「寅さん」で有名な柴又帝釈天のある東京・葛飾区柴又。新柴又駅を降りると目に飛びこんでくるのが、西洋のお城のような洋菓子店・ビスキュイだ。「洋菓子とはこういうものだと伝えていきたい」と意気込む駒水純一郎社長(44)と、販売部門を切り盛りする駒水君代専務に店舗運営戦略などをきいた。

何度も来店したくなる店舗づくりに力を注ぐ

ビスキュイ:駒水社長(中央)

ビスキュイ:駒水社長(中央)

――洋菓子とパンの製造、販売をされているそうですね。

駒水社長 洋菓子がメーンで、小さなケーキのプチガトーを60種類、デコレーションケーキで40種類ほど扱っています。そのほか9月末まで季節限定のアイスクリームや、ゼリーも販売していました。パンはほんの一部で、スイーツ全般が中心ですね。

――ケーキの特徴を教えて下さい。

社長 鮮度にはこだわりを持っています。一部商品は店頭からも見える厨房で作っており、例えば材料として使うナッツは、原料となる豆を仕入れて店内で挽いています。洋菓子はお寿司同様、生ものですから新鮮なうちに食べた方が断然おいしい。店舗となりのカフェで、お買い上げいただいたケーキを食べていただけます。われわれは“カウンターのあるお寿司屋さん”という気がまえで日々取り組んでいます。

――社長は以前、ホテルで働かれていたとか……。

社長 洋菓子製造の専門学校を卒業後、東京の帝国ホテルで7年間働きました。勤務していたのはプチガトーをつくるセクションです。いつか独立して自分のお店を開きたいという思いがありましたので、個人経営のケーキ屋さんにお願いして、休日に通い修行させてもらいました。店主は手先が非常に器用な方で、有名なお弟子さんも多いそうです。ケーキ作りや店舗経営について、色々教えていただきました。
 ホテルを退職した後は、妻と2人で全国の洋菓子店をひたすら訪ねまわり、実際に商品を食べて味を研究しました。当時は駅名を聞くだけで近所の名物店を挙げられるほど詳しくなったので、「ケーキ通選手権」に出ていれば、きっと優勝していましたね(笑)。

――開店当初の反響は?

社長 800万円の自己資金と、金融機関から借り入れた3000万円を元手に店舗をオープンしました。税理士法人ガイアさんから損益分岐点売上高は1日あたり13万円だとお聞きしていたので、まずはそれを目標にしました。
 ところが予想以上に繁盛して、仕入れた材料が営業時間中に尽きてしまうこともしばしばで、閉店時間である20時まで営業できない日が多かったです。まだ従業員を雇っていなかったものですから、とにかく忙しくオープン直後は3カ月間、一度も自宅に帰れませんでした。

――最近の経営環境はいかがでしょうか。

社長 ご存じのとおり、コンビニエンスストアがスイーツの品ぞろえを充実させており、競争が一段と激しくなりました。お話ししたように鮮度はもちろんのこと、従業員教育も重要です。商品を作っているのは、洋菓子製造の専門学校を卒業したスタッフが多く、ケーキ作りの腕を磨いてもらうため、積極的に社外の講習会に参加させています。講習の内容は、複数種類のお菓子をつくる実習が中心です。
 販売員をフランス語で「ヴァンドゥーズ」というのですが、ソムリエのように単なる販売員ではなく、洋菓子に精通していることを証明する、認定試験が今では実施されています。裸の王様にならないよう、私自身も率先して講習会に出席したり、講師を引き受けたりして客観的に自分の店を見るように心がけています。

――お店の外観と商品陳列も工夫されています。

駒水専務 よく見かけるケーキ屋さんのイメージとは一線を画した建物にしようと社長と話し合って決めました。建築関係の雑誌を数十冊購入し、気になった建物がたまたま同じ一級建築士が手がけたものだったので、その方にお願いしました。商品陳列はお客さまの立場にたち、いつ寄っても新しい発見がある、ディズニーランドのようなお店を目指しています。

社長 陳列棚の照明にはLEDを使っています。とくにゼリーやフルーツなどは、よりいっそうみずみずしく見えるようになりました。よく先輩の方から「いくら作り手が頑張っても味だけで100点満点は取れない。味は60点までで残りの40点は、作っている様子などお店の雰囲気で決まる」と教えてもらいました。そういったお客さまをおもてなしする心は、帝国ホテルで学ぶことができた気がします。

『FX2』は答えを導く魔法の玉手箱

――『FX2』を導入したいきさつを教えて下さい。

社長 以前は伝票を手書きし、市販の経理ソフトに入力していたのですが、野口先生におすすめいただき『FX2』に切り替えました。

――重点的にチェックしている勘定科目は?

