税理士 畑中孝介

──法人税の見直しについて率直な感想を。

畑中 アベノミクスも6年目に入りました。30年度の税制改正は、引き続き「所得拡大」「生産性向上」「設備投資促進」という基本的な方向性の範囲にとどまり、事業承継税制を除くと大きく見直されたところはあまりないという印象です。法人税については政策に合致する企業は税制優遇、該当しない企業は優遇しないという姿勢がより鮮明になりました。また給与額の増加を要件とする内容がかなり増えており、賃上げとそれにともなうインフレ目標達成に向けた強いメッセージも感じられます。こうした政府の姿勢は、2017年12月8日に閣議決定された「新しい政策パッケージについて」でまとめられています。ひとづくり革命や生産性向上革命、第4次産業革命への対応、ベンチャー支援などについて具体的な政策が列挙されているので、一度目を通しておくとよいでしょう。

賃上げ要請がより強力に

──具体的な中身について説明してください。

畑中 法人税全般では生産性向上や設備投資拡大、賃上げを促す観点で税制の拡充や制限が行われていますが、まず、雇用者への給与支給額が増加した場合に税額控除する所得拡大税制の拡充について説明しましょう。同税制では、大企業について給与が増加したと判断する基準を、今までの総額が「平成24年度から5%以上」から平均が「前年度比3%以上」に変更されました。改正後は常に前年度との比較になることから、この税制の適用を受けるためには平均賃金を上げ続ける必要があり、賃上げの要請としてはより強力になっています。
 さらに要件に加わったのが、国内設備投資額が当期の減価償却費の9割以上でなければならないという項目。賃上げに加え一定額以上の投資を維持する必要もでてきました。このように要件のハードルは上がりましたが、税額控除は10%から15%に拡大しています。さらに教育訓練を積極的に行った企業(教育訓練費が前期・前々期の平均の1.2倍以上)については20%まで控除率を拡大するとしています(『戦略経営者』2018年2月号23頁・図表1)。

──中小企業向けの内容は?

畑中 中小企業については、平均給与の支給額が前年度比1.5%以上増加(従来は24年度比3%以上増加)した場合、前年度から増加した給与額の15%(従来は10%)が税額控除になります。さらに賃上げ率が2.5%以上、なおかつ①教育訓練費が前期の1.1倍以上②中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け、同計画に沿って経営力向上が行われたと証明された場合――のいずれかを満たす場合は、控除率が10%上乗せされることになりました。控除率は最大で25%ということになります。ここで注目したいのは、所得拡大税制の要件の中に経営力向上計画の認定が入ってきたこと。経営革新等支援機関(認定支援機関)のサポートを受けてつくられる経営力向上計画の認定が要件となって税負担の軽減が見込める制度は、ほかにも不動産取得税の税額控除や不動産登録免許税の軽減があります。いま経営改善計画の策定支援やモニタリング支援を通じて認定支援機関の存在感が強まっていますが、その役割がどんどん拡大しつつあるといってよいでしょう。経営力向上計画など認定支援機関のサポートを受けた経営計画の作成には、より多くの経営者が積極的に取り組むべきだと思います(同・24頁・図表2)。
 ちなみに認定支援機関に関連していえば、生産性向上に貢献する設備の取得にかかる固定資産税を減免する制度が新設されたことは頭に入れておいてください。これは年平均3%以上向上させると認定を受けた先端設備等の取得にかかる固定資産税を当初3年間はゼロ以上、2分の1以下にするというもの。その割合は市町村が独自に決定するとされています。この制度の創設にともない、中小企業等経営強化法の認定経営力向上計画に基づく固定資産税の特例措置は廃止が決まりました。

交際費・少額資産特例は延長

──ほかに新設された税制があれば教えてください。

畑中 情報連携投資等の促進について新たな税制が創設されました。これは生産性向上を目的としたソフトウエアの新設や増設などにかかる取得価額について、30%の特別償却と5%の税額控除(賃上げ率が3%以上に満たない場合は3%)の選択適用ができる制度です。しかしこの税制を受けるための最低投資合計額は5000万円となっているので、中小企業に与える影響は少ないでしょう。
 東京オリンピックの開催を2020年に控え、飲食店などでの禁煙/分煙を推進する動きが広まっていますが、受動喫煙防止を促進するための項目も盛り込まれました。特定中小企業者等(認定支援機関等による法人の経営改善指導を受けた卸売業、小売業、サービス業、農林水産業を営む中小企業)が経営改善設備等を取得した場合に特別償却または税額控除を受けられる制度の対象に「飲食店において設置する受動喫煙防止のための喫煙専用室に係る器具備品および建物付属設備」が入ることが明記されたのです。

