和歌山市内に3店舗、中国・大連に2店舗の居酒屋を展開する中心屋。価格の叩き合いを避け、付加価値で勝負する店舗として、着実な成長を続けている。同社を束ねる斎藤忠孝社長(45)に、店舗マネジメントの勘どころと計数管理の必要性について聞いた。

高いクオリティをベースに女性客を取り込む

中心屋:斎藤社長(左)

中心屋:斎藤社長(左)

――和歌山市内に3店舗を展開されているとか。

斎藤 2002年に“串焼き居酒屋”「中心屋母家」をオープンしたのがスタートです。その後、同じく串焼き、焼き鳥がメーンの「中心屋あしゃぎ」、そして寿司としゃぶしゃぶの「五感や」を加え、現在3店舗を展開しています。それから現地組織になりますが、中国・大連に「中心屋」と「夢家」という店舗を運営しています。

――独立する前は何を?

斎藤 飲食店をチェーン展開する会社のサラリーマンでした。入社当初から外食業界での独立を志しており、店長をやりながらノウハウを蓄積し、36歳の時にようやく自分の店を持つことができました。

――なぜ串焼きだったのですか。

斎藤 このあたりの串焼き屋さんは、オヤジが集う赤提灯というイメージの店ばかりでした。もちろん、それはそれでニーズがあるのですが、もう少しお洒落でメニューの種類も広げ、老若男女、とくに女性の来店が見込める店舗をつくれば繁盛するのではと考えたわけです。ちなみに、現在、当店のお客様の4割は女性です。

――とくに、何が顧客をひきつけたのでしょう。

斎藤 我々はとにかく“クオリティ”を大事にします。価格競争よりも品質です。その姿勢が支持されたのではないでしょうか。たとえば、料理についてはすべての店舗に店長と同格の「料理長」を置き、さらにその上の「統括料理長」が指導しつつ、“手作りのプロの味”を担保しています。それからメニューの多彩さも支持されています。たとえば、中心屋は串焼きがメーンですが、お造り、天ぷら、もつ鍋なども提供しており人気も高い。最近では世のヘルシー志向に合わせ、化学調味料を一切使わない“和歌山ちゃんぽん”という新メニューを開発して提供を始めました。これも好評です。
 それから、接客サービスのクオリティにも細心の注意を払っています。むしろこちらの方でお客様のお褒めをいただくことが多いかもしれません。ちなみに、客単価は昼が1500円、夜が4000円と通常の居酒屋チェーンとくらべるとやや高め。味にしろ接客にしろ付加価値で勝負しないと、価格競争では大手に勝てませんからね。

――接客サービスを向上させるための人材教育はどのように?

斎藤 「空腹を満たす店よりも心を満たす店でありたい」という当社の理念を、毎朝、朝礼で"唱和"するなどして徹底させており、これがすべてのベースです。つまり、真心を込めてお客に接するという意識を全スタッフが共有し、会社もそれを評価するということです。
 それから当社では、「全社」「店舗ごと」「社員のみ」など6種類のメーリングリストをつくり、ウェブ上で様々な議論を交わしています。お客様への対応の仕方や失敗談、成功談などが飛び交うわけですが、時には私も参戦して意見を述べます。これが全社的な意思統一の有効なツールになっています。

――店長会議はどのようなメンバーで行われ、何が話し合われますか。

斎藤 私と統括店長、統括料理長、店長3名、料理長3名の計9名です。店舗運営に関するあらゆることについて話し合います。各店の数字的実績はもちろん、店舗や人材の問題点など細かな実務上の事柄から、理念や意思統一に関する大きなテーマまで、様々ですね。

――店長の決め方に特徴があるそうですが。

斎藤 社員と主だった店舗スタッフの投票で決めます。私も1票の権限しかありません。新店オープンや昇格人事などで店長職が空いた時、希望するスタッフは自ら手を挙げ、全社員の前でプレゼンをします。店長になったあかつきにはこうしたい、ああしたい…とね。

――なぜ投票制なんですか。

斎藤 上司の顔を伺うことよりも、大切なのは部下であり、お客様でしょう。だから、上司におべっかを使って評価されるよりも、部下や顧客に評価される方が価値が高い。そう考えるからです。

毎月の店長会議で数字から弱点を洗い出す

――2003年に瀬藤(啓司顧問税理士)先生が関与されてすぐに『FX2』を導入されたそうですが。

瀬藤 斎藤社長はもともと計数管理意識の高い方なので、自計化システムの導入にはまったく違和感はありませんでした。

斎藤 法人化と同時に瀬藤先生にお世話になったのですが、以来、数字の見方が変わりましたね。たとえば、当初は損益計算書(PL)ばかりが気になっていたのですが、先生のお話をお聞きするうちに、貸借対照表(BS)によって会社の現状をつかむ重要性が分かってきた。これは、経営者としての心構えという意味でとても大きかったと思います。

――部門別管理は?

