印刷・マーケティングを中心とした「販売促進支援業」として事業展開を進めてきたシー・アール・エム。広告印刷の領域にとどまらず、顧客企業のマーケティング活動のよき相談相手となっている。「スピードのある対応力と付加価値の高いサービスが強み」と語る松村祐輔社長(37)に、TKCの『FX2』を使った財務戦略などを聞いた。

ツールとノウハウの両方を提供する販促支援

シー・アール・エム:松村社長(左)

シー・アール・エム:松村社長(左)

――事業内容についてお聞かせください。

松村 チラシ、会社案内、ダイレクトメール、似顔絵名刺などの販促ツールの印刷が中心です。ほかにも立体型POPや等身大パネルなどの企画・製作も得意としています。飲食をはじめ小売り、流通、サービス業のお客さまが主なターゲットです。

――会社の強み・特徴をあげるとすれば?

松村 単なる販促ツールの印刷にとどまらず、それをうまく活用していくためのサポートができるところです。たしかに当社は印刷業に分類されますが、お客さまの販促を支援するビジネスモデルが大きな柱となっているので、「販売促進支援業」と表現した方がしっくりくるかもしれません。

――具体的な販促支援の内容を教えてください。

松村 お客さまにとってベストな販促ツールの提案をはじめ、GIS(地理情報システム)を使った商圏分析のサービスも提供しています。要は、エリアマーケティングのお手伝いができるわけです。お店があるエリアの特性(人口統計・性別・年代・所得水準)や、競合店や顧客の分布はどうなっているかを調査し、それを提示して販促に役立ててもらいます。例えば、どの地区にチラシを重点的にまけば新規客の来店につながるかといった戦略を一緒に考えることができます。
 ある美容院に対しては、若者向けとシニア向けの2種類のチラシを提案。主な商圏とする名古屋市南区の中にも20代が多く住む地区と、シニア世代が多く住む地区があり、それを国勢調査のデータなどを有効に活用しながら分析し、どうチラシを配布するかを考えていきました。

――そうした販促支援のノウハウは、どうやって手に入れたのですか。

松村 実践あるのみと言うか、トライ&エラーの繰り返しのなかで蓄積していったものがほとんどです。

――いまの経営環境はどうでしょう。

松村 厳しいですね。廃業に追い込まれている同業者も少なくありません。だからこそ、より付加価値の高いサービスを通じてお客さまの評価を高めていく必要があると言えます。そのためには、対応スピードを高めて大手さんではできないことをやっていくとか、獲得した利益をどんどん新しい試みに投資していくといったことが求められます。自社オリジナル商品を販売するウェブサイトを立ち上げるなど、新しい取り組みにつぎつぎとチャレンジしているのは、こうした考えからです。なかでも飲食店のメニューブックをネットから注文できる『メニューカバー製作工房』は予想以上の成果をあげていて、現在では全売上高の10%を占めるほどのサイトに育っています。ほかにも大判出力専門サイトや、バースデーDM専用サイトを昨年開設しました。

――会社を立ち上げたのは2002年だったそうですね。

松村 はい。それまで青果物の包装資材を販売する会社で営業をしていたのですが、そこを退職して父親が経営する松村印刷所に入社しました。事業承継を念頭に置いてのことです。しかし松村印刷所は官公庁を得意先とするオフセット印刷を中心にした会社で、それだけでは将来的に危ういのが見えていたため、別会社を立ち上げて民間需要をターゲットにしたデジタル印刷の事業をはじめることにしました。

――その後、どんな感じで成長を遂げていったのですか。

松村 パチンコホール向けの「スタート札」の需要を取り込めた結果、創業後3年ぐらいで現在と同じぐらいの年商規模にまで一気に駆け上がりました。そのスタート札の仕事が落ち着いた後も、プライバシーマークをいち早く取得していたことが評価されて中日ドラゴンズ様のダイレクトメール発送の仕事などを請け負うようになるなど、新規取引先を増やしていくなかで経営が安定していきました。
 ちなみに松村印刷所とは05年に経営統合しています。その際、量産に適したオフセット印刷機はすべて売却し、外部へのアウトソースに切り替えました。現在、社内にあるのはデジタル印刷機のみとなっています。つまり自社内については、小ロット多品種の印刷をスピード感をもってできる体制に特化したわけです。

『FX2』の導入で一気に「経営の見える化」が進む

――いまの売上高の構成比を教えてもらえませんか。

松村 創業当初は、印刷物がほぼ100%を占めていましたが、現在は全体の半分ぐらい。あとはPOPの製作が30%、ウェブサイト関連が20%といった割合です。

――業績管理には『FX2』を活用されているそうですが、導入の経緯をお聞かせください。

松村 導入したのは平成18年8月。上島先生に顧問をお願いしたのがきっかけです。それまでは父親の代から続く会計事務所のお世話になっていたのですが、経営者として「こういう指標で見たい」という要望になかなか応えてもらえなかった。たとえば「売上高などの前年対比がわかる資料をデータでください」といっても「紙でしか対応できない」という感じです。そんなときに上島先生と出会って『FX2』の存在を知り、すぐに導入を決めました。

