企業経営者にとって関心事の一つである「2014年度税制改正」大綱が昨年末にまとめられたが、随所にアベノミクスを税制面でサポートしているのが今年の特徴だ。そこで主に民間投資活性化税制措置、法人税制、所得税制に関する改正ポイントを専門家の今仲清税理士に解説してもらった。

目玉は「投資促進税制」の創設

──2014年度税制改正の最大のポイントは何でしょうか。

今仲 一言でいえば、アベノミクスの“3本の矢”(①大胆な金融政策②機動的な財政政策③民間投資を喚起する成長戦略)の3つ目の成長戦略を税制面で支えている点でしょう。背景には今年4月1日に消費税率が5%から8%に引き上げられることがあります。昨秋以降、それをにらんで駆け込み需要が起こっていますが、その反動を抑えながら景気拡大をはかっていくという考え方に基づき税制改正が行われるということです。

 成長戦略の中核部分が昨年12月に成立した「産業競争力強化法」(関連記事『戦略経営者』2014年2月号P30参照)です。同法は規制緩和や産業の新陳代謝促進などを“柱”にしていますが、この強化法と税制改正をリンクさせて、民間投資を促そうと考えたわけです。その最大の目玉は「生産性向上設備投資促進税制」を創設したことです。

──生産性向上設備投資促進税制とはどういうものですか。

今仲 産業競争力強化法に規定される「生産性向上設備等」を購入すると、即時(一括)償却か税額控除かのいずれかを選択できるというものです。業種・業態、規模に関係なく、どの企業でも利用することができます。

 この生産性向上設備等は、①先端設備②生産ラインやオペレーションの改善に資する設備の2つに大別されます。まず先端設備についていえば、図表1(『戦略経営者』2014年2月号P23)のように対象設備は機械装置、工具、器具備品、建物、ソフトウエアなどで、それぞれ取得価額、最新モデル、生産性向上の要件が定められています。例えば、器具備品であれば1台または1基の取得価額が120万円以上、6年以内に販売されたもので、従来と比較して生産性が年平均1%以上向上する設備(陳列棚や冷暖房用機器など)としています。要するに、3要件を満たしていれば限度額なしで、その決算期に一括で損金算入できるということです。このような税制は今までありませんでした。

 では誰がどのようにして先端設備かどうかをチェックするのか。それは各設備を製造する企業が、自ら所属する「工業会」に適用申請を行って確認してもらうことになっています。当然、メーカー側は例えば「このサーバーは確認を受けています」というような形で今後、売り込みをかけていくことになるでしょう。

 もう一つの生産ラインやオペレーションの改善に資する設備というのは、例えば全国展開している飲食業なら「セントラルキッチン(集中調理施設)」などが該当します。先端設備を購入するときのような生産性向上や最新モデル要件はありませんが、代わりに「設備投資計画上の投資利益率が15%以上(中小企業5%以上)であること」が条件になっています。

 その確認方法は、まず企業が設備投資計画を作成すると、それを公認会計士または税理士がチェックして経済産業局に申請、確認されるという流れです。つまり「今年度、このような設備投資を行うと、売上高や限界利益が前年度に比べてこれだけ増える」といった計画書を作成し、それを公認会計士または税理士にチェックしてもらうということです。

──“両者”(先端設備、生産ライン・オペレーションの改善に資する設備)を利用するにあたっての注意点は。

今仲 産業競争力強化法が施行された日(今年1月20日)から2017年3月31日までに取得した設備については、図表2(『戦略経営者』2014年2月号P23)のような形で即時償却か税額控除かを選択します。具体的には、2016年3月31日までに機械装置を取得した場合は即時償却か、あるいは通常の減価償却を行って、法人税を支払うときに投資額の5%を控除してもらうかのいずれかを選択するわけです。それが16年4月1日~17年3月31日までに取得した場合は「50%特別償却か4%税額控除か」になります。

 ただし注意しなければならないのは、3月期決算法人が強化法施行日から2014年3月31日までに設備を取得した場合、今期(13年4月1日~14年3月31日)は通常の減価償却を行い、「翌期にその残りの減価償却費を全額損金算入するか投資額の5%税額控除するか」の選択ということになります。

