寄稿

TKC全国会創設50周年(2021年)に向けての政策課題と戦略目標(ビジョンと戦略)

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 TKC全国会は、昭和46年(1971年)8月に結成され、既に40年を経過し、会員1万名を超えるわが国有数の会計人集団となった。そしてこの40年に亘る様々な活動によって、社会的評価が高まり、今日その活動に対して様々な分野からの期待が寄せられるまでになった。

 これから8年後の2021年には、TKC全国会はその結成から創設50周年という大きな節目を迎えることになる。この機会に、新たな政策課題(ビジョン)と戦略目標を掲げ、TKC全国会のさらなる輝かしい未来を構築していきたい。

2021年に向けての政策課題

 平成6年(1994年)第11回TKC全国役員懇話会の席上、飯塚毅初代会長は「21世紀に向けての政策課題」を提言され、これを受けて平成7年にTKC全国会の事業目的が改正され今日に至っている。

 それから18年が経過した今日、混迷を増す日本経済にあって中小企業の経営環境は一段と厳しさを増してきている。その渦中にあって、我々TKC会計人の果たすべき役割がますます重要となってきたといえる。今後も社会の期待に応え日本経済を支える税理士として、また、ビジネスドクターとして、TKC全国会が果たすべき役割は何か、その成長戦略は何か、当時の5つの政策課題を今日的に整理すると同時に、新たに「中小企業の経営基盤の強化」の1項目を加えて政策課題(ビジョン)を提言する。

1.租税正義の実現

 税理士は、誇り高き行動原理をもって社会から信頼され、尊敬されるようでなくてはならない。

 そのためにも、税理士は「租税正義の実現」を第一の価値目標として位置づけなくてはならない。税理士法第1条の使命を堅持し、税理士としての専門性を高めていくと同時に、国家財政の健全化のためTKC全国政経研究会が掲げる法制度の改正等の実現を図らねばならない。

 そのために以下の課題に取り組む必要がある。

(1) 国家財政の健全化のために、租税法をはじめとする職業関連法規等の改正に向けての調査・研究及び提言活動
(2) 社会的影響力を強化するためTKC会員事務所1万事務所超体制の実現

2.税理士業務の完璧な履行

 税理士法第45条で税理士は「真正の事実」を踏まえて税理士業務を遂行することが義務づけられている。

 税理士がわが国の中小企業の健全な発展を願い、租税正義実現の実質的な担い手であると自認する限り、法の求める税理士業務を完全に履行し、社会から信頼され尊敬される立場を獲得していくため、次の項目を重点的に取り組む必要がある。

(1) 巡回監査の徹底断行
(2) 税理士法第33条による「書面添付」の積極拡大
(3) 「記帳適時性証明書」の啓蒙と決算書への積極的な添付と開示
(4) 会計参与制度の普及

3.中小企業の経営基盤の強化

 日本経済の根幹を支える中小企業の成長・発展なしに地域経済の発展はなく、日本経済の発展もない。近年の経済情勢、金融情勢の中で、税理士は、従来果たしてきた中小企業の良き相談相手としての役割から、さらに一歩踏み込み、中小企業の支援者として経営改善計画策定支援やその実施状況のモニタリング、そして資金調達などをサポートする役割を果たすことが国家・社会から期待されている。

 そのために関連省庁、金融機関等と連携して中小企業の財務経営力強化、資金調達力強化等に向けて次の項目を重点として取り組む必要がある。

(1) 黒字化支援
(2) 財務経営力の強化支援
(3) 「中小会計要領」の普及と活用
(4) 海外展開支援
(5) 金融機関及び中小企業団体等との連携強化

4.TKC会員事務所の経営基盤の強化

 不況の長期化と産業構造の変化による関与先企業の経営環境の変化、さらに国際化の問題を含めて会計人業界の競争が激化していく中にあって、あくまで税理士業務の完璧な履行を追求し、また、わが国の中小企業が抱える様々な問題の解決を積極的に援助し、黒字化を支援するためには、新たなるビジネスモデルの開発を含めて会員事務所の経営基盤の強化を図らねばならない。

 そのために業務品質の向上を図り、会員並びに職員の継続的な研修(生涯研修及び資格試験を伴う職員研修等)を強化充実するとともに、関与先企業の存続基盤強化を目的とする企業防衛制度の推進、リスクマネジメント制度の普及などを一層強化していかなければならない。

(1) 生涯研修受講率のアップ
(2) 巡回監査士の養成
(3) OMSの普及と事務所管理体制の強化
(4) 企業防衛制度の推進
(5) リスクマネジメント制度の推進
(6) 会員事務所事業承継の円滑化

