パソコンやスマートフォンなどのITツールの普及により、急速に市場拡大しているシェアリングエコノミー。これまでとは想像もつかないようなサービスが「シェア」という考え方を通して展開されている。いま注目を浴びつつあるシェアリングエコノミーを概観する。

プロフィール
うえだ・ゆうじ●大阪府生まれ。同志社大学経済学部卒。大学卒業後に起業を志し、ベンチャー支援を事業内容とする会社に入社。1999年、24歳でガイアックスを設立する。30歳で名証セントレックス市場へ上場。現在は同協会の代表理事を務める傍ら、ガイアックスの代表執行役社長(兼取締役)を務める。

──「シェアリングエコノミー」という言葉を耳にするようになりました。

シェアリングエコノミー2019

上田 シェアリングエコノミーとは、個人同士あるいは事業者と個人が、特定のモノやサービスを共有する経済の動きを言います。「シェア」という言葉の響きから、形あるものを不特定多数で分かち合うことを連想しがちですが、最近では家事や育児などの目に見えないサービスをシェアする動きも増えつつあります。
 シェアリングエコノミーが脚光を浴びている背景には、IT技術やソーシャルメディアの発展が挙げられます。今やITの力によって、一個人であっても企業や組織の枠にとらわれることなく、容易にサービスを提供できるようになりました。シェアリングエコノミーは、遊休資産やスキルを有効活用する動きとして、社会から注目を集めているのです。

──どのような事業が対象となるのでしょうか。

上田 シェアリングエコノミーには、大きく分けて①モノ②空間③移動④スキル⑤お金の五つの領域があります。
 フリマアプリやレンタルサービスなど、個人や事業者の所有物を貸し出す「モノ」のシェア。空いている家屋、部屋、会議室などのスペースを提供する「空間」のシェア。カーシェアリングやシェアサイクルなど、移動手段を共有する「移動」のシェア。家事や育児、観光案内などのスキルを提供する「スキル」のシェア。オンライン上のプラットフォーマーを通して不特定多数から資金を集める「お金」のシェア(クラウドファンディング)など、シェアリングエコノミーの対象は多岐にわたります。
 日本におけるシェアリングエコノミーの市場規模は2018年度で1兆8874億円に到達しており、今後10年間の見通しとして約3~6倍の拡大が見込まれるなど、日本経済に大きな影響を与えることが予想されます。

「働き方」のパラダイムシフト

──私たちの生活に与える影響も大きいようです。

上田 最も大きな影響として考えられるのは「働き方」です。最近では、自らの所有物やスキルを第三者に提供し、対価を得る「シェアワーカー」と呼ばれる働き方に注目が集まっています。実際に、会社勤めの傍ら、趣味の知識を生かして街歩きや観光ガイドとして活動されている事例もあります。シェアワーカーは特定の企業や組織に縛られず、好きな時間にサービスを提供して対価を得ることができます。
 このように、シェアリングエコノミーによって働き方の多様化がもたらされ、副業としてシェアワークに取り組む人や、フリーランスとして働く人が増えると予想されます。

──自然災害時にも、シェアリングエコノミーが有効活用されました。

上田 2016年4月に発生した熊本地震では、「Airbnb」というサービスが地震の発生直後に緊急宿泊場所を無償提供したほか、「notteco」というサービスが、避難所での乳幼児や高齢者、障がい者がいる世帯を中心にキャンピングカーの無償提供を行うとともに、被災地での移動手段に困っている人にライドシェアでの移動を呼びかけました。
 一方、18年7月に発生した西日本豪雨では、「軒先パーキング」が西日本豪雨の被災地周辺の駐車場を無料提供し、「Makuake」が被災地の支援金をクラウドファンディングで募るなど、シェアサービスを提供している各社が被災地支援に貢献しました。
 日本は世界で有数の災害大国ですが、その分、シェアリングエコノミーが貢献できる余地は大いにあると言えます。

