小林亮太社長と澁谷和税理士(左)

小林亮太社長と澁谷和税理士(左)

山形県内に飲食店を4店舗展開しているジョウセン。コロナショックによる逆風が吹き荒れるなか、小林亮太社長は業態転換や新事業の立ち上げなどを精力的に行い、現状の打破に果敢に挑戦している。顧問税理士である澁谷和税理士を加えて、同社の経営・財務戦略について話を聞いた。

ぶらり〝気軽に〟立ち寄れる多様な飲食サービスを展開

──飲食業は未経験と聞きましたが、創業のきっかけを教えてください。

小林 昔からおいしい料理を食べること、食卓で生まれる楽しい会話が好きでした。大学卒業後は大手ハウスメーカーで住宅営業に従事していましたが、次第に「飲食サービスを通して生まれ育った山形を元気にしたい」という思いが大きくなり、2014年、30歳のときに会社を退職。飲食業に勤めた経験はありませんでしたが、母のサポートを得ながら料理の腕を磨いたり、事業の構想やメニューの研究に取り組み、2015年7月に念願だった1店舗目の居酒屋を開業しました。

──展開されている飲食サービスの特徴は?

「marki garni」店内

「marki garni」では上質でおしゃれな内装を意識

小林 はじめにオープンしたのが洋食バル「マーキガルニ」(marki garni)です。手前味噌(みそ)ですが、経験豊富な料理人が振る舞うフレンチやイタリアンは絶品で、生ビールやワインなどお酒も豊富。内装もおしゃれな設計を意識するなど、料理とお酒を心行くまで堪能できる上質な空間づくりを心がけています。
 そのあとに手がけたのが、和食居酒屋の「魚きがるに酒場」です。こちらは焼き魚やお刺し身といった魚介料理と山形の地酒を楽しめる居酒屋で、特に日本古来の調理方法である「原始焼き」(炭火に近づけたり遠ざけたりしながら焼き加減を調節する調理法)で提供する魚料理が老若男女問わず高い支持を獲得しています。「魚きがるに酒場」はJR山形駅前と山形市郊外の2拠点に店を構えており、特に郊外の店は家族連れのお客さまが多いため、子ども向けのオリジナルメニューも提供しています。

──その後、法人化(2017年2月)を経て大衆酒場「きがるに大衆酒場」を開店されます。

「きがるに大衆酒場」

昨年10月に業種転換した「きがるに大衆酒場」は
飛ぶ鳥を落とす勢いの人気

小林 「きがるに大衆酒場」では山形の新鮮な食材をふんだんに使った料理とお酒を提供していましたが、コロナ禍のなかで一層の集客を図るため、昨年10月に焼売(しゅうまい)専門居酒屋に業態を一新しました。山形にちなんで形を山型に仕上げた「山型鶏シウマイ」は肉汁のジューシーさを追求した自慢の逸品で、「シソシウマイ」「カレーシウマイ」などメニューのバリエーションも豊富で、いずれも好評を博しています。

──なぜ焼売を?

小林 焼売が好物だからです(笑)。それに、一つでも看板料理があれば、これを目当てに多くのお客さまに店に来てもらえるのでは……と思ったので。実際に店のスタイルを変えて以降、口コミやSNSで発信した効果もあり連日満席続き。焼売はお店で提供するほか、テークアウトや地元の食品スーパーでも販売しており、売り上げも対前年比で100%を超えるなど順調です。

──コロナ禍にもかかわらず好調をキープしていますね。

小林 とはいえ、緊急事態宣言が発令された影響で4月から6月にかけて全店で休業を余儀なくされました。この間の売り上げはほとんど立っていないので、最終の業績は昨年度よりも落ち込む見込みです。

──サービスを展開する上でこだわっていることは?

小林 それぞれの店名からも分かるように、ひとりでも複数人でも〝気軽に〟立ち寄れる明るい店づくりを意識しています。食事をするだけでなく、たくさんの人が集い、おいしい料理を味わいながら楽しい話に花を咲かせる……そんな「場」を提供したいと思いながら店を切り盛りしてきました。今は人が集まりづらい状況ではありますが、常に店全体が楽しい雰囲気で満ちあふれるよう、「お客さま笑顔委員会」「SNS発信委員会」「美化委員会」などさまざまな委員会を組織し、「どうすればお客さまに満足してもらえるか」を従業員一丸となって追求しています。

