昨年11月、中小製造業が自社技術を駆使して作った「くだらなくて笑えてしまう一品」を発表する「くだらないものグランプリ~モノづくりな奴らの戦い~」が開催された。この日披露された作品は「捨てづらいゴミ箱」「戦う三輪車」などどれも“くだらない”ものばかり。イベントを主催した「俺らFactory Man」の大藪めぐみさんは「『くだらなさ』の裏には町工場の技術と情熱が凝縮されている」と語る。

プロフィール
おおやぶ・めぐみ●ダイワ化工取締役。2020年に愛知県・岐阜県の町工場6社によるものづくりの魅力を発信する団体「俺らFactory Man」を結成し、代表を務める。

──ものづくりに興味を持たれたきっかけを教えてください。

大藪めぐみ 氏

大藪めぐみ 氏

大藪 ダイワ化工は実は私の実家で、幼いころから工場の機械や職人さん、検査員のおばちゃんたちに囲まれながら育ってきました。私にとって工場は遊び場も同然で、不良品やバリくずをもらってはおもちゃにして遊んでいましたね。このような環境で育ったのでものづくり自体はもちろん、工場で働いている職人さんたちにも魅力を感じるようになりました。

──どのようなところに魅力を感じましたか。

大藪 実現するのが難しいような要望でも創意工夫を重ねて形にする技術力、細かい注文をつけられても文句を言わずひたむきに製品づくりに向き合う姿勢……。挙げだすとキリがありません(笑)。

──ダイワ化工の事業内容と強みを教えてください。

大藪 自動車の足回り部品に用いられる「防振ゴム」が主力製品です。強みは顧客の要望に沿った製品をスピーディーに形にできるところ。私たちは金型によるゴム成形を得意としていますが、当社には3DCAD、3DCAM、3D切削機を操るスペシャリストが在籍しているので、試作品や少量生産といった簡易品から量産用まで顧客のニーズに合った製品を迅速に仕上げることができます。

──大藪さんは普段どんな業務に携わっていますか。

大藪 総務・経理・人事・広報など。管理業務全般です。

自社技術の可能性が広がる

──「くだらないものグランプリ~モノづくりな奴らの戦い~」(くだグラ)とはどのようなイベントですか。

大藪 中小製造業が誇る技術を駆使して製作した「くだらなくて笑えてしまう一品」を披露するイベントで、第1回(2020年)は20社、第2回(21年)は19社が参加しました。エントリー企業のほとんどが愛知や岐阜にある町工場ですが、大阪や東京、富山など東海地方以外から参戦された会社もあります。
「グランプリ」と銘打っていることからも分かるように、くだグラは単なる展示会ではなく優勝を懸けて争うれっきとした「賞レース」です。これまで2回ほど開催してきましたが披露された作品はどれも“くだらない”ものばかり。作品はもちろん参加者の趣向を凝らしたプレゼンも見もので、くだらなさの裏にある技術力や開発秘話をユーモアを交えて発表する姿は毎回参加者の笑いを誘っています。ちなみに、大会の模様はユーチューブで公開しているのでどなたでも見ることができます。

──くだグラを企画したきっかけは?

大藪 いろいろありますが、やはり「コロナ禍で奮闘する町工場の取り組みを広く知ってもらいたい」という思いが一番ですね。新型コロナは私たちのような中小製造業にも深い爪あとを残しました。特に20年の4~5月ごろが深刻で、取引先からの注文が減り、出展を予定していた展示会が中止になるなど、自社の製品や技術力をアピールする機会がなくなってしまいました。特に展示会の中止が悔しくて、「対面がだめならオンラインで情報発信しよう」と知り合いの町工場に声をかけて「オンライン展示会」を開催したのです。
 くだグラの企画が立ち上がったのは展示会後の反省会です。今後の取り組みについて「俺らFactory Man」のメンバーと意見を交わすなか、うちの社長(大藪建治氏)が自社の技術と製品を自慢し始めたんです。すると別の社長も続いて「うちではこんなものが作れるぞ」と。話の内容は本当にくだらなくて思わず笑ってしまいましたが、2人の表情は真剣そのものでした。すると、このやり取りを見守っていた女性メンバーから「どうせなら大会にしてみれば面白いのでは」と提案があって……。「町工場が自慢の技術を駆使して“くだらない”ものを作って発表すれば、ものづくりの魅力をより広く発信できる」とメンバー全員が乗り気になり、あれよあれよという間に詳細が決まっていきました。

──昨年開催された第2回大会では、おにぎりの具だけを取り出す装置「グナッシ~」を開発した千成工業(愛知県小牧市)がグランプリに輝きました。

大藪 千成工業さんは板金加工業を営んでいる会社で昨年が初出場でした。千成工業さんでは社長が残業する社員向けにコンビニのおにぎりを差し入れる習慣があるのですが、早い者勝ちなので社員の好みに合わないおにぎりが最後まで残ってしまうそうです。
 こういった日常の風景をヒントに製作したのが「グナッシ~」で、おにぎりをはめ込む枠や具だけを狙って押し出す装置など、作品には千成工業さんの技術力がいたるところに発揮されていました。中身がきれいに切り抜かれたときは思わず「すごい!」と声をあげてしまいましたね(笑)。

──その他の作品もバラエティーに富んだ“くだらない”作品がめじろ押しでした。

大藪 タイヤホイールの製造技術を生かして製作された「腹筋ローラー」、瓦職人が丹精を込めて作った「乳酸菌飲料ホルダー」、金属加工会社が手がける「良い音のする将棋盤」など、どの会社もくだグラの理念に沿った作品を披露されました。プレゼンからは各社自慢の技術力はもちろん、作品に込められた情熱や試行錯誤が垣間見えるなど、あらためて中小製造業の魅力が凝縮されたイベントになりましたね。

──ダイワ化工もゴム製のラーメン(「元祖!護謨(ゴム)ラーメン」)でエントリーされました。出場されての感想は?

