リテールに軸足を置き、国内の中小企業の海外展開などにも力を注ぐりそなグループ。2003年に注入された公的資金も12年で完済し、いまや自己資本の厚い優良金融機関として顧客の信頼を得ている。りそなホールディングス、りそな銀行の東和浩社長に石岡正行税理士が話を聞いた。

プロフィール
ひがし・かずひろ●1982年4月入社。2003年りそなホールディングス執行役財務部長、りそな銀行執行役企画部(財務)担当。2005年りそな信託銀行社外取締役。2007年りそな銀行常務執行役員経営管理室担当。2009年りそなホールディングス取締役兼執行役副社長。2011年同取締役兼代表執行役副社長。2012年りそな銀行代表取締役副社長兼執行役員。2013年りそなホールディングス取締役兼代表執行役社長(現任)。同年、りそな銀行代表取締役社長兼執行役員。2017年同取締役会長兼代表取締役社長(現任)。

石岡 東社長は、さまざまな部署を経験され、要職を歴任されてきました。とくに印象に残っている思い出はありますか。

東 和浩 氏

東 和浩 氏

 自慢できるような経歴ではないのですが、ひとつ言えるのは「(これまでのキャリアに)無駄は何ひとつなかった」ということです。大阪の営業店勤務からはじまって、入社3年半でメキシコの駐在員事務所に異動。1年間の研修を受けました。帰国後わずか半年で今度は英ロンドンの証券会社での研修へ。戻ってきてからは法人証券の営業部署へ。その後、製薬会社に6カ月間出向。そして日本橋支店でリテール業務に従事。あとはほぼずっと企画畑です。

石岡 多彩ですね。

 海外展開、証券業務、リテール、企画と、高度経済成長以降の日本の銀行がたどった道筋をそのまま経験してきた感じです。

石岡 幅広い見方ができるようになったのでは?

 その意味で無駄はなかったし、おもしろい体験をさせてもらいました。2003年に2兆円近くの公的資金の注入を受けた直後に私が財務部長に就任して公的資金の返済を担当することになったわけですが、その時は、まさにそれまでの経験が生きました。というのも、「優先株式」による注入方式だったので、証券業務が分かってないとできないのです。あるいは、海外業務はいま大きな柱となっていますし、もちろんリテールは当グループの根幹です。そのすべてを経験させてもらえたことに感謝しています。

石岡 諸先輩方からの指導に支えられた部分もあったのでは?

 ロンドンへ単身での出向の際、すでに私には妻と子供がいましたが、ある先輩に諭されて決断しました。その際にブラックマンデーに遭遇。帰国後は、業容の柱であるリテールをやりたかったのですが、先輩への恩返しの意味もあって証券部門を希望しました。結果的にこの経験が、公的資金返済や不良債権処理に役立ったわけです。

再編は「顧客価値を高めるため」

石岡 りそなグループは分離・統合を繰り返していまの形に落ち着きました。その間、内部では大変だったろうと推察します。

 貴重な経験でしたが、歴史的にみると、銀行は再編の歴史なんですね。明治時代以降、国策として強力な金融機関をつくっていこうと強制的・自主的に合従連衡が行われました。りそなグループももとをたどれば数百行くらいに行き着くのではないでしょうか。再編における最大の課題は「ひと」です。新しくなった金融グループが、以前よりもお客さまにとって良くならなければいけません。また、それをどう伝えるかも重要。そして、従業員の融和。違う組織が一緒になるわけだから、当然軋轢はあります。最初は合理的な考え方で擦り合わせを行う。その上でそれぞれの企業文化を勘案していく。合理性と文化のバランスをいかにとっていくかがポイントでした。

石岡 TKC全国会が税理士法の枠内で動いているのと同様に、銀行も銀行法の枠内で業務を遂行されています。そうなると国策の制約を受けながら、どのように地域経済発展のために寄与すべきかを常に考えなければならない。そのなかで合従連衡は避けられず、歴史がそれを証明していると。大事なのは、りそなグループのように常に顧客第一主義に立つ姿勢を保つこと。そしてそれを説明し、安心できる金融機関として信頼を担保し続けることだと思います。

 おっしゃる通りですね。再編はお客さまにより高い付加価値を提供するためです。図体ばかり大きくなっても仕方ありません。金融機関として大事なのは、まずお客さまに信頼をされること。その次に付加価値、つまり「情報」をいかに提供するか。そのためにはお客さまの数もひとつのポイントになります。得られる情報量が多くなればなるほど、お客さまに還元する情報の量も質も上がります。当グループは、約40万社とお取引がありますが、まだ、日本の法人の約1割に過ぎません。その意味で、再編の目的のひとつにお客さま数の増大があるのは確かです。

