インターネット経由のファイル保存サービス「オンラインストレージ」を業務で利用したいと考えています。どんな点に注意して各種サービスの中から選ぶべきでしょうか。(事務機販売会社)

 いつでもどこからでも、端末を選ぶことなく必要なファイルを取り出すことができる──私たちにとって最も身近なクラウド型のサービスがオンラインストレージではないでしょうか。オフィスから出かけた後に「ノートパソコンにあの大事な書類を入れ忘れた!」という心配は、オンラインストレージのおかげでほとんど過去のものになりました。

 筆者は2008年にアメリカでIT系イベントの取材中、個人向けオンラインストレージサービスの代名詞とも言える『ドロップボックス(Dropbox)』のサービス公開の瞬間に立ち会ったのですが、多くの観衆が立ち上がって歓声を上げたのをよく覚えています。現在では同様のサービスが数多く存在し、2GB前後まで無料、またファイルの保管だけでなく、他のユーザーとの共有や簡易な編集もサポートされるなどサービスの拡充が続いています。米マイクロソフトもウィンドウズ8にオンラインストレージサービス『スカイドライブ(SkyDrive)』を標準搭載するなど、その利用の裾野はさらに広がり、ますます当たり前のものになっていくことでしょう。

無料サービスにはリスク有り

 このように便利なオンラインストレージサービスですが、業務で利用する際には、個人利用とは異なる注意が必要です。

 昨今、個人情報の流出が相次いでいます。無料のオンラインストレージでは、ファイルやフォルダにアクセスできるURLを発行することによって、簡便に情報を共有することができます。しかし仮にオンラインストレージサービスに機密性の高い情報を保管したまま、うっかりそれを誰でも参照できる状態にしてしまい、そのことが公になれば、企業の信頼を大きく損ねることはもちろん、損害賠償に発展する恐れもあります。

 つまり企業組織でこういったサービスを利用する際には「誰がどのようなファイルを保管し、共有しているか」について社内のシステム管理者が常に把握し、それが不適切であった場合や、その社員が退職した場合にも、保管・共有されたファイルを本人以外でも削除できるといった仕組みが用意されている必要があります。しかし、無料サービスではそこまでの機能は用意されていないケースがほとんどです。

 品質を競い合う無料サービスですが、不特定多数のユーザーがさまざまな使い方をすることもあり、システム障害はつきものと考えておいた方がよいかもしれません。筆者も締め切り間際に限って、データが取り出せなくなり慌てることがこれまで数回ありました。北米発のサービスでは、時差の関係で日本のオフィスアワーに緊急メンテナンスが行われることがあるのも気になるところです。万一の際の問い合わせ窓口も、国内の方が安心です。

 ここまで述べてきたようなリスクがあるため、企業においてオンラインストレージサービスの導入・運用を検討する際には、多少のコストは見込んだ上で、商用をうたう有料の国内サービスの中から、業務フローに即したものを選ぶべきでしょう。

掲載:『戦略経営者』2013年7月号