対談・講演

全ての中小企業を対象とした早期経営改善で日本を元気にしよう!

中小企業再生支援全国本部顧問 藤原敬三氏に聞く

とき:平成29年7月5日(水) ところ:中小企業再生支援全国本部

中小企業の資金繰り管理や採算管理等の早期の経営改善を支援する、新たな「早期経営改善計画策定支援」が今年5月末から開始した。中小企業支援施策に携わる中小企業再生支援全国本部の藤原敬三顧問をTKC全国会坂本孝司会長が訪ね、経営革新等支援機関の役割や中小企業金融の方向性などをテーマに語り合った。

◎進行 TKC全国政経研究会事務局長 内薗寛仁

巻頭対談

経営者保証ガイドライン(Q&A)に外部専門家として「顧問税理士」が明記

 ──去る平成29年6月23日に行われた第128回TKC全国会理事会では、「早期経営改善計画策定支援のねらい」というテーマでご講演いただいて、ありがとうございました。早速、お二方の出会いから、お伺いできますか。

中小企業再生支援全国本部顧問 藤原敬三氏

中小企業再生支援全国本部顧問
藤原敬三

 藤原 今から4年ほど前、TKC静岡会の中小企業支援委員長だった木村治司先生が、創設したばかりの経営革新等支援機関制度について相談したいことがあるということで、中小企業再生支援全国本部を訪ねてこられました。TKC会員でもある福島健人プロジェクトマネージャーにも加わってもらって、いろいろな話をしましたが、その中で、私どもとTKC全国会さんは、中小企業支援に向けて目指す方向性は同じであり、一度、当時静岡会の会長だった坂本先生とも会ってほしいということになりました。
 それで後日、坂本先生にお会いして、そのときに『会計で会社を強くする』(TKC出版)というご著書もいただきました。ご著書を拝見し、中小企業会計に真正面から取り組んでおられる税理士さんがいるんだという驚きと、私と同じ神戸大学の出身だったこともあり、とてもご縁を感じました。

 坂本 私も藤原先生が書かれた『実践的中小企業再生論』(金融財政事情研究会)を読ませていただき、かつ私自身が中小企業政策審議会の委員として、中小企業経営力強化支援法の制定・認定経営革新等支援機関の創設に少なからず関わってきましたので、お会いすることを楽しみにしていました。
 たしか、先生が委員を務めていた、経営者保証に関するガイドライン研究会から「経営者保証に関するガイドライン」が公表された当日も、こちらでお会いしましたよね(平成25年12月5日)。ガイドラインやそのQ&Aの中に、保証や担保に頼らない融資における信頼性ある情報開示の重要性や、外部専門家としてはじめて「顧問税理士」を盛り込んだ立役者が、藤原先生だとうかがいました。

 藤原 税理士の先生方をはじめとする外部専門家が、中小企業支援にどのように関わるのかが、「経営者保証に関するガイドライン」では大きなポイントになっています。同研究会のワーキンググループでは、坂本先生の著書も参考にしながら、自分なりの意見を述べていたので、ガイドラインの公表をいち早くお知らせできてうれしかったです。

 坂本 ありがとうございます。 

 藤原 中小企業支援において、税理士の方々には、「顧問税理士」という経営者に最も身近な立場で深く関わってほしいというのが、私の強い思いでした。
 その後、認定支援機関による経営改善計画策定支援事業(いわゆる405事業)に、中小企業再生支援全国本部が関わるようになりました。利用申請実績が滞る状況が続く中で、平成26年1月のTKC静岡会研修会において、当時、TKC全国会中小企業支援委員会の委員長だった藤原均先生と引き合わせてもらいました。3月に開かれた中小企業支援委員会にも出席させていただいて「TKC会員の皆さんの力をお借りしたい」と直接お願いをしました。

