高い板金加工技術を武器に制御盤、配電盤製造を手がける鳥越製作所。原口勝久社長(54)のかじ取りにより、リーマンショック、ベテラン技術者の退職など経営危機を乗り越えてきた。業績見通し、経営計画策定のベースとして原口社長が長年活用しているのが『FX2』。3名の経営幹部に財務データの着眼点を中心に話を聞いた。

県内企業と連携し板金加工業務を受注

鳥越製作所:原口社長(中央)

鳥越製作所:原口社長(中央)

──機械の製造を手がけられているそうですね。

原口 ビル内の電気を管理する制御盤、分電盤、配電盤装置を製造しており、とくに板金加工を得意としています。昭和48年の創業当初は船舶で使われる配電盤の製作を主としていましたが、板金加工技術を生かし領域を広げてきました。

──主要取引先を教えてください。

原口 長崎に拠点を置くメーカーとの取引が多いです。近年では当社を含め県内11社の中小企業で立ち上げた「大型プロジェクト受注協同組合」(OPG長崎)からの仕事が増えています。

──協同組合にはどんな企業が加わっているのでしょうか。

原口 OPG長崎は長崎県産業振興財団の支援を受けて設立された組織で、機械塗装、治具製作、運送業などさまざまな業種の企業が加入しています。これまでに事業用発電設備や廃棄物処理施設などの新設、改造工事を受注し、得意分野ごとに業務を分担してきました。当社では組合を通して年間30件ほどの受注があります。日ごろの活動としては、県外各地の企業に営業活動を行っているほか、毎月1回、定例会をひらき情報交換をしています。

──板金加工技術が評価され、新たな業務を獲得されていると。

原口 ええ。取引先の注文に基づき、短期間で納品できる点が強みで、翌日に仕上げてほしいといった急な案件にも対応しています。鳥越会長が代表を務めていたころからの方針ですが、依頼された仕事は可能なかぎり断らず、短納期で製作するようにしています。

──長崎市から諫早市に移転されてきたそうですね。

原口 業務の拡大にともないスペースが手狭になり、9年前に移転しました。長崎自動車道の諫早インターチェンジから車で約15分とアクセスが良くなり、取引先の方々も頻繁に来社していただけるようになりました。

──建設業などでは人手不足が問題化していますが、対策は打たれていますか。

原口 ここ2、3年の間で技能を身につけた社員の定年退職が相次ぎ、若手人材の獲得が課題になっていました。職業訓練を実施している「ポリテクセンター長崎」と連携し、当社で実務経験を積んでもらい、複数名の卒業生を雇用しています。社員の平均年齢は以前に比べ、だいぶ若返りましたね。

──近年の業績の推移はいかがでしょうか。

原口 平島(学税理士)先生と監査担当の三浦さんに最新業績に基づいた経営計画の立案をご指導いただいたおかげで、順調に推移しています。事業所の移転後にリーマンショックが起こり、多額の設備投資を行ったあとだけに、ダブルパンチになりました。営業に行けども新たな仕事を思うように獲得できず、工場の操業を1カ月間ストップせざるを得ない時期もありました。そんなときに平島先生からご提案いただいたのが、経営計画の作成でした。以来毎年計画の中身を見直し、長期的な視野で取り組めるようになりました。

──どのくらいの期間の計画を立てていますか。

原口 副社長、専務と話し合いながら、10年間の計画を立てています。
 毎月三浦さんに訪問していただいていますが、直近の業績をふまえ、第三者として客観的に数字を見て助言していただけるのでありがたいですね。前年同月比で売り上げが落ちたときでも、社員に改善への見通しを示すことでモチベーションを維持できています。例年4月から6月にかけて仕事量が減る傾向があるので、営業活動を行い挽回していくつもりです。

週間単位の目標を現場に落とし込む

──『FX2』を導入されたいきさつをお聞かせください。

原口 平島会計さんとは平成元年に顧問契約を結びましたが、当時は手書きで元帳を記録していました。手書きによる記帳だと会社の損益状況をつかめず、数カ月後に当月の経営成績がわかる状態でした。その後平成14年に平島先生から紹介されたのが『FX2』でした。

──記帳方法が手書きからパソコンに変わり、戸惑いはありませんでしたか。

宮脇専務 当時はまだパソコンの操作にあまり慣れていなかったため、三浦さんに入力方法を丁寧に指導していただき、徐々に覚えていきました。今は毎月500枚ほどの伝票を入力しています。

──毎月の巡回監査のとき、話し合われている内容は?

