新卒学生の採用活動の一環として、「インターンシップ」を実施する企業が増えている。昨年から大手企業の「ワンデーインターンシップ」も解禁される中、中小企業はどのような戦略でインターンシップに取り組むべきかを探った。

プロフィール
おおの・じゅんや●1974年生まれ。兵庫県出身。株式会社パソナに新卒入社。営業部を経て、営業推進室および営業企画部門を歴任。パソナ関連会社の立ち上げを手掛ける。その後、現在のデロイトトーマツ コンサルティング株式会社にて、組織・人事コンサルティングに従事。2006年、株式会社アクティブ アンド カンパニーを設立し、代表取締役に就任。
本当に効果が上がるインターンシップ

Q1 インターンシップとは?

 就職活動を目の前に控えた大学生が企業で一定期間、就業体験をするのがインターンシップです。大学生の半数以上がインターンシップに参加しているといわれ、就職先の企業、あるいは職種を選択するうえでの材料として活用しています。
 欧米ではインターンシップが、企業が学生に就業体験の場を与える社会貢献の一環として行われていますが、日本におけるインターンシップはどちらかといえば、企業の採用活動の一環として行われている傾向があります。

Q2 学生の「売り手市場」の中で、インターンシップを実施するメリットは?

 有望な学生に早めに接触し、その後のリクルーティング(採用活動)につなげるための入り口の一つになるということがあります。また、自分たちの会社の存在、あるいは業界のことを学生たちによく知ってもらうためのきっかけになるという点でも、効果が期待できます。
 学生の側も、就職希望の職種(企業)だからとか、業界理解に役立つからといった理由でインターンシップに参加している傾向があります。インターンシップを通じて企業がうまく自分たちの魅力を発信できれば、就職先として考えてもらえる可能性は高まります。

Q3 大手企業にまじって、中小企業がインターンシップを行うだけの価値はある?

 新卒学生との接触の機会は間違いなく増やせます。自社の存在を学生たちに知ってもらえるという点では有効だといえます。
 不人気業種とも呼べるある会社では、インターンシップに来てくれた学生とその後も気軽に連絡を取り合える関係づくりに努めているといいます。リクルーティング担当者が「自分も就職活動では苦労した」と言って、学生たちの「就職活動のアドバイザー」的な存在になることを買って出て、何かあったら相談してもらえるようにしているのです。インターンシップを通じて、こうした細く長い関係を学生たちと築ければ、それだけで採用のチャンスは広がります。やり方にもよりますが、インターンシップをうまく活用すれば、人材難を解消する一つの突破口になるはずです。

学生との接点の「質と量」

Q4 インターンシップを設計するうえでのポイントは?

 まずはインターンシップを実施する「目的」を明確化することが重要です。有望な学生を早めに囲い込むことが目的なのか、ゆるやかな関係性を構築することが目的なのか、あるいは会社・業界の認知度アップが目的なのか、自分たちがインターンシップに何を求めるかによって、具体的な戦略が決まってきます。
 例えば、学生との接点の「質と量」をどうするかです。有望な学生を早めに囲い込むことが目的なら、インターンシップの募集人数をそれなりに絞り、採用することを意識した就業体験プログラムを実施すればいい。自社のことをできるだけ多くの学生に知ってほしいというところに力点を置くのなら、「量」を重視した募集をしていきます。この場合、プログラムの日数を減らすなどして、多くの学生を受け入れることのできるインターンシップを設計するのもよいかもしれません。通常、インターンシップは最低でも5日以上が望ましいとされていますが、半日~1日で終了する「ワンデーインターンシップ」を実施する企業も増えています。

Q5 ワンデーインターンシップは大手企業も行っている?

 経団連が昨年4月に、2019年卒の就職活動からインターンシップの日数規定を廃止し、1日からでもOKとしました。これにより、ワンデーインターンシップを新たにはじめる大手企業も増えています。
 これまでワンデーインターンシップといえば、マンパワーの問題などから、なかなか長期のインターンシップの実施ができない中小企業が行うものとのイメージがあったかもしれませんが、その認識は改めたほうがよさそうです。

Q6 今後ますます学生の奪い合いが厳しくなるのでは?