 坂本 そうした経緯があって、最後に決め手となったのは、株式会社TKCの飯塚真玄会長(当時)、角一幸社長が、TKCとしても本格的にプロジェクトに取り組むことを決定され、オールTKCによる7000プロジェクトが開始しました。平成26年6月から平成28年12月末までを集中期間として、全国で推進しました。この間、藤原敬三先生は、講演や寄稿などを通じて、頻繁に私どもを励ましてくださいました。

経営改善(人間ドック)から債権放棄(外科手術)まで一貫支援を

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 坂本 第128回TKC全国会理事会での講演の中で、藤原先生は、7000プロジェクトの意義を踏まえて、12年前の寄稿を紹介されていたので、読ませていただきます。
「企業再生は、人間の病気治療と基本的に同じである。ただ、人間の病気に対する治療システムは、官と民がうまく機能しているが、中小企業の病気に対する治療システムは構築されていない。(中略)病気は早期治療と予防が一番である。企業についてもまったく同じである。中小企業側の意識改革、はっきり言えば『正確な決算』を促すためのスキームについて、何らかの企業側へのインセンティブの付与等を含めた検討を期待している。もとより短期間に期待するのは無理であることは承知してはいるが、是非全国の税理士会の協力も得て良き方向に向かっていくことを願う次第である。」(NBL・商事法務No.805)
 藤原先生はその上で「顧問税理士を抜きにして中小企業再生などあり得ない」という強い信念を持っていたとおっしゃっていましたね。そんな昔から、今回の早期経営改善計画策定支援を含めた中小企業支援の方向性を着想していたのかと、出席者は皆驚きました。

 藤原 私は2003年に勤めていた銀行を辞めて、中小企業再生支援協議会の仕事をお引き受けし、試行錯誤していたわけですけれども、再生支援をやればやるほど、いろいろな方の力を借りなければできないなと感じていました。特に、一体誰が中小企業の実態を一番よく知っていて、経営者とも対話できる存在なのかというと、顧問税理士しかいないわけです。残念ながら、私が勤めていたメガバンクでは、中小企業にきめ細かく寄り添うことはできませんでした。
 そう考えたときに、ふと、人間の病気治療のシステムをイメージしてみると、鮮明な絵が描けました。患者が病院に相談に来て、問診をして、カルテを書いて、それを見ながら治療方針を決める。手術するのであれば、専門家を集める。その後の経過観察もしっかり行って対応する。それが事業再生支援における、中小企業再生支援協議会の手続きや仕組みといえます。
 さらに、人間の病気と同じなら、早期治療や予防も必要ではないかと。病気の予防段階では、人はホームドクターに診てもらいますね。では、中小企業にとってのホームドクターとは誰かといえば、ここでも顧問税理士に決まっています。そこは、経営改善支援センターが担う部分です。
 つまり、中小企業支援においては、経営改善(人間ドック)から債権放棄(外科手術)まで一貫した支援が求められており、そのうち、人間ドック的な機能が、本事業によって追加されたということです。そのような中小企業支援の全体の構図を思いついて書いたものが、先ほど紹介していただいた寄稿でした。

 坂本 そこには、「正確な決算」を促すスキームも必要ですね。

 藤原 そのとおりです。

 坂本 本来、中小会計要領に準拠した会計帳簿や決算書は、金融機関とわれわれとの、あるいは金融機関と経営者との共通言語であるべきものですが、中小企業金融において、それが十分に活用されていない状況です。この問題を早く解消しなければいけません。リレーションシップバンキングや事業性評価もそれはそれでよいのですが、まずは、決算書を信頼できるようにすれば、それで7~8割は中小企業の実態をつかめるようになると思います。

 藤原 坂本先生がいつも言われている「会計で会社を強くする」ということですね。その具体的な姿をどこまで関係者の腹に落とせるかがポイントだと私も思います。特に、経営者の方々が、そのような意識を強く持てれば、社会は大きく変わると思います。そのきっかけにもしてほしいのが、今回の早期経営改善計画策定支援なのです。

