鹿児島市の郊外に居を構える日水電気化学工業。創業67年という歴史あるめっき処理会社だ。構造的に厳しい環境が続くが、高い技術力と幅広い生産体制で生き残ってきた。その経営・財務戦略について、同社を束ねる船倉康弘社長と山口浩司副社長、山口砂和美監査役に、中村哲郎顧問税理士を加えて話を聞いた。

少量多品種への対応とフットワークの軽さが強み

日水電気化学工業:船倉社長(中央)

日水電気化学工業:船倉社長(中央)

──1948年創業と歴史のある会社ですね。

船倉社長 戦後まもなく、先代(敏氏)が鹿児島市街地(下荒田)で電気工事、充電、めっき処理の会社を設立したのがはじまりです。その後、排水処理などの分野で環境問題が持ち上がり、行政指導によって1980年に12社と共同で現在地(七ツ島)の工業団地に移転。亜鉛めっきやニッケルめっき、クロムめっき、すずめっきなどの、電流を流して表面処理を行ういわゆる「電気めっき」といわれるものを中心に、アルマイト処理(アルミめっき)や電解研磨、ショットブラストなど、幅広い分野のめっき処理事業を行ってきました。ちなみに、当社は九州で2番目にアルマイト処理をはじめた会社になります。

──そのような業態の幅広さが、日水電気化学工業さんの強みなのでしょうか。

船倉社長 そうだと思います。その強みを背景に、高度成長時代には、日本を代表するエレクトロニクスメーカーや鉄鋼メーカー、自動車部品メーカーなどと取引してきました。しかし、ご承知の通り、近年は製造業の海外移転が進み、日本のめっき処理業界にも逆風が吹いています。全国鍍金工業組合連合会の調べによると、めっき処理業者の数は平成元年に比べて半分に激減している状況なので、なんらかの特徴や強みがなければ生き残っていけません。その強みが当社の場合「日水にたのめば何とかなる」というような幅広く柔軟な生産体制なのだと考えています。加えて少量の注文にも丁寧に対応し、納期の早さにもこだわり、そしてISO14001を取得して環境対策も万全にすることなどで、顧客の信頼を得てきました。

──取引先の業態に変化はありますか。

船倉社長 やはり、エレクトロニクス関連や鉄鋼関連の仕事は目に見えて減りましたね。しかし、一方で自動車部品関連においては、当社の技術が認められ、受注を増やしています。いまでは、自動車部品だけで全体の約7割を占めています。

──どのような技術ですか。

山口浩司副社長 ステンレスにめっきする技術です。これは、2006年くらいからある大手自動車部品メーカーの加工のプロセスに使用されるようになりました。「当社のめっきが相性がいい」という評価でした。これが大きかったですね。昨年度は全取引の45%がこのメーカーとのものでした。

──それは経営の安定化につながりますね。

山口副社長 それがそうでもないんです。大手メーカーの場合は生産計画の見通しは立ちますが、そのほかは、固定客ではありますが、いきなりのスポット注文が多いので、先行き不透明感はぬぐえません。しかも、取引相手は約100社にのぼることから非常に細かい交渉と技術的対応が必要になります。だからこそ、前述したような少量多品種に対応する体制づくりと、フットワークよく事業を行うことが重要になってくるのです。

タイムリーな業績分析が有効な打ち手を可能にする

──ところで、中村哲郎(税理士)先生が顧問になられた経緯は?

山口砂和美監査役 私がたまたまあるTKC会員の税理士先生の息子さんと同級生で、そのつながりで中村先生の事務所をご紹介いただきました。なにしろ、それまでが手書きの伝票会計方式で経理を行っていて、作業的にも大変でしたし、なにより経営に必要なデータが見えないというのが悩みでした。これではダメだなと、2009年の8月から税理士法人ひまわりFCさんに財務を見てもらうようになりました。

──当初から『FX2』を導入されたわけですね。

中村哲郎顧問税理士 それ以前は予算もありませんでしたから、まず『FX2』の導入によって、きっちりと毎月の決算を行い、さらに『継続MASシステム』で単年度計画を作成して予実対比をしながらPDCAを回す体制をつくらなければと考えました。当事務所の谷村(淳税理士)がサポートさせていただきましたが、山口監査役がとても優秀なこともあり、ほんの数カ月でその体制を整えることができました。

──TKCシステムを導入されて良かった点は?

