1993年に103カ所が第1号施設として登録されて以来、全国に広がりつづけている「道の駅」。特産品の販売のみならず、地域住民の交流、防災拠点としての可能性も秘める。中小企業が道の駅に販路を開拓するすべを探る。

プロフィール
倉重 宜弘(くらしげ・よしひろ)
全国道の駅支援機構理事長。ネイティブ株式会社代表取締役。富士総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)を経て、2000年よりネットイヤーグループに創業期から参画。大手企業のデジタルマーケティングやブランディング戦略の立案などに携わる。16年地域事業を専門に行うネイティブを設立し、独立。地域観光のマーケティング、ブランディング事業を中心に展開する。
金山 宏樹(かなやま・ひろき)
全国道の駅支援機構理事。株式会社シカケ代表取締役。2012年出身地である南あわじ市が出資する第三セクターに入社。EC事業部を経て、14年飲食事業部取締役に就任。17年シカケを設立。道の駅再生請負人として「行きたくなる」飲食店の仕掛け、「買いたくなる」商品開発などを仕掛けつづけられるチームづくりのプロデュース、セミナーを行っている。
「道の駅」で稼ぐ

──全国の「道の駅」の現状を教えてください。

金山 道の駅公式ホームページによると、道の駅の総数は全国1,198駅にのぼります(2023年2月時点)。このうち約3割が赤字といわれ、経営のテコ入れを要する道の駅が増加しているのが実情です。これは私見ですが、コロナ禍で経営状況は二極化している印象を受けます。ついでに立ち寄る観光客をメインにしていた道の駅は苦戦している一方、地域住民の買い物の場や、観光の目的地となっているところの売り上げは、順調に伸びているようです。

倉重 国土交通省は2020年から25年までを「道の駅第3ステージ」と位置づけ、地方創生と観光を促進する拠点への進化を目指しています。地域活性化拠点として特に実績を残している道の駅6駅を、全国モデル道の駅として選定。このうち、「道の駅とみうら」(千葉県南房総市)と「道の駅もてぎ」(栃木県茂木町)でモデルプロジェクトを実施し、得られたノウハウをヨコ展開しようとしています。

──道の駅の一般的な運営形態は?

金山 運営、管理を担っているのは、自治体、第三セクターや、民間企業をはじめとする指定管理者などです。たいてい経営者、駅長、マネジャーまでが正社員で、おもにパート、アルバイトスタッフが販売を担当しています。

──「駅長」という役職が印象的ですね。

金山 経営者に準ずるポストで、物販エリアの店長を兼務している場合が多いです。そのほか、業務内容や資金使途の行政機関への報告、問い合わせ対応など、役割は多岐にわたります。

ビジネスの3つの関わり方

──日ごろ取り組んでいる活動の一端をお聞かせください。

金山 われわれは全国の道の駅の立ち上げと再生を主に手がけています。昨年11月に開催したセミナーでは、「道の駅しかべ間歇泉公園」(北海道鹿部町)の再生事例を紹介しました。鹿部町は漁師町として知られており、約15分おきに噴き上がる間欠泉がこの道の駅の名物です。2016年に開業したものの赤字経営が続いていて、われわれは「シカベンチャー」という現地法人を立ち上げ、再生に携わることになりました。
 地元産の昆布を使用した、しょうゆやだし等の既存商品をプライベートブランド化。売り場も商品名を前面に押し出した什器に入れ替えたり、手書きのPOP広告を設置したりして刷新しました。
 あわせて注力したのが、ITツールの活用です。公式サイトを開設し、スタッフがブログを日々更新。販売スタッフがパソコンやスマートフォンを用いて、商品説明、販売をリモート形式で行う「ウェブ来店サービス」も開始しました。また、タブレット型のPOSシステムを導入して、クラウド上でデータ管理することにより、商品カテゴリー別売り上げや、曜日・時間帯別売り上げといったデータを迅速につかめるようになった。
 その結果、1年で黒字化を果たし、売り上げもわれわれが関与する前と比べて、4倍以上に成長しています。その後、再生活動に参画していた30代のメンバーに会社の株式を譲渡し、経営をバトンタッチしています。

──中小企業が道の駅でビジネス展開する場合、どんな関わり方がありますか。

倉重 道の駅の運営に携わるか、テナント店を出店するか、あるいは、商品を卸すケースも考えられるでしょう。ただ、すでに営業している道の駅に、テナントとして途中参入するのはむずかしい。道の駅の新規開設情報を収集して、オープン時に出店するのが賢明です。運営に携わる場合もしかりです。
 商品の卸売りを目指すなら、運営会社にアポイントを取り、交渉に臨むことになります。地元産の素材を使用している等、商品を売り場に置くしかるべき理由を説明する必要があります。
 道の駅のなかには、マルシェを開催しているところもあります。例えば「道の駅とよはし」(愛知県豊橋市)では、毎月第1水曜日に「水曜日のマルシェ」というイベントを開き、地元農家が販売する農産物が人気を博しています。

来店客、メディアが情報拡散

──オープン情報をいち早くつかむ方法は?