──生産性向上設備投資促進税制と従来からある「中小企業投資促進税制」(1998年施行)では何が違うのでしょうか。

今仲 中小企業投資促進税制は、①資本金1億円以下の中小企業②資本金3,000万円以下の特定中小企業者等を対象法人としています。例えば、1台160万円以上の機械および装置を購入した場合、①は30%特別償却(税額控除なし)、②は30%特別償却か7%税額控除かの選択適用となります。

 ところが、今回、産業競争力強化法ができたことによって、資本金1億円以下の中小企業が同法の対象資産を購入すると、全額即時償却か投資額の7%税額控除(特定中小企業者等は10%)かを選択できるようになります。つまり産業競争力強化法の対象資産を購入したときは生産性向上設備投資促進税制を使い、対象でない資産を購入したときは従来の中小企業投資促進税制を使えばよいということです。

──「雇用者給与等支給額増加税額控除制度」が改正されたこともポイントの一つでしょうか。

今仲 はい。これはいわゆる「賃上げ減税」のことです。2013年度の税制改正で安倍晋三首相の肝いりでできたものですが、使い勝手がよくなかったため改正されることになりました。

 従来は、①雇用者給与等支給額が基準年度(2012年度)と比較して5%以上増加していること②雇用者給与等支給額が前年度を下回らないこと③平均給与等支給額が前年度を下回らないことを適用条件としていました。そこで、①の5%以上の部分を、2013年度・14年度は2%以上、15年度は3%以上に緩和する一方、③の平均給与等支給額を「継続雇用者に対する給与等」に見直したうえで「前年度を上回ること」に変更しました。

 この3つの条件を満たせば給与総額の増加分の10%(中小企業20%)を税額控除できるという仕組みです。ただし注意しなければならないことがあります。それは適用開始時期が「2014年4月1日以後に終了する事業年度から」となっていることです。そうすると、14年3月期決算で、旧基準の5%以上は達成できなかったものの、新基準の2%以上はクリアできたというような場合はどう処理すればよいのか。この場合は翌期の14年4月1日開始事業年度で、「その分を税額控除してよい」ということになっています。つまり14年度も2%以上をクリアしたならば、2期分を税額控除してもらえるということです。

大企業も飲食費の50%損金に

──法人税関係ではどういう点が改正されたのでしょうか。

今仲 主な改正ポイントは、①復興特別法人税の1年前倒し廃止②地方法人課税の偏在是正③交際費の損金不算入制度④雇用促進税制の拡充の4つだと思います。

 ①についていえば、法人税は2012年度税制改正で、30%から25.5%に引き下げられましたが、同時に復興のための財源確保として「復興特別法人税」が10%加算されることになりました。これにより法人税率は28.05%となり、当初3年間続けることにしていましたが、それを1年前倒しして、2013年度で廃止することにしたわけです。

──地方法人課税の偏在是正とは具体的にどういうことを指しているのでしょうか。

今仲 背景には消費税率引き上げがあります。消費税は国に4%、県に0.5%、市町村に0.5%それぞれ配分されますが、税率が5%から8%に引き上げられれば今以上に大都市圏と地方との税収の偏在による格差が広がるため、法人住民税と法人事業税にメスを入れることにしたわけです。法人住民税、法人事業税とも適用開始時期は「2014年10月1日以後に開始する事業年度から」です。

 具体的には、法人住民税については都道府県法人税割を現行5%→3.2%、市町村民法人税割を12.3%→9.7%に引き下げ、その下がった分(1.8%+2.6%=4.4%)を国が「地方法人税」(仮称)として吸い上げ、それを財政事情に厳しい地方自治体に再配分するという仕組みです。

 一方、法人事業税は大別して地方法人特別税(国税4.3%)と法人事業税(2.9%)からなりますが、前者を4.3%→2.9%、後者を2.9%→4.3%に変更して地方の取り分を増やすことにしています。

──大企業も交際費を非課税にできるそうですね。

今仲 現行では資本金1億円超の大企業の場合、交際費は全額損金不算入でした。これに対し、中小企業(資本金1億円以下の法人)の場合は、2013年度税制改正で800万円を上限に交際費の損金算入が認められています。