中小企業金融政策の方向性は税理士の将来にとって明るい光

 坂本 藤原先生は、中小企業支援の全ての局面に関わっているのが、顧問税理士と取引金融機関であり、両者がしっかりと手を携えることが重要だと強調されていますね。

 藤原 TKC会員の皆さんに、7000プロジェクトの推進をお願いするにあたっても、なんとかして金融機関と、中小企業のホームドクターともいえる税理士との距離が縮まってほしいと思っていました。
 経営改善計画策定支援事業を推進していく中で、税理士の先生方はもとより、金融機関の側も嫌な思いをするのは分かっていました。しかし、それを一緒に乗り越えなければ、その先に化学反応は決して起こらない。その意味では、7000プロジェクトの実績を挙げていただいて、実際に支援を受けた多くの中小企業が金融機関と認定支援機関である顧問税理士の皆さんを非常に高く評価していることは本当によかったと思っています。

 坂本 金融機関だけではなく、信用保証協会との接点も多く持てるように、全国を走り回って説明してくださいましたね。とても心強かったです。おかげさまで、本プロジェクトをきっかけにして、全国の信用保証協会との相互理解が劇的に進みました。

 藤原 私としても、できるだけ信用保証協会とのご縁もつくってほしかったのです。7000プロジェクトの意義について、信用保証協会が理解してくれれば、地域金融機関も一緒に近づいてくれるようになるので、そういう意味ではわれわれも少しはお役立ちできたのかなと感じています。
 実際に、全国の信用保証協会と、税理士、特にTKC会員の皆さんとの距離が縮まっています。それは、この苦しい事業を乗り越えてきた大きな成果だと思います。

 坂本 TKC全国会は、「職業会計人の職域防衛と運命打開」を掲げて、その職業的使命を極めるとともに、時代の変化に対応してより社会に貢献しようという運動を展開しています。
 もともと税理士は税務に関する専門家であり、公認会計士は会計監査のプロですから、職業会計人に中小企業金融を支援するという社会的なミッションがあるという意識が希薄だったのです。しかし、それでは「職業会計人の職域防衛と運命打開」が図れず、勝ち残ることが困難です。多くの同業者が、認定支援機関として中小企業金融を担う方向で活躍するようになっているのは、将来に対して明るい光となっています。

 藤原 税理士業界だけでなく、金融機関にしても、机上で将来を考えているだけでは生き残れません。変化の激しい時代ですけれども、先のことは分からないなりに、5年後、10年後をイメージして、そこに向けて今やるべきことを一つずつ進めていくことが重要です。
 特に、これからフィンテックなどを含めていろいろ変わっていく中で、時代になかなかついていけない中小企業も出てくるでしょう。そういうゾーンにいる方々に対しても、誰かが支援の手を差し伸べなければいけません。そのときに、中小企業支援の基礎である、会計に基づく対話がもっと重要になるでしょうから、顧問税理士の役割もさらに大きくなるはずです。

対談風景

早期経営改善計画策定は全件実践 1年後の判断は金融機関に任せる

 坂本 金融機関と関与先企業の関係を強化するにあたって、TKCでは、「TKCモニタリング情報サービス」を提供しています。現在、全国で約250の金融機関がこれに対応しています。このサービスは、次の三つで構成されています。
 一つ目は、「決算書等提供サービス」です。法人税の電子申告後に、融資審査・格付けのために金融機関へ決算書や申告書等のデータをインターネットを通じて提供することができます。ここでは、中小会計要領チェックリストや記帳適時性証明書、税理士法第33条の2第1項に規定する添付書面、中期経営計画書、ローカルベンチマーク等の帳表も選択して提供が可能です。
 二つ目は、「月次試算表提供サービス」です。TKC会員事務所による月次巡回監査の終了後に、金融機関にモニタリング用の月次試算表等のデータを提供することができます。これにより、真面目に正しい会計に取り組んできた、税理士や関与先企業が識別できるようになり、金融機関から高い評価を受けるようになると思います。
 三つ目は、「最新業績オンライン開示サービス」(開発中)です。
 また、TKCモニタリング情報サービスを通じて、金融機関に対して早期経営改善計画やローカルベンチマークのデータを提供できる「早期経営改善計画提供サービス」も整っています。
 いずれも、関与先企業からの依頼に基づいて行うものです。TKC全国会では、本サービスの利用企業数を爆発的に増やして、金融機関の皆さんに役立ち、喜ばれる運動を行いたいと考えているのですが、どう思われますか。