改革に必要なのは継続する意思

石岡 公的資金注入後は、大変なご苦労をされたと思いますが、数多くの「気付き」もあったことと思います。

 12年間かけて返済しましたが、重要なのは改革を続けていくということです。われわれはこの変革を続けるスピリットを「りそなイズム」と呼んでいます。「改革疲れ」をおこせば、時代に適応できなくなる。継続は力──まず、それを学びました。さらにいうと、改革を続けるためには、組織が一体化し、また、お客さまや株主の賛同を得る必要があります。われわれは、公的資金によって一気に膿みを出して立ち直った。でもそれは、組織が一致団結し、困難を乗り切ろうという継続した意思があったからだと思っています。

石岡 「ピンチをチャンスに」というわけですね。全社が一体化して動くことで、社会からの信頼感を徐々に蓄積していったと。

 伝統的な銀行のガバナンスとは違う形を志向してきたつもりです。もはや銀行は特別な存在ではありません。普通の会社にならないといけない。トップを「社長」という名称に変えたのもそのためですし、取締役10名中6名は、社外取締役で構成されています。

石岡 ある部分では、メガバンクにはスピード感に欠ける部分がありますよね。りそなグループは規模は大きいですが、きめが細かい。矢継ぎ早に改革されてきたという印象です。顧客との一体感を感じるし、われわれ会計人も非常に好感を持って見ています。

 ありがとうございます。世の中の企業の理念にはほぼ100%「お客さまのため」「顧客第一主義」などという文言が入っていますが、そのすべてに実効性があるのかは疑わしい。そのため、われわれは「お客さまになりきる」という表現を使っています。たとえば、社内論理で決定された物事を社外取締役が「客観的な目」で「おかしいのでは」と疑問を呈する。そこに適正なガバナンスが発揮されます。従業員も「本当にお客さまのためになっているのか」を常に考える。そういう発想で仕事することが、お客さまとの一体感を生む最大の要素だと考えています。

本当に必要なところにお金を

石岡 これまでの銀行は、金融庁の目線を常に意識せざるを得ませんでした。つまり、金融検査マニュアルに基づく金融行政に縛られていた。一方で、最近では検査局が廃止され、「事業性評価」を全面に打ち出したものに変わりつつあります。銀行がニーズを的確にとらえて、将来性を勘案しながら融資をしたり、ニーズにマッチする商品設計や、企業間のマッチングなどでも手腕を発揮する機会が増えてきました。その「事業性評価」についてのりそなグループの考え方を教えてください。

 世の中は変化しています。金融庁も変化をもとめている。いままでと同じでは生きていけません。資金需要が強かった高度成長時代と違い、いまはお客さまが銀行を選ぶ時代です。大事なのは基本に返ること。お客さまとともにどう成長していくか。その意味では「評価」という言葉は適切ではないのかもしれません。成長期の企業に対して売り上げアップのサポートや、資金管理のバックアップをする。成熟期の会社に対しては、生き残り戦略を一緒に考え、再成長を促していく。それが銀行の仕事の根幹であり、そこに付加価値がある。優良企業に「お金を借りてください」では意味がありません。必要としているところにお金をいかに回すのか。そして企業とともにどう成長するのか。それが事業性評価という概念とつながるのだと思っています。

石岡 いずれにせよ、ニーズがあるから商売が成り立つわけです。そのニーズも時代とともに変化していくし、変化のスピードも年々増しています。その意味でも、銀行の「目利き力」はこれまで以上に必要になってきますね。目利きがないと事業性評価は不可能。結果として、廃業ばかりが増えて、中小企業の先細りにストップがかからなくなる。

 廃業を防ぎ、事業をどう継続するかは大きな課題です。日本の法人数は人口以上に減少のスピードが速い。地域経済が痛み、技術と雇用が消えていく。付加価値もお客さまがあってこそですから、なんとかこの下降のスパイラルを止めなければなりません。そのために、会社同志のつながりのなかで必要とされる商品を創出していく方法論が必要になってくる。意欲ある経営者が存在する企業間ネットワークが活性化していくようにわれわれは全力を尽くします。そして円滑な事業承継のお手伝いをしていく。後継者難による廃業は年々増加していますからね。ここにストップをかけたい。その面では、当行が信託銀行でもあることが、ひとつ大きな強みだと考えています。

