千葉県鎌ケ谷市に本社を構える星野商会。全国各地にリピーターを抱えるトラックのリサイクルパーツ販売会社で、その品揃えの豊富さと品質の高さには定評がある。星野一成社長(43)と顧問税理士の桐谷美千子氏に『戦略財務情報システム(FX2)』を活用した財務戦略などについて聞いた。

いち早くネット販売導入し高品質な部品を提供

星野商会:星野社長(左)

星野商会:星野社長(左)

――事業内容について教えてください。

星野 中古トラックを買い取ってそれをリサイクル法上適正に処理した後、再利用可能な良質な部品・車両・コンテナなどを日本全国のお客様にお届けしています。販売先は日々の業務にトラックを使用している運送会社などが多く、2トントラックを専門的に取り扱うことで独自性を打ち出しています。当初はいすゞエルフや三菱キャンターが主力でしたが、今では日産やマツダなどもいすゞ製エンジンを搭載していることから、必然的に取り扱うメーカーの種類も増えました。買い取りでは各地で開催されているオークションや入札会に積極的に参加することで、少しでも程度の良い車両の確保に努めています。

――業界内でもいち早くインターネット販売に取り組んだとか。

星野 はい。国内最大級の部品流通ネットワーク「パーツステーションNET」(ブロードリーフ社運営)に加盟して10年になりますね。現在では1000社を超えるお客様に部品を購入していただけるようになりました。
 今振り返れば、ネットの活用によってかつての危機を乗り越えることができたように感じます。というのは、以前はタイやフィリピン、マレーシア、香港向けにかなりの商品を輸出していたのですが、ちょうどネット販売に踏み切った時期に輸出環境が悪化したからです。ディーゼル車の排ガス規制で大量にトラックの買い替え需要が発生し、供給増により中古トラックの価格が下落したのが原因です。しかもその後、特需の反動で仕入の対象となるトラックの数が大幅に減少し、仕事も激減しました。しかしすでにネット販売を取り入れていたおかげで、需要の変化に素早く対応できる国内での部品販売へのシフトがスムーズに運んだというわけです。

――他社との差別化はどのように図っているのでしょう。

星野 価格競争に巻き込まれないように「品質第一」の姿勢を守っています。オークションでの目利き力はもちろんですが、高品質を保ったまま販売できるよう部品の保管にもできる限り気を配っています。たとえば、エンジンなどは販売直前まで車体に取り付けたままにしておくこともあります。排ガス規制などでトラックの部品は精密部品化しつつあり、エンジンのノズルがつまりやすくなっているからです。また、販売後のトラブルの際には代替品をすぐに用意するなどきめ細やかなアフターケアも心掛けています。

前年同期との比較でオークションを分析

――TKCシステムを活用した業績管理の方法について教えてください。

星野 まず『戦略販売・購買情報システム(SX2)』の日々入力からですね。販売・技術を担当している弟(星野健治取締役)が業務終了時にデータを打ち込んでいますが、販売した部品や、売れ残りの在庫をリアルタイムで把握することができるので非常に重宝しています。私が仕入れた車の部品がいったいいくらで売れているのか、ということを常に参照しながらオークションに臨むことができています。
 当然これらの販売データは『FX2』に反映しますから、給料や社会保険料など支出の予定が判明している費用などを差し引き、自由に使える手元資金の正確な額がつかめます。オークションは月曜以外ほとんど毎日、全国各地にある会場で開催されており、少しでも程度のよいトラックを手に入れるため私も東奔西走していますが、多少高くても積極的に攻めの姿勢で仕入れる場面と、無理をせず手を出さないときの確固たる判断材料はやはり必要ですからね。

――もっともよく目にする画面は何ですか?

星野 一番気になるのは《勘定科目残高一覧表》ですね。現預金や売掛金の日々のチェックは欠かせません。それと、《全社業績の問合せ》では売上高、限界利益の前年同期との比較をよく見ています。この比較の習慣がつくと、車両オークション価格についてある決まったパターンが表れてくることがわかります。トラックのような商品の仕入れ業務に携わっていると、程度の割に安く購入できた時に「幸運だった」と片付けてしまいがちですが、実はそうではないんですね。月によって出品されるトラックの価格に幅があるということに気づいたのです。

――リサイクル用のトラックにも季節変動があるということですね。

星野 そうです。昨年などの例をとっても1~3月は仕入れ量が増加しています。出品者の資金繰りが悪化するからかどうかはわかりませんが、少なくともその理由の1つに、外国人バイヤーの存在があると考えています。フィリピンなどキリスト教国からはクリスマス休暇で年末から参加者が少なくなり、中国系のバイヤーは1月後半から2月にかけて旧正月で仕事を休むんですね。オークションでの外国人バイヤーの存在感は圧倒的ですから、この時期はどうしても「買い」の力が弱くなってしまうのでしょう。このような月はわれわれ日本勢のバイヤーにとってはチャンスになるわけで、仕入件数の増加を戦略的にねらうことができるのです。売り買いのこうしたバランスを素早く感じ取るためにも『FX2』を使った日々の数値管理がとても役に立っています。

桐谷 星野社長はとにかく仕入のスペシャリストですが、私が一番注意してアドバイスしているのは在庫管理の徹底ですね。棚卸も少なくとも半期に1回、できれば年3回以上実施するようにして少しでも早い原価の把握に努めるようにしています。さすがに人的制約などもあり1ヵ月ごとというのは実現していませんが…。