倉重 出店したいエリアの自治体サイトを定期的にチェックするとよいでしょう。開設まで数年かかるケースもありますが、サイトにはオープン予定を告知するコーナーが設けられているものです。あるいは「自治体名 道の駅 開業」といったようにキーワード検索し、情報収集するのも手です。

──出店後は広報、宣伝活動がカギになります。

金山 私は道の駅運営会社の代表も務めていますが、いわゆるキラーコンテンツをつくり、メディアに掲載してもらう手法をよくとっています。
 宮崎県小林市にある「道の駅ゆ〜ぱるのじり」での取り組みを紹介すると、昨年秋、道の駅内にあるレストランで、栗ご飯定食を2週間限定で提供しました。小林市には須木栗という特産の栗があります。にもかかわらず、栗を使用したメニューが地元飲食店にあまりなかったんです。ただ栗ご飯にするだけではおもしろくないので、ご飯の上にのせる栗の数を5個、8個、18個の3種類の中から選べるようにしました。
 これが功を奏し、栗がご飯の上に敷きつめられたインパクトのある見た目から、SNSへの写真投稿が相次ぎました。また、産地が台風被害を受けていたため、地元メディアが農家を応援する料理として紹介。生産者にも喜んでもらえ、地域の人々にとって道の駅の価値が高まりました。
 道の駅で提供される料理というと、めん類やカツ丼など万人受けするメニューが中心で、味もほどほどといった先入観があるものです。それを逆手にとって、食材にこだわったオリジナル商品を開発してみる。このレストランは「わざわざ食べに行きたくなる定食のあるレストラン」を掲げており、いまや道の駅の目玉になっています。栗ご飯以外にも、宮崎県産の黒毛和牛を使用したカレーや、土日限定メニューのチョウザメ三昧の定食が人気を呼んでいます。

ETC2.0の普及が追い風に

──道の駅で商売することのメリットを教えてください。

金山 道の駅が新たにオープンすると、国道などのロードサイドに青色の案内標識が設置されます。この標識はいわば信頼の証しであり、集客におよぼす影響は決して小さくありません。なにしろ人里離れた山間部に行くと、100キロ先にある道の駅の案内標識を見かけるときもあるほどです。
 それとETC2.0利用者を対象に、一定の要件を満たした場合、高速道路をインターチェンジからいったん出て道の駅に寄り再び高速道路に進入しても、インターチェンジからおりなかったときと同額となる実証実験を一部の道の駅で実施しています。ETC2.0が普及すれば、高速道路利用者がより気軽に立ち寄れるようになるでしょう。

倉重 道の駅を訪れる人の期待値はおしなべて高く、買う気満々で土産品などを探し回るものです。地域の人々になじみのあるお菓子でも、若手経営者やデザイナーがリブランディングを行い、商品の見せ方やターゲット層を変えたところ、ヒットした例もあります。地元の菓子店や生産者が手づくりしている、おはぎやわらび餅等には根強いニーズがあります。

──道の駅の将来像をどのように占いますか。

金山 道の駅は従来、年配の人たちが立ち寄る場所というイメージがありましたが、若い人が経営に参画すると、おのずと若い客層の割合が高まります。販売サイドの視点でいえば、オリジナル商品が人気を呼び、さらにメディア等で取り上げられれば、やればできるという前向きなマインドが他の事業者にも伝わります。
 近年は、自然災害発生時の防災拠点としても注目されています。「道の駅くるくるなると」(徳島県鳴門市)では、身のまわりにある物を日常、非日常を問わず役立てるフェーズフリーの考えのもと、施設を被災者支援に使用することが定められています。また、静岡県伊豆市にある「道の駅伊豆月ケ瀬」は、防災グッズを格納した貯蔵庫等を備えています。
 地元産業のけん引役にとどまらない、地域の社会インフラとしての道の駅の存在感は、いっそう高まっていくでしょう。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2023年3月号