――『FX2』を実際に活用してみての印象はどうでしたか。

松村 《変動損益計算書》には前年比の数字が自動的にでてくるし、当期と前期の売上高の差異を棒グラフで表示した資料が見られるなど、“経営の見える化”が一気に進みました。《Zチャート》など、業績管理をしていくのに役立つさまざまなグラフが充実しています。

上島一丈顧問税理士 松村社長は以前から発生主義を貫いていて、月次決算も翌月第5営業日までに終わらせるように徹底されています。その意味からも、昨年夏に移行した『FX2ドットネット(.NET)版』との相性はばっちりでした。請求書で発生金額と取引先を入力しておけば自動的に支払仕訳を生成できる、「支払管理機能」の仕組みが新たに搭載されています。発生主義をとるシー・アール・エムさんにとって、さらに使い勝手がよくなりました。

当期の“着地点”を見極め確実に黒字を達成する

――業績管理をしていくうえで特に重要視している数字は何ですか。

松村 売上高、限界利益、販管費の推移には目を光らせています。社員教育にはけっこう投資しているので、限界利益の伸び率と販管費の伸び率のバランスを見ながら、過剰な投資になっていないかをチェックしています。

――社員教育のための取り組みとしては、どんなことを……。

松村 なかでも販促支援にあたる営業部の社員にはマーケティングに関する知識を身に付けてもらいたいと、週に一度、朝の7時半から早朝勉強会を開いています。たとえば外部の研修に参加したメンバーの一人が、その内容を勉強会で同僚たちにフィードバックするようなかたちで行っています。研修内容をしっかりまとめて後でみんなにレビューしなければならないため、研修中に寝ているわけにはいかなくなります。

――創業以来ずっと黒字経営を続けていると聞いています。黒字達成の“極意”のようなものがあれば教えてください。

松村 極意というと少し大げさですが、最適なマーケティングを通じて売上高を獲得していく一方で、きちんとした業績管理によって利益を間違いなく確保していくという、いわば「攻め」と「守り」の両方が必要になってくるのではないでしょうか。
 私はいつもその期の半分が過ぎたあたり(下期)から、『FX2』の《当期決算(着地点)の先行き管理》の機能を使って最終的にどのあたりの数字に落ち着くかを予測しています。それを通じて、思ったより利益が出そうなら「下期の戦略投資をもう少し積み増してもいいのではないか」とか、逆に「これぐらい削っておかないとまずいのではないか」といった微調整をします。黒字を確実に達成していくには、こうした少し先を見た経営も必要になってきます。

――予実管理はされていますか?

松村 はい。『継続MAS』で策定した単年度予算を、『FX2』に月別登録するやり方で行っています。そうすれば《変動損益計算書》などに予算比の数字が表示されるようになります。

――今後の抱負をお聞かせください。

松村 社名のシー・アール・エムは、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)という経営用語に由来しています。つまり「企業が重要顧客との関係を強化して、商品やサービスを継続して購入してもらう経営手法」のことです。その意味をくみ取り、「お客さまのお客さま」のことを常に考えた、付加価値の高い販促支援サービスを今後も提案し続けていくのが目標ですね。

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 株式会社シー・アール・エム
業種 広告印刷業
代表者 松村祐輔
設立 2002(平成14)年8月
所在地 愛知県名古屋市天白区植田南2-805
TEL 052-805-5611
売上高 3億2000万円
社員数 19名
URL http://www.crm-net.com/

CONSULTANT´S EYE
社内の雰囲気のよさは社長の人柄によるもの
監査担当者 小野義孝
上島一丈税理士事務所
愛知県名古屋市昭和区福江2-13-1 電話052-871-0336
URL:http://www.uejima.co.jp/

 シー・アール・エムさんの担当になり、最初に訪問して感じたのは社内の雰囲気のよさでした。フロアに入ると皆さんが明るくあいさつをしてくださり、またフロアには活気ある声が飛び交っています。不良債権回収管理のセミナーなどに参加すると「危ない会社はフロアの雰囲気で分かる」といいますが、私は「いい会社はフロアの雰囲気で分かる」ということもいえると思います。私自身、松村社長から「小野ちゃん」と呼ばれるなど、非常に親しみやすく人を引き付ける魅力をお持ちで、社内の雰囲気のよさの源は社長自身にあるのではないかと感じています。

 シー・アール・エムさんは計数面から見ただけでも、高い戦略性を感じることができます。印刷業と言えば多額の設備投資をして、大量の印刷物をさばくといった印象ですが、シー・アール・エムさんはBASTをもとに同業他社と比較しても圧倒的に設備投資が少なくなっています。

 これは設備投資によるリスクを極力避け、他所でも出来るようなことはアウトソースし、自社内では他社がまねのできない高付加価値業務だけをするという社長の戦略が見事に表現された結果です。ここまで戦略が計数に表現されている会社はそう多くはありません。

 松村社長は普段からさまざまな本をお読みになられているなど勉強熱心で、巡回監査時にもこちらが思わず回答に詰まってしまうような鋭い質問をされるため、うかうかしていられません。

 経理においては、発生主義でありながら翌月第5営業日ごろにはほぼ完全な状態になっているという優秀さで、こうしたところが会社の戦略、PDCAサイクルを基礎からしっかり支えているのではないかと思います。これからのシー・アール・エムさんのさらなる飛躍がとても楽しみです。

掲載:『戦略経営者』2012年2月号