寄稿

「会計で会社を強くする」支援ツール 継続MASシステムの徹底活用を望む

時代は大きく動きはじめている

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 20世紀末にP・F・ドラッカーが述べた次の言葉は、今日になってますます真実味を帯びています。

「変化はコントロールできない。できるのは、変化の先頭に立つことだけである。今日のような乱気流の時代にあっては、変化が常態である。変化はリスクに満ち、楽ではない。悪戦苦闘を強いられる。だが、変化の先頭に立たないかぎり、生き残ることはできない。急激な構造変化の時代を生き残れるのは、チェンジ・リーダーとなる者だけである。チェンジ・リーダーとなるためには、変化を脅威ではなくチャンスとして捉えなければならない。変化を探し、本物の変化を見分け、それらを意味あるものとして利用しなければならない。」

(『ドラッカー365の金言』ダイヤモンド社)

 今日、我々職業会計人業界においてさまざまな変革が急速に進んでいます。

 その一例がクラウド会計ソフトの台頭です。

 米国では、インテュイット社のクイックブックス(QuickBooks)という名のクラウド会計の利用者は、個人や小企業の約9割と、ほぼ市場を独占しており、その使用料は月額10ドル程度と聞いています。

 米国での成功を受けて日本でも「freee」、「MFクラウド会計」、「やよいの青色申告オンライン」などのクラウド会計ソフトが出現してきました。

 日本と米国では法環境が違うため、これらがすぐに大普及することはないと見られていますが、今後3、4年のうちには、さまざまなシステム上の課題等もクリアして、かなりの数のベンダーが新規参入する可能性があると予測されます。

 話は変わりますが、低報酬で記帳代行や税務申告業務を請け負う会計事務所が都市部を中心に増加しています。

 中小企業から領収書などの証憑書類を預かって起票代行・記帳代行を行い、決算申告の処理を主要業務とする会計事務所です。これらの会計事務所は、低報酬をかざして関与先拡大に走り続け、その業務内容はひたすら過去処理に追われ、事務所の業務品質を高める発想とも無縁で、「決算書の信頼性」に向き合うこともなく、中小企業の存続と発展への経営支援など問題外としている事務所です。

 このような会計事務所に依頼する企業も企業ですが、このような会計事務所が増えていくと将来の会計事務所業界はどうなってしまうのでしょうか。

 TKC会計人は、ドラッカーが指摘する「本物の変化を見分け、それらを意味あるものとして利用」することが必要なのです。

愚直に「継続MASシステム」に取り組もう

 本年は、TKC全国会の戦略目標達成に向けた第1ステージの中間の年になります。非常に重要な年であると考え、新年早々に開催されたTKC全国会政策発表会(1月16日)において、会計事務所の総合力アップに焦点をあて、事務所の体質改善に向けた取り組みを本格化するための諸施策を発表いたしました。

 今年はこれらの事務所の体質改善に向けた諸施策に、個々の事務所が「愚直」に取り組む必要があると考えます。

「愚直」の意味は、『広辞苑』によれば、「正直すぎて臨機応変の行動がとれない。馬鹿正直」となっており、必ずしもよい言葉ではないようですが、何かを成し遂げた先人は共通してこの「愚直」さを有しているようです。

 TKC全国会初代会長飯塚毅先生は、会計人としてのあるべき姿に向かって、愚直にやり通す貫徹力の重要さを折にふれて説き続けてこられました。

 早稲田大学ビジネススクールの遠藤功教授は、最近出版した著書『現場論』(東洋経済新報社)において、「愚直でなければ組織能力は高まらない」と指摘しています。

「愚直とは、『とことんやり抜く』ということだ。周囲から『そこまでやるのか』と呆れられるほど『のめり込む』ことだ。のめり込まなければ能力にならない」と。

「愚直」にやり続けることによって、それが時間の経過とともに「当たり前」となり、やがて高い組織能力に転換し、ブランド力にもなるというのです。

 いまTKC会計人は何に対して、「愚直」に取り組むべきなのでしょうか。

 巡回監査を徹底し、TKCシステムの活用により月次決算体制を確立することが不変の課題であることは言うまでもありません。近年、これに加えてTKC会員の強みである「継続MASシステム」による関与先企業の経営計画策定と業績管理の指導を通じた経営支援が求められています。

 すなわち「継続MASシステム」を活用して、「会計で会社を強くする」指導を実行することが、今、TKC会計人が「愚直」に取り組むべき重要課題なのです。

「継続MASシステム」は、その開発に関わった先達会員の献身的な努力でシステムが完成し、提供が開始されてから、今年で20年目を迎えたわけですが、TKC会員事務所において、本システムを活用した関与先企業のタイムリーな業績管理体制構築の支援が果たしてどれだけ図られているでしょうか。

 現在、経営計画を予算登録に落とし込んで利用している企業数が約5万5000社、事務所数は約3100件、利用事務所の約半数が5件未満の予算登録数という現状にあります。

 第1ステージが目指す「事務所総合力の強化」の指標としても、出遅れているのが、この予算登録件数の項目です。

 今年は、全会員事務所が関与先の経営計画策定支援、業績管理体制構築の指導に「愚直」に取り組み、これを通常業務としてぜひ定着させなくてはなりません。

「何としてもやり遂げる」との強い気概が必要

 今や、中小企業でも自計化が当たり前の時代となりましたが、中小企業の自計化は、単に経理の合理化だけでなく、経営に活かすこと、つまり「会計で会社を強くする」ことに利用できるのかどうかが重要なポイントです。

 会計事務所主導によるTKC方式の自計化の意義はそこにあります。

 TKCの飯塚真玄会長は、「TKC方式による自計化」について次のように定義しています。

「会計事務所の指導の下に、日々の仕訳の適時かつ正確な入力を通して、商法と税法が求める記帳義務の履行を保証すると共に、そこで収集した情報を管理会計の手法を用いて展開し、顧問先企業のリアルタイムな業績管理に役立つ会計情報として提供すること」。

 すなわち「TKC方式による自計化」の眼目は、税務と会計の一気通貫にあり、会計事務所の支援による関与先企業の業績管理体制の構築にあります。自計化関与先の中長期経営計画や短期経営計画の策定を支援し、これをベースとした業績管理体制を構築していくことは、「会計で会社を強くする」ための最短距離と言えます。

 そしてこのプロセスの中で、会計事務所の会計指導力が高められていくことが大事です。指導とは「目的に向かって教え導くこと」を言いますが、何度も反復して経験を積むことによって「会計指導力」が事務所に蓄えられていくと思います。

 

 今年はTKC会員各位に、「継続MASシステム」の徹底活用を通じて、事務所の体質改善を何としてもやり遂げてみせるとの決意と、会計人の目指すべき本質としてこれだけは譲れないとの強い気概を固めてほしいのです。

(会報『TKC』平成27年2月号より転載)