経営改善計画の進捗状況の把握に欠かせない「モニタリング」。正確なモニタリングを行うためには税理士のサポートなどが欠かせない。成功するモニタリングとは何かを探ってみた。

成功するモニタリングとは

 中小企業の金融支援を行うために創設された、認定支援機関による経営改善計画策定支援事業。当初、平成26年度末(平成27年3月31日)とされていた利用申請期限が撤廃された。

 この制度の内容を簡単に説明すると、中小企業が税理士をはじめとする外部専門家の支援を受け、経営改善計画の策定やその後のフォローアップに要する費用の3分の2(上限は200万円)を国が支援するというもの。対象となる事業者は事業内容や財務状況等に課題があり、金融支援を必要としている中小企業および小規模事業者。赤字企業にかぎらない。リーマンショック後の景気低迷を受けて設けられた中小企業金融円滑化法が平成25年3月末に期限を迎え、その後を引き継ぐ形で始まった。

 経営改善が必要な事業者は5~6万社あるとされ、そのうちの2万社を支える事業として位置づけられた。一般的に中小企業では経営改善計画を経営者自身が策定する余裕はなく、自社のみで金融機関との交渉をこなすのも容易ではない。そこで打ち出されたのが、税理士などの力を借りて経営改善計画を策定し、モニタリングを実施するという今年3月末までの期限付きスキームだった。期限撤廃の背景について中小企業庁金融課の赤松寛明課長補佐に尋ねてみた。

「日本経済全体は上向いてきていますが、円安による原材料・エネルギーコスト高などへの対応等の課題を抱える中小企業は多く、景気回復への道のりは道半ばです。そうした状況に鑑み、経営改善に取り組む中小企業を支援するセーフティーネットとして引き続き活用できるようにしました」

 申請期限の撤廃とともに、見直しがもう一点、支援対象事業者として「医療法人」(従業員300人以下)が追加された。従来、個人経営の医院が医療法人化すると中小企業施策の対象外になるという問題点が指摘されていたが、信用保証制度などでも医療法人をカバーできるように改めた経緯もあり、他の中小企業施策と足並みをそろえた措置だという。

 利用申請件数は26年度後半からペースが加速し、足元では7200件にのぼっている(平成27年3月20日時点)。件数は右肩上がりの一方、1件あたりの費用は低下傾向にある。中小企業庁では「より小規模の企業にまで制度の活用が進んでいるあらわれ」(赤松課長補佐)と見ている。

取り組みの成功例も

 経営改善計画策定後に求められる「モニタリング」とは、計画に対する進捗状況を管理することをいう。通常、四半期もしくは半期ごと、あるいは1年に1度といった頻度で金融機関に業績数値を報告する。自社の業績をタイムリーかつ正確に報告するためには、月次決算体制の構築が欠かせない。そのツールとして信頼性ある会計ソフトを活用し、自計化する必要がある。

「たとえば金融機関に融資を申し込むとき、会社の資金繰り表がないと金融機関は貸し出せません。自社の数字を正しく把握するための仕組みづくりは必須といえます」(前出の赤松氏)

 モニタリング期間中は仕入高、人件費の変動といった変化に対応するため、最低月に1度は会計事務所と打ち合わせを行い、新たに講ずる対策を検討することが求められる。金融機関に提出する「モニタリング報告書」や試算表はTKCシステムであれば出力できる。そして決算時は経営者自身が金融機関に赴き、決算数値、資金繰りの見通し、行動計画の進捗などを直接説明することが肝要だ。

 地元税理士会などと連携し、経営改善支援を進めている地域金融機関の取り組み事例も増えてきた。ある信用金庫では、中小企業にとって身近な相談相手である顧問税理士の関与が不可欠であるという認識のもと、地域の税理士との連携を進めている。研修会を開催して認定支援機関の役割や経営改善計画策定支援事業の内容を説明し、事業の活用を促進。計画策定にあたっては、経営者、顧問税理士、信用金庫の3者でミーティングを行い、実現性の高い計画策定を支援するとともに、経営改善計画策定能力の向上にもつながっているという。

 この事業のため当初準備された予算は405億円。消化が進むのはモニタリングが本格化するこれからだ。赤松氏はこう訴える。

「景気が上向きつつある今は経営改善に取り組みやすい環境にあると思います。資金繰りに窮していたり、財務状態に何らかの不安を感じている経営者の方は、顧問税理士やメーンバンクなどに早めに相談していただきたいと思っています」

(本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2015年5月号