いまやPRは企業側が能動的に仕掛けるもの。予算をかけずに自社の商品・サービスの知名度を一気に高める手法を紹介する。

プロフィール
かみおか・まさあき●フロンティアコンサルティング代表取締役。1975年生まれ。27歳で戦略PR、ブランド構築、コンテンツマーケティングのコンサル会社を設立。これまで三井物産やSONY、三菱鉛筆など200社以上の広報支援を行う。 また、放送作家として「スーパーJチャンネル」「めざましテレビ」など人気情報番組の企画・構成を担当。著書にAmazonベストセラーランキング1位(広告宣伝部門)を獲得した『共感PR』(朝日新聞出版)がある。
いまどきの広報戦略

 テレビや新聞といったマスメディアに、自社の商品やサービスが取り上げられたら、その宣伝効果は計り知れない。多額の費用を投じてテレビCMなどのマス広告を打たなければ商品は売れない、というのは過去の話。広報(PR)活動を通じてメディアを動かすことができれば、お金のない中小企業にだって一大ブームを巻き起こすことも不可能ではないのだ。なにしろテレビ局や新聞社の側から取材に来てくれるのなら、料金はほとんど掛からない。もちろん、プレスリリースを送り続けるといった手間は必要となるが、その費用対効果はバツグンだ。

 とはいえ、あまり知名度のない中小企業の場合、全国ネットのテレビ局や五大紙(読売新聞や朝日新聞など)といったマスメディアにいきなり通り一遍の内容だけを記したプレスリリースを送り付けたところで、そう簡単には取り上げてくれないだろうし、取り上げてもらったところでその宣伝効果は限定的だろう。

「まずはネットを騒がせる。それが、いまどきの広報戦略のセオリーです」

 と語るのは、PR会社・フロンティアコンサルティング代表の上岡正明さん。実は近年、テレビの報道・情報番組などの制作にあたっているスタッフ(ディレクター)が〝ネタ探し〟のうえで一番の情報源にしているのがインターネットである。ネットで評判になっているかどうかが、「番組で何を取り上げるか」を考えるうえでの極めて重要な判断材料の一つになっているのだ。

「例えば『めざましテレビ』や『スーパーJチャンネル』などの情報番組で自社の商品・サービスを紹介してもらいたいと思ったら、まずはネットを騒がせることが近道となります」

「表紙から虫が消えた」でPR

 上岡さんは、企業PRのコンサル業を営む一方で、テレビの放送作家としても活躍している。だから『めざましテレビ』などの構成会議に出ることも多いのだが、一昔前に比べてだいぶ様子が変わってきたと感じている。

「以前は、『スポニチ』や『週刊女性』とかをめくりながら、『次はこれをやりましょう』というような話し合いがなされていましたが、いまはパソコンやスマホを見ながらネタを探している状況です。例えば『ヤフーニュースで紹介しているこのパンケーキ屋さんを取材してみよう』とか『このグノシーのネタがおもしろい』といった会話がなされています」

 つまり以前のテレビは「新聞の2次メディア」的な存在だったが、いまや「ネットの次にテレビがある」状態になっているわけだ。そう聞けば、まずはネットで評判になることがPR戦略上いかに重要であるかが分かるだろう。

 実は上岡さんは今から3年ほど前、ネットからテレビに情報を波及させていく手法によって、「ジャポニカ学習帳」のPRを成功に導いた。

 製造元のショウワノート(富山県高岡市)から「看板商品であるジャポニカ学習帳が45周年記念を迎えるにあたり、このことをPRしてもらいたい」と依頼を受けた上岡さんがネットを騒がせるためのネタとして注目したのが、「ジャポニカ学習帳の表紙から、昆虫が消えた」という話だった。2012年のリニューアルを機に、カブトムシやチョウといった昆虫の写真を表紙にあしらったものは姿を消しており、すべて花の表紙に切り替わっていたのだ。昆虫の表紙をやめたのは、保護者から「娘が昆虫の写真を気持ち悪がっている」というクレームが寄せられたのがきっかけだったという。

