寄稿

「租税正義の守護者」となるために ──税理士法による書面添付は税務監査証明業務である

 TKC全国会は今年から向こう3年間(令和4年1月~令和6年12月末)の運動方針として「未来に挑戦するTKC会計人──巡回監査を断行し、企業の黒字決算と適正申告を支援しよう!」を掲げ、次の三本柱に沿った運動を展開している。

◎優良な電子帳簿を圧倒的に拡大する ──「TKC方式の自計化」の推進
◎租税正義の守護者となる ──「TKC方式の書面添付」の推進
◎黒字化を支援し、優良企業を育成する ──「巡回監査」と「経営助言」の推進

 留意していただきたいのは、これらの運動方針には推進すべき順番や上下関係はない、ということである。各々のTKC会計人が、自身の事務所や関与先、そして地域の実情等を踏まえた上で、この三本柱に沿って日々邁進してくれるものと期待している。

 さて今回の「巻頭言」では、この3つの具体策のうち、我々税理士の根幹にかかわる「租税正義の守護者となる──『TKC方式の書面添付』の推進」に焦点を当て、新たな局面に入った書面添付制度について論じてみたい。

書面添付とは、税理士による税務監査証明業務である。

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 書面添付制度とは、税理士法第33条の2(計算事項、審査事項等を記載した書面の添付)および第35条(意見の聴取)の総称であり、税務申告書に関する証明業務である。

 そもそも証明業務とは、自由主義経済社会の発展に欠かせない「信用の創出」と「経営の透明性」を担保するために、専門家によって行われる業務である。証明業務において、当該専門家は、ある適合する基準を適用して、主題の測定または評価を行う(注1)

 税務申告書に関する証明業務を行う際、専門家が適用する「適合する基準」は税法となる。したがって、書面添付制度とは、当該申告書が税法に対して適切なものであるか否か、を税務の専門家である税理士が測定/評価する制度である。

 税理士法では、次のように規定されている。

(計算事項、審査事項等を記載した書面の添付)

第33条の2 税理士又は税理士法人は、国税通則法第16条第1項第1号に掲げる申告納税方式又は地方税法第1条第1項第8号若しくは第11号に掲げる申告納付若しくは申告納入の方法による租税の課税標準等を記載した申告書を作成したときは、当該申告書の作成に関し、計算し、整理し、又は相談に応じた事項を財務省令で定めるところにより記載した書面を当該申告書に添付することができる。

2 税理士又は税理士法人は、前項に規定する租税の課税標準等を記載した申告書で他人の作成したものにつき相談を受けてこれを審査した場合において、当該申告書が当該租税に関する法令の規定に従つて作成されていると認めたときは、その審査した事項及び当該申告書が当該法令の規定に従つて作成されている旨を財務省令で定めるところにより記載した書面を当該申告書に添付することができる。

 第1項は、当該申告書を作成した税理士が、「申告書の作成に関し、計算し、整理し、又は相談に応じた事項」を記載した書面を当該申告書に添付するもので、税務書類の作成に関する証明業務である。そして、第2項は、「他人の作成した」申告書が「租税に関する法令の規定に従つて作成されている」か否かを「審査」する証明業務である。

 なお、税理士法第46条において、税理士が、税理士法第33条の2に規定する書面に虚偽の記載をした場合には、戒告、2年以内の税理士業務の停止、税理士業務の禁止──といった懲戒処分が下されることが規定されている。つまり税理士は、自らの資格を賭して書面添付を実践している。この厳しい規定があればこそ、書面添付が証明業務であるとする所以である。

 ただし一般的には、証明業務、とりわけ「監査」と称される業務は「公認会計士の独占業務である」との認識が根強くある。TKC全国会は、その創設時から「巡回監査」をTKC会計人の基本業務としてきたが、「監査とは『正規の監査』のみを指す語である」として、度々非難を受けてきた。

 これに対して飯塚毅TKC全国会初代会長は昭和57年に、「監査は公認会計士の独占用語なのだ、との論をなす者がいる。その論者は、従って、税理士は監査などという用語は、本来、使ってはいけないのだ、と大真面目で申し立てる。恐れ入った話である」と述べて、真っ向から反駁した(注2)

