世界遺産として「明治日本の産業革命遺産」が登録勧告されたのは記憶に新しい。そのひとつ三角西港のある熊本県宇城市で海運業を営むのが昭和物流だ。9隻の船舶を保有し、運航エリアは九州から北海道におよぶ。浦辺眞社長(72)は「船舶ごとの業績管理で利益を生む体質に変わり、対外的な信用力を高めることができた」と語る。

内航海運業のオーナーとしてバラエティー富む物資を輸送

昭和物流:浦辺社長(前列右)

昭和物流:浦辺社長(前列右)

──御社の手がけている事業は「内航海運」と呼ばれるそうですね。

浦辺社長(以下社長) 内航海運とは、国内の港から港へ船舶で荷物を運ぶ業務を指します。物流業というとトラックや鉄道がまず思い浮かぶかもしれませんが、日本では古くから船による輸送が盛んで、今も全国で5300隻の船が国内貨物輸送の4割を担っています。

──今年創業30年を迎えます。

社長 創業当初は昭和海運商事という社名で、海運仲介と損害保険代理店業を手がけていました。平成7年に特殊タンク船「旭眞丸」を建造、内航海運業に進出し、現在、社船(自社運航の船)7隻、裸用船(貸借用の船)2隻のトータル9隻を保有しています。

──どのような物を運搬されているのでしょうか。

社長 鋼材、石炭、食油、塩酸などです。食油、塩酸は景気変動にあまり左右されないので、安定した用船料(船の貸出料)収入を見込めます。
 エリアに関していうと、社船ごとにルートは決まっており、ほぼ全国をカバーしています。たとえば鋼材を運ぶ一般貨物船の「航星丸」と「将星丸」は、大阪港で積んで北海道、釜石、名古屋、広島、小倉などを回るといった具合です。

──一般的な船舶の寿命は?

社長 一般貨物船(新造船)の耐用年数は14年ですが、修繕して6~8年後まで使用しつづけることも珍しくありません。1隻造るのにおよそ7億円かかるので、リプレース時期の見極めは経営者の手腕が問われるところです。

──業務の受注ルートを教えてください。

社長 内航海運業界の仕組みは、発注者である「荷主」がいて、「オペレーター」とよばれる元請けと契約を結びます。その後、オペレーターから当社のような「オーナー」に業務の依頼が入り、長期用船契約を結びオペレーターから用船料をいただくというのが一般的です。オペレーターのほとんどは荷主と資本関係にあり、子会社化されています。

──建設業界同様、ピラミッド型の構造になっているわけですね。

社長 ええ。取引しているオペレーターは東京、大阪などの都市部にある会社が多いですね。当社は全国規模で運航実績があり、独自のネットワークからさまざまな情報を入手できるのが強みだと思います。

──約60名の社員が働かれていると聞きました。

社長 内訳は海上(乗組員)55名、陸上(管理、事務)7名です。乗組員の一般的な業務サイクルは2カ月ぐらい乗船した後、3週間のまとまった休暇を取ります。船員となかなか顔を合わせる機会がないため、出張した際、社船が港に停泊しているときに立ち寄り、コミュニケーションをとるようにしています。なかんずく50代後半のベテラン船員の比率が高く、大勢の社員が10年以内に定年退職するのが見込まれるため、平均年齢をいかに引き下げていくかが今後の課題です。

──何か手を打たれていますか。

社長 海員学校から卒業生を紹介していただいて若手社員を2名採用しました。そのほか海運局、船員経験者にも声をかけ、積極的に募集活動を行っています。先行投資になりますが海技士資格を持たない社員も雇っており、ベテランの船員と乗船させ技術を習得してもらっています。

──企業経営で日ごろ念頭に置いている点をお聞かせください。

社長 当社では「コンプライアンスの周知徹底とクオリティーの高い安全輸送」をモットーに掲げています。船舶にはGPS、居眠り防止器をはじめとした安全機器を搭載しており、海運に関わる法令を順守し、高品質の物資を確実にお届けするのがわれわれの使命です。それが結果として取引先からの信用獲得につながると考えています。

月次決算体制の確立が融資姿勢の変化を生む

──業績管理に『FX2』を活用いただいています。

社長 山口(員義税理士)先生と顧問契約を結んだのが平成14年で、ほぼ同時期に『FX2』をご提案いただきましたので、利用しはじめてかれこれ13年になります。以前は伝票に手書きで取引を記録していたので、記帳方法はだいぶ変わりましたね。

──日々の伝票入力の流れを教えていただけますか。

浦辺経理部長(以下経理部長) 本社事務所計上分の取引に加え、9隻の船舶で発生した取引の領収書を毎月初めにいったん回収し、集計してから『FX2』に入力しています。月間の仕訳枚数は600~700枚になります。

山口顧問税理士 製造原価科目には「港費」「係船料」「給水料」といった海運会社ならではの勘定科目を登録し、運用していただいています。

──航海に出ている船舶からどのように領収書を回収されているのでしょう?