データを開示する会社は強い

石岡 ビジネスの基本は決算書です。きちんとした決算書があれば、ある程度の方向性を与えることができる。昨今、経営者の個人保証に依存しない融資が求められていますが、経理データを素早く収集し、月次決算につなげ、さらにフィンテック(TKCモニタリング情報サービス)で瞬時に金融機関に情報提供するTKCの体制の評価が高まっています。産業や社会が複雑化し、銀行だけでなく会計人のジャッジメントが必要な時代といえるのではないでしょうか。

 税理士の方々が、きちんと計数管理されている企業は、われわれとしても、取引がしやすいのは確かです。税理士さんが第3者の目で企業を見ていることが、われわれ銀行員の一面的な見方を補正してくれますから。

石岡 中小企業にはガバナンスが存在しないところも数多くありまから、少なくともまず月次の数字を迅速に把握し、その企業の弱点や将来的な方向性を見定めなければならない。そうして初めて、金融機関も企業に技術的なアドバイスや企業間のマッチングが行えるのだと思います。その意味でも、月次試算表の重要性は増してきています。前述した「TKCモニタリング情報サービス」も、企業と銀行と税理士が一体化するツールだといえます。一体化することでガバナンス構築への方向性が見えてくるのではないでしょうか。

 「TKCモニタリング情報サービス」は、財務データをデジタル情報で、しかも迅速に送っていただけるのがありがたいですね。というのも、当グループの仕組みがどんどんデジタル化しているので、そこへ無理なくはめこむことができるからです。いずれにしても、経営データをきちんと開示している会社は強いし成長力があります。中小企業の社長さんは、ほとんどが営業畑か技術畑。管理面が不得意な方もおられます。だからアドバイザーが必要なのです。それが税理士さんであり、そのまたお手伝いをするのが銀行です。

変化に対応したものが生き残る

石岡 りそな系列の近畿大阪銀行と三井住友系列の関西アーバン銀行、みなと銀行が経営統合しりそなグループの傘下に入る。前の2社は数年後に合併することを発表されました。これによって、関西に非常に大きな地銀グループができることになります。

 りそなグループはあくまでリテールが柱。「リテールナンバーワン」を目指し、中小企業と個人に、もっともお役にたてる金融サービスグループになることが目標です。数字だけではなく、ビジネスをどう拡大していくかに力点を置いています。設備が足りなければ不動産情報などを提供しますし、技術が足りなければ他社とのマッチングを模索します。もちろん販売先の紹介も行います。一方、数字の面では、ある面では税理士さんたちの情報をたよりにせざるを得ない。マンパワーの問題もありますからね。
 今回の経営統合で、兵庫県から滋賀県まで関西最大の店舗ネットワーク(関西地域だけで約500の拠点)を持つ金融グループができあがるわけですが、当然、当グループのお得意先も数万社単位で増えます。そのひとつひとつに対応していくには税理士の方々の協力がどうしても必要です。そして、その分われわれはフェイス・トゥ・フェイスの活動に注力します。銀行と税理士がお互いに補い合うことで、中小企業と地域経済を盛り上げる原動力にしたいですね。

石岡 TKC全国会とりそなグループは中小企業が最大の顧客という点で共通しています。お互いに話がしやすいし目線が一致しているので、連携も行いやすいのではないでしょうか。

 日本の産業構造は、海外と違って中小企業の厚みによって支えられてきました。そのため、全体としてみると、日本の技術の蓄積は他国を圧倒しています。また、中小企業のスピード感は大企業にはないもので、時代の流れに合わせてドラスティックに変化していくことができます。たとえば、大阪では昔は弱電関連の部品メーカーが集積していましたが、いまは、自動車や電子部品の分野へと転換しています。技術力の高い中小企業は販売先を変えてもたくましく生き残っています。この中小企業の厚みをいかに今後も続けていくことができるか。そこにりそなグループやTKCさんが大きな役割を担っているのだと思います。

石岡 とはいえ、人口減少社会が到来し、今後、電気自動車が普及すれば部品点数が大幅に減少するなど、先行きは厳しいものがあります。その分足腰の強い中小企業を育成しないといけませんね。

 ダーウインは強いものが生き残るのではなく変化に対応したものが生き残るのだと考えました。中小企業はその条件を備えています。日本経済を支えているのは中小企業。これからも「厚い」中小企業の層と「熱い」中小企業経営者を支え続けていきたいと考えています。

(インタビュー・構成/本誌・高根文隆)

掲載:『戦略経営者』2018年1月号