 監査とは事業体の会計行為及び会計記録について、第三者の立場にある者が、その網羅性や真実性や適正性について検査することだ、といってよかろう。それは、決算報告とか、信用授与とか、納税のためとか、その目的ないしは動機によって、いろいろ区別されよう。しかし①会計記録に関して②第三者が③真正の事実を確かめる行為だ、との三点については、誰も否定できますまい。公認会計士の監査と税理士の監査とでは、目的が違うので、付随する行動の様式に若干の相違はあるが、監査そのものの本質からみれば、両者は完全に同一であって、別個のものではないと断定できる。

 飯塚毅博士は、「監査そのものの本質」を提示して、職業会計人が行う監査業務は「完全に同一」と主張したのである。

 租税法の権威であり、元裁判官でもある松沢智TKC全国会第2代会長は、次のように喝破されている。

 税理士が職業会計人であることに異論はない。そこに税理士法第一条の租税法に関する法律家の地位が加わると、新しく税務監査人としての性格が明確となってこよう。(中略)租税法の規定に基づいて適法に処理され、かつ、それらは、いずれも真実であることが証明されなければならない。これを第三者の立場から、適法性・準拠性・真実性が証明されてこそ、税務監査の目的が達成されるのである。この業務が税務監査人の役割なのである。
 税務監査人である以上は、申告が適法性・真実性に合致していることを報告しなければならない。これが税理士法第三三条の二の書面添付であり、これは、まさに税務申告書に添付された監査証明書なのである(注3)

 また、会計学の権威で、神戸大学名誉教授・第3代TKC全国会会長の武田隆二博士は、監査論も踏まえた上で次のように示されている。

 書面添付とは、税理士が作成した申告書について、①税理士がどの程度「内容に立ち入った検討」をしたのか、したがって、②税理士がどの程度の「責任をもって作成」したのか等を明らかにするために作成した書類である。それゆえ、一種の「証明行為」であるから、ある意味では「監査と同類の性格」のものであるともいえる(注4)

 法律学、そして会計学の両泰斗が、税理士法による書面添付を「税務監査証明業務」(保証業務・広義の監査業務)と位置付けていることは注目に値しよう。

「独立した公正な立場」で広義の監査に従事してきた税理士

 時を経ても職業会計人による監査業務に関して緊張状態が続く中、武田隆二博士は、次のように指摘されていた。

 わが国の監査法人の証券取引法監査は、米国における監査法人が行っているさまざまな業務のうちの1つだけが監査制度として定着した経緯がある。そのことが、監査にも積極的保証から消極的保証を経て、無保証の意見陳述に至るまで保証の内容がグラデーションをなして「保証の連続体」を構成しているという認識に直結しなかった。かかるさまざまな監査関連業務が「監査」という概念に含まれず、最も精度の高い財務諸表監査だけが監査であるという認識が、制度面においても、監査研究面においても浸透し、今日に至っている(注5)

 すなわち武田博士は、「監査」の概念を狭く捉えすぎている──として警鐘を鳴らされたのである。

 事実、税理士は、昭和55年の税理士法改正により「独立した公正な立場」(同法第1条)と規定され、従来にも増して、いわば準公的な立場に基づいて、広義の監査業務に従事してきた。

 例えば、1997年(平成9年)の地方自治法の一部改正によって、税理士は都道府県、政令指定都市等の「包括外部監査人」適格者とされ(地方自治法第252条の28第2項)、また2002年(平成14年)の商法改正によって現物出資等における財産の価額の証明者とされた。また、2007年(平成19年)の政治資金規正法の改正によって、税理士は「登録政治資金監査人」となることができるとされた(政治資金規正法第19条の18)。さらに、2017年(平成29年)には、税理士等による「財務会計に関する事務処理体制の向上に対する支援」を受けた社会福祉法人は、所轄官庁の判断により、実地監査を4年に1回として差し支えないとされた(注6)

 このように、「独立した公正な立場」に基づいた監査業務については、すでに税理士の業務として定着してきている実績がある。

国税庁公表文書に「監査の頻度」という文言が記載される

 税理士が監査業務を行うことへの「追い風」は、ここにきてさらに強く吹いている。令和4年度税制改正を受け、令和6年4月1日以降提出分から、税理士法第33条の2第1項にいう添付書面の名称が「申告書の作成に関する計算事項等記載書面」となることが示された。それに伴い国税庁が公表した「申告書の作成に関する計算事項等記載書面の記載要領」に、次のような記述がなされたのである(傍線は筆者)。