新商品「山ノ縁」

県内の酒造メーカーとのコラボによって
誕生した新商品「山ノ縁」

──新しいサービスも手がけていると聞きました。

小林 山形県の日本酒メーカーに協力いただき、魚の酒かす漬け(「山ノ縁(えにし)」)の製造・販売を新たに展開しています。山形に拠点を置く50超の酒蔵のなかから厳選した6つのブランドの酒かすを使い、タラ、カレイ、サーモンの3種類の魚を漬け込みました。商品は専用のECサイトで販売しているほか、カタログギフトの贈呈品として取り扱っています。

「FLコスト」を適正に管理し繁盛する店づくりを目指す

──渋谷税務会計事務所と顧問契約を結ばれた経緯を教えてください。

小林 起業希望者を対象にした助成事業(「やまがたチャレンジ創業応援事業助成金」)の面接官としてお会いしたのが最初です。開業後もお客として店に来ていただいたり、私からの相談にも真摯(しんし)にアドバイスを下さるので、「ぜひ澁谷先生に経営をみてもらいたい」と思い、顧問をお願いしました。

澁谷 顧問契約を結ぶにあたり、小林社長から「市販のクラウド会計ソフトとTKCシステムの違いを教えてほしい」との質問を受けました。当時はクラウド会計ベンダーが台頭し始めたころで、どのソフトも「使い勝手の良さ」を売りにしていました。が、経営基盤を強くするにはTKCシステムを活用した自計化(企業自身が経理ソフトで財務管理を行うこと)を実践し、経営のかじ取りに必要なデータを緻密かつリアルタイムに確認できる仕組みが欠かせません。このことを説明したところ、小林社長も同じ思いを抱いていたようで、創業とほぼ同時に『FX2』を導入されました。

──部門別管理はされていますか。

小林 はい。当社では居酒屋4店舗に加え、クラウドファンディング事業、酒かす漬け販売の6つの部門を設けて損益管理を行っています。各部門の最新データをスピーディーに把握でき、業績好調な部門、そうでない部門など、部門ごとの状況に合わせた意思決定をタイムリーに展開できるのでたいへん重宝しています。

──特に注目している指標はありますか。

小林 食材費と人件費を合わせた「FLコスト」は特に意識してチェックしています。お店を繁盛させる上でも食材と人材に費やすコストのバランスが重要で、食材費を減らせば味の質が落ち、人件費を削ればサービスの質が落ちてしまいます。両者のバランスを適切に維持し、全店舗で確実に粗利を上げるためにも、日々のFLコストやFL比率(売上高に対するFLコストの比率)を『FX2』で算出して全店舗で共有しています。

澁谷 FLコストを一目見てわかるよう、ジョウセンさんでは『FX2』の帳表をカスタマイズしています。業種・業態、経営者の見たい数値に合わせてシステムを設計できる柔軟さも『FX2』の持ち味だと思います。

財務データを適時に送信しスムーズな融資手続きを実現

──金融機関との良好な関係づくりも意識しているとか。

小林 当社では「TKCモニタリング情報サービス(MIS)」を活用して、メインバンクのきらやか銀行に決算書と月次試算表を送信しています。毎月の業績を適時に開示しているからか、コロナ対策融資も比較的スムーズに受けることができ、新サービスの展開や業態転換を矢継ぎ早に実施することができました。MISを通して財務データを速やかに提供していたからこそ、コロナ禍でも迅速に次の一手を実行できたと思います。

澁谷 ジョウセンさんでは5月に融資の申し込みが完了し、6月には事業資金が振り込まれました。小林社長も話されましたが、MISで業績資料を毎月送信していなければ、これほどの短期間で融資を受けることはできなかったでしょう。

──今後の方向性を教えてください。

小林 当社では「人・味・店の雰囲気」の3点で常に上質なサービスを提供することを目標に活動しています。コロナ禍は飲食業にとって逆風ですが、知恵と工夫を施すことで突破口を摑(つか)むことができる。これからも「山形を元気にする」を合言葉に、お客さまに満足してもらえる飲食サービスを展開していきます。

(本誌・中井修平)

会社概要
名称 ジョウセン株式会社
創業 2015年7月
所在地 山形県山形市香住町2-1-2
売上高 2億円
社員数 39名(パート・アルバイト含む)
URL http://www.jousen.jp/
顧問税理士 渋谷税務会計事務所
税理士 澁谷 和
山形県山形市城西町1-6-22
URL:http://shibuya-tax.jp/

掲載:『戦略経営者』2021年1月号