経理部長 荷役などで各地の港に停泊しているとき、乗組員に飲食店での飲食代、スーパーでの食品、生活用品購入代など、1カ月分の領収書をまとめて郵送してもらうんです。船には調理室があり、食材を買って料理をつくることもできます。翌月のできるだけ早い時期に、当月分の領収書を送付してもらうようにしています。

──なるほど。そうした日々の取引以外では船舶の建造、購入、修繕費は大きな額になると思いますが……。

社長 ふだん一番注目しているのは修繕費の金額ですね。船舶には5年ごとの「定期検査」と、その間に行われる「中間検査」があり、古くなるほど費用がかさみます。20年使用している船舶だと1000万円後半~2000万円ぐらいかかることもあります。修繕費はオーナーが負担するため2隻の裸用船は対象になりませんが、7隻の検査、修繕時期を分散させるよう心がけています。

──『FX2』のどの機能が役立っていますか。

社長 山口先生にご指導いただき、稼働している9隻の名前を部門名として『FX2』に登録し、船ごとの売り上げ(用船料)、人件費、経費を把握しています。船同士の実績比較のほか、前月にくらべて異常値はないか確かめられるようになりました。船舶をリプレースする時期など、実績をもとにさまざまな計画をシミュレーションできるようになり、ありがたいと感じています。

──活用している帳表はありますか。

社長 毎月、金融機関に《科目別残高一覧表》を自主的に提出しています。残高の著しく変化した科目にはその要因をコメントとして載せているので、問い合わせが入ることもありません。先日も取引金融機関の融資担当者の方が来て、新たな資金需要の案件がないか来期の事業計画の中身について質問を受けました。こちらからお願いするのではなく、金融機関から融資の打診をしていただけるようになり、月次決算で信用力が高まったと感じています。

経理部長 会社の財務資料の提出を求められたとき、どの会計ソフトでも時間をかければ作成できるはずですが、必要な資料をすぐに印刷できるのが『FX2』の優れている点だと思います。

──今後の見通しはいかがでしょう。

社長 景気が少しずつ上向いてきているためか、ここ数年は年間を通して忙しかった印象があります。今期(27年7月期)は8億円強の売り上げを見込んでおり、これを将来的に10億円まで引き上げたいと考えています。そして売上高にそぐう収益をあげたいですね。

(取材協力・熊本センター山本奈美/本誌・小林淳一)

会社概要
名称 昭和物流株式会社
設立 1985年8月
所在地 熊本県宇城市三角町三角浦1160番地179
売上高 8億円(2015年7月期見込み)
社員数 62名
URL http://www.showabutsuryu.jp/

CONSULTANT´S EYE
システムをフル活用し“攻めの経営”を全力で支援
山口員義税理士事務所
熊本県宇土市北段原町16番地3
TEL:0964-26-1515
http://yamatax.tkcnf.com/

 昭和物流様とは平成14年8月からお付き合いをさせていただいており、関与当初に『FX2』の利用をおすすめし、戦略的な経営を推進するためにご活用いただいています。自計化が軌道に乗ってからは、月次監査後、システムから出力した試算表を携え、浦辺社長自らメーン銀行を訪問し、最新業績に関して説明をされています。メーン行以外の金融機関にもコメントを入れた試算表を持参したり、メールで送付されるなどしています。

 リーマンショック、東日本大震災以降、内航海運業界の景況感は徐々に持ち直してきているものの、決して安穏としていられる状況ではありません。しかしながら、昭和物流様は「地域のリーダーカンパニー」を目指すべく、自社船7隻、マンニング船2隻を運行し、攻めの経営を続けています。その「攻め」を強固に支援できるのが『FX2』の部門別管理機能です。個々の船舶を部門管理することにより、各船舶の利益を把握し、修理やリプレース時期の判断に役立てられています。

 決算報告時には、『継続MAS』システムを利用して中期経営計画および短期経営計画を作成し、『FX2』に予算として登録しています。そして、毎月の巡回監査では試算表だけでなく、《予算実績比較表》を活用して、予算と実績の差について検証しますが、浦辺経理部長の計数感覚は大変優れており、突発的な事故や修理がないかぎり、ほぼ予算通りに推移しています。

 当事務所ではすべての関与先様に対し、正確な伝票の起票が真正な決算書につながるということを常日頃からお伝えしています。そのため『巡回監査支援システム』を利用して、伝票にもれなく目を通し、信頼性ある決算書の作成に努めています。これからもTKCシステムを活用し、昭和物流様を全力でサポートしてまいります。

掲載:『戦略経営者』2015年7月号