続々と企業の一員に加わりはじめている平成生まれの若者たち。俗に“ゆとり世代”といわれ、その行動様式や考え方が注目を浴びることが少なくない。どんな特徴を持ち、いかに育てていくべきか。手がかりを探った。

――いつの時代も「最近の若者は……」と言われるのが世の常ですが、池谷さんは平成生まれの若者をどう見ていますか。

池谷 一般的にゆとり世代とは1987年度以降に生まれ、学習内容や時間を削減したゆとり教育を受けてきた世代を指します。ですから平成生まれの社員はゆとり世代ともいえるわけです。
 企業の人事担当者から若手社員の育成に苦労しているという話をよく聞きます。確かに上の世代から見ると、彼らは一見理解しがたい行動をとることが多々あります。
 しかし彼らなりに配慮をしているのにうまく伝わっていないケースもあることは確かです。通常、トレーナーやメンター(助言者)は直属の上司ですが、そこでの人間関係がうまく築けないと自分の社会人人生が厳しいものになると真剣に考えています。中には先輩社員に話しかけるタイミングを繊細すぎるほど気づかう社員もいます。例えば見積書を作るための電卓をたたく手が止まった瞬間を見計らって声をかけるといった話も聞きました。
 彼らの特徴と育ってきた社会背景をふまえてコミュニケーションを図り、指導することが大切なのです。

――特徴を挙げるとすればどんな点でしょうか。

池谷 大まかに8つの特徴を持っています。もっとも、どの世代の人にも当てはまる要素なので、ゆとり世代だけの特徴というと語弊があります。これらの性質が顕著に表れていると捉えていただければと思います。

――彼らを生んだ背景として真っ先にやり玉に挙げられるのは、ゆとり教育ですが……。

池谷 ゆとり教育のベースにあるのは、生徒本人の意思を尊重するという考え方です。教師は関心のあることを引き出そうと務めるので、指導者からいわば支援者という立場に関わり方が変わりました。わかりやすい例を挙げると、宿題を「やりなさい」から「やりましょう」といった言葉づかいになったのです。したがって強制されて物事に取り組んだことがあまりありません。自己主張を尊重されてきましたから「自分の意見は受け入れられて当たり前」と思うようになります。
 “承認”されることへの欲求が比較的強いのは、このあたりに要因があるのではないでしょうか。
 一般に学習指導要領が改訂されて学習領域が狭まり、基礎学力がなくなったなどと負の側面ばかり強調されますが、“光”の部分もあります。例えば最近、海外で活躍する若手の野球選手やサッカー選手がだいぶ増えました。個性を伸ばして際立った才能を持つ人材を育てるという主旨からすれば、まさに成功例といえます。
 一方的にゆとり教育のせいにするのは問題で、彼らを育ててきた大人にも責任の一端はあるはずです。若者は時代をうつす鏡ですから……。

――ゆとり教育以外にはどんな背景がありますか。

池谷 ITツールが普及した影響が大きいですね。以前はクラスメートと会話をするきっかけといえば出身地や出身校の話題だったものですが、今では携帯電話のメールアドレスの交換がスタートだそうです。メールのやり取りは1対1の関係ですから、どんどん閉じたパーソナルな関係になっていきます。クラス全員と親しくしたりせず特定の仲間とだけうち解けられれば事足りるわけです。共同作業を通して何かを成し遂げるという経験は減っていることでしょう。
 入社前の研修でだいぶ是正されているようですが「今日は休みます」、「遅刻します」といった大事なことでさえメール一本で済まそうとする新人の話をよく耳にします。
 また、仕事のメールに絵文字が含まれていたりする。ビジネスツールとしてメールを使ったことがないため、絵文字はふさわしくないということを単純に知らないのです。彼らなりに相手に配慮をしたつもりでも、受け取る側から見ると「なんだこれは」と感じられてしまう。われわれにとっての常識が必ずしも彼らの常識とは限らないので、当たり前と感じられるようなことでも確認してしっかり指導することが肝心です。