7 「6 その他」欄には、「1 提示を受けた帳簿書類に関する事項」欄から「5 総合所見」欄までの各欄に記載した事項以外の事項で、記載すべき事項(例えば、申告書の作成に関し、計算し、整理した事項以外の事項で個別的・特徴的である事項や、税理士が行う納税者の帳簿書類の監査の頻度、納税者の税に関する認識、申告書作成に当たって留意した事項など)があれば記載してください。

 国税庁公表資料において、「税理士が行う納税者の帳簿書類の監査の頻度」として、「監査」の文言が採用されたことは大きな意義がある。税理士の保証業務(広義の監査業務)が社会に浸透してきたことの証左といえるのではないだろうか。

 私見だが、この背景には、TKC会計人による巡回監査が意識されているのではないかと推察している。TKC全国会は、添付書面の記載内容充実のため、「添付書面文例データべース」等を整備しており、「巡回監査を実施している」旨を記載することを推奨している。また、⑭TKCが第三者として発行する「記帳適時性証明書」においては、「監査の頻度」を一目瞭然で判別できる。このような地道な積み重ねが、税務当局へ伝わったのではないかとも考えられる。すなわち、TKC全国会が昭和56年以来、40年以上の長きにわたり継続してきた「TKC方式の書面添付」の推進運動への評価が、この背景にあるのではなかろうか。

 今般の国税庁の添付書面記載要領に「監査」の語が採用されたことで、「税理士法による書面添付は税務監査証明業務である」ことを内外に宣明できる好機が到来したといえよう。

税理士は税務書類の真実性の守護者である

 かつて、アメリカの証券取引委員会(SEC)委員長を務めていたアーサー・レヴィットは、「会計士は財務の真実性の守護者である(Accountants are the guardians of financial truth)(注7)」と主張した。レヴィットのこの言葉の通り、公認会計士は財務の真実性、すなわち財務書類の真実性を保証する専門家である。これに対して税理士は、税務書類の真実性を保証する専門家である。レヴィットの言葉を借りれば、まさしく「税理士は税務書類の真実性の守護者である」といえよう。

 ここで重要なことは2つある。

 1つは、公認会計士監査証明の対象となる「財務書類」には会計帳簿や税務書類が含まれないことである。会計士は財務書類だけをその監査証明の対象としている。一方で税理士は、税務書類の基となる会計帳簿(仕訳)を含む帳簿書類までを「監査」の主要な対象としている(前出の国税庁公表文書参照)。これは、アウトプットである計算書類の信頼性はインプットである記帳の品質(適時性・正確性等)に大きく依存しているからである(注8)

 2つ目は、日本の法人税法が確定決算主義を採用していることである。わが国の確定決算主義はドイツの「基準性の原則(Maßgeblichkeitsprinzip)」から学んだもので、①実質的な確定決算主義(法人税法第22条第4項)、②形式的な確定決算主義(法人税法第74条)、③損金経理要件──から構成される(注9)。商法・会社法に準拠して作成された決算書を前提として税務申告書が作成されるために、商法・会社法決算と税務申告書がほとんど一体となっているのが特徴である。したがって、租税法律主義を貫徹し、税務申告書の適正性を書面添付で証明していれば、その基となった決算書もほぼ適正である──とのロジックが働く。そのため、税理士による書面添付が実践されている決算書には、一定の信頼性が付与されるのである。

 この点を踏まえて飯塚真玄TKC名誉会長は、「書面添付制度は、間接的ですが、中小企業の決算書の信頼性を確認するのに利用できる唯一の法的根拠を持った制度(注10)」と指摘されている。

「正規の監査」の対象法人数は約3万社、一方で令和2事務年度における法人税書面添付実践件数は、26万2,000件(注11)とされる。書面添付制度は「正規の監査」を受けていない中小企業の決算書の信頼性を保証する制度としても、有効に機能するといえよう。