──縮小や廃止になった制度はありますか。

畑中 ここまではアメとムチでいえばアメに関する内容を説明してきました。当然、ムチの部分もあります。大企業の場合、賃上げを実現できなかったり、投資に消極的だったりする企業は、一部の租税特別措置が使えなくなります。具体的には所得が増えているにもかかわらず①平均給与額が比較平均給与等支給額を超える②国内設備投資額が減価償却費総額の10%を超える──のいずれかの要件を満たさない場合、研究開発税制などの生産性向上に関する3つの税額控除が原則として適用外となるものです。
 また所得拡大税制が拡充する一方で、特定の地域において雇用者の数が増加した場合に1人増やすごとに40万円の税額控除が受けられる雇用促進税制は縮小が続いています。今回の税制改正で、地域雇用開発促進法が定める同意雇用開発促進地域内での同制度の適用は廃止されることになりました。さらに太陽光発電設備や自動車などエネルギー環境負荷低減推進設備を取得した場合の特別償却または税額控除が適用となるグリーン税制は、3月末の期限をもって廃止となります。
 ただ800万円以下の交際費を全額損金算入可能とする制度、および30万円未満の少額減却償却資産の損金算入特例制度は2年間の継続が決まりました。この2つの制度は経営者の関心も高く、継続は歓迎すべきでしょう。

──そのほか注目すべき点について教えてください。

畑中 法人税の申告に関するその他の改正では、大企業について電子申告が義務化されることになりました。また特定の税制の適用を受ける際、これまで必要とされてきた第三者作成による添付書類が不要になりました。①収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例②収用等に伴い特別勘定を設けた場合の特例③換地処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例──など6つの税制が列挙されています。
 また実務的には、申告する電子データの形式が柔軟化されたことも特筆すべきでしょう。今まではPDFによる申告しか認められていませんでしたが、別表(明細記載を要する部分)、財務諸表、勘定科目内訳明細書についてはCSV形式でも可能となりました。さらに送信容量の拡大や国・地方税に関する書類の提出先を一元化するなど、より円滑な電子申告を目的とした見直しがいくつか含まれています(同・26頁・図表3)。
 個人的に注目したのは、法人税における収益認識基準の改正が盛り込まれたこと。通常日本では販売/譲渡をした資産を引き渡した時に所得を計上します。ところが国際的な会計ルールである国際財務報告基準(IFRS)では着荷基準を採用しており、現行の法人税法と齟齬(そご)をきたしていました。この点について正式な対応は後日事例集やQ&Aの形で公表されると思われますが、税制改正大綱で明記されたことを考えると、「IFRSに引きずられることなく、今まで通りの引き渡し基準でいく」ということだと思います。

電子レシート導入に注目

──消費課税分野の見直しについてご説明ください。

畑中 大きなポイントは、レシート(適格簡易請求書)の電子化について盛り込まれたことです。大綱では書面による交付に加えて、レシートの電磁的記録の提供を平成35年10月以降の取引から適用可能だとしています。電子インボイスや電子レシートなど、年末調整を含めた企業実務の電子化は今後一層進展することが予想されます。後でまた説明しますが、今回の税制改正の大きな特徴の一つが、電子化の促進にあると思います。
 次は消費税の簡易課税制度の事業区分の変更です。農林水産業のうち消費税の軽減税率が適用される「食用の農林水産物を生産する事業」を小売業と同じ第2種事業とし、見なし仕入れ率を70%から80%に引き上げたのです。仕入れ率の引き上げですから減税になります。農林水産物では付加価値を高めた高級食材が増えていますが、そうした生産物は手間もかかり原価も高くなります。この改正は議論の最後の最後で出てきた内容ですが、消費税の軽減税率への対応という意味もあるのでしょう。
 事業に対する影響という観点でみれば、外国人旅行者向け消費税免税制度の見直しにも注目です。これまで免税販売の対象となる下限額は一般物品と消耗品でそれぞれ5000円でしたが、改訂後は両分野を足して5000円であれば対象と判定できるようになります。免税制度の適用を受けやすくなり、免税販売に力を入れている企業はチャンスが拡大することになります。

