社員の紹介を通して人材を獲得する「リファラル採用」が広まりつつある。求人広告等による採用手法に比べてコストを抑えることができ、社風にマッチする人材を見極めやすくなるなど、メリットは少なくない。いち早く成果を収めている企業の取り組みをレポートする。

プロフィール
しらがた・としろう●1964年神奈川県生まれ。経営コンサルタント。白潟総合研究所代表。埼玉大学経済学部を卒業後、90年監査法人トーマツのマネジメント・コンサルティング部門に入社。98年にISOコンサルティング・審査会社を立ち上げ、3000社以上を支援。2006年トーマツ・イノベーション設立。中小企業の人材育成にイノベーションを起こす。14年に独立し白潟総合研究所を設立。

──リファラル採用を導入する企業が増えています。

ゼロから始める「リファラル採用」

白潟 リファラルとは英語の「referral」に由来し委託、推薦、紹介という意味があります。発祥の地、米国ではリファラル採用が最大の人材獲得ルートになっています。日本でもことしに入り、一挙に普及した感があります。特にベンチャー企業の大半は導入しているのではないでしょうか。日本ではかねて「縁故採用」とか「コネ入社」という言葉がありました。ただ、リファラル採用は面接などの選考がある点と、経営層だけでなく一般社員からの紹介も受け入れる点でそれらとは異なります。
 社員紹介制度を取り入れ、友人を紹介した社員に報奨金を支給する企業は以前からありましたが、熱心に取り組む社員は少なかったというのが実態です。なぜなら、そもそも勤務先の会社のことが好きでないと友人に紹介したりしないからです。あるいは好きであっても、気になる課題点があると紹介しようとは考えないものです。

──リファラル採用にはどんなメリットがありますか。

白潟 何よりもまず、人材採用にかかるコストが大幅に軽減します。社員を1人採用するために、求人媒体や人材紹介会社に100万円以上支払っていたコストが、社員に支払う報奨金や友人との会食代ぐらいになるわけですから。
 社長の考え方や会社のカルチャーに合致する人材を採用できるのも利点です。通常、社長と社員数名がプロジェクトメンバーとなりリファラル採用活動を進めていきますが、メンバーに選ばれるのは会社のことが好きな社員にかぎられます。おのずと、社長の考え方に共鳴する社員が増えて組織に一体感が生まれ、社員の定着率が高まります。

うそ、いつわりは禁物

──導入の流れを教えてください。

白潟 大まかに①プロジェクトメンバーの選定②キックオフの開催③アタックリストの作成④アピールブックの作成⑤求職者へのアタックというプロセスで行うのがよいでしょう。④のアピールブックとは会社の大切にしたい思い、魅力、課題、将来ビジョンをまとめた会社紹介資料です。原則1テーマ、1ページにまとめるようにします。
 アピールブックを作成する際、大切なのはうそをつかないこと。会社の課題のページでは「年収が高くありません」、「技術力の高いエンジニアがいません」といった課題点や、直近3年間の離職率、有給休暇消化率の推移も詳(つまび)らかにします。あわせて、社員に受け入れてほしい事柄も記載します。例えば「毎朝トイレ掃除を行っています」とか「朝礼で経営理念を唱和しています」等、会社として今後も変更する予定のない慣習です。こうした事柄をあらかじめ伝えておかないと、入社後に事前のイメージとのギャップが生まれ、早期退職につながりかねません。そうすると友人を紹介した社員も会社にとどまりづらくなり、ダブル退職も起こりえます。リファラル採用に取り組むのは会社のことが好きな社員ですから、大きな痛手です。
 中期経営計画を作成し、3年後の会社の姿を提示するのも大切です。現状の課題をいかに解決していくか具体的なプランを開示するのです。課題と解決への道筋を示すことで誠実度が増し、安心して入社を決断できるようになります。

──アピールブックの内容を変更する必要はありますか。

白潟 はい。アピールブックを用いて友人にアプローチするうちに、社員から「会社の魅力をうまく伝えられない」といった意見が出てくるはずです。社長はプロジェクトメンバーを集めたミーティングを定期的に開き、魅力や課題を再検討し、中身をブラッシュアップしていきます。ミーティングを重ねるうちにメンバーの意識は経営者目線まで高まり、経営幹部育成にもプラスになります。つまり課題を解決し魅力を高める継続的な取り組みが、結果として経営の変革をもたらすのです。

──デメリットとリスクを挙げるなら?

白潟 プロジェクトメンバー社員への負荷と採用に至るまで時間がかかる点が挙げられます。メンバーは通常業務に加えて、ミーティングへの参加、友人との飲み会やランチ出席のための時間が発生します。夜の会食は5000円まで、ランチなら2000円まで等、上限額を設定し補助金を支給してください。従業員をすぐに採用したいなら、他の採用方法も併用する方がよいでしょう。
 リスクとしては友人が不採用となったとき、社員との関係が悪化する懸念があります。面接を行い不採用となった場合は、現状の職場で力を生かすことができない点を伝え、別の方向性をアドバイスするなど、キャリア相談に応じるスタンスで臨みます。このリスクを回避するには、採用が確実であると事前に伝えないことが一番の対策です。

──成功の条件は何でしょう。

白潟 成功確率を高める条件として①社長と会社を好きな社員がいる②うそをつかない③社長が耳の痛い提案を聴けるの三つがあります。このうち③が最もむずかしい条件かもしれません。アピールブック作成時、会社の課題を抽出する過程でプロジェクトメンバーの意見にどれだけ真摯(しんし)に耳を傾けられるか。社員の提案を決して頭ごなしに否定せず、解決策を一緒に考えていく姿勢が求められます。
 リファラル採用は団体戦の方がうまくいきます。社内に部活動があるなら誘ってみたり、エンジニア職を採用するなら新しい技術に関する勉強会を案内したり、さまざまな受け皿を用意してしかけるのが有効です。

(構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2018年12月号