左は経理担当の木下裕子さん

左は経理担当の木下裕子さん

鳥取県境港市の角屋食品は、「アジフライカンパニー」として山陰両県で高い知名度を誇る水産加工食品メーカーである。税理士法人松本会計事務所のサポートを受けながら経営をかじ取りする2代目の角谷直樹社長に、事業概要や財務戦略などについて聞いた。

境港の新鮮な魚介類を素早く加工しおいしさ保つ

──会社概要について簡単にご説明ください。

角谷直樹社長

角谷直樹社長

角谷 当社は、缶詰工場の工場長を務めた経験を持つ先代である父が2006年6月に創業した会社です。創業当初はイワシやイカ、ブリの煮つけなどの加工食品を手掛けていましたが、現在は売り上げのおよそ7割超を冷凍アジフライが占める「アジフライカンパニー」として知られる存在となりました。アジフライのほかには端材を利用したミンチ製品を生産しています。私はもともと味の素で研究職に就いていましたが、父の病気をきっかけに2015年に会社を辞めて角屋食品に入社しました。翌年の1月に父が亡くなり、事業承継を経て今年で代表に就任して7年目になります。

──主力のアジフライがおいしいと評判です。

角谷 当社の冷凍食品のおいしさの秘訣(ひけつ)は、使用している原料が境港の漁港で水揚げされる新鮮な魚介類であるということ。頭と内臓がついたラウンドと呼ばれる原料から頭を切り落とし、内臓を取り除きひらいたものにパン粉をつけ、凍結するまでの工程を一貫して手掛けています。つまり新鮮な魚介を素早く加工することが、味の良さにつながっていると考えています。

──パン粉やソースにもこだわっているとか。

角谷 パン粉は、パン粉メーカーに当社のアジフライ専用につくってもらった特注品です。固めの粗目が特徴で、味付けは塩こしょうだけ。大量生産品や冷凍食品を食べた時に何となく分かりますが、当社の商品は家で衣付けした手作り品と同等のクオリティーだという評価を多くいただいています。また2017年には、鳥取県特産の二十世紀梨や有機野菜を原料にしたオリジナルのアジフライ専用ソースも販売しています。

──販路について教えてください。

角谷 配達ルートをすでに構築している卸売会社への販売がメインです。売り上げに占める割合が一番多いのは宅配型の生協で、大手の生協さんのほとんどのカタログには当社のアジフライが掲載されているのではないでしょうか。特に昨年の秋ごろは売り上げを伸ばし、コロナの影響で落ち込んだ飲食店向けやスーパーの総菜コーナー向けの分をカバーしました。一方当初予想されていた一斉休校の影響がなかった学校給食向けは比較的堅調に推移しています。

──人材採用や育成についての考え方と実践法をお聞かせください。

鳥取県境港市の本社

鳥取県境港市の本社

角谷 鳥取県は日本で人口が一番少ない県で、なおかつ労働人口の数も少ない。選ばれる企業にならないと存続も危ういというのが現状です。さらに当社はもともと女性の割合が高く、私が入社した時点ですでに8割を超えていました。そのため継続的に職場環境の改善を実施しており、トイレをウォッシュレットに替えたり、生産現場も冷暖房完備にしたり、働きやすい職場づくりに心掛けてきました。こうした取り組みが評価され、「男女共同参画推進企業」の認定や「将来世代応援企業表彰」の優秀賞を受けています。

──2020年に研究開発部が発足されていますが、研究テーマ等について教えてください。

角谷 研究テーマは2つあります。1つ目は海洋資源に頼らない商品づくりで、食品を科学的にデザインするフードテック分野での新商品開発を目指しています。もう1つは、油で調理する行為(油調)をより簡便に抵抗なくするためにはどうしたらよいか、あるいは油調せずにフライを作るためにはどうしたらよいかという研究です。

製品別の原価率を計算し計画的に魚種を絞り込む

──『FX2』をはじめとしたTKCシステムをどのように活用されていますか。

角谷 システムの画面で私が最も気になるのが、《資金繰り実績表》です。会社に今現金がいくら残っているのか、期首からどれだけ増減しているのか常に正確な数字が知りたいですからね。次によくチェックするのが《365日変動損益計算書》で、目標の売り上げ、限界利益の水準を達成できているかどうか常に気を配っています。異常値があればドリルダウンして確認し、何が問題なのかをスピーディーに把握するよう努めています。

門脇克広氏

門脇克広氏

門脇克広監査担当(税理士法人松本会計事務所) まずは限界利益率の確認を重点的に行っています。入力はかなり正確にしていただいているので、それを確認したうえで、齟齬(そご)があれば前もって社長さまに報告して、それを確認していただきます。原価率のなかでも資材の仕入れ、棚卸しなど、どの辺りに問題点があるのかを確認し、毎月月初に締めて月次の実績を管理させていただく流れになっています。