「この話をショウワノートの人からはじめて聞いたとき、私自身、大きな衝撃を受けました。と同時に、むかしジャポニカ学習帳を愛用してた大人たちが強い関心を抱くであろう格好のPRネタになると直感したんです」

「ヤフトピ」からテレビに

 その後、上岡さんはあくまで「45周年を迎えること」を前面に押し出しながらも、昆虫の写真が消えた事実についても軽くふれたプレスリリースをメディア各社に発信。すると、ある新聞が「ジャポニカ学習帳がトップブランドを維持している理由」といった切り口で記事を掲載した。そのなかに「昆虫の写真が気持ち悪いという声がある以上、時代のニーズに合わせて取りやめないと生き残れない」という内容の話が記されていたことから、それがすぐにネット上の話題になった。

「その新聞のウェブ版(電子版)にも記事が掲載されたことから、ツイッターやフェイスブックなどのSNS経由で情報を拡散する人たちが現れました。さらに、ある芸能人が『昆虫が気持ち悪いってどうなの?』とツイッターで疑問を投げかけたことが起爆剤となって、賛否両論の議論がネット上で巻き起こったんです」

 こうなると、ほかのウェブメディアも黙ってはいない。俗にまとめサイトと呼ばれる「NAVER(ネイバー)まとめ」や、「withnews(ウィズニュース)」などのネットニュースで取り上げられ、やがて日本最大級のサイト「ヤフージャパン」のトップページにあるニュース欄、いわゆる「ヤフトピ」で紹介されるにいたった。

 そして、このネタはテレビにも飛び火していった。

「ヤフトピで話題をさらうと、間違いなくテレビも追いかけ始めます。その後2カ月間のうちにテレビの10番組くらいに取り上げられました」

 あるテレビ局がこの話題を取り上げれば、また別のテレビ局が取り上げる。さらには複数の新聞・雑誌が記事にするといった具合に、「メディア連鎖」が起きていった。結果的に6000万人くらいのユーザーの目にとまったはずだ、と上岡さんは試算する。つまり国民の約半分だ。

「これと同等の効果を得るためには、それこそ何億円もの費用をかけてテレビCMを打つ必要があるでしょう。ところがネットを騒がしてテレビなどのマスメディアでたびたび取り上げられれば、ほぼゼロに近い予算でそれが可能になるのです」

「共感」がキーワード

 はじめにネットニュースやSNSなどの「ウェブメディア」をザワつかせ、つぎにテレビや新聞など旧来の「マスメディア」を巻き込んでいく──。つまり新・旧メディアを使ったハイブリッド戦略こそが、いま最も効果的なPR手法であるというのが上岡さんの持論だ。ここでの重要なキーワードになるのが、「共感」だという。

「誰かに話題にされない限り、商品やサービスは世の中に広まりません。PRにおいて最も大事なのは、共感を呼ぶパワーです」

 ではどうすれば、自社の商品・サービスを人々の共感を呼ぶ情報に落とし込んでいけるのか。上岡さんがそのための考え方を体系的にまとめたのが、「8×3の法則」である(『戦略経営者』2017年11月号16頁・図1参照)。

「8」にあたるのが、①新規性②優位性③意外性④人間性⑤社会性⑥貢献的意義⑦季節性⑧地域性の8項目。この8項目のうち、どれに該当するかを考えていくなかで、自分たちがPRしたい商品・サービスの強みを洗い出していく。

 そして「3」にあたるのが、A.社会、B.人(ターゲット)、C.メディアの3項目である。社会が求めている情報か、ターゲットとなる消費者に本当にアピールできる情報か、メディアが取り上げたくなるような情報か、これら3つの視点で「8」の性質を客観視して確認していく。