 そこで消費を刺激する一環として今回、大企業に対しても交際費のうち「飲食費」について、その50%まで損金算入を認めることに変更しました(『戦略経営者』2014年2月号P24図表3参照)。これには、「枠」はなく、飲食費が年間1億円でも5億円でもよいのですが、損金算入が認められるのは50%までで、2014年度から2年間の時限措置となっています。

 したがって、中小企業の場合は従来の定額控除額800万円と、飲食費の50%を比較してどちらが有利なのかを検討することになりますが、飲食費が1,600万円以上のときは50%を選んだほうが得なわけです。

──税法上飲食費に規定されるものというのは……。

今仲 飲食費と規定されるのは、あくまでも得意先を接待するために使われたものです。このため、例えば新入社員歓迎会と称して、社員同士で食事をした場合は「社内交際費」で、飲食費に該当しません。また、得意先への中元・歳暮も該当しませんが、得意先が「展示会」などを開き、弁当を差し入れた場合などはOKです。

──「雇用促進税制」の拡充について説明してください。

今仲 大企業の場合、従業員が前年度末と比較して10%以上かつ5人以上(中小企業2人以上)増加すれば、増加した1人につき40万円を税額控除してもらえるという制度です。

 これまで適用期間が2014年3月31日までだったのですが、今回の改正で2年間延長されることになりました。その具体的な手続きは、①企業は事業開始年度がスタートしてから2カ月以内に、目標雇用増加数を盛り込んだ「雇用促進計画」を作成してハローワークに提出②事業年度終了後2カ月以内にハローワークによる雇用促進計画の進捗確認③交付された雇用促進計画等の書類を確定申告書に添付という流れです。

 要するに、最初に取り上げた生産性向上設備投資促進税制にしろ雇用促進税制にしろ「始めに税制利用ありき」の発想ではなく、「始めに経営計画」を作成して、その計画のなかでモノ(設備)については生産性向上設備投資促進税制を、ヒトについては雇用促進税制を活用して、「より付加価値の高い企業を目指したらいかがでしょうか」ということです。

給与所得控除全体の見直し

──所得税は「給与所得控除」の見直しがポイントでしょうか。

今仲 そうですね。日本の給与所得控除は欧米と比較すると、突出して大きい。控除限度額が日本の場合、現行245万円であるのに対してドイツ13万円、米国119.5万円となっています。

 確かにドイツ・米国のサラリーマンは、自ら計算して申告する必要経費の範囲が日本より大きい側面がありますが、欧米に比して過大すぎる給与所得控除の適正化をはかる必要があると考え、2012年度税制改正で今の水準(年収1,500万円超の人は245万円が給与所得控除の上限)に変更しました。それを今回さらに引き下げることにし、2016年分から「年収1,200万円超・230万円」、17年分以後「年収1,000万円超・220万円」としました。これによって所得税・住民税の合計額が現行と比較してどれくらい増えるのかを課税所得で計算すると、図表4(『戦略経営者』2014年2月号P25)のようになります。課税所得が1,500万円超の場合は、2016年分6万4,500円、17年分以後10万7,500円が増加されます。

──ゴルフ会員権等の譲渡損失の損益通算が今回の税制改正で廃止されるとか。

今仲 はい。これは例えば死亡した父親がゴルフ会員権(バブル時に1,000万円で購入)を持っていて、それを長男が相続したという場合、購入時に比べて相当値下がりしているでしょうから、売却すると100万円だったとします。すると900万円の損失になります。仮に長男の給与所得等の所得の合計額が900万円だとすれば損益通算できますので所得税はゼロとなります。それが、今年4月1日以後の譲渡から損益通算ができなくなるため、ゴルフ会員権等を売却するなら今年3月31日までに行ったほうが得だという話です。

──消費税については、税率が5%から8%に引き上げられるだけでなく、「簡易課税みなし仕入れ率」も見直されるそうですね。

今仲 消費税率が引き上げられるということは、いわゆる「益税」になっている部分も増えることから、今回、課税売上高5,000万円以下の中小企業に適用されている「簡易課税制度」を見直すことになりました。具体的には、2015年4月1日以後開始課税期間から、みなし仕入れ率が金融保険業で60%→50%、不動産業で50%→40%にそれぞれ引き下げられることになります。

(インタビュー・構成/本誌・岩﨑敏夫)

掲載:『戦略経営者』2014年2月号