株式会社グレイス

左から副島正雄顧問税理士、安井悦子社長、小川二美代専務、
渡邉功・人材ソリューション事業部部長

人材ビジネス業界において、環境分野に特化した人材派遣、人材紹介で異彩を放つグレイス。SDGsへの関心の高まりを背景に、顧客はメーカーや商社、シンクタンクなどにも広がり、環境産業にとどまらない。安井悦子社長と小川二美代専務、そしてマッチングディレクターの渡邉功部長と副島正雄顧問税理士を交え、会計の経営への生かし方などを聞いた。

環境分野に精通するMDが一気通貫でマッチングを支援

──昨年、創業25年を迎えられました。会社の生い立ちは?

「グレイス・スタイル」

サステイナビリティ人材の育成事業が評価され
「エコプロアワード環境大臣賞」を昨年受賞した

安井 創業前は、ある人材派遣会社の立ち上げに関与し、常務取締役に就いていました。その後独立し、同僚だった小川(現グレイス専務)と共にグレイスを設立。当初は一般的な人材派遣ビジネスを展開していました。転機になったのは、会社設立後に行われた労働者派遣法の改正です。市場調査・分析等に携わる研究職への派遣業務が解禁され、環境分野の専門人材派遣、紹介に特化するきっかけになりました。

──環境分野に着目されたのはなぜですか。

安井 前職時代、大気や水質、土壌について調査分析できる人材を紹介してほしいと顧客からよく相談されていました。研究職の派遣は当時認められていなかったものの、人材を集める努力をしてみたところ、結婚を機に退職した女性を中心に予想を上回る反響があったんです。そこで「環境分野はビジネスチャンスになる」と確信しました。私自身、川崎市の工業地帯で生まれ育ち、公害問題を身近に感じていたことも少なからず影響したと思います。

──足元の引き合い状況を教えてください。

「グレイスSDGsレポート2020」

SDGsへの取り組みをまとめた
「グレイスSDGsレポート2020」

渡邉 従来は環境規制の適合判断に関する調査を行う人材の依頼が中心でした。しかし現在では企業の社会的責任が問われるなか、持続可能な開発目標であるSDGsや、ESG領域のコンサルタント人材へのニーズが高まっています。また気候変動対策として、津波や河川の氾濫等の自然災害による被害のシミュレーションを元に、政策や町づくりのアドバイスをする人材といった求人案件もあります。当社では環境ビジネスに精通する「マッチングディレクター」(MD)が企業さまと求職者さまの橋渡しを行っているのも特徴です。

小川 多くの人材派遣会社では、企業側と求職者側で異なるスタッフが対応する場合が多いようですが、1人のMDが双方を担当することで、両者のニーズと特性をふまえた最適なマッチングにつなげています。
 MDは当社独自の社内資格で、本社と関西支社に計8名のMDが在籍しており、お客さまの要望を的確に把握して信頼いただけるよう、環境ビジネスと転職・採用市場に関する専門性を身につけている点が強みといえます。MDの役割は営業兼コーディネーターというと、わかりやすいかも知れません。

──社員の方の働き方は変わりましたか。

執務室

執務室にあるモニターで在宅勤務中
の社員と会話できる

安井 執務室にある大型モニターで在宅勤務中の社員といつでも会話できるようにしました。外線の着信音や執務室内の会話なども在宅勤務中の社員に聞こえるようにして、できるだけオフィスに近い雰囲気づくりに努めています。勤務中の様子がわかる方が声をかけやすいと社員から好評です。
 また当社では、実質週休3日も可能になる年間40日の特別有給休暇制度があり、MDを対象に導入しています。セルフマネジメント能力の向上だけでなく、当社への就職希望者数が以前より3倍になるなど、プラスの効果もありました。

決算書の信頼性を高めたMISと書面添付の実践

──『FX2』を長年利用されていると聞きました。

安井 かれこれ15年以上利用しています。当社でパソコンを導入した時期は早く、設立当初から各社員に配備していました。ただ、『FX2』利用前は伝票を手書きで起票していたため、経理業務が大変だったのを覚えています。

副島 いわゆる3枚伝票の時代ですね。『FX2』の利用をお勧めしたのは、私が税理士事務所を開業してまもない2004年です。自計化を最初に提案したのがグレイスさまでした。経理担当者を置くなど経理体制がしっかり確立されており、システムへスムーズに移行できました。

──在宅勤務されているとのことですが、日ごろの仕訳入力はどのように?

