有限会社諸富商店

大分県杵築(きつき)市に本社工場を構え、県内10カ所に「ファッションクリーニングもろとみ」を展開する諸富商店。ルーツは昭和15年に創業した洗い張り屋にさかのぼる老舗だ。諸富正徳社長は河野(こうの)房雄顧問税理士のアドバイスのもと財務体質の強化を図り、独自に磨きあげた洗濯技術を武器に数多くのリピーターをかかえている。

どんなしみも落とす駆け込み寺的存在

──「心洗(しんせん)」シリーズが好評と聞いています。

諸富正徳社長

諸富正徳社長

社長 心を込めて洗い、心を込めて仕上げるというコンセプトから命名したサービスです。30年近くクリーニング業に携わってきましたが、クリーニング業の本来のサービスとは何かずっと自問自答してきました。行き着いた結論は、お客さまからお預かりした衣類はきれいにしてお返しするということ。心洗はクリーニングの原点に立ち返り、手仕上げにこだわったデラックスコースです。
 店頭でお預かりした時点で専用の袋に入れ、私ともうひとりの女性社員が1着ずつデザインや風合いを確かめ、最適な方法で仕上げています。工場ではラインから除いて作業を行い、通気性のある包装に入れてお客さまにお渡ししています。

──背広を水洗いするサービスもあるとか。

社長 背広というとドライクリーニングに出すのが一般的ですが、仕上がったあと着てみてゴワゴワしたり、すっきりしないことがありませんか。それは汗の成分が残り、固くなるからなんです。でも水洗いすると新品のように柔らかく仕上がる。背広を水洗いするには型崩れをおこさない立体整形によるアイロンがけの技術が求められます。リピーターの方がとても多いサービスです。

──特殊な洗剤を用いているのですか。

社長 型崩れを防ぐ洗剤を使用し、独自に考案した洗い方を採用しています。具体的には、水洗い中に数回静止する洗浄プログラムを洗濯機に設定し、衣服へのダメージを極力抑えています。洗浄方法を柔軟に設定できるのは洗濯機にマイコンが搭載されているためです。当社は水洗い仕上げ品質基準コンテストで、大手衣料メーカーの品質評価5点満点中、4.7点をいただいています。

──しみぬき料金はとられていないとのことですが……。

工場風景

社長 はい。以前はいただいていましたが、万一、しみが落ちなかったとき、お客さまは納得するか常々考えていました。しみぬきは技術力と経験がものをいう、とても難易度の高い作業です。1点のしみを落とすのに30分以上かかる場合もあり、時間と手間を考えると明らかに赤字です(笑)。
 他店で落ちなかったしみの付いた衣類を持ち込まれる方も大勢いらっしゃいます。どんなに手間がかかろうがお預かりした衣服類をきれいにするのがクリーニング店の本分ですから、お客さまに喜んでいただけるのは仕事冥利(みょうり)につきます。

──どこで技術を習得されたのでしょうか。

社長 しみぬき技術で定評のある方が福岡にいて、毎月1回、2年間通いつづけて学びました。しみぬき剤をアレンジするなど社員にもしみぬき方法を教え、技術力向上に努めています。

──集客のため取り組んでいることは?

社長 一番大切にしているのはお客さまの口コミです。極論すると、お客さまに来店してもらえるかどうかは店員の接客次第。年に1回、全店舗のスタッフと工場で働く従業員を集めて研修会を開き、業務に対する心がまえと立ち居振る舞いなどについて学んでもらっています。
 毎月のようにチラシをつくり、安売り競争に加わっていた時期もありました。でもあるとき気づいたんです。大手チェーン店に対抗して価格で勝負しても堂々巡りだと。上得意さま向けに年2回、半額セールのご案内をお送りしていますが安売りはやめました。

──ピンポイントで案内を送るにはデータベースが必要でしょう。

社長 各店舗のレジがシステム化されていて、売り上げ順に表示できるようになっています。杵築市における当社のシェアは60%ぐらいあり、会員制度を設ければ年会費で安定した収入を見込めますが、あえて採用していません。

2つの指標を注視し計数管理を進める

──河野房雄顧問税理士とは、長いお付き合いをされているそうですね。

社長 社長に就任したのとほぼ同じころに税務顧問をお願いしたので、20年ぐらいになります。以前の顧問税理士は年に1回来社して領収書などの書類をまとめて預かっていくやり方で、いわゆるどんぶり勘定でした。河野先生からは顧問契約当初、決算書の見方や減価償却の仕組みなど、会計についていろいろ教えてもらいました。

──『FX2』を利用されはじめたのも同じ時期ですか。

河野房雄顧問税理士

河野房雄顧問税理士

社長 河野先生と顧問契約を結んで5年たったころからです。それまでは長年、母が手書きで経理業務を行っていて、期末を迎えるまで利益が出るかどうかはっきりしませんでした。今年はいいとか悪いとか漠然とつかめていましたが、そうした状態から脱却しないといけないと思ったんです。当時は損益計算書や総勘定元帳などまるで目にしたことがなかったですから。 

河野 従業員の方がタイムカードを打刻し勤怠管理をされていて、毎月の給与計算が専務である奥さまの負担になっていました。まず、タイムカードと連動できる『PX2』のご利用を提案し、その後『FX2』をお勧めしたという流れです。

──自計化して変わった点は?