──利益率向上のために行っていることを教えてください。

角谷 かつては売り上げ全体に占める比率が1%程度の製品もありましたが、当社の製造ラインは1つだけなので、その製品を生産するためにはアジフライの製造をストップしなければなりません。製品の種類が多いと、異なる機械を設置するスイッチングの時間も無駄だし、在庫管理の費用もかさみます。こうした観点から、商品ごとの原価計算と売上比率を判断基準にし、採算のとれていないもの、生産が非効率なものを削っていきました。例えば2016年ごろに生産していたサバ、カタクチイワシ、スルメイカ、ブリなどはもう手掛けていません。代わりに創業2、3年目ごろから生産を始め、私が社長に就任した時点ですでに売上高の4~5割を占めるまでになっていたアジフライの比率をさらに引き上げていったのです。この戦略的かつ計画的な魚種の絞り込みが利益率の向上に大きく寄与しました。

──費用配分はどのように?

角谷 複数の商品について人件費や販促費をどのように配分するかは、どうしても恣意(しい)的で分かりにくくなってしまいます。従って当社では、直接の材料費をのぞいた間接費はすべて主力のアジフライの費用として考えるやり方を採用しています。もちろん、アジフライ自体の採算がとれることが前提ですが、そのうえで残りの製品が一定の利益率を保てているかどうかを常に確認するようにしています。

すべての取引行でMIS活用し透明性の高い企業を目指す

──アジフライのPRも積極的に展開されているとか。

原料から凍結まで一貫生産(左)、万全の品質管理体制(右)

原料から凍結まで一貫生産(左)、万全の品質管理体制(右)

角谷 まず企業ロゴやホームページを変え、「鳥取の味を世界へ」というキャッチフレーズも「アジフライカンパニー」に変更しました。さらに当時放送していたテレビコマーシャルも「アジフライカンパニー」という歌声が聞こえてくる内容のものに刷新しました。こうしたマーケティング戦略の積み重ねの結果、鳥取、島根の山陰両県では名実ともにアジフライ専門会社としての知名度を獲得できていると思います。

──「TKCモニタリング情報サービス」の利用はされていますか。

角谷 はい。政府系金融機関も含め取引行7行すべてにオンラインで決算データを送信しています。当社は帝国データバンクにも決算を公開するなど透明性の高い会社を目指しています。幸運にも業績も悪くないので、誰に見せても恥ずかしくない内容だと自負していますし、このような動きはもっと広がればいいと思っています。

──抱負をお聞かせください。

角谷 山陰地方では比較的名前が通っていますが、まだ県外では無名な存在なので、ゆくゆくは全国区の会社になるのが目標です。アジフライにはまだ高価格帯でも買ってもらえるブランド力がないので、従業員にはよくアイスクリームの「ハーゲンダッツ」を目指そうという話をしています。ちょっと高いけれど本物の味を堪能できる製品をどこでも買えるようにする、そんなポジションの会社になりたいですね。

(本誌・植松啓介)

会社概要
名称 株式会社角屋食品
設立 2006年6月
所在地 鳥取県境港市竹内団地62
売上高 4億5,000万円
社員数 45名
URL https://kadoya-tottori.jp
松本正福所長

顧問税理士:所長 松本正福
税理士法人松本会計事務所
鳥取県境港市外江町3801
https://www.tkcnf.com/masatomi

 角谷悦郎前社長が角屋食品を創業するときから関与させていただいており、創業当初から『FX2』導入、『継続MAS』による予算管理を行っています。前社長の後を引き継いだ角谷直樹社長は博士号(農学)やMBAを持ち、非常勤で大学の講師を務めるなど極めて優秀な方で、これまでさまざまな取り組みにチャレンジされてきました。同社のアジフライは本当においしくて、今では「アジフライカンパニー」として地域で根強い支持を得ています。

 角谷社長は予算実績の確認、経営分析を日常的に行っており、商品ごとの損益状況も常に把握されています。直近の決算も、コロナで厳しい環境のなか増収増益で過去最高の業績を上げる素晴らしい内容でした。当事務所から同社まではせいぜい車で10分あれば移動できます。月次監査も含め月に2回ほどお邪魔しているので、かなり密着度は高い方だと思います。

 創業当初から書面添付を実践しているほか、中小会計要領の適用、「TKCモニタリング情報サービス」(MIS)の導入などほぼフルスペックでTKCシステムをご利用いただいています。MIS導入の際には、国に提出した決算書をそのまま提供するため極めて信頼性が高いことをご説明したところ、すぐにご了承いただけました。日本一のアジフライカンパニー実現のため、今後も引き続き支援させていただければと思います。

掲載:『戦略経営者』2021年10月号