政府・地方自治体の動向

──政府がシェアリングエコノミーの推進に力を入れています。

上田 内閣府は16年11月に「内閣官房シェアリングエコノミー促進室」を創設し、一億総活躍社会や地方創生の実現、少子高齢化問題への対策としてシェアリングエコノミーを推進していく姿勢を打ち出しました。
 また、昨年度に公表された「経済財政運営と改革の基本方針2018(骨太方針)」と「未来投資戦略2018」では、国の重点施策として「シェアリングエコノミーの有効活用」を掲げており、地域イノベーションや新規ビジネス創出のためにシェアリングエコノミーを有効活用すること、消費者保護のためのユーザーガイドラインの策定などが内容として盛り込まれています。
 さらに、19年3月には、内閣官房シェアリングエコノミー促進室が「シェア・ニッポン100~未来へつなぐ地域の活力~」という自治体や、民間企業によるシェアリングエコノミーの活用事例集を公開しました。
 政府は、シェアリングエコノミーを少子高齢化や地方創生などの課題を解決する仕組みとして認識しており、推進活動を活発に行っています。

──地方自治体もシェアリングエコノミーの推進に取り組み始めました。

上田 地方自治体では、赤字運営の公共施設や空き家問題、福祉サービスの維持などさまざまな課題が浮上しており、これらを解決する取り組みとして、シェアリングエコノミーを積極的に活用する傾向にあります。
 例えば、「スペースマーケット」というサービスでは、群馬県桐生市と提携し、市内施設の遊休時間を活用してさまざまな交流を図る事業を開始しました。市内を走る「わたらせ渓谷鉄道」を貸し出しての結婚式やパーティーのニーズを取り込むなど、地域振興のツールとなっています。
 北海道天塩(てしお)町では、「notteco」と提携し、交通弱者のための相乗り型ライドシェアサービスを展開しており、地域住民の「足」として重宝されています。
 当協会でも、このような課題に対して、シェアリングエコノミーの仕組みを活用して解決に取り組む自治体を「シェアリングシティ」として認定する活動を行っています。
 19年5月現在、15の自治体をシェアリングシティに認定し、街をあげてシェアリングエコノミーの活用に取り組む事例として広くPRしています。

「所有」から「共有」へ

──シェアリングエコノミーが抱える課題は?

上田 現行の法律や制度がシェアリングエコノミーの普及に追い付いていない点が一番の課題です。特に、シェアワーカーやフリーランスを対象とした社会保障制度は、十分に整備されているとは言えません。
 当協会では、シェアワーカーのための保険や福利厚生などをカバーする「SHARING Benefit(シェアリング ベネフィット)」を企画しているほか、保険会社と共同でシェアワーカー向けの損害保険を開発するなど、リスク対策に努めてきました。また、今後はこの動きを拡充し、シェアワーカーやフリーランスの労働環境のさらなる整備に努める必要があると考えます。
 一方で、各業界の規制によって、シェアリングエコノミーの普及が進まないことも課題でしたが、18年6月施行の改正旅館業法や民泊新法は、サービスの推進において強力な追い風となっています。
 もちろん、ルールを設けるべきものもあります。中国ではシェアサイクルが一時期ブームとなりましたが、場所を選ばず自由に乗り捨てができたため、街中が自転車であふれ、景観を損ねてしまうという例もありました。規制緩和とともに人々が安心安全にシェアサービスを利用できるルール作りも重要と言えます。

──サービスの信頼性という課題もあります。

上田 シェアサービスの信頼性を保証する画一的なガイドラインとして「シェアリングエコノミー認証マーク」があります。
 この認証マークは、内閣官房IT総合戦略室が策定した「遵守(じゅんしゅ)すべき事項」と、シェアリングエコノミー協会が設定した自主ルールに適合しているシェアサービスに対して与えられます。認証には厳しい審査があり、申請すれば必ず付与されるものではありません。19年5月現在で21の事業者を認定しており、サービスの利用を検討する上での指標として活用されています。

──社会の変化が期待できそうですね。

上田 シェアという考え方は、日本ではまだまだ芽吹き始めたばかりですが、資源の有効活用、地域コミュニケーションの創出、さらには働き方改革など、私たちの暮らしを大きく変化させる可能性を秘めています。
 「所有」から「共有」、「公助」から「共助」へ。シェアリングエコノミーは、これまでとはまったく異なる価値観を、社会に対して広げていくことでしょう。

(インタビュー・構成/本誌・中井修平)

掲載:『戦略経営者』2019年6月号