がデジタル戦略課の職員を“予約”するイメージで運営しています。
 また、オンライン申請システムを徹底活用して、〈市民の利便性向上〉と〈職員の業務効率化〉の両面から効果を最大化することにも努めています。
 例えば、母子健康手帳の交付業務では二つのオンライン申請を連携させています。具体的には「守口市オンライン申請システム」から母子健康手帳交付の来所予約を受け付けると、受付完了メールでWeb版アンケートのURLを案内します。来庁時に窓口で記入していただくアンケートを事前入力できるようにしたもので、これもオンライン申請システムで作成しています。
 さらに、Web版アンケートで入力した氏名等の入力情報は、妊娠届出書にそのまま印字される仕組みとしています。これにより、市民は〈窓口申請にかかる時間・手間が短縮〉され、また職員にとっても来庁予約日時に合わせて事前準備が可能となり〈業務の分散・効率化〉が図れます。

 八尾市では、20年3月に『八尾市官民データ活用推進計画』を策定し、この推進項目の一つに〈さまざまな事務に利用できる汎用的な電子申請システムの導入〉を掲げました。そして、21年10月1日から「八尾市電子申請システム」サービスを開始しています。
 伴走型ということでは堺市さんとまったく同じで、ICT推進室が随時、相談を受け付け、実務支援を行っています。これにより、少しでも多くの職員に「これならばできそうだな」と感じてもらうことを狙っています。
 推進状況を見ると、イベントなど単発なものや突発的に発生する申請手続きは取り組みやすい傾向にありますね。特に、事務の流れから新たに構築しなければならない新規の手続きは、オンライン申請拡大への端緒になると期待され、できるだけ多くの事例を各課に共有していきたいと考えています。

急がれる職員の意識改革
“やる気”にさせる工夫は

本誌編集委員 田熊宏行

本誌編集委員 田熊宏行

松本 オンライン化を進める中で、DXが必要だと理解していながらも、行動を変容できていない職員がまだ多いと感じています。この点で、皆さんはどのような工夫をされていますか。

小岩 根底には、やはり「オンライン申請により、事務が煩雑になるのでは」という根強い不安があるようです。その一方で率先して取り組む部署もある。両者の違いを考えると、やっぱり“人”なんです。地道にこつこつと意識を変えていくしかないですね。
 職員の動機付けを図る一つの取り組みとして、東大阪市では他部署・団体の好事例を紹介する『IT通信』の配付を予定しています。こうしたことをきっかけに、まずは「同じ業務をオンライン化しているな」「自分たちでもできそうだ」と興味を持ってもらうことが肝要でしょう。
 また、入庁3年の職員を対象とした研修でも、今年度からDXの視点を採り入れました。ここでは好事例を参考に、電子申請システムを活用してそれぞれの所属部門の業務をどう改善できるか検討したいと考えています。

杉本 デジタルネイティブである若手職員は、DXの推進エンジンとなりえると思います。藤井寺市でも若手職員に注目し、昨年からは各課から10名ほど職員を選抜したチームでRPAの活用研究もスタートしました。
 動機付けということでは、好事例の共有は有効ですね。当市でも数年前から「読むDX研修」と題して作成した資料を全庁共有しており、こうしたものも活用しながらオンライン申請の事例を広めていきたいと考えています。
 また、手続きのオンライン化はまったく初めての取り組みのため“小さな成功体験”を積み重ねることも大切だと考えています。例えば、藤井寺市では原課と話をして実現できそうな手続きがあれば、情報政策課が率先して申請フォームを試作し提供しています。そうすると多くの場合、職員が興味を持って試作版に触れ、修正してくれます。こうした体験を積むことで自信がつき、第二、第三のオンライン手続きへとつながることも増えてきました。

 八尾市も皆さんと同じ悩みを抱えています。生産年齢人口が減っていく中で、5年後、10年後に後悔しないためにも今やらなければ! 意識改革が急がれますね。
 よく市民向けサービスはUI/UXが大切といわれますが、職員にとっても“使いやすさ”は重要です。利用促進にあたっては、職員の負担や業務への影響を極小化できるシステムを導入するとともに、取り組みやすい仕組みの構築が欠かせません。ここで、八尾市ではちょっとした工夫をしています。それはICT推進室への相談は〈2人以上で来てもらう〉ことです。これは2人以上であれば所属部署に戻ってからも相談し合え、オンライン手続きの作成などの作業を1人で抱え込むことも防げると考えました。
 オンライン化を成功に導くために伴走支援は必要ですが、このままではいずれ限界が来ます。組織体制などで工夫されている例はありませんか。

渡邉 守口市では、組織・管理体制として二つの取り組みを進めています。一つがICTの業務経験を有する即戦力となる任期付職員を4名採用し、彼らを中心に担当課職員をサポートする体制の整備です。
 もう一つが、先述したオンライン申請手続管理表の活用です。具体的には、研修や相談を通じて「こういう業務をオンライン化したい」という職員のちょっとした声を拾い集め、想定される支援内容と合わせて管理表に記録します。その後も進捗状況を継続してフォローし、必要に応じてデジタル戦略課職員の相談窓口を案内します。管理表に記録したものは最後まで徹底して追いかける姿勢は保ちつつ、職員に寄り添った支援に努めています。