小川 経理担当者が出社時に入力するようにしています。出社する頻度は月に2~3回くらい。金融機関等から取引明細データを受信できる「銀行信販データ受信機能」を最近活用しはじめ、仕訳入力がいっそう楽になったと聞いています。

──業績も出社時に確認されているのでしょうか。

「エコリク新卒エージェント」

理系・環境系学生の就職支援サイト「エコリク新卒エージェント」

安井 自宅からオフィスのパソコンにアクセスできる環境になっていて、〈変動損益計算書〉画面を開き、随時確認しています。ふだん主にチェックしているのは、売上高と利益額の大まかな推移と前年同月比の実績など。例えば売り上げが伸びているのに予想ほど利益が計上されていないとき、過去に入力した仕訳までさかのぼると前払い費用が発生していたり、原因を明確に把握できるところがいいですね。
 現在の収益構造を分析すると、人材派遣よりも人材紹介部門の方が利益を生んでいます。人材派遣業のみを営んでいたころは、取引先さまから入金がある前に、派遣スタッフへ給与を支払う必要があったため資金繰りが大変でした。そのため、副島先生から紹介された「TKC戦略経営者ローン」を活用し、運転資金を調達したりしていました。金融機関に対する業績開示はコンスタントに続けています。

──どんな方法で開示されているのでしょう。

小川 「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」を活用して、5行の金融機関に決算データを送信しています。以前のようにコピーした決算書を携え、金融機関の支店を訪問する必要がなくなりました。金融機関から評価されていると感じるのは、電子申告時と同じ真正なデータをタイムリーに送信できる点です。時節柄、対面で面談する必要がなくなるのも、感染予防の観点から安心感があります。
 また、金融機関に融資を申し込む際、TKCシステムとMISを活用している点が評価され、低金利で借り入れることができます。これも経営全般をサポートいただいている副島先生のおかげです。

副島 MISが提供されたとき、提案先として真っ先に頭に思い浮かんだのがグレイスさまでした。自計化に加えて書面添付(※)も長年実践され、決算書の信頼性をさらに高められています。

──書面添付のメリットは感じられていますか。

安井 設立当初、税務調査が頻繁にあり、対応に追われた時期がありました。ただ近年、税務調査は久しく受けていません。副島先生に税務署から事前に連絡が入り、意見聴取の結果、税務調査が省略されたケースもあったと聞いています。

──現在の月次巡回監査のスタイルは?

小川 税理士法人アクアの監査担当の方が毎月来社され、仕訳のチェックを受けた後、直近の業績について報告を受けています。そして決算申告時には、副島先生と綿密に打ち合わせを行っています。
 今後取り組むべき課題として考えているのは、人材派遣の業務システムと会計システムとの連携です。業務システムから売り上げデータを自動的に連携できれば、業務効率をいっそう向上できるのではと期待しています。

──抱負をお聞かせください。

安井 人材派遣業務からスタートし、専門人材の紹介や新卒学生の採用支援まで、人材サービスをこれまで多角的に展開してきました。労働人口の減少や雇用形態の変化が見込まれるなか、デジタル技術を活用した業務効率化や外国人材の登用など、人材ビジネスを取り巻く環境は激変しています。
 一方、コロナ禍にあっても大半の業務をオンラインに切り替え、滞りなく実施できたのは大きな収穫でした。今後も特別有給休暇制度をはじめ多様な働き方にチャレンジし、得られた知見をお客さまに提供していきたいと考えています。

※「書面添付制度」とは

 税理士が申告書作成にあたり次のような項目について、添付書面に記載します。

  1. 関与先にどのような資料、帳簿類が備え付けてあり、どの帳簿類を基に計算し、整理し、申告書を作成したか。
  2. 今期大きく増減した科目の原因及び理由。
  3. 関与先からどのような税務に関する相談を受け、回答したか。
  4. 税理士として関与先の申告書内容について、どのような所見を持っているのか。

 書面添付をすると、調査対象となる前に、税理士に記載内容についての意見を求められることがあります。これを「意見聴取」と言います。この意見聴取で疑問点が全て解決できれば、調査省略となります。また、調査に移行したとしても、既に調査を行うテーマが分かっており短時間で終了するのが殆どであり、税理士・関与先ともに負担が軽減されます。

日本税理士会連合会「書面添付制度をご存じですか?」より引用

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社グレイス
設立 1995年12月
所在地 東京都千代田区麹町5-4セタニビル
売上高 4億円(2020年3月期)
社員数 17名
URL https://www.grace-e.co.jp/
顧問税理士 副島正雄
税理士法人アクア
東京都新宿区下落合1-4-18 彰文ビル1F
URL: http://www.aqua-tax.co.jp/

掲載:『戦略経営者』2021年2月号