――業績検討会はどのように行っていますか。

桐谷 毎月1~5日のいずれかに実施している巡回監査日と、棚卸の実施日にあわせて業績検討会を行っています。ちば国際税理士法人の関与先の中でも、もっとも早く検討会を開催するのが星野商会様ですね。検討会では《勘定科目残高一覧表》と『継続MAS』の《予算実績比較表》を見ながら議論をしますが、資金の動きを日々チェックされている社長の頭にはすでに内容はしっかりとインプットされている状態です。予算と実績がかい離している原因把握とそれに対する打ち手の検討が会議の主な議題ですが、その大半は仕入によるものですね。

星野 在庫を持たないことには当社は商売になりません。ですから部品の売り上げを増やすためには何がなんでも「売れる」在庫を確保する必要があり、安定的にトラックを仕入れることが会社の生命線になります。月間売上高のうち半分前後が売掛金でその金額が翌月以降の資金になってくるわけですが、その安定的な仕入を実現するために必要な950万円前後を月間売上高の目標にしています。

顧客ニーズへの対応強化で粗利向上を追求

――粗利が少しずつ良くなっていると聞きました。

星野 外注費もほとんどかかりませんし、商品の販売にともなう配送費や梱包費なども全体の比率からみれば微々たるものなので、やはり仕入の費用をどうコントロールし、商品の付加価値を高めるかということに尽きると思います。その付加価値向上のための1つの取り組みとして、最近は部品をより細かく分解して販売することに注力するようになりました。
 たとえば、関東地方では需要がまったくないのですが、東北地方などではワイパー用のモーターが売れることがあります。雪国では雪の重みでワイパーに負担がかかりモーターが故障することがあるんですね。一度そういう問い合せがあったことで商品ラインナップに加えることにしたのですが、より顧客ニーズにこまめに対応した販売戦略を心掛けています。部品を細かくすればするほど付加価値は高くなるので、粗利の向上を実現できますからね。

――今後の抱負は?

星野 社有地を購入し現在の場所に本社を移転したときに、「千葉県に星野商会あり、という会社を目指す」という経営目標を掲げましたが、九州から北海道まで全国から注文を頂きそれなりに知名度は上がってきたと自負しています。今後は、強みを持っているいすゞエルフについてすべての部品が当社でそろうよう、顧客ニーズの把握と技術力のさらなる向上を図りたいですね。部品点数も多くなってきたのでスペースが手狭になっており、土地の購入も計画しています。社員の採用も検討しており、日本国内はもとよりアジア各国からも「トラックパーツのことは、星野商会に聞け」と言われるような会社への成長を実現させたいと思っています。
 また、リユースという面で環境問題への取り組みも推進したいですね。1台のトラックからさらに多くの高品質な部品を生み出し、より多くのお客様にご利用いただくことで、環境に配慮した「リサイクルパーツ」の普及に貢献できると考えています。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 有限会社星野商会
業種 トラックのリサイクルパーツ販売
代表者 星野一成
設立 1997(平成9)年12月
所在地 千葉県鎌ケ谷市中沢294-3
TEL 047-441-7161
売上高 約1億円
社員数 3名
URL http://hoshino-truck.com/

CONSULTANT´S EYE
社長の強い意志が幾多の困難救う
監査担当 桐谷美千子
ちば国際税理士法人
千葉市若葉区都賀3-33-10 電話043-235-5931
URL:http://www.ym-consulting.com/pc/

 星野商会様とは、設立以来14年にわたりお付き合いさせていただいております。当初TKCシステムの利用について星野社長に説明したときは、「うちの業界でパソコンを使ってる企業は聞いたことがない」と言われ驚きましたが、まだまだIT化が進んでいなかったこの業界で真っ先に『FX2』導入による自計化に着手されたのは、先見の明があるというほかありません。

 もちろんその間、外部環境の変化などによる幾多の困難が押し寄せましたが、「絶対に赤字を出さない」という星野社長の強い意志がそのたびに会社の危機を救ってきました。以前本社があった仕事場を突然立ち退かなければならなくなり、なかなか新しい土地が見つからず社長ともども夜も眠れないほど悩んだことがあります。その際も、社長自らが「自分の土地がほしい」と決意され、そのための準備を『継続MAS』を利用して着々と積み重ねていたことが解決策につながり、現在の土地を確保することができました。

 そんな星野商会様ですが、『FX2』の活用による戦略的な経営の実践により、設立当初は苦しかった台所事情も今では計画した収益をほぼ確実に達成できるようになりました。日々の販売状況から翌月の仕入資金の水準を常に把握することが、オークション会場で車両を購入する時の適確な決断に反映しているからです。仕入価格の上限値を厳格に守っているため、遠隔地まで出張して1台も買わずに帰ってくるということも多々あります。忸怩たる思いでしょうが、それが利益率を悪化させない経営の実現につながっているのです。

 実は昨年、設立14年にしてはじめて税務調査が入ったのですが、その結果、滅多に見ることのできない「申告是認通知」をいただくことができ、宝物のように保存しています。今後も星野商会様のさらなる発展のお手伝いができるよう精一杯頑張りたいと思っています。

掲載:『戦略経営者』2011年3月号