主にシール・ステッカー類の印刷を手がけるラベルジャパン。中小企業の占める割合がとりわけ高い印刷業界にあって「顧客対応力」を武器に取引先を開拓してきた。社員の自主性を引き出すマネジメントを推進する髙橋仁社長と、営業部門を統括する大野努専務に利益を生む経営の勘所について語ってもらった。

製販一体のチームワークで顧客ニーズに応える

ラベルジャパン:髙橋社長(中央)

ラベルジャパン:髙橋社長(中央)

──印刷業を手がけられていますが、得意分野をお聞かせください。

髙橋 UVインキ(紫外線硬化型インキ)を用いた「UV印刷」を得意にしています。通常の印刷方法ではインキが乾くまでに数時間かかりますが、UV印刷ではインキが瞬時に乾くので、フィルム、塩ビなどの非吸収性の素材に印刷できるという特徴があります。

──どんな製品に使われていますか。

髙橋 メーンに手がけているのは商業印刷で、シール、ステッカー、クリアファイル、マウスパッド等に幅広く用いられています。シールでは電車やタクシーなどに貼られる交通広告、アニメキャラクターも増えています。昨年は「妖怪ウォッチ」シールの出荷が伸び、関連取引先の売り上げが前年比で約4倍になりました。

──売り上げの業界ごとの構成比は?

髙橋 CD、DVDを扱う音楽業界が20%、アニメ系が10%、大手印刷会社からの仕事が10%、残りの6割は商業印刷です。広告代理店、印刷会社、企画会社をはじめ、500社ほどと取引させていただいています。

──音楽CDではどの箇所に使われているのでしょうか。

髙橋 商品の透明フィルムに貼られるCMやドラマとのタイアップ、コンサート告知用のシールです。CDジャケットの印刷を専門に手がけている印刷会社は東京都内に5~6社あり、他のシール会社と競合になるケースもありますが、当社ではトップクラスの営業マンを担当につけているので、そうそう負けることはないと自負しています。

──競合時は技術力や価格で判断されるのでしょうか。

大野 そういった要素もあると思いますが、最終的には対応力で決まると考えています。日ごろの営業活動で当社を当てにしてもらえるような仕事をしているかどうかです。CDの告知シールの内容が決まるのは制作の最終工程ですから、生き馬の目を抜くようなタイトなスケジュールで作業を行わなくてはいけません。発売日の3週間前にデータを受け取り、2日後にはプレス工場に納品する場合もあります。営業、製造、生産の3者がいかに連携してお客さまのニーズに応えていけるかにかかっていると思います。

──社内にさまざまなプロジェクト活動があると聞きました。

髙橋 たとえば「新台プロジェクト」では専務の大野と常務の岡野が議長となり、新たに購入する機械を検討しています。候補が決まったら私にプレゼンしてもらうんです。プロジェクトメンバーが新台の性能、工賃の変化、製品サンプル等を網羅した詳細な資料を作成しています。印刷機はこまめにメンテナンスして使えば15年間ぐらい利用できるので、5年稼働して利益が出るのが予測できればGOサインを出すようにしています。社員には自分たちで勝ち取ったという意識が生まれ、機械を非常に大切に扱うというメリットもあります。

──設備投資をボトムアップで決めていると。

髙橋 設備投資だけでなく、会議の運営、部門計画の立案なども社員たちに任せています。役職社員が参加する営業会議を毎月開いていますが、私が参加するのは年初だけ。参加者を役職者に絞ることで、上司が部下に会議の内容を責任を持って伝達するようになり、社員間のコミュニケーションが活発になりました。

──イベントも盛んに行われているとか。

髙橋 ゴルフ大会、ダーツ大会、七福神めぐりなどで交流を深めています。私が誘うと強制参加のようになってしまうので、食事も含めて一切誘うことはしません。ゴルフをするメンバーは誰一人として誘っていないにもかかわらず16人にまで増えました。毎週水曜日、私の自宅に来て、ギターの練習をしている社員もいます(笑)。

リアルタイムの数字が緊張感をもたらす

──平成14年から『FX2』を利用されていますが、経理体制を教えてください。

髙橋 ベテランの経理担当者と女性社員の2名が伝票入力を行っています。『FX2』を利用する前は、経理担当者が手書きによる記帳を一手に担っていましたが、2人体制に改め、1人が休んでも滞りなく入力業務ができるようになりました。

──髙橋社長のパソコンにも『FX2』は登録されていますか。

髙橋 今は登録していません。会社の数字で気になる点がある時は経理担当者のデスクに行き、『FX2』の画面を開いて確認しています。「あの件どうなった?」とか「目標どおりぴったりだよ」とかいろいろなことを社員とコミュニケーションしながら確かめています。社長室に閉じこもっているより、その方が自分のスタイルにあっていると思います。

──業績でとくに気になる点は?