瀬藤 設立して数年後に2店舗増えて3店舗となり、部門別(店舗別)損益管理を導入しましたが、とてもスムーズな運営ができています。

――各店舗の数字はどのように集計されているのですか。

斎藤 業務終了後、各店舗の店長が「日報」を本部にFAXし、その数字を『FX2』に打ち込む形で管理しています。日報にはその日の売上高と人件費などの経費がともに記載されているので、日次で全社の損益管理ができている状態です。

――とくに注目される勘定科目は何ですか。

斎藤 飲食業は、原価(材料費)と人件費を合計した「FLコスト」という指標が計数管理の基本になりますので、やはりまずここに目が行きますね。さらに、そのFLコストに水道光熱費や備品消耗費、家賃などの固定費を加えた金額が売上に占める割合を80%以内におさめるようにしています。

――店長にもそのような計数管理を求められているのでしょうか。

斎藤 もちろんです。毎月半ばに行われる店長会議では、『FX2』から出力された《部門別変動損益計算書》はもとより、そこから数字を拾い出してFLコスト率などを明確にした資料を配布します。そして、数字から明らかになる足りなかった部分や弱点を洗い出し、打ち手を考え、実行への道筋をつけます。つまり、PDCAを回すための起点が店長会議なのです。なかでもとくに利益の管理は店長の最も重要な仕事の一つだと考えています。ちなみに、店長の計数知識を高めるために瀬藤先生に店長会議に参加してもらったことも何度かありました。

――売上高の扱い方は?

斎藤 もちろん売上高の多寡は経営者として意識はしますが、店長へのノルマ設定はしないし評価の対象でもありません。たとえば、無理をして値下げをして集客し、外見上の売上をつくったとしてもお金が残らなければ意味がないですからね。
 一方であまりに利益重視に偏り過ぎてもダメです。たとえば、材料の無理なコストダウンは料理の質を落としてしまう。クオリティの高さが売りの我々にとっては命取りにもなりかねません。そのあたりのバランスを注視しながら、必要とあらば軌道修正を促すのが経営者の役割なんだと思います。

目指すべきは“売れる料理”づくり

――今後、店舗網の拡大は目指されていますか。

斎藤 外食市場はバブルの時代の1兆4000億円から現在1兆円。今後7000億円まで萎むといわれています。加えて、先の大震災の影響もありますから、国内での店舗拡大はいまのところ慎重にならざるを得ません。予想される客数や客単価の減少をカバーするためにはランチ営業をより重視するなど細かな対策が必要でしょう。
 ただ、前述したように、現在、別会社で中国・大連に2店舗展開しており、こちらは積極的な拡大を模索中です。今後は、私のエネルギーの傾け方も和歌山と大連で等分くらいになるかもしれません。
 いずれにしても、我々が目指すべきことは、「売れる料理」をつくることです。売れる料理とおいしい料理は違います。店の清潔さや接客などを含めた総合力を背景にお客様に心のこもった料理を提供する。この姿勢を続けていけば、逆風をはね返していけると信じています。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 株式会社中心屋
業種 居酒屋チェーン展開
代表者 斎藤忠孝
設立 2003(平成15)年10月
所在地 和歌山県和歌山市12番丁60
TEL 073-428-3330
売上高 約3億円
社員数 10名

CONSULTANT´S EYE
PDCAをしっかり回し顧客満足を勝ち取る
税理士 瀬藤啓司
瀬藤会計事務所
和歌山県和歌山市関戸5-5-23 電話073-444-3677
URL:http://setokaikei-office.tkcnf.com/pc/

 中心屋さんとは、2003(平成15)年からのお付き合いになります。斎藤社長が独立されてから1年後、法人成りされた際に、税務署主催の「無料記帳指導」の場で知り合いました。当初から『FX2』を導入いただき、その後、多店舗化するにつれて店舗別損益管理にも取り組んでいます。

 斎藤社長は、外食産業の優秀な経営者の例にもれず、顧客本位の経営を貫かれるとともに計数管理意識も高く、我々が教えられることも多々あります。たとえば、関与当初から、貸借対照表(BS)の重要性をすぐに理解され、自己資本比率や総資産回転率など、難しい概念もまたたくまに正しく認識されるようになったことを見ても、その適応力の高さがうかがえます。

 また、『FX2』によって蓄積されたデータをもとに行動し、再度検証してアクションにつなげるという「PDCAサイクル」を常に回しておられますが、それが「自己満足」ではなく「顧客満足」にしっかりと結びついているかどうかを、厳しく検証される姿勢は、迫力さえ感じます。

 私も何回か出席させていただいた毎月の「店長会議」では、『FX2』から前月実績の数字を抜き出しつつ、飲食業界では管理が必須の「FLコスト」(材料費+人件費)をリアルタイムでスタッフに意識させ、そこから逆算した人員配置やマーケティングを適時に指導されています。その一方で、クオリティを落とす形でのコスト削減は厳禁とされ、やや高めの料金設定と丁寧な接客を売りに、価格競争の枠外で展開する方針を示されています。

 人材育成も独特です。たとえば、新しい店長は社員とおもだったパートスタッフの「投票」により決定するなど、斬新な手法で従業員の心をつかんでおられます。今後は中国・大連での展開を拡大されるとのことですが、より緻密な経営データを提供しつつ会社の発展に貢献できればと考えています。

掲載:『戦略経営者』2011年5月号