山口副社長 売上高や変動費、固定費など、各勘定科目が時系列に、しかもグラフとして見ることができますし、2年前、3年前の数字も簡単に呼び出せる。とても便利だと思います。あるいは、決算の着地点予測機能もかじ取りの指針になるし、もちろん予算と実績の比較数値は経営方針の決定に欠かせません。たとえば、当社の設備や備品は化学物質を扱う性格上、消耗しやすく、変更のタイミングにも気を使います。しかし、計数管理がきちんとできていれば、資金の余裕を見ながらまとめ買いをするなど対策がとれる。
 とにかく、『FX2』の導入は、ひまわりFCさんの毎月の巡回監査を含め、あらゆる意味でプラスになったと思います。

中村税理士 そういっていただけてうれしいですね。もともと山口副社長は、金融会社ご出身ということもあってご自分でおおまかな予算はつくっておられました。それが、TKCのシステムの思想と合致したのだと思います。また、山口監査役がとても詳細に科目を設定され、使用理由を入力されているのも良い。経費などに異常値が出ても何に使ったのかがはっきりしますからね。

山口監査役 「誰がどこで何に使った」というところまで細かく摘用明細欄に記入しています。そうすることで、無駄遣いが減るし、コスト意識も高まってきたと思っています。

若い世代の工夫と頑張りで100周年を目指す

──経営的に変化した点は?

山口副社長 以前は利益が出ると社員に還元したり設備投資をしたりと全部使っていたのですが、中村先生や谷村先生のご指導を受け、税金を払ってでも内部留保をし、自己資本を上げていくことが企業として大切であることを学びました。

──税法の帳簿の記載条件に準拠した会計帳簿、月次PL・BSなどを出力できる「制度会計タブ」を活用されているとか。

山口監査役 この機能によって、帳簿書類が会計事務所経由ではなく直接出力できるようになりました。従来のサービスに比べ、早く見ることができる上にペーパーレスにもなる。これら帳表を家で見ながらあれこれと思案しています。巡回監査に裏打ちされた信頼できる数字なので思案のしがいがあります。今後は、金融機関への提出資料としても活用できるのではと考えています。

──会社としての今後の方針をお聞かせください。

船倉社長 鹿児島というのは、ご存じの通り、そもそもがたばこやお茶といった農産地域であり、工業化という意味では歴史的にも遅れた県でした。しかし、高度成長時代から徐々に変わりはじめ、そのおかげで当社も工業化の波に乗り、先代から引き継いだ会社を存続することができたわけです。しかしもう私の時代ではありません。めっき業界も大きく変わりつつあります。後継者である山口副社長にバトンを渡し、若い世代に任せたい。新しい時代に通用するめっき処理業のあり方を模索し、今後、100周年を目指してがんばってもらいたいと思っています。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 日水電気化学工業株式会社
設立 1948年4月
所在地 鹿児島県鹿児島市七ツ島1-4-3
売上高 2億3000万円
社員数 29名

CONSULTANT´S EYE
細部にこだわる経理で経営に役立つデータを提供
税理士 谷村 淳
税理士法人ひまわりFC
鹿児島県鹿児島市東開町4-112 TEL:099-263-5191
http://www.himawarifc.com/

 日水電気化学工業株式会社様とは平成21年8月からお付き合いさせていただいています。

 顧問契約前までは、手書きの伝票会計方式でしたが、リアルタイムの数字が分からず経営戦略が立てづらいという悩みを抱えておられ、しっかりした経理体制の構築を目指そうと、お客さまの自計化・書面添付・予算作成・黒字化を重点的に取り組んでいる当事務所が税務顧問へのお誘いを受けた形でした。まずは、自計化をしようと『FX2』を導入し、船倉社長の娘さんであり監査役の山口砂和美さんとともに、経理のスタイルを作り上げていきました。

 山口監査役の、「経営の隅々まで把握できるような経理に」とのご要望のもと、細部にこだわった仕訳を行い、経営戦略に活用できる計数管理体制の構築にまい進しました。金融機関での勤務経験がある山口監査役は、経理自体の経験はありませんでしたが、資金に対する感覚は鋭く、ITリテラシーも高い方で、わずか数カ月の指導で、『FX2』を理解し、操れるようになられました。

 結果として、船倉康弘社長や山口浩司副社長といった経営トップ層に役立つデータを提供し、予算作成も行い、当事務所が目的としている未来会計の実践のお手伝いができたと思います。また、27年3月に実施された意見聴取では、調査省略通知書をいただく事ができました。仕訳帳、総勘定元帳、月次PL・BSなどがリアルタイムに打ち出せる『FX2』の新機能「制度会計タブ」もご利用されており、今後は銀行取引などに生かしていく予定です。

 同社は、60年以上の歴史を持つめっき会社ですが、自動車部品関連に強く、取引先には著名企業も数多く名を連ね、その技術力の高さには定評があります。電気めっきの分野では、幅広い注文に応えることのできる設備を所有し、多品種少量への受注対応と短納期を強みにされています。リーマンショックによる落ち込みもリカバリーしつつあり、今後の展開が楽しみです。当事務所におきましても、より精緻で迅速な経営データ提供を心がけ、同社の発展に少しでも貢献できればと思っています。

掲載:『戦略経営者』2015年5月号