──国際課税についてはいかがでしょうか。

畑中 主要な改正としては、恒久的施設(PE)の定義の見直しがあげられます。非居住者や外国法人が国内で課税対象となるかどうかは、PEの有無によって決まりますが、今回の改正で、保管や展示、引き渡しなどの活動のみを行う場所で、かつその活動が「準備的または補助的な機能を有する」場合にPEに含めないと明記しました。つまり例示した用途をメインにする場合は課税しますと宣言したわけです。これまでアマゾンのような巨大通販会社が日本に保有する倉庫は、PEに含まれなかったため課税されていませんでした。しかし通販会社にとって倉庫は、反復的に物品を運び出している重要な機能を担う施設です。改正後は課税対象となることが予想されます。
 また金の密輸事件が多発している状況を踏まえ、関税法上の無許可輸出入等に係る罰則や消費税等のほ脱罪の罰則が強化されました。具体的には無許可輸出入罪の罰金額が500万円以下から1000万円以下に引き上げられています(貨物の価格の5倍が1000万円超の場合は、価格の5倍まで)。

限界利益の向上を目指そう

──納税環境の整備についてはどのような見直しが行われましたか。

畑中 年末調整手続きで大幅に電子化が認められました。住宅ローン控除、生命保険料控除、地震保険料控除に必要な証明書の提出について、「電磁的方法による」ことが可能になったのです。適用は32年10月1日以降、つまり32年分の年末調整からになります。
 年末調整手続きの電子化はあくまで「できる」とされているので義務ではありませんが、義務になった事項もあります。現在、支払い調書が1000枚以上ある場合は電子情報処理組織(e-Tax)または光ディスク等によって提出する義務がありますが、この判定基準が「100枚以上」に引き下げられました。100枚以上支払い調書を提出している中小企業は珍しくないでしょうから、かなりの会社に影響が出てくるでしょう。これは33年1月1日以降の適用となります。
 さらに今回、資本金1億円以上の大企業は、32年4月以降に電子申告が義務化されることになりました。税理士による代理送信が浸透している中小企業に比べ、大企業ではこれまで電子申告がなかなか普及しませんでしたが、この改正で一気に進めたいところでしょう。行政コストの削減に効果が見込めることから、電子帳簿や電子申告を政策的に推進していく流れは、今後も強まると予想されます。大綱には「正規の簿記の原則に従って」という文言が盛り込まれていますが、信頼のおける会計データベースをきちんと整備し、電子化への素早い対応を企業に求めていく動きはこれからも継続されるでしょう。
 また一定の地方税については、電子情報処理組織「eLTAX」を活用した地方税の共通電子納税制度が導入されることになりました。地方税の電子納税が行われている地方自治体はまだ少ないですが、このシステムが稼働すれば全市区町村で電子納税ができるようになります。経理の実務からみると、個人の住民税(特別徴収)に加え法人地方税、法人事業税、事業所税等が一括で電子納税できるようになるので、経理業務の大幅な効率化がさらに進むのではないでしょうか。31年10月からの適用となります。ちなみに国税のコンビニ納付では、QRコードをプリントアウトしたものでも行えるようになりました。「納付書の紛失などによってスムーズに納税できない」などといった事態が減少すると考えられます。

──全体の総括をお願いします。

畑中 法人課税では従来の方針を維持しており、あまり新鮮味は感じられませんでしたが、賃上げを浸透させたいという政府の強い意志を感じました。またIT化の流れは加速しており、電子帳簿や電子申告はもちろん、レシートのスキャナー保存も広がってくるでしょう。紙から電子データ中心となる電子化対応が不可欠になるのは間違いありません。
 産業政策に上手に乗って生産性向上をいかに果たせるかも重要なポイントです。多くの中小企業経営者が誤解していますが、生産性向上の手段は効率化だけではありません。生産性向上は限界利益の向上ですから、攻めの経営判断で売り上げを伸ばすことを最初に目指すべきなのです。研究開発と新製品・サービスの開発、高付加価値化にともなう値段の引き上げなど、「いいものをつくって高く売る」という経営の基本をあらためて意識してほしいと思います。
「新しい政策パッケージについて」中の「現下の追加的財政需要への対応」と題した最終章で29年度補正予算への言及がある通り、年明けにはIT補助金やものづくり補助金の募集が開始される見込みとなっています。目標件数がIT補助金で13万社、ものづくり補助金で1万社と報じられるなど大規模な補正予算が組まれる見通しで、これまでより補助を受けやすくなるとみられています。攻めの投資とIT・電子化による効率化、税制優遇制度や補助金の活用などを並行して進めることによって、ぜひ生産性向上を実現してほしいと思います。

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2018年2月号