これまで経営とは無縁と考えられていた主婦など、普通の女性による起業が増えている。特有の感性と価値観を駆使して実績をあげる女性起業家6名に取材した。

 「もともと医者志望で健康に対する関心は高かったのですが、出産を機にその気持ちが一層強くなりました。それがオーガニック飲料メーカーを設立した主な動機です」

 起業のきっかけについてこう話すのは、健康や美容にさまざまな効能を持つとされるお茶やハーブを「なごみナチュルア」のブランドで展開する和みの作山若子社長だ。農薬や化学肥料に依存しない、いわゆる有機栽培の原料にとことんこだわっている。レストランやホテル、百貨店、高級スーパー、ギフト向けへの卸売りが主体だが、専用ウェブサイトでの通信販売や直営店(大阪・阪急うめだ本店内)など小売り部門での売れ行きも好調だという。

 たとえば一番の売れ筋となっている『有機ローズヒップブレンド ヴィーナスの紅い果実』(100グラム、1,995円)。チリ、エジプト、ガーナの農家と直接交渉し、原料となるローズヒップ、ハイビスカス、オレンジピールについて有機JAS認証が得られるような生産体制を3年かけて構築。もちろん味についても妥協を許さなかった。

 「欧州では野菜代わりに飲まれるほどビタミンが豊富なお茶ですが、独特のえぐみや酸味が苦手という人も多かった。しかしこの商品ではおいしさも徹底的に追求しました」

 オーガニック原料にこだわり、かつ味も抜群となれば、ライフスタイルにこだわりを持つミドル層の消費意欲をくすぐらないわけはない。テレビショッピングの食品部門で1位に輝くヒット商品になり、いまも売り上げナンバーワンのロングセラーシリーズとなっている。

トップセールスからの転身

 作山さんはかつて、オフィス向けにコーヒーや紅茶・清涼飲料水の製造販売を手がける外資系大手企業でトップセールスを記録した実績を持つスーパー営業ウーマンだった。

 「営業先の会社規模が小さく首都圏に比べ不利な札幌エリアを担当していたにもかかわらず、全国1,400人中で営業成績トップを2年連続で記録しました。その働きが認められ、女性初の管理職として本社に栄転することになったのです」

 本社での法人営業でも文句のない働きぶりを見せると、今度は社長直轄の社長室に引き抜かれる。新規事業にかかわるM&Aなどを手がけ、社長や専務など経営中枢と行動を共にする日々が続いた。そして結婚、出産、産後3カ月での職場復帰──まさに働く女性のロールモデルのようなストーリーを歩んだ彼女だったが、それに逆行するかのように心の中である違和感が少しずつ大きくなっていった。

 「ミルクをできるだけ使わず極力母乳で育てるなど、食の安全や安心にとても気を使っていたのですが、香料や添加物だらけの商品を販売している勤務先との矛盾に悩むようになったのです」(作山さん)

 高校時代に父親が脳梗塞で倒れ、その看病をするなかで大量の投薬がなされる医療の実態を知り、もともと西洋医学の万能性に疑いを抱いていた。自然とオーガニック食品を含めたさまざまな民間療法について調べるようになり、その結果「人種や宗教、性別の壁を越え、お茶やハーブは誰もが予防医療に使えるものである」という確信を得たのだという。こうした過去の経緯もあり、次第に「納得のいくオーガニックティーのメーカーを作りたい」という思いを募らせていった彼女は、2002年、ついに独立に踏み切った。

 運にも恵まれた。創業後ほどなくして売り出した『まるごと韃靼蕎麦茶』(粉末80グラム、1,575円)が大ブームを巻き起こしたのである。そばには血管壁を強化し血液をサラサラにするなどの効能を持つルチンが含まれているが、この商品を1杯飲むだけでそば茶の337倍のルチンをとることが可能。この機能性が『通販生活』などで取り上げられ、初年度から数千万円の売り上げを計上したのである。

「モノ」「コト」両輪で攻める

 ヒット商品が続き着実にリピーターを増やしてきた同社だが、昨年、日本初となるオーガニックハーブティー専門のカフェを東京・日本橋にオープンした。作山さんによると、この新規出店は、新たなビジネスモデルへの挑戦として重要な意味を持つという。

 「新規事業で私たちが目指しているのは、単にお茶を飲める場所としてだけでなく、カフェと物販、スクール機能をあわせもった、いわばモノとコトを売る場所にするということ。このまったく新しい形態のカフェをフランチャイズ形式で展開したいと考えています」

 ここでいうスクール機能とは、世界のハーブティーについて活用法を教えるお稽古教室・セミナーなどを開催すること。こうしたイベントを集客ツールとして用いながら、自社商品の売り上げとカフェの認知度を高めるねらいである。

 この取り組みにはハーブについて高い知識を持った人材の育成が欠かせないが、その点もぬかりはない。2011年に一般社団法人日本ティーコンシェルジュ協会を設立し、専門家の育成強化に本腰を入れ始めたのである。「薬に頼らない身体づくり」をコンセプトに独自のカリキュラムを開発、「季節に合わせて洋服を着替えるように、食卓やライフスタイルのさまざまなシーンに応じたハーブティーを提案できる」(作山さん)ような「お茶の案内人」の認定制度を確立、女性を中心に有資格者は1,000人を超えるまでになったという。

 有資格者には「優秀なのに活躍の場が与えられていない」(同)女性たちも多いが、同社はそうした人を対象にしたお稽古教室の講座開設支援事業も行っている。こうした「モノ」と「コト」の両輪でオーガニックハーブティーの市場拡大を目指す同社の次なる目標は、海外進出だという。作山さんはこう力を込める。

 「わが社のコンテンツをパートナー企業に提供しながら、どんどん海外にも出ていきたいですね。昔からお茶の文化が根付いている日本人の思想を伝えるなかで、世界中の人の健康と美容にお役に立てればうれしいと思っています」

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社 和み
設立 2002年4月
所在地 東京都中央区日本橋堀留町1-10-19第一川端ビル6階
TEL 03-3667-5618
URL http://www.nagomi-natulure.com/

掲載:『戦略経営者』2013年5月号