髙橋 目標に対する進捗度ですね。《変動損益計算書》画面からドリルダウンし売上高をグラフで表示させて、目標比、前年比の推移をよく確認しています。野口先生にご指導いただき、交通費や水道代などの費用科目は営業、製造部門に分けて管理していて、数値が極端に増えているときは入力した伝票にさかのぼり原因を調べています。なんとなく把握していた業績の推移が『FX2』の画面では明確に見えてくる。気づきを得られたり肝を冷やしたり、『FX2』はよい緊張感を生むツールになっています。

──目標はどのように決めていますか。

髙橋 毎年12月、各部門に指針、月ごとの売上目標、採用計画、設備投資計画を盛り込んだ新年度の計画を提出してもらっています。これをベースに野口先生と監査担当の吉川さんに財務面をシビアに指導していただきながら『継続MAS』で経営計画を立てています。近年では計画から大きくぶれることはなくなりました。

野口税理士 髙橋社長の目標を着実に達成する実行力、社員の方々が自主的に取り組むための仕組みづくりは、われわれも参考にしています。

──売り上げの季節変動なども加味されるのでしょうか。

髙橋 売り上げは季節によってあまり左右されません。当社がメーンにしているのは商業印刷ですから、イベントが頻繁に開催される年はキャラクターシールの販売が伸びるという特徴はあります。ミリオンセラーのCDが続出していた時代は音楽業界の比率が高くなり、それに危機感を覚え取引先の業界を意識的に分散させてきました。いまは業界の偏りがなくなってきました。

──売上目標を達成するための取り組みの一例を挙げてください。

髙橋 社長に就任して着手したのがパソコンの導入とOJTの仕組みづくりです。以前は取引先に提出する見積書の作成方法はトレーナー役の上司に任されており、社内で統一されていませんでした。そこで見積書作成をシステム化することにしました。ソフトウエア会社に外注すると高額になるため自社で開発し、標準化を実現しました。

──以前は営業マンによって見積金額がバラバラだったわけですね。

髙橋 ええ。システム化によりあらゆる材料の価格がデータベース化されたため、社員たちが原価を意識するようになり、利益を生む適正価格の範囲内で見積書を作成するようになりました。

──抱負をお聞かせください。

髙橋 かゆいところに手の届くきめ細かいサービスを提供し「ラベルジャパンスタンダード」と言われるぐらいの業務品質を確立していきたいと思っています。そして社員だけでなく、家族の人たちから「ラベルジャパンはいい会社だね」と言ってもらえる会社にしたいですね。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 株式会社ラベルジャパン
設立 1966年
所在地 東京都荒川区荒川8-5-14
売上高 15億8800万円
社員数 62名
URL http://www.label-japan.co.jp/

CONSULTANT´S EYE
目標達成のこだわりが差異の気づきを生む
監査部チーフマネージャー 吉川真由美
税理士法人ガイア
東京都北区西ヶ原3-48-4 TEL:03-3940-0831
http://gaia-tax.com/

 ラベルジャパン様は髙橋仁社長の陣頭指揮のもと、確かな印刷技術と優れた営業スキルをうりに発展を続けています。髙橋社長は営業マンとして確固とした実績を残し、指導力と温かい人柄から全幅の信頼を置かれ、先代社長から後継者として指名されました。バトンを受け継がれた当時は、財務内容に若干の不安を抱えながらも、業界内における確固たる地位から油断を感じるところもあったようです。

 社長がまず着手したのは「自立心」と「責任感」を養うための社員教育でした。そのために活用されたツールが『FX2』であり、現実の数字を確認しながら、目標を達成することの意義を説かれていました。毎月実施している「営業会議」の前に開催される「プレ営業会議」などの場を通して、行動計画を軌道修正しながら数字にこだわり、目標を達成されてきました。

 《変動損益計算書》などで前月あるいは前年同月とくらべ勘定科目残高の差異があるときは、役職社員が原因を追究し、目標達成のための計画を話し合っています。こうした取り組みで営業担当者は「損益分岐点」を把握し、営業現場での利益を生む交渉力に結びついていると思います。

 髙橋社長は当税理士法人の野口所長と年齢も近く、お互い情熱を持ち経営に取り組んでいます。2人が難題の打開策を議論している姿にはすがすがしさを感じます。これは社員を愛し、お客さまを大切にしているという共通点によるものだと思います。ラベルジャパン様への取材に同席し、髙橋社長の社員の方々に対する深い信頼と洞察力をあらためて実感しました。私も『FX2』の予算実績対比機能などをフル活用し、ラベルジャパン様の黒字経営を支援していきたいと考えています。

掲載:『戦略経営者』2015年5月号