長らく日本の産業を支えてきた家電ナショナルブランドが軒並み苦戦するなか、意外にも中小メーカーが元気だ。その柔軟かつ臨機応変な商品開発は、ものづくりニッポンの復権を思わせるようである。

ナショナルブランドに挑む中小家電メーカー奮闘記

 各メーカーが販売する家電製品について評論する「家電批評」という雑誌がある。本文記事中に企業広告が一切なく、スポンサーに気兼ねすることなく執筆者が自由に辛口批評できることをウリにして読者数を増やしている雑誌だが、その「2011年家電オブザイヤー」のホームベーカリー部門で最優秀商品に選ばれたのが、従業員43人の中小企業、オークセール(東京都中央区)が販売するホームベーカリーだった。他機種が1~4万円台という価格設定のなか、5980円という圧倒的なコストパフォーマンスを見せたことが評価されたほか、米粉パンの焼き上がりなど機能面でも絶賛されたのである。並み居る大手ナショナルブランドを押しのけての快挙で一気に知名度をアップさせた同社だが、実はこの商品、無名の中小メーカーによる大ヒット商品としてすでに業界内ではちょっとした旋風を巻き起こしていた。福島誠司社長はヒットの背景についてこう語る。

 「ホームベーカリー製品を販売したのは1年半前でしたが、それから累計約50万台を超えるヒット商品になっています。当社製品の一番の特徴は、5980円、7980円という2つの低価格帯でのラインアップにもかかわらず、通常2万円以上払わないとできないような機能を標準装備していること。とにかくレシピの数が多く、ご飯や米粉が使えるのはもちろん、お餅をつくこともできます。さらにはパスタやうどん生地、ヨーグルト作りも家庭で楽しむことができます」

 日本ではホームベーカリー市場はパナソニックが市場をけん引しており、最近では4年に1度ブームが来ると言われるほど消費者の間でもおなじみの家電になってきた。しかも現在は第3次ベーカリーブームと呼ばれる流行期。当初3万円以上していたパン焼き器の価格はだいぶこなれてきてはいるとはいえ、やはり6000円という安さは破格。同社はどうやってこの圧倒的なコスト競争力を実現できたのか。福島社長はこう説明する。

 「中国でホームベーカリーの生産量ナンバーワンを誇る受託製造工場と運命的な出会いをしたのが大きかったですね。その工場とは日本の競合メーカーも触手を伸ばしていましたが、当社が中小企業にもかかわらずすでに家電量販店との販売チャネルを確立していたという強みが評価され、優先交渉権を得ることができました。彼らからしてみればファブレスメーカーと組むときは販売ポテンシャルの大きな会社を選択したいですからね」

中間流通省き低コスト実現

 低コストで高品質な製品づくりで中国でも1、2を争う受託製造企業とのパートナーシップ締結に成功したことが、ヒット商品を生む原動力となったのである。しかも交渉がうまくいった大きな決め手が「販売力」にあったというのがすごい。

 「家電事業をはじめて以来、小売店との直接口座の開設にこだわってきた。仕入れや販売の際に極力問屋を介さないということです。信用をいただくまでには時間もかかりましたが、大手テレビ通販関係、カタログ通販、ラジオ通販、Eコマース、家電量販店、GMS、ディスカウントストア、ホームセンターなどほとんどの販売で大手小売店との直接口座開設を実現させています」

 中国の工場と直接やりとりをし、日本では大手小売店に直接流通させる仕組みを構築する――仕入れ、卸売りの入り口・出口の段階で中間流通を省くことで、低コストでの高品質なものづくりを可能にしているのである。

 しかしここでひとつ疑問が湧く。なぜ無名の中小メーカーが大手量販店と直接パイプを持つことができたのか。それは、インターネットやテレビ通販を巧みに利用し「こういう商品が欲しい」という消費者ニーズをいち早くつかんで商品化につなげる「売れる商品づくり」を同社が実践していたからだ。福島社長はさらに続ける。

 「いまや通販市場は5兆円を超えていますが、当社製品売上高の約半分もネット・スマホ通販で上げています。通信販売のすごいところは、販売しながらお客さまとコミュニケーションしてプロモーションもできること。コメント欄などでの書き込みがすぐにあるので、どれが良い商品で、どういう機能が喜ばれているのか、ということをお客さまと一緒に確かめることができるのです。オークセールという企業名や、生活家電中心の『siroca』(シロカ)といったブランド名を多くの人に知らしめてくれるスピード感はすさまじいものがありますね」

 ネット上で成功した商品については、大規模小売店への販売を検討する。ネット上でのテスト販売である程度の感触を得られるので、家電量販店や総合スーパーへの提案もしやすくなるというわけだ。大規模小売店の年間計画の中で戦略販売商品として位置づけられれば本格的なロット生産に入ることになる。最近では家電量販店側から「商品を卸してくれないか」と要望されることも少なくないという。