諸富久美専務

諸富久美専務

専務 毎月、私1人で給与計算業務を行っていますが、『PX2』を利用する前は勤務時間の集計に2日ほどかかっていました。『PX2』にデータ連動できるアマノ社の勤怠管理ソフト付きタイムレコーダー『タイムパック』も利用しているので計算ミスを防げ、時間短縮につながっています。

社長 財務面では日ごろから《変動損益計算書》で業績の推移を確かめ、決算の5カ月前からこのぐらいで落ち着きそうという予測ができるようになりました。前年同月と比較して急激な変動のある場合は原因を調べられるのがいいですね。例えば修繕費が突出している月があるとき、看板を全店舗で作り替えたためだったとか仕訳までさかのぼって要因を突き止めています。

──特に注目している指標は?

社長 変動費の中で比率が最も高いのが労働分配率で、60%をこえないよう気を配っています。それと流動資産。河野先生から財務体質を強くするため流動資産を厚くしておくようにアドバイスをいただきました。ズボンプレス機や乾燥機などの機械設備を定期的に切り替えるためにはまとまった資金が必要です。新しい機械に買い換えるのか修理しながら使用しつづけるのか、コスト面でどちらの方が得策か巡回監査のときに塚本さんと話し合っています。

塚本 毎月20日前後に訪問し、監査後に社長と面会して前月の業績を報告しています。設備投資をする際は、流動資産の数値と金融機関の借り入れ条件を勘案して検討しています。

社長 塚本さんにはこの領収書は経費になりませんとか厳しくチェックしていただいています。なあなあの関係に陥ってはいけません。月次の業績を把握できているためか、金融機関から悪くない融資条件を提示してもらえることも結構あります。

外観

──抱負をお聞かせください。

社長 現状、直営7店舗、取次店3店舗を設け、杵築市の本社工場まで効率よく運びスピーディーに仕上げられるエリアで展開しています。人口減少など厳しい経営環境にありますが、目指しているのは地域のみなさまから愛される地域一番店にすることです。かつ、流動比率を高めて財務体質の強い会社にしていきたいと考えています。

(大分センター・勝田浩幸/本誌・小林淳一)

会社概要
名称 諸富商店
創業 1940年12月
所在地 大分県杵築市大字南杵築1656-1
社員数 40名(パート含む)
URL http://www.morotomi-c.jp/

CONSULTANT´S EYE
自計化が業務を効率化し未来志向の経営に変化
河野房雄税理士事務所 顧問税理士 河野房雄
大分県速見郡日出町3858番地2
TEL:0977-73-2286
http://kohno-fusao.tkcnf.com/

 諸富商店さまとのお付き合いは、前任の顧問税理士事務所の廃業に伴い始まり、すでに20年がたちました。諸富商店さまの創業は昭和15年と古く、高い技術力が要求される「シミ抜き」サービスをうりにされています。今では廉価商戦に巻き込まれない地域のブランド店として確固たる地位を築かれています。

 諸富正徳社長が3代目の社長を継がれ、経営が軌道に乗ったタイミングで『FX2』と『PX2』のご利用を提案しました。日々の入力は専務が一手に担われていますが、アマノ社の勤怠管理システムから従業員の出勤怠情報を自動で『PX2』に連動できるため、給与計算業務の簡素化を図ることができました。経理と給与計算業を手書きで行われていたころと比べると、諸富社長と経営全般についてじっくりお話しする時間を確保できるようになったと感じています。毎月の巡回監査は塚本監査担当にまかせ、私は毎年9月末に開催している決算報告会で社長と面談しています。

 当期末の利益額や納税額は期中におおよその額を把握できているため、業績報告の時間は短時間にとどめ、社長の思いや来期以降の展開をうかがい計画を立てる時間に多くを費やしています。財務面で特筆されるのは流動比率、当座比率が極めて高く、自己資本比率も厚い点です。工場で使用されている機械設備は高額な製品が多く、長期的な視野で設備投資計画を立てられており、突然の機械の故障などに柔軟に対応するため、流動資産を潤沢にしておくことは重要ととらえています。

 今後は部門別業績管理あるいは詳細な顧客分析の仕組みの導入や、社長も念頭に置かれている経営のバトンタッチを良好な経営状態で実現できるようご支援していきたいと思います。

掲載:『戦略経営者』2017年3月号