大藪 残念ながらグランプリは逃してしまいましたが、自社技術の新しい可能性を見いだすことができたので、グランプリ以上の成果が得られたと思っています。

──新しい可能性とは?

大藪 もともと当社では単色の工業用ゴムを扱っていたのですが、今回初めて混色の製品づくりに挑戦しました。例えば、「護謨ラーメン」のトッピング用に作ったナルトは白と赤の2色成形です。

──赤色のうずまきが鮮やかで印象的ですね。あらためて、混色での成形に挑戦されたきっかけを教えてください。

大藪 展示会などで混色のゴム製品を見るたびに「うちでもできたらいいね」と話していたんですが、今回「護謨ラーメン」を作るにあたって社員が率先して技術開発を進めてくれました。実際にクオリティーも高く、今後の製品づくりにも十分に生かせるとみています。技術開発に取り組んでくれた社員たちには感謝の気持ちしかありません。

「くだらないものグランプリ」公式ホームページ

商品化に向けた取り組みも

──くだグラを開催しての反響はいかがでしょう。

大藪 第1回の開催前後から地元の新聞や全国放送のテレビ番組で取り上げていただくなど反響の大きさを肌で感じています。なかには既存の取引先以外から取引の相談が寄せられるなど、販路拡大につながった会社もあるようです。

──商品化に向けて動いている作品もあるとか。

大藪 第1回に出場したマルハチ工業さん(愛知県一宮市)は子どものトイレットペーパーのいたずらを防止する「トイレのとめこさん」を製作されました。マルハチ工業さんは自動車部品の製造・販売を手がけている会社ですが、社長のお子さんがよくトイレットペーパーを巻き取って遊んでいたそうで、これを防ぐために開発したのがトイレットペーパーを回らなくするストッパー「とめこさん」です。問い合わせがあったのは大会後のことでくだグラを取り上げたニュースを見た障がい者施設の方から「これを使いたい」と連絡があったそうで……。本業とは異なる領域ですが、ビジネスとしてはもちろん社会貢献としての価値も高いということで現在商品化に向けて改良を重ねておられます。

──社員の団結力や一体感の醸成にもつながっているようです。

大藪 私たちのような町工場では大手企業の下請けとして製品を作ることが多く、自分たちが汗水流して作ったものが、具体的にどんな使われ方をするのかさえ知らないこともあります。そんな中小製造業にとって作品のアイデア出しから製作まで携わる経験は貴重ですし、企画・設計・製造など分野をまたいだ連携が必要になるので、おのずと社内の一体感が形成されていきます。
 例えば、第1回に出場したエストロラボさん(大阪府東大阪市)では、社長の右腕として作品づくりにかかわった社員さんが外出先からプレゼンの様子をご覧になったそうです。エストロラボさんは「シャーペンの芯の中にさらに細い芯を通す」というプレゼンを披露されたのですが、前日のリハーサルで肝心の芯を折ってしまったんですね。社長から「折っちゃった! どうしよう!」と連絡を受けた社員さんは「折ってしまったこともネタにしましょう」と当日のプレゼン台本を書いて送られたそうです。このようなやり取りがあったので本番も気が気でなかったのでしょう。買い物中にユーチューブを立ち上げて社長のプレゼンを見守っていたそうです。

──プレゼンの結果は?

大藪 細かい作業なので社長の手が震えていましたが、結果は見事に成功でした。芯をうまく通したときには会場が拍手や歓声に包まれるなど大盛り上がりでしたね。

──エントリー企業は展示会などで「くだグラを見たよ」と声をかけられることも多いそうですね。

大藪 私たち中小製造業には他社が容易にまねできない「コア技術」を少なくとも1つは持っています。ただ、どれだけ素晴らしい技術力を持っていたとしても披露する機会がなければ注目されることもありません。普段あまり表に出ることのない町工場の技術力、ものづくりに携わっている“人”の魅力を知ってもらいたい……。そんな思いから始めたイベントなので、くだグラをきっかけに会社の知名度が上がったり、技術力の底上げにつながるなど参加企業のプラスになっていれば主催者としてもうれしいです。

町工場の魅力発信に全力

──昨年、新たに「くだラボ」というウェブサイトを開設されました。特徴は?

大藪 くだグラの参加企業とモノを作ってほしい人をつなぐプラットフォームで、法人・個人に関係なくどなたでも依頼することができます。オープンしたのは昨年11月で、これまでに2件ほど商談につながっています。

──今後の展望や抱負をお聞かせください。

大藪 22年中に第3回大会の開催を予定していますが、運営や参加企業の業務との兼ね合いもあるので、その先については未定です。ただ、東海地方だけでなく全国の町工場の取り組みもどんどん発信していきたいという思いもあるので、くだグラを含め、中小製造業の魅力を発信するイベントは引き続き力を入れて開催していきたいと考えています。
 全国の町工場の人たちに、同じ仲間として元気を届けられたらうれしいですね。

(インタビュー・構成/本誌・中井修平)

掲載:『戦略経営者』2022年2月号