寄稿

TKC全国会創設50周年の政策課題と戦略目標達成に向けて(2)

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 今月号は8月号に引き続き、組織運営において重要な役割を担うリーダーシップのあり方について、TKC全国会の現行の課題と今後の展望について考察してみます。

組織運営における課題

 「船の行き先を決めるのは、風向きでなく、帆の張り方である」と言います。組織運営においても、帆の張り方を決めるリーダーの存在とリーダーシップのあり方を考えないわけにはいきません。

 リーダーシップという言葉は多くの人が使いますが、その解釈は多岐にわたり、これだという端的な説明はしにくいようです。まず「リーダー」と「リーダーシップ」は、異なる概念なので分けて考える必要があります。

 組織におけるリーダーとは、飯塚毅初代会長が示された資質(前月号に掲載)を備え、その組織を動かし統率する人を指します。統率力の高い人は、適切な人材を自分の周りに配置し、各人の強みを生かしながら集団をまとめ、組織活動の成果を高める能力を発揮できる人と言えます。これに対してリーダーシップとは、指導力や統率力といった能力、集団をまとめる力と言えるのではないでしょうか。

 フランシス・ヘッセルバイン(全米ガールスカウト連盟元CEO)は、その著書『リーダーの使命とは何か』(海と月社)において、「いかなる組織も、ひとりのリーダーではなく、多くのリーダーをもたなくてはならない。『権限の委譲』『リーダー役を分け合う』といった言い方をする人もいるが、私は『リーダーシップの分散』と言う。リーダーを育成し、組織のあらゆるレベルで力を発揮してもらうのだ。リーダーの責務は、組織のメンバー全員が分かち合うのが理想だ」と述べています。

 さらに、リーダーの育成について、「リーダーを育てるには、現役のリーダーたちが普段から、未来のリーダーにふさわしい資質やスキル、姿勢を備えた人材を見きわめる努力をしなければならない。加えて、過去のリーダーを支えてきた古いルールや解決策、古い構造に疑問を唱える勇気も求められる」と述べています。これはこれからの組織のあり方を考えるときに、考慮に値する貴重な考え方です。

 リーダーシップを発揮できる人材の育成は、決して簡単なことではありません。企業であれば、ビジネススクールで学習させたり、OJTなどを経験させる方法もあります。しかしそれは管理・命令型の組織形態において有効であっても、NPOやTKC全国会のような組織には馴染みません。

リーダーを育てる組織体制とは

 TKC全国会並びに地域会の組織運営はどうなっているでしょうか。我々は任意団体であり、民間企業のような指揮命令型、ピラミッド型の組織運営とは大きな違いがあります。

 前述のフランシス・ヘッセルバインは、次のような円形の組織図を提案しています。

 円形にあって、中心はあっても頂点や底辺はない。それぞれの人も役職も、三つの同円形のなかを移動する。例えば、CEOは、中心にいてまわりに目を配るが、頂点から見下ろしたりはしない。それぞれのスタッフはこの三つの円のなかを、上下でなく水平に動きまわることによって成果を生む、と。

 彼女の考えた組織図にTKCの地域会をあてはめてみました(下図)。

運命のルーレット

 中心に地域会会長がいて、その外側は副会長、さらにその外側は支部長といったスタッフがいて、この円の中を、上下ではなく水平にルーレットのように動き回ることにより、互いにパートナーシップをとりながら、傘下の会員を巻き込みつつ成果をあげていくという形です。委員会活動は、ルーレットがよりうまく回転するための、いわば潤滑油の役割を担うと理解してはどうでしょうか。

 フランシス・ヘッセルバインは、彼女の組織図について、よく企業の中間管理職の面々から質問を受けるそうです。

 「組織を自由にするとか変化をもたらすとかいっても、頂点から指揮をせずに、どうしてそんなことが可能なんですか」。これに対しての答えはこうです。「たとえどんな役職であっても、今いる場所から始められることはある。自分のチームやグループに、新しい知見や新しいリーダーシップを持ち込むことはできるのだ」。その組織は次の三つの考え方を反映しています。