 「ネットやテレビで認知が進むと、実店舗に指名買いで『シロカのホームベーカリーはありませんか』という問い合わせが入るようになります。未入荷の販売店は『ありません』と答えるしかないですが、お客さまから『テレビ通販などで大人気ですよ』と教えてもらったのをいつまでもそのままにしておくわけにはいきません。結局、当社に『入荷したい』と連絡がくるわけです」

“値ごろ感”を大切にする

 ここまで(1)低コストを実現する仕入れ・販売ルートの確立(2)ネットやテレビなど複数のメディアを活用した「メディア・ミックス・マーケティング」の実践という2つの大きな特徴を紹介してきたが、ほかにも特筆すべき点はいくつかある(『戦略経営者』2012年10月号10頁図表参照)。その1つは売れ筋商品を生み出すための適切な「値決め力」。これには福島社長がかつて展開していたある事業のノウハウが役に立った。

 「当社はもともと、薄型テレビやパソコンなどの家電をネットで入札できるサービスを手がけていました。その事業は4年ほどで見切りをつけたのですが、消費者が家電製品をどのくらいの値段なら購入したいと考えるか、という『値頃感』を理解することができたのです」

 当時手がけていた入札モデルではユーザーが3回入札することができた。それにより、「この値段で買えたらラッキー」「ここまでなら払える」という価格に対する消費者の本音を把握することができたという。たとえば同社オリジナル家電第1号のサイクロン型掃除機は、流行した海外製品の価格が6~7万円のところ、9980円(後に7980円に値下げ)で販売。既存製品に比べるとかなり下がるものの安すぎるところまではいかない絶妙の水準で、年間7~8万台売れるヒット商品となった。

 もちろん、製品そのものに優れた特徴があるのは当然だ。知恵と工夫をこらした企画開発力がものをいう世界である。

 「商品の発案・発想は、展示会などのマーケットで着想を得たり、社員自らサンプルを購入して実生活のなかに落とし込んでみて『こういう機能があったらいいのにな』と改良していくプロセスだったりと切り口はいろいろです。しかし『世の中に今あるものをさらによくする』というスタンスに変わりはありません」

 コーヒーメーカー、電気ケトル、オーブントースター――あくまでユーザー目線、生活者視点にたった製造理念を貫いて次々とラインアップを拡充してきた同社だが、最近ではワインを保管する「ワインセラー」が思わぬヒットとなった。ワインをたしなむ消費者が増加したというお酒文化の変容に着目した製品である。

 「必需品ではないものの、プチぜいたく感や小さな満足感を覚え、日常にうるおいをもたらすものとしてお酒は生活にとって大事な要素です。そのひとつにワインがありますが、まだまだ日本ではおいしく飲むためにきちんと保存しておくという習慣が根付いていません。贈答品などでもらった高級ワインを冷蔵庫と同じ温度で冷やしていたり、あるいは常温でほったらかしにしていたりすると味が変わってしまいます。家ごはんを食べる『内食』が進むなか、家でおいしいお酒を飲む機会も増えていくと考えワインセラーに着目したのです」

 ワインセラーはこれまで数十万円の高価な輸入品が一般的だったが、同社は日本の家屋事情を考慮したコンパクトサイズのものを2010年に1万9800円で販売。通販サイトで好感触を得たことからワイン販売専門チェーンでの店頭販売を実施したところ、1月に1000台以上を記録するなど予想を上回る売り上げとなったのである。

世界で通用するメーカーに

 同社製品の注目が高まっているのは日本だけではない。ホームページなどを通じ海外からの問い合わせも急増しているのだ。

 「ホームベーカリー製品などでブラジル、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカ、ヨーロッパから『海外の電圧に対応してくれ』との要望・問い合わせが殺到しています。日本以外の国からも反応があるのはものづくりに携わるものとして本当にうれしいですね」

 こうしたニーズに応えるため、海外展開の布石も打った。中国の提携工場近くに設けた出張所を現地法人化することを決定。中国国内はもとよりアジア全域、世界への販売市場開拓を検討しはじめたのだ。

 「法人化して組織面での充実を図ることで、より中国人スタッフと緊密なコミュニケーションをとることができ、製造力の強化につながります。また営業権を獲得することでこれから販売可能性を模索していくことになりますが、日本の小売業が進出している上海や北京、大連、天津などで日系の回収リスクが低い企業とのタイアップをまずは進めていけたらいいと考えています。その際大切になってくるのは、『メード・イン・チャイナ』であったとしても『プロデュースド・バイ・ジャパニーズ』であるという強みを忘れないこと。生産管理、デザイン、機能性など日本人ならではの気づき、目利き、サービスに裏打ちされていれば、アジアや欧米市場でも今後十分戦えると思っています」

 人々の暮らしの変化を敏感に感じ取ってヒット商品を飛ばしてきたオークセール。たとえナショナルブランドが相手でも、世界を舞台にしたサバイバル競争に勝ち抜く可能性は十分にありそうだ。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社オークセール
設立 1989(平成元)年1月
所在地 東京都中央区日本橋蛎殻町1-39-5 水天宮北辰ビル9F
TEL 03-5614-4381
売上高 約34億円
社員数 43人
URL http://www.aucsale.co.jp/

掲載:『戦略経営者』2012年10月号