新型コロナ第6波が到来し、非対面やタッチレスへのニーズはますます高まりつつある。そうしたなか、今後の企業業績を分けるのは「インサイドセールス」の巧拙だろう。どうすれば顧客を訪問せずに営業成績が上がるのか……勘所を探ってみた。

プロフィール
みずしま・れいに●東京都出身。北海道大学経済学部卒。マイクロソフト、グーグルなどでインサイドセールス全般において、20年に及ぶ実務経験を持つ。主な著書に『インサイドセールス 究極の営業術』(ダイヤモンド社)、『リモート営業入門』(日本経済新聞出版)など。
インサイドセールス入門

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、客先を訪問せずに商談を進める「インサイドセールス」に取り組む企業が増えている。そもそもインサイドセールスとは「電話・メール・デジタルツール等を活用して顧客と一切会わずに行う商談スタイル」で、マイクロソフトやグーグルなど主に米国のIT企業が先進的に取り入れてきた手法だ。実際、日本でも新型コロナが流行する前から一部の大手企業やIT系のベンチャー企業を中心に実践されており、中小企業でもコロナ禍を機にズームやチームズなどのウェブ会議システムを使って商談を進めるケースが増えてきた。が、大企業やベンチャー企業と比べると実践率はぐんと低くなる。

 しかし、私は慢性的な人手不足に苦しんでいる中小企業こそ積極的にインサイドセールスに取り組むべきだと考えている。なぜか。少ない人員で多くの商談をこなせるようになり、結果として受注率の向上や営業活動の効率化が見込めるからだ。従来のフィールドセールスで移動に当てていた時間も商談や商談の準備に割けるので、おのずと1人あたりの商談件数が増加し受注につながる可能性も高くなる。さらに、これまで年齢的・家庭的な事情から事務方に回らざるを得なくなった社員でもセールスの最前線で活躍できるようになる。例えば子育てや介護などで長時間自宅を離れられないような人、体力の衰えから「足で稼ぐ」営業ができにくくなった50~60代のビジネスパーソンでも優れた結果を残すことは十分に可能だ。

 もちろん、小売業やサービス業といった接客をともなう業種とは相性が合わないケースもあるが、それ以外の事業者であれば工夫次第で顧客の開拓から受注に至るまですべて非対面で完結できるとみている。

最初の接触は「メール」で

 それでは、実際にインサイドセールスを進めるにあたっての注意点やポイントをみていこう。

 まず顧客開拓の段階。見込み顧客にアプローチする前に取り組んでおきたいのが「ウェブマーケティングの充実」だ。受注が見込める顧客をマーケティング用語で「リード」と呼ぶが、リードが自社の製品や技術等に関心を持ってもらうためにもコーポレートサイトに問い合わせページや資料のダウンロード機能を設ける、検索順位を上げるためにSEO(検索エンジン最適化)対策を行う、ツイッターやインスタグラム、オウンドメディアなどを積極展開して自社ホームページへの流入経路を拡大する──といった取り組みが欠かせない。展示会や交流会などで名刺交換した企業にメールマガジンを送るといった方法も有効だろう。いずれにしても、リードが自社に興味を持ってもらうためのマーケティングを充実させることがインサイドセールスで受注につなげるための第一歩だ。

 実際に問い合わせや資料請求が来るようになったら、次に目指すのは「商談のセッティング」である。リードが抱える課題のヒアリングや詳しい商品紹介の機会を設けるためにも、最初のアプローチでは相手に対して悪い印象を与えないようにツール選びやアプローチの手段には注意しておきたい。そのためにも電話ではなく「メール」を使って接触することをおすすめする。テキスト中心のコミュニケーションが市民権を得た現在、見ず知らずの相手から突然売り込みの電話がかかってくることを失礼に感じる人が増えてきたからだ。電話をかけることでかえって心証を悪くするおそれがあるので、リードに対する最初の接触は電話ではなくメールを使うように心掛けておきたい。

 メールの文面にも注意が必要だ。受注に一歩近づいたうれしさから、商品・サービスに関するあらゆる情報を詰め込んだメールを送ってしまいがちだが、これではかえって逆効果だろう。繰り返しになるが、ここでの目標はあくまでも「商談のセッティング」であって、実際に商品を紹介することではない。メールの構成はシンプルに、かつ要点を絞って書くことが肝要で商品・サービスの概要やアピールポイント、用件など最低限伝えておきたいことだけを書いた方がいい。