 インターンシップ実施企業が増えていることに加え、大手企業がつぎつぎにワンデーインターンシップに乗り出すようになれば、競争は激化するかもしれません。
 そうした中で、中小企業が取り組むべき対策として、まずはインターンシップを実施していることを広く学生に知ってもらうためにも、大手ナビサイト(就職・採用情報サイト)への掲載はぜひやってもらいたいところです。
 また、インターンシップは通常、大学3年生の就職活動が本格化する前の夏休みに行われることが多いのですが、その時期をあえて外して冬休みや試験明けの1月末~2月上旬に開催することも対策の一つになります。この時期であれば、就職活動本番までの期間も短いため、学生もインターンシップに参加した企業のことをよく覚えていてくれるはずです。その後の会社説明会への参加につながる可能性が高くなります。

Q7 大学のキャリアセンター(就職支援課)を利用することも考えるべき?

 大学のキャリアセンターでもインターンシップ実施企業を受け付けているので、大学を訪問して申し込んでみるのも有効な手だてです。ただ、大学が希望するのは5日以上のインターンシップであることが多いため、これに尻込みしてしまう中小企業もあるかもしれません。しかし、キャリアセンターを通すことによって大学の教授(研究室)との関係を築けたりもしますので、トライしてみるだけの価値はあると思います。
 実は、中堅・中小企業のインターンシップに来る学生は、本当に就業体験を期待して参加していることが多いという話もあります。通常の採用選考にはなかなか来てくれない上位校の学生が、素直な気持ちで参加してくれるケースも意外とあるそうです。そうした学生の心に響くコンテンツを提供できれば、就職先として考えてくれる可能性も出てきます。

学生を失望させてはならない

Q8 最近、関心が高まっている「コラボインターン」とは?

 コラボインターンとは、異業種の企業同士が協業して実施する、インターンシップの新たな形態です。他業種に関心を持つ学生に対しても、自社の認知度を高めることができるメリットがあります。しかし行政や学生団体などの協力が得られるのならともなく、中小企業だけが集まってコラボインターンを行う場合、参加企業のうち1社でもそれなりに学生を集められる力をもっていなければ、うまくいかない恐れがあるので注意が必要です。

Q9 インターンシップで失敗しがちな〝落とし穴〟といえば?

 募集の際に告知していたコンテンツの内容と、実際のものとが大きく食い違っていると、学生にとっては失望感しか残りません。例えば、自分たちの業界を知ってもらうためのワンデーインターンシップと言っておきながら、ほとんど会社説明の話で終わってしまったとしたら、少しは業界のことが分かるかもしれませんが、学生の期待値からは大きく外れることになります。このあたりは落とし穴になるので、ぜひ気を付けてください。

Q10 中小企業経営者にアドバイスを送るとしたら?

 インターンシップに参加した学生に対しては、いわゆる「エンゲージメント」(お互い貢献し合えるような関係)を意識した接し方を心掛けるべきです。今どきの若者は、上昇志向がそれほど高くありませんが、職場環境やよい人間関係が築けるかどうかなどを重要視して会社を選んでいます。インターンシップに参加した職場が、上司がいつも怒鳴り声をあげているようなところだったら、とても入社する気になれないでしょう。
 インターンシップは、自社の事業内容などを知ってもらうための機会であると同時に、社内の人たちが明るく楽しく働いている様子を見せる場でもあります。このことを社員全員が共通認識として持っておくことを忘れずにいてください。

(インタビュー・構成/本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 株式会社アクティブ アンド カンパニー
設立 2006年1月
住所 東京都千代田区九段南3-8-11 飛栄九段ビル5階
事業内容 組織・人事コンサルティング事業など

掲載:『戦略経営者』2018年2月号