 なるほど、それは有効ですね。

──市民への利用促進では、どんな工夫をされていますか。

杉本 藤井寺市では、学校関係のオンライン申請サービスを開始するにあたり、市民が利用しやすい動線として「LINE」を活用しています。これにより、開始前は7400件程度だった公式LINEの友だち登録数が1万件へと急増しました。

渡邉 情報伝達のスピード感という点で、LINEの活用は非常に有効ですね。例えば従来さほど人気とはいえなかった「子ども考古学教室」では、参加募集を市の公式LINEで告知したところ、たった1時間で定員の半分以上に達し、即日受付終了に。これには担当者も驚いていました。
 また、守口市ではポスターやリーフレット等の案内文書に二次元コードを掲載し、より多くの市民にオンライン申請の手軽さを体験してもらうように努めています。例えば、犬の死亡届の案内に二次元コードを掲載したところ、届出数が増加しました。
 市民視点に立ち、さまざまな申請手続きのオンライン化に知恵を絞っていくことが必要ですね。

担当者が考える
「真の自治体DX推進」

──市区町村では、法律で定められた〈システム標準化〉への対応だけでなく、その先を見据えた〈利用者本位の行政サービス改革〉を両輪としてDXを推進することが不可欠です。こうした現状を踏まえ、TKCでは「真の自治体DX推進」実現に資するシステム・サービスの企画開発、導入、運用支援に取り組んでいます。市区町村におけるDX推進について、皆さんはどのように考えておられますか。

杉本 八尾市さんがおっしゃる通り、職員数が減少する一方でサービスはどんどん多様化する中で、これまでと同じ仕事の進め方はもはや通用しません。デジタルを活用して、市民サービスや職員の業務、働き方などあらゆるものを変革し、新しい価値を生み出していかなければ。
 とはいえ、DXには「これをやればいい」という正解はありません。スモールスタートでも、まずは動き始めることが肝要です。小さく始めて成果を出し、徐々に対象部門や利用範囲を拡大する──これならば小規模団体にとってもコストや業務負担の面で導入のハードルが低いのではないでしょうか。

 思えば、DXという言葉が注目される前から「目指すのはシステムの導入ではなく業務の効率化・最適化だ」といわれてきました。それが今、改めて問われていると感じています。
 自治体にとって、〈市民サービスの向上〉と〈業務の効率化〉は永遠の課題です。社会環境の変化が常態となったいま、どんなに完璧なシステム・仕組みもいずれ陳腐化します。その点、DX推進は終わりのない活動といえます。社会環境の変化を受け入れて、自治体自身も、少しずつでも確実に改善を重ね進化していくことが求められているのかなと考えています。

渡邉 行政手続きに関するDX推進で目指すのは〈来させない・待たせない・書かせない市役所〉ですが、現状はまだ〈オンライン申請で市民の利便性が向上〉した第一段階といえるでしょう。
 バックオフィス業務まで一気通貫でデータ連携され、本格的に業務の効率化の効果が見えてくるのはシステム標準化以降になると考えています。ベンダー間でシステムの基本的な機能要件に違いがなくなれば、バックオフィス業務の改善の動きも一段と加速するでしょう。これらが実現した時、〈市民の利便性向上〉と〈職員の業務効率化〉の両面を達成することができ、「真の自治体DX推進」といえるのではないでしょうか。そのためにも、いまやるべきことはしっかりと進めておかないといけませんね。

小岩 システム標準化対応のいかんに関わらず、デジタルを活用して市民にもっと便利なサービスを探求していくことは、地域住民と密接に関わる市区町村にとっては事業活動の根幹であり、未来永劫にわたるミッションです。
 その意味で行政手続きのオンライン化とは、申請手続きの一つのチャネルとして市民に“多様な選択肢”を示すことだと考えています。今後もスピードを緩めることなく、積極的な手続きのオンライン化を進めます。

松本 ICTとDXでは、目指すことも担当者に求められることもまったく異なります。これまでシステム化していなかった部分にもメスを入れ、業務を改革するのがDXだと考えています。推進にあたっては、利用者(市民や原課職員)のニーズを起点として、フロント(申請受付)からバック(業務システム)まで一貫したデジタル化を実現し、行政サービス改革につなげる。推進担当者はこの目標をしっかり見据えて、取り組むことが重要でしょう。
 その点では、電子申請システムも基本的にカスタマイズをすべきではないと考えています。そのためにもTKCには継続的な機能強化により、これからもシステムを常に進化させていただきたいですね。

小岩 皆さんの話を伺って、同じ課題を抱えていることを実感するとともに、さまざまな工夫はとても参考になりました。特に意識改革の点では好事例の共有が有効と思われ、TKCには電子申請システムの機能強化とともに、同じシステムを使う全国の市区町村の事例の紹介・共有をぜひお願いします。

一同 同感です。

──TKCとして、より使いやすいシステムの提供・継続的な機能強化、運用支援とともに、さまざまな機会を通じて好事例の共有に取り組みます。そうした活動を通じてこれからも〈真の自治体DX推進〉を支援し、皆さまとともに利用者中心の行政サービス改革の実現に貢献してまいります。本日はありがとうございました。

各団体が提供する代表的なオンライン手続き(団体名50音順)
各団体が提供する代表的なオンライン手続き(団体名50音順)

写真左から、田熊(司会)、松本氏、渡邉氏、杉本氏、金氏、小岩氏

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