社長 経費科目の中のとくに人件費と仕入れ高です。例えば前年より社員が少ないのに人件費が増えていたり、ケーキの包装材等で仕入れ高がかさんでいないか、前年と比較してどうなのかという点が一番気になりますね。倉庫内に保管している包装箱をただ眺めていても多いのか少ないのかピンとこないのですが、毎月の監査で吉川(真由美・監査担当)さんから金額ベースで具体的に指摘されると、非常に説得力があります。
 経費が大幅に増えているときは会議を開き、対策を考えています。包装材や電気代も無駄遣いしないよう従業員に注意を促すだけで、だいぶ抑えられるものです。吉川さんにさまざまな質問をしても『FX2』のメニューを開いて瞬時に答えていただけるので、まるで魔法のように感じています。

吉川真由美監査担当 月次監査では『FX2』の《勘定科目残高推移表》を画面に出し一緒にご確認いただきながら、勘定科目ごとに予算と前年の金額とくらべ、最新の業績をご説明することが多いです。

――予算も設定しているのですね。

社長 店舗とカフェの2部門に分け、目標の予算を立てています。当初は「予算を立てたところで……」と懐疑的だったのですが、いまでは予算から乖離が大きいと考えるきっかけを得られるので、非常に大切だと感じています。またPOSレジで1日の来店客数を把握できるようになっており、売上額とともによくチェックしています。前年同日の実績と比べて減っていれば、何らかの問題があり手を打たなければなりません。
 POSレジはケーキ販売店向けに作られた専用のタイプで、顧客データベースで絞り込みを行うことができ、おととしからDMを発送し集客に役立てています。いずれにしろ大風呂敷を広げるよりは、地道にお客さまに「また来店したい」と思っていただけるようなお店づくりをしていきたいです。

野口省吾税理士 毎年決算月である6月には事務所に来所いただき、当期の経費科目の推移などを詳しくご説明し、翌期の予算を社長と話し合って決めています。

専務 洋菓子を製造する大型の機械を購入するときは、いつも事前にガイアさんに相談しています。つい先ほども、設備投資の相談に乗っていただいていたところです。また、借入金の返済計画作成を支援していただいたり、当社の一員のように頼りにしています。

――ほかに『FX2』で活用されたい機能はありますか。

社長 例年、夏場は売り上げが落ちるので、資金繰りについて勉強していきたいと思っています。以前、税務調査を受けたときはレジの残高と帳簿の金額が一致せず、税務署の調査官から色々と質問をされました。気持ちが折れそうになりましたが、野口先生にしっかり対応していただき一銭の修正もありませんでした。事前の聴き取りだけで、調査が省略になったこともあります。同業者にこの話をすると驚かれますね。毎日『FX2』に取引をこつこつ入力しているからかもしれません。

――今後の事業展開は?

社長 これまで地元、柴又の皆さんに育てていただき、おかげさまで土日祝祭日は1日700人近くのお客さまにご来店いただいています。ビルのテナントとして入店して欲しいとか、共同でネットショップをといったお誘いをいただくこともあります。ですがこれからも柴又という土地にこだわっていきたいので多店舗化は考えていません。土地柄、和のテイストを取り入れようと和菓子も製造、販売しているのですが、このラインアップを広げ、もなか作りなどにも挑戦してみたいですね。すでに商品名もひそかに決めています。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 有限会社ビスキュイ
設立 1996年8月
所在地 東京都葛飾区柴又4-32-16
TEL 03-5668-8870
社員数 41名(パート・アルバイト含む)

CONSULTANT´S EYE
きめ細かい監査で冗費削減に役立てる
監査部 吉川真由美
税理士法人ガイア
東京都北区西ヶ原3丁目48番4号
TEL:03-3940-0831
URL:http://gaia-tax.com/

 帝国ホテルを退職し、会社を設立される駒水社長をある関与先企業様から紹介いただいたのが、ビスキュイ様とのお付き合いの始まりです。店舗併設の厨房で作られる新鮮なケーキと雰囲気ある外観、そして心のこもったおもてなしが相まって、開店当初から多くのお客さまで賑わっていました。洋菓子、焼き菓子のほか、最近では和菓子やゼリーなど新たな商品作りにも挑戦されています。ケーキ作りは職人の世界ならではの厳しさもあると思いますが、社長は毎年社員旅行を企画されたり、ケーキのコンクール等に参加されたりと、仕事以外の時間をとても大切にされています。買ったケーキをすぐに食べたいというお客さまからのご要望もあり3年前、店舗となりにカフェもオープンされました。仕事の幅が広がり、遠方から来てくださるお客さまも増えたと社長は手応えを感じられています。

 毎月の監査に際しては、『FX2』に正しくデータが入力されているか、証憑書類と入念に突合して精査しています。当月の売上高はもちろん、仕入れ高や電気代など無駄な経費がないかを勘定科目残高一覧の画面でご確認いただいています。さらに全社業績問合せメニューを活用し、前年および予算の数字と比較して差額があるときは対応策を検討しています。ケーキ販売店の特徴として、夏場は売り上げが落ち込むため、特に納税前には資金繰りが厳しくならないようアドバイスさせていただいています。

 社長は厨房でケーキ作りをされていることが多く、監査に同席いただけないこともあるので、ふだんご利用いただいているパソコン上で、日常的に『FX2』を開いて最新業績を把握していただけるよう、環境を整えていく予定です。今後も毎月の監査でお会いする中で、『FX2』の諸々の機能を活用しながら財務データを元に社長に気付くきっかけを与えられる、サポーターの役割を果たしていきたいと思っています。

掲載:『戦略経営者』2012年11月号