不正行為等の事実や兆候があったとき、その情報が経営層に速やかに伝わる「内部通報制度」を新たに設けたいと考えています。実効性のあるものにするためには何が必要でしょうか。(製造業)

 内部通報制度とは、企業や団体において、法令違反や不正行為などの事実、またはそのおそれのある状況を知った者が、通常の業務ラインとは別に設けられた通報受理窓口(以下、通報窓口)あてに通報する仕組みのことをいいます。現在、ほとんどの大企業はこの制度を採用していますが、中小企業でもその重要性が意識されてきています。

 通報窓口の設け方については、コストに見合う必要がありますので、会社の規模によっては社長をはじめとする役員が内部の通報窓口になることも検討に値します。

 社外窓口として弁護士を起用することも一般的に行われていますが、弁護士の効用としては、事案の整理と通報者の安心があげられます。事案の整理とは、最初に入ってくる情報を整理して内部通報として処理すべきものとそうでないものを仕分けることです。これはスキルを要する作業ですので、社内の従業員を教育するとなると過大なコストがかかる可能性があります。通報者の安心とは、通報者が報復などを心配せずに通報できるということです。特に弁護士には通報者の氏名等を明かすとしても会社には匿名で報告するという仕組みを取り入れていれば、通報者の安心感はより高まります。

 通報手段としてはメールを推奨するべきです。ファックスや電話では情報が漏れる可能性を払拭(ふつしよく)できません。一方で、メールであれば専用アドレスを設定することも容易なため、中小企業にとっては有用です。

経営トップの意思表明が大事

 通報窓口担当者から上部機関への報告については、「すぐに報告」「通報窓口で調査して報告」という2パターンがありますが、中小企業では前者が適切な場合が多いと思います。通報があれば関係者の聞き取り調査を行うことになりますが、誰をどういう順番で行うかなどを決めてスムーズに実施するためには、迅速な上部機関の判断・指示が必要になることが多いからです。先ほど述べた通報窓口と同様に、会社の規模によっては社長等にすぐに報告することにして、社長等がこれらの調査を行った方がいい場合もあります。

 また、通報者に対する不利益や嫌がらせが行われていないか監視することは非常に重要です。特に中小企業では通報者の特定は大規模な会社に比べて容易ですので、通報者の匿名性を維持していても通報者に報復が行われている可能性はあります。会社および社長は、そのようなことは断固として許さないという態度を表明することが必要です。

 内部通報制度を実りあるものとして運用するためには、会社の上層部の意識が重要ですが、特に中小企業では経営トップの考えや意見表明が制度の成功、不成功を決めるといっても過言ではありません。内部通報制度は、不祥事が外部に発覚する前に社内で問題解決し、同じ不祥事が起こらないようにするという自浄作用のためには必要不可欠なものです。外部に報告、発表が必要な場合でも十分な準備をしたうえで行うか否かで会社に対する評価、評判は全く異なります。

 これは大企業であれ中小企業であれ同じです。経営トップとしては、自らこの制度の重要性を認識したうえで、社員に対して内部通報制度の意義を説明、啓蒙(けいもう)するとともに、不祥事の通報は義務的なものであることを含めて内部通報制度を積極的に活用することを促すメッセージを発していくべきです。

掲載:『戦略経営者』2015年11月号