「この『8×3の法則』をもとに自社の商品・サービスの強みを整理することで、プレスリリースなどを通じた情報発信がしやすくなります」

 ここから、「8」における8つの項目について詳しく見ていこう。

【①新規性】その商品・サービスに「ナンバーワン」「オンリーワン」といえる何かがあるかどうか。例えば、着物のあまった布で指輪を作っているベンチャー企業であれば、その指輪を新郎新婦が交換し合う結婚式を企画して、「日本初」の取り組みとして情報発信すれば、メディアも注目するネタになる。

【②優位性】競合や既存の商品・サービスと比べて明らかに違っていたり、優れている付加価値があるかどうか。ショウワノートのジャポニカ学習帳なら、「昆虫や花をあしらった表紙のノート」というブランディングを45年かけて築いている点に優位性がある。

【③意外性】その商品・サービスに「へぇ」と感心したり、「え?」と驚くインパクトがあるかどうか。例えば、渋谷のあるお弁当屋さんが、ご飯(ライス)の代わりにブロッコリーを入れるようにしたところ、行列のできるお店になった。なぜかと言えば、「ご飯だと太る」というダイエット志向の女性に大人気となったからである。こうした「へぇ」という意外性が、人々の興味を引きつける。

【④人間性】商品開発や販売などに深く関わる人や経営者のエピソードやストーリーがあるかどうか。消費者の感動を呼ぶ「新商品の誕生秘話」などがあれば、それがPRのネタになる。

【⑤社会性】世の中の流行やトレンドに重ね合わせることで、人々の興味や関心を引くことができるかどうか。最近なら、オリンピック、外国人観光客(インバウンド)、働き方改革などのトレンドに関係するネタなら、メディアに取り上げてもらいやすい環境にある。

【⑥貢献的意義】その商品・サービスについて、社会や世の中の問題解決に役立つことがないかどうか。例えばアルコールゼロのビール系飲料なら、「悲しい交通事故を減らしたい」というのが貢献的意義となる。

【⑦季節性】季節との関連性がある、またはクリスマスなどの記念日に絡んだテーマがあるか。例えばバレンタインデーの時期に、せんべい店がチョコレートの代わりに「愛のメッセージを書けるせんべい」を売り出せば、それが話題となったりする。

【⑧地域性】その地域限定の特徴があるかどうか。「ご当地ラーメン」など、地域性に着目した情報に消費者は関心を持つ。

SNSの利用も有効な手

 これから広報活動に力を入れようと考えている中小企業に対して上岡さんは、「8×3の法則」をもとにプレスリリースを作成し、それをまずはネット上の「1次掲載メディア」に送ることを勧めている。1次掲載メディアとは要するに、自前で書いた記事をネットニュースなどに掲載しているサイトのことで、朝日新聞デジタル、マイナビニュース、みんなの経済新聞ネットワーク、ねとらぼ、RBBTODAYなどが代表的だ。その1次メディアで話題になれば、「2次掲載メディア」であるキュレーションサイト(グノシー等)やポータルサイト(ヤフー等)のニュースに転載される。さらにそこでも多くの人に読まれる記事であった場合、テレビで露出される道が開けてくる(同17頁・図2参照)。

 また、SNSもネット上に情報拡散するための有効なツールとなり得る。例えばスイーツ好きの人の周りには、同じスイーツ好きの仲間が多い。誰か一人が商品の写真をフェイスブックやインスタグラムなどにアップしたら、一気に拡散される可能性があるのだ。

「2年くらい前に、都内のある飲食店のローストビーフ丼がブームになったのも、ご飯が見えないほどに盛られたローストビーフが写真映えするということで、来店客がつぎつぎにSNS上に画像をアップするようになったからです。そこから火が付いて、ネットのニュースやテレビなどにも紹介されていきました。今はそういう時代であることを、中小企業の経営者もしっかり意識しておくべきでしょう」と上岡さんは話す。

(本誌・吉田茂司)

掲載:『戦略経営者』2017年11月号