 藤原 その方向で間違いないと思います。早期経営改善計画策定支援については、PL計画のみでも可、計画期間は1年~5年で任意、金融支援不要、メインバンクのみに計画を提出、1年後に1回のみのモニタリングなど、入り口のハードルをかなり下げています。ですから、ぜひとも大量に取り組んでほしいのです。そうすれば、新しい発見も生まれるはずです。

 坂本 どのような考え方で進めるべきでしょうか。

 藤原 シンプルな方法がよいと思います。黒字化支援はすべての中小企業にとって必要ですから、早期経営改善計画策定支援は、全関与先を対象に取り組んでいただく。その中で、個々の企業において次の段階の金融支援が必要となる、経営改善計画策定支援や事業再生支援に該当するかどうかは、1年後のモニタリングの中身を見て、金融機関に判断を任せればよいのではないでしょうか。

 坂本 なるほど、そうですね。

 藤原 とにかく、会計事務所はITを駆使して、取引先企業の情報をどんどん提供していくことが、金融機関から頼られるようになる条件だと思います。

成果が挙がれば将来に花が開き絶対に新しい何かが生まれてくる

 坂本 これからの時代を見据えて、私たちも今までの考え方や体質を変えていかないといけませんね。

 藤原 そう思います。地方創生の実現のためには事業再生、経営改善、後継者問題など、さまざまな課題への解決が求められますが、今のままではいい絵は絶対に描けない。10年後、20年後、あるいはもっと先の税理士業界はどうあるべきか、金融業界もどうあるべきか、われわれは次のステージにつなげていく役割を担っているとの認識をやはり強く持つべきだと思います。
 そう考えたら、今すぐに実を結ばなくても、あるべき方向に少しでも動いておかなければなりません。そういう意識を持っていれば、自ずと今やるべきことは決まってくるのではないでしょうか。自分が生きている間だけよければいいという発想では困るんです。
 今回の早期経営改善計画策定支援は、7000プロジェクトでの苦しみや嫌な思いなど、血と汗と涙の結晶から生まれてきたものだと私は考えています。そういう経験を積んできた皆さんにとっては、すごく使いやすい仕組みになっているはずです。成果が挙がれば、皆さんの将来に花が開き、絶対に新しい何かが生まれてくると思います。それは何かといえば、金融機関との接点がさらに増えるということや、経営者とも商売について深く相談に乗ってあげられる関係ができるということなのかもしれません。
 ですから、とにかく大量に取り組んでください。今度は7000ではなくて、1桁多いレベルでお願いします。一緒に中小企業の黒字化をご支援して、日本を元気にしていきましょう!

 坂本 まったく同感です!今年の7月13日に、香川県高松市で第44回TKC全国役員大会を開催するのですが、そこでの全国会運動方針で、早期経営改善計画策定支援を全国で一斉に推進することを発表します。地域会ごとの目標も定めて、年内1万社、来年末までには数万社という実績を挙げる大運動にしたいと考えています。
 このような運動をきっかけにして、中小企業金融の担い手という新しい役割にも積極的にチャレンジしていきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いします。

藤原敬三(ふじわら・けいぞう)氏

1976年神戸大学経済学部卒業、第一勧業銀行入行、支店長、審査部企業再生専任審査役を歴任。2003年東京都中小企業再生支援協議会支援業務責任者、2007年中小企業再生支援全国本部統括プロジェクトマネージャー、2017年同顧問就任。経済産業省産業政策局企業活力再生研究会委員、経営者保証に関するガイドライン研究会委員等を歴任。

(構成/TKC出版 古市 学)

(会報『TKC』平成29年8月号より転載)