5.TKCシステムの徹底活用

 前記の2から4の課題を確実に実行するためには、TKCシステムの徹底活用が重要な前提となる。

 TKCシステムは、常に法令に完全に準拠しており、その開発思想はあくまで「職業会計人の職域防衛と運命打開」に、焦点を当ててきている。

 特に、今日IT普及速度はさらに加速し、中小企業の情報化を飛躍的に促進させ、ITに習熟した勤労者を多数輩出することにより、自計化企業が増加の一途を辿ることは必然となった。

 しかし、自計化で重要なことは、単なる事務の合理化のレベルではなく、経営の羅針盤として活用し得るものなのか、タイムリーな業績管理体制の構築に役立つものかが問われるということである。

 TKCの自計化システムと継続MASシステムの最大の特長は、経営者に多くの気づきを与えて経営者を賢くすること、さらに経営者のやる気を満たすことを目的として開発されたものである。このことは、今後厳しさを増す中小企業の経営者にとって必要不可欠なシステムであることを意味している。

 このことを銘記し、次の課題に重点的に取り組む必要がある。

(1) TKC自計化システムの推進
(2) 継続MASシステムを活用した経営助言の実践
(3) 税務と会計のシステム連動性の促進

 なお、経営助言に関して飯塚毅初代会長は次のように述べている。

「モンゴメリー先生がいわれたように『経営方針の健全性』に関する最高の助言者になれるのかどうか、会員先生は自問自答してみて下さい。経営の各条件を種々に変化させるだけで、無数に近い未来計算のモデル像を提供できないような会計人は、はっきりと脱落者になります。」(出典『職業会計人の使命と責任』100頁より)

 TKCの自計化システムと継続MASシステムは、そのための最も強力なツールである。

6.前記の目的を達成するための会員相互の啓発、組織運営、
  互助及び親睦

 前記の目的を達成するためには、会員各々が一人は万人のために、万人は一人のためにとの理念を共有し「TKC会計人の基本理念(25項目)」を基盤とする相互啓発に努めるとともに、会務活性化のため、若手会員の登用に努め、TKC全国会会則及び行動基準書等諸規定の整備とその遵守に努めなくてはならない。

TKC全国会創設50周年(2021年)に向けた戦略目標

 以上の政策課題を受け、平成11年からの第1次成功の鍵作戦以来培ったKFS実践の経験と知識を活かし、会計を経営に活かすTKC会計人の強みを発揮し、それに賛同する会員の参加を呼びかけ、特に「職業会計人の職域防衛と運命打開」のために活動する同志を拡大することを重点に置き、次の戦略目標を掲げる。

戦略目標

─TKC会員数の拡大と関与先企業数100万社を目指して─

(1) TKC会員事務所数 1万超事務所
(2) TKC会員事務所の税理士数 1.5万人
(3) K・F・S(Kは予算登録件数) 各50万社
(4) 巡回監査士数 2万人
(5) 企業防衛加入関与先企業数 15万社+α

KFS(Key Factors for Success)の新たな定義

 TKC全国会は、KFS推進活動を通じて、関与先の黒字化を長年支援してきた。しかし、今日の社会からの期待、要請を踏まえ、かつ、新たな政策課題の実現のためにも当KFS活動のネーミングを新たな視点で捉えるべきと考える。つまり、TKC会計人が積極的に取り組むべき業務範疇を示す新たなキーワードを盛り込むことによって、TKC全国会活動の影響力をより高めていきたい。

 すなわち、KFSの、「K=計画支援」「F=フォロー」「S=証明力」とし、この3つのキーワードの各項目の取り組むべき内容を以下のように定義する。

「計画支援」は、経営計画策定支援や経営改善・企業再生計画などの支援であり、そのため「継続MASシステム」を徹底活用していく。

「フォロー」は、計画を実行段階でフォローするタイムリーな業績管理体制構築の支援、モニタリング支援などであり、そのツールとして「TKC自計化システム」を積極的に導入する活動とする。

「証明力」は、以下の3点に取り組むことによって決算書の信頼性と適正申告の実現を高める活動とする。

税理士法第33条の2による「書面添付」
第三者証明として客観的な証明力をもつ「記帳適時性証明書」の決算書への添付と開示
計算書類の信頼性を証明する「中小会計要領」の普及

 この新たなKFS活動を日常的に推進することによって、戦略目標達成のための礎としたい。

最後に(中小企業の成長発展を願って)

 わが国の中小企業並びに税理士の未来は、我々税理士の共同責任であり、なかんずく、TKC会員の一人一人の双肩にかかっていると言っても過言ではない。そこで以下のスローガンを掲げ、熱く使命感を共有し全力を尽くして新たな時代を創っていこう。

スローガン

(会報『TKC』平成25年2月号より転載)