世界でも稀有な税務申告書を直接的に保証する書面添付制度

 税務書類そのものの質を直接的に証明する法的制度は、世界広しといえども、日本にしか存在しない。会計大国・アメリカにおいては会計士が税務業務を行うが、税務業務に関して会計士は常に納税者の「擁護者(advocates)」としての立場を選択し続けているため、税務書類に関する証明業務を担うことはできない(注12)

 日本と同じく税理士制度を有するドイツにおいても、存在するのは「ベシャイニグング(Bescheinigung)」という実務慣行である。ベシャイニグングは、顧客企業の年度決算書の調製を行う税理士等が、職業法規の遵守の下、関与先が作成した帳簿、資産証明書、財産目録等の「正規性」を証明することによって、間接的に年度決算書自体の正規性を保証する仕組みである。税理士等は「年度決算書の作成に関する証明書(べシャイニグング)」を発行し、その中で、年度決算書の信頼性を保証するとともに、税理士の作成責任を限定している(注13)。ただし、留意したいのは、ベシャイニグングの対象は、年度決算書そのものではなく、あくまで年度決算書の作成プロセスに限られていることである。この点で、税務書類を直接的に保証するわが国の書面添付制度とは相違がある。

 令和4年春の叙勲で旭日大綬章を受章された、BDI(日本の経団連にあたる)会長でDATEV前理事長のディーター・ケンプ教授(Prof. Dieter Kempf)は、平成27年に来日され、精緻なドイツコンピューター会計法(GoBD)について講演をしてくださった。ケンプ教授は講演後、「(ドイツの)各税理士会、連邦税理士会自身が、税理士の関与した会計処理そして作成した文書について、『いかに質が高いのか』ということをきちんと担保するようなしくみを作り上げてきた方がよかったのではないかと思っています(注14)」との見解を示された。これは、日本の税理士制度にも精通されているケンプ教授ならではの見解であろう。「ドイツに学べ」と前のめりになっている聴衆を前に、ケンプ教授は、「税務書類そのものの品質を保証する書面添付制度という素晴らしい制度を、すでにあなた方はお持ちですよ」という、温かいエールを日本の税理士へ送ってくださったものと受け止めることができよう。

 わが国の職業会計人は、今こそ税務監査証明業務としての書面添付を、誇りを持ってより一層推進すべきなのである。

(注)
  • 1 坂本孝司『税理士の未来──新たなプロフェッショナルの条件』中央経済社、2019年、118頁を参照。
  • 2 飯塚毅「『監査』は公認会計士の独占用語なりや」『TKC』第112号、1982年4月、4‐5頁。
  • 3 松沢智「現代税法学研究 税理士法第一条の現代的意義──二十一世紀の新しい税理士像建設に向けての問題点の解明」『TKC』第324号、2000年1月、5‐6頁。
  • 4 武田隆二『最新財務諸表論 第11版』中央経済社、2008年、186頁。
  • 5 武田隆二編著『中小会社の会計──中小企業庁「中小企業の会計に関する研究会報告書」の解説』中央経済社、2003年、35‐36頁。
  • 6 坂本孝司、前掲書、120頁を参照。
  • 7 坂本孝司『職業会計人の独立性──アメリカにおける独立性概念の生成と展開』TKC出版、2022年、432頁を参照。
  • 8 坂本孝司「飯塚毅著『正規の簿記の諸原則』(森山書店刊)その歴史的意義について」『TKC全国会のすべて』(2022年9月版)、21頁を参照。
  • 9 坂本孝司、前掲注7、368頁を参照。
  • 10 飯塚真玄「金融庁による『事業性評価』の導入は、税理士に最大のビジネスチャンスを提供する。夢・決断・挑戦!つかみとれ未来を!」『TKC』第540号、2018年1月、16‐17頁。
  • 11 財務省「令和2事務年度 国税庁実績評価書」を参照。
  • 12 坂本孝司、前掲注7、345‐346頁を参照。
  • 13 坂本孝司、前掲注1、133頁を参照。なお、ベシャイニグングについては、坂本孝司『ドイツ税理士による決算書の作成証明業務──ドイツ連邦税理士会『声明』の解説(第2版)』(TKC出版、2016年)に詳しい。
  • 14 TKC会報2015年7月特別号『ドイツの最新「コンピュータ会計法」』2015年7月、27頁。

(会報『TKC』令和4年11月号より転載)