寄稿

「決算書の信頼性」を最重視する新ローンを開始した三菱東京UFJ銀行の英断に応えよう!

認定支援機関のKFS実践関与先を対象とする総額1,000億円の超低金利ローン

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 経営革新等支援機関に対する大きな福音ともいえる発表が、三菱東京UFJ銀行殿によって行われました。すでにご案内の通り、認定支援機関であるTKC会員の関与先企業を対象とする超低金利ローンが創設され、いよいよこの10月1日から利用開始となりました。

 当制度は、毎月の巡回監査をベースとした経営計画策定、タイムリーな業績管理体制の構築、そして信頼性の高い決算に基づいた適正申告の実現を目指し、中小企業の財務経営力向上に取り組んでいるわれわれTKC会員の関与先企業に限定した超低金利のローンです。

 総額1,000億円という資金枠が用意されました。三菱東京UFJ銀行殿としても、赤字をも辞さぬ並々ならぬ決意であることがうかがえます。

 この新ローンは、「トップバンクとして、疲弊した中小企業を元気にしたい」という強い使命感と、TKCとの永年にわたる業務提携による信頼関係を踏まえ、TKC会計人がこれまで取り組んできたKFS活動に対する評価を表しています。

 このローンは、業歴1年以上、保証協会の利用ができる中小企業で債務超過でないこと、申込み時点で税金の未納等がないことなどを前提として、次の3条件の充足如何で金利優遇を受けられるというものです。

①「中小会計要領」を会計ルールとして採用していること。
②申告書の適正性を表明する「TKC方式による税理士法第三三条の二による書面添付」がされていること。
③㈱TKCが発行する「記帳適時性証明書」において、月次決算及び年次決算状況欄に「◎」が合計30個以上あること。

 以上の条件を1つ充足するごとに、基準金利から0.3%きざみの金利優遇を受けられることになり、3つをクリアすれば0.9%もの優遇を受けられることになります。

「記帳適時性証明書」が条件に加えられたことの画期的な意義

 TKC飯塚真玄会長は、社内報『とこしえ』平成25年8月号において「今回発表された新ローンは、わが国の金融機関に大きな《価値観の変化》をもたらし、常に誠実真剣な努力を重ねているTKC会員に対する評価を劇的に改善することになるだろう」と述べています。

 すべての金融機関が、決算書の信頼性を求めている時代にあって、TKCシステムで作成された「決算書」と「中期経営計画書」、そして決算書の信頼性を確保する「中小会計要領」、「税理士法第三三条の二による書面添付」および「記帳適時性証明書」の3点セットによる証明力を組み合わせた今回のようなローンは、これまで一部の地域金融機関が扱った例はありますが、日本を代表するビッグバンクである三菱東京UFJ銀行殿が開始したことの意義は非常に大きく、わが国の多くの金融機関の価値観を劇的に変えるきっかけになるものと確信します。

 特に「記帳適時性証明書」は、毎月の巡回監査の結果、作成された月次決算書や年度決算書に対して株式会社TKCが第三者機関として、その信頼性を裏付ける証明書として発行するものであり、改正商法や会社法において、適時に正確な商業帳簿の作成が明文化された今日、これが金利優遇の条件に加えられたことには画期的な意義があります。

 この際、TKCシステムを税務申告書作成だけに使っている会員諸兄は、月次および決算の財務処理においてもTKCシステムに切り替えていくべきです。税務と会計の一体的な処理が決算書の信頼性を確保する必須条件である以上、もはやこれを実践することに躊躇(ちゅうちょ)する理由はありません。関与先企業に、超低金利の融資を受けられるチャンスがありながら、会計事務所の都合で、その条件が満たされなかったという状況を絶対につくってはなりません。

認定支援機関事務所は最低1件、年内5,000件超の提出を目指そう

 保証人や物的担保に頼らない、決算書そのものの信頼性に軸をおいた制度、これこそ融資制度として究極のものであることから、ローンの名称は「極め」となっています。

 これまでも多くの金融機関から各種の「TKC戦略経営者ローン」の提供がありましたが、条件面でより決算書の信頼性を深めている点で従前をはるかに凌ぐものであることは間違いありません。

 去る7月19日に開催されたTKC全国役員大会の全体研修において、TKC関東信越会の松﨑堅太朗会員が「当制度の極めを条件がクリアできず利用できなかったことが《痛恨の極み》にならないようにしなければいけません」と語っておられましたが、まさにその通りです。

 これからは3つの証明力が提示できない会計事務所は生き残っていけないと思わなくてはなりません。この点について会計事務所の体質改善を早急に図るべきです。

 関与先企業をもっと元気にしていくために認定支援機関となった会員(七号認定で5,435事務所)には、新ローンの利用を年内にまずは1件以上出していただくことをお願いします。

 また、この機会に各地域会、支部においてはKFS活動と当制度を地元金融機関との交流会などを通して積極的に紹介し、アピールしていく必要があります。そして当制度のような決算書の信頼性を担保とした低利の新たなローン制度の創設につなげるように努めていただきたいと念願します。

 ピーター・F・ドラッカーの言葉に、次の一節があります。

 「変化はコントロールできない。できるのは、変化の先頭に立つことだけである。今日のような乱気流の時代にあっては、変化が常態である。変化はリスクに満ち、楽ではない。悪戦苦闘を強いられる。だが、変化の先頭に立たない限り、生き残ることはできない。急激な構造変化の時代を生き残れるのは、チェンジ・リーダーとなる者だけである。チェンジ・リーダーとなるためには、変化を脅威でなくチャンスとして捉えなくてはならない。変化を探し、本物の変化を見分け、それらを意味あるものとして利用しなければならない。」

 新ローンの普及を、新たな時代へと価値観の変化をもたらす一大チャンスと捉えて、チェンジ・リーダーを目指しましょう。

(会報『TKC』平成25年10月号より転載)