 ①組織を円ととらえて運営する。
 ②リーダーを組織的に育成する。
 ③リーダーを多く持つ。

 このような発想は、TKC全国会・地域会の組織運営においても参考にすべきではないでしょうか。これまでの各階層のリーダーの人選方法や任期の決め方などは、果たして、リーダーを育てるとの観点からみて適切だったでしょうか。また、折角育った各階層の有能なリーダーが現役を退いた後の処遇(立場)については、適材適所に活躍の場が提供されてきたでしょうか。「お金をドブに捨てる」との譬えがありますが、失礼をかえりみずに言えば、我々は気前よく人材をドブに捨ててこなかったでしょうか。

 人材が様々な学習や経験によって創られるものであれば多くの時間を必要とします。これまで活躍された有能なリーダーを組織の随所に配置する一方で、人材を育てていく環境を醸成していくことが肝要と考えます。

 P・F・ドラッカーは『経営者の条件』(ダイヤモンド社)で、「生まれながらのリーダーもいるかもしれないが、ほとんどの人はそうではないはずだ。成果を挙げる能力は、生まれつきのものか、修得すべきものかとの問いに、ずばり修得すべきものと断言する」などと言っています。リーダーシップのとれる人材の多くは様々な学習や経験等によって創られていくものであろうと思います。

 『学習する組織』(枝廣淳子他訳・英治出版)で著名なピーター・M・センゲはその著書で、「チーム学習はきわめて重要である。なぜなら、現代の組織における学習の基本単位は個人ではなくチームであるからだ。肝心なのはここである。チームが学習できなければ、組織は学習し得ない。(中略)天賦の才をもつ人もいる一方、誰でも実践によって熟達度を高めることができる」と述べています。これはチーム内の仲間同士のダイアログ(dialogue)によって潜在能力を引き出すことでもあります。

リーダーに立ちはだかる壁

 地域会の執行部の皆さんと話をしていますと、「リーダーが見つからない」との悩みをよく聞きます。しかし生まれながらリーダーに不向きな人はいないと思います。特に、我々職業会計人は難しい試験に挑戦して資格を得ており、一定以上の知識レベルにあります。さらに日々の業務では中小企業の経営者に接し、税務と会計の専門家としてその良き相談相手として、また指導者として経営支援などを担っている立場です。そこでもし、リーダーになることを阻む壁があるとすれば、飯塚毅初代会長が常に指摘された自分自身の内にある次のような壁ではないでしょうか。

①自己限定をしている。
 お母さんのお腹から「オギャア」と生まれた時に授かってきたあなたの本心、それは無限定的なものであり、真のあなたの実践主体です。それにあなたは、勝手に限定を加えて、身動きできない自我の映像を観念の中で作りあげて、「俺ってこういうんだ」と尊い主体性に対して限定を加えて、求めて不自由になっているだけだ。いわれ無き自己限定の中で暮らしていては、本当の自己の成長発展はないと思わなくてはならない。

②自己中心的発想法から抜け出ていない。
 TKC会員の中には、「うちの関与先は規模も小さいし、そんな高度なものはとても理解できないのだから」と経営者の需要と頭脳水準とを、勝手に決めてかかっている会員がかなりおられるように見受けられます。それは重大な誤りであります。イリノイ大学のジョーンズ教授が言われるように、常にエゴ中心の発想法の中にいる者には、本格的な発展の契機はないものと覚悟しなければなりません。

 以上に加え、困難を前にすると多くの人がUターンをしてしまうようです。飯塚毅初代会長は、「困難よ来たれ、困難よ来たれ」「困難を我が友とすベし」とも言われていました。

 困難に直面して自身が学習し、成長する努力をする中に自己の成長に欠かせない多くの種があることを知るべしであります。

 この克服には、宗教的信念を培養し自己を磨くしか方策がないようです。

 再び、フランシス・ヘッセルバインの言葉を引用します。

 「不確かな未来に向けて、私たちはどのようにリーダーを育てていくべきか? その答えは、すべての組織のリーダーたちが、自らの知恵を行動に移したときに見えてくる。一人ひとりの行動でこの難問に応えてほしい。未来に向けて力を尽くしてほしい。未来のリーダーを育てるのは、今日を生き延びるためだけではない。明日も、その先も、ミッションを着実に推し進めていくためでもあるのだ」。

 まさに、これは「TKC全国会創設50周年に向けた政策課題と戦略目標」達成に向けて、我々がかみしめるべき言葉です。各階層のリーダーの皆さんの知恵と行動力に期待いたします。

(会報『TKC』平成25年9月号より転載)