指導のコツは“認める4割”

――では指導するにあたり、どんな点に留意すべきでしょうか。

池谷 新入社員を迎えるにあたり、組織として準備しておくべきことがあります。
 最も重要なのは、判断基準をそろえておくことです。もしトレーナーが指摘した内容と、上司や同僚からの指摘が異なるようでは、トレーナーの言葉に説得力がたちまちなくなってしまいます。これは育成にとどまらず、チームマネジメントにおいても重要なことです。
 またトレーナーは日常業務を抱えながら育成を行い非常に忙しいため、周囲の社員からのサポートが不可欠です。トレーナー以外で気軽に相談できる第三者的立場の社員を指名しておくとよいでしょう。その点で別の部署の先輩社員がメンターとして対応するレイスの「里親制度」(『戦略経営者』2012年8月号25頁参照)は有効な方法と言えます。

――個人レベルで心がけるべきことは?

池谷 指導するときの心がまえとして、よく“褒める7割、しかる3割”といわれます。しかし褒めてばかりいるのも考えもので、だんだん効果が薄れていってしまいます。そこで褒めるのも3割にとどめ、代わりに“認める”ことを4割取りいれてはいかがでしょうか。例えばちょっとしたことでも「今のやり方を続けよう」とか「それで大丈夫」といったフィードバックをする。さきほどの判断基準づくりの話に関連することですが、認められることによって動機づけられ、徐々に判断するための“ものさし”ができていくのです。承認されることを求めがちな若手社員には効果的だと思います。

――実際に活用できそうな具体策を教えてください。

池谷 育成期間中は新入社員とゆっくり話せる「定期ミーティング」を行うことをおすすめします。会話が中断しない落ち着ける場所を選び、時間を決めて行うとよいでしょう。トレーナーは役目を果たしたいがため「何かあればいつでも相談して」と新人に伝えることが多いようです。でも周りの空気を読みがちな新入社員は、相手が忙しそうにしているとなかなか話しかけられません。もし仕事のことで話すことがなければ、雑談などでも構いません。話をちゃんと聞いてもらえるという安心感が承認欲求を満たすのです。
 成長意欲の強い社員には、あえて実践的な課題を与えるのもひとつの手です。あるソフトウエア会社では新入社員研修の中で、バーチャルでシステムを組ませるそうです。実際に失敗を体験したあとにプログラミングを教えたところ、知識を吸収するスピードが格段に早くなったという話を聞きました。これは早期から海外で経験を積ませるモミアンドトイ・エンターテイメントの施策(『戦略経営者』2012年8月号26頁参照)に通じるものがあります。

――指導する側は基準をそろえ、日常的に認める言葉をかけることが大切なのですね。

池谷 最近、若手社員を指導するさい「頭の中に地図を作りましょう」とアドバイスしています。オフィス環境が変わり、パソコンで仕事をしていると、周りの人たちがどんな仕事をしているか、どこに何の資料があるかわからないといったことがよく起こります。そこで過去の事例や参考資料がある場所や、聞くべき人をあらかじめ整理しておけばいいわけです。
 これは余談かもしれませんが、いわゆる“飲みニケーション”は日本固有の習慣なので、やめるべきだと言われたことが一時期ありました。でも他の国ではいっさいお酒をともなう付き合いがないかというと、そんなことはありません。例えば米国の経営者やマネジメントする立場にいる人は、ホームパーティーを頻繁に開いています。彼らなりのアプローチで職場以外のシーンにおける社員の“素顔”を知り、コミュニケーションの下地づくりをしているのです。
 若手社員を批判するだけではなく、価値観を理解しお互い歩み寄るマインドを持って欲しいと思います。

プロフィール
いけがや・ただし 1972年静岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒。リクルートを経て、人材教育サービスを手がける株式会社ウィル・シードに入社。若手社員やマネジメント層の教育プログラム、教材開発に携わる。その後株式会社リアセックに移り、主に学校機関でキャリア教育を担当している。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2012年8月号