原口 前月の取引をひと通り監査していただいた後、17時ごろから副社長と専務も同席し業績報告会を実施しています。印刷した《科目残高一覧表》を眺めつつ、注視している勘定科目は科目残高一覧画面で詳しく確認しています。前年同月にくらべ金額が大きく変動している費用科目がある場合、伝票にさかのぼり4人で原因を話し合っています。報告会後工場に戻り、討議した内容を社員に伝えるというのが毎月のルーチンになっています。

──すぐに社員の方に方針を伝えられているのは素晴らしいですね。

原口 月間の売り上げ目標が未達成だったとき、翌月に穴埋めをしないと年間目標は達成できません。現状を正確につかみ、毎月作戦を話し合うことが重要なんです。

平島 どんな黒字企業でも一時的に業績の落ち込むときがありますが、鳥越製作所様はマイナス幅を最小限におさえ、短期間で巻き返すところが大きな特色です。

──特に注目している勘定科目は何ですか。

宮脇副社長 まず売上高の推移ですね。数字で見るより実感が湧くため、前年同月比のグラフを画面で確認するようにしています。費用科目の中ではウエートの高い、消耗品費と修繕費です。月間の売上高と比較して金額が突出していないかを確認し、不要不急の修理などを極力抑えるよう心がけています。

──『FX2』を導入してどんな点が変わったと実感していますか。

原口 会社の業績データを見るのが習慣になり、対策を施すサイクルが短くなりました。以前は忙しく仕事をこなしているから儲かっているだろうと高をくくり、いざ決算期を迎えてふたを開けてみたら……ということが何度かありました。『FX2』を利用して以降、異常値などの原因を追究するクセがつき、早期に打ち手を検討できるようになりました。1カ月を4週間に分けた表の作成を三浦さんから提案してもらい、1週間ごとの売り上げ見込みを書いて専務に提出している効果も大きいと思います。

──なるほど。

原口 板金加工は2週間前後の短期間の業務が多く、のんびり構えていたら仕事がなくなってしまいます。平島会計さんから経営者目線でアドバイスしていただけるのは、とても心強いです。

──外部機関からの評価はいかがでしょうか。

宮脇専務 3カ月に1度、メーンバンクを訪問し、直近の月次決算書を提出しています。「もう集計が終わったんですか」と驚かれることが多いですね。取引金融機関には毎年決算書を持参し、現状と業績の見通しを説明しています。定期的にコンタクトを取ることで、金融機関の担当者に安心感を持っていただいているのではと感じています。

──抱負をお聞かせください。

原口 強みである板金加工技術にいっそう磨きをかけ、さまざまな業務にチャレンジしていきたいです。そしてゆくゆくは工場を拡大し、より多くの従業員を雇用していきたいと考えています。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社鳥越製作所
設立 1989年4月
所在地 長崎県諫早市飯盛町平古場1488
社員数 12名
URL http://www.torigoe-s.jp

CONSULTANT'S EYE
巡回監査の徹底で計数意識を高める
税理士 平島 学 平島学税理士事務所
長崎県長崎市栄町6-3 三浦ビル2F TEL:095-826-6676
http://hirashima.tkcnf.com/

 鳥越製作所様とは平成元年の法人化を機にお付き合いをさせていただいています。きっかけは知り合いの司法書士からの紹介でした。消費税の導入時期であり、当初は手書きで記帳業務をされていましたが、取引の拡大にともない、『FX2』のご利用を提案しました。原口社長の数字を読み取る能力の向上スピードは目をみはるものがあり、今では取引金融機関に積極的に出向かれるようになっています。大きな理由としては、計数意識が高まり、自信を持って会社の業績を説明していただけるようになったためだと思います。

 鳥越製作所様は、品質管理の徹底と納期の厳守を通して取引先の信頼を獲得されており、厳しい環境下で堅実な経営を続けられています。もろもろの経営判断のベースとなっているのが『FX2』です。『FX2』に予算を登録し、売上高、粗利益の目標に対する達成度が翌月には確認できる体制を構築されており、《変動損益計算書》が役員会における欠かせない資料となっています。『FX2』を導入後間もないころは巡回監査で毎月おうかがいする際、持ち運びできる小型スクリーンを持参し、《変動損益計算書》や《科目残高一覧表》画面を写し、3名の経営幹部の方々に最新業績を確認していただきました。現在でもパソコンの画面に売上高推移グラフなどを表示し皆さまに見ていただくことで、一体感が生まれ、心構えが変わるという感想をいただいています。

 当事務所では翌月初旬の巡回監査完了(45日決算)をモットーに、翌月巡回監査率100%実践を目標に取り組んでいます。TKCシステムの活用面では、仕入先・得意先・担当者別に売上達成度を把握できる仕組みを設けることが当面の課題です。今後もTKCシステムの活用と経営助言を通して、鳥越製作所様の永続的発展をサポートしていきます。

掲載:『戦略経営者』2014年12月号