 もし返事が返ってきたら、それはリードが関心を示している証拠である。すかさず次の手を打とう。ここで有効なのが「電話」である。先ほどとは違い、相手から返事が返ってきているのでいきなり電話をかけても不信感を抱かれることはないだろう。ポイントは「リードが抱えている課題や検討ステージを聞き出し、次回のアポイントメントを設定する」ことだ。これらをできるだけスムーズに行っておきたい。特に長電話は相手の時間を奪うことになり、印象の悪化につながる。リードの評価を落とさないためにも架電前にあらかじめ会話の要点をまとめておくと良いだろう。

「POINT」でトークを構成

 リードとのアポイントメントが取得できたら、いよいよ本格的な商談に突入する。商談のゴールはもちろん「受注」することだが、その裏にあるのはリード側の「この人(会社)なら自社の課題を解決してくれるかもしれない」という期待である。相手の期待感を呼び起こすためにも事前準備はしっかりとしておきたい。では、具体的にどんな準備が必要なのか。ウェブ会議の準備や資料の作成・共有はもちろん重要だが、「相手が抱えている悩みや課題を自社の商品・サービスでどう解消できるか」といった仮説の立案も欠かさずに行っておきたい。仮説を立てた上で商談に臨むことで、顧客の悩みを理解したり、要望を掘り下げることにつながるからだ。商談を有意義なものにするためにもメールや電話等で聞き出した内容はもちろん、顧客のホームページ、新聞・雑誌・ニュースサイトなど幅広く情報を拾っておき、有効な仮説を立てた上で商談当日を迎えたい。

 実際の商談では主に「ウェブ会議ツール」を使って進めることになるが、ここで押さえておきたいポイントは「相手を置き去りにしないこと」である。対面型の商談と異なり、画面越しでは表情や身振り手振りといった音声以外の情報が伝わりにくいので、ちょっとでも長く話してしまうと相手の集中力を奪うことになる。一方的に話すのではなく反応を確かめながら、適宜質問したり発言を促すなど配慮が必要だ。

 相手を飽きさせないためにも、プレゼンの構成にもひと工夫必要になる。ここで紹介したいのが、私がかつて在籍していたグーグルの営業部門でも活用していた「POINT」という考え方だ。これは商談の展開を目的(P)・概要(O)・情報の入手(IN)・次の段階への導入(T)──の4つに分類したもので、これに沿って内容を構成することで、相手を置き去りにしないメリハリのあるプレゼンができる。

 それぞれ説明しよう。

●P(Purpose・目的)
 まず冒頭で商談のねらいや目的を確認する。例えば相手が製造業ならば、「お客さまが感じられている課題の原因や理由を明らかにするため、現状の製造工程に関するヒアリングをさせていただきます」といった切り口から始めるといいだろう。

●O(Outline・概要)
 Pに続いて、ヒアリングする内容を列挙する。例えば、「御社の体制や他部署との関係性、各工程で発生するオペレーションについて順にうかがいます」といったような形で聞き出したいことを相手に提示した上でヒアリングする。

●IN(Input・情報の入手)
 Oで聞き取った内容を深掘りする。例えば「この工程のチェックはどのように行われているのですか」というように、できるだけ多くの情報を引き出すことに重きを置きながら具体的な課題を聞く。

●T(Transition・次の段階への導入)
「この工程を整理できるとネックになっている部分を明確にできそうですね」といった形で、相手が抱える課題をお互いで共有した上で次のアクションに移る。

 以上のやり取りを図示したのが上の図表(『戦略経営者』2022年2月号P11)だ。これを見れば分かるとおり、POINTを単になぞるよりも、さらに細分化することで相手を巻き込んだ商談につながる。入れ子構造でトークを構成することがPOINTを使いこなす勘どころだ。

「能力開発会議」を開催しよう

 これまでインサイドセールスを取り組むにあたってのポイントを縷々(るる)述べてきたが、実際に成果を上げるには社員一人ひとりのスキルの底上げが必要だ。ここでおすすめしたいのが「能力開発会議」の開催である。商談の進捗(しんちょく)状況や業績等を確認するいわゆる「営業会議」は多くの会社が実践しているが、これとは別に、商談でうまくいった点や課題をディスカッションしたり、フィードバックを行うといった「パフォーマンス」に特化した会議を定期的に開催するのである。成功体験や行き詰まっていることを共有する場を設けることで営業社員のスキルは格段に向上する。ウェブ会議ツールの録画機能を生かして、高い成果を上げている社員の振る舞いを検証することも有効。インサイドセールスで結果を残すには単にテクニックを身につけるだけでは不十分で、組織全体で人材のスキルアップに取り組むことも肝要なのである。

 新たな変異株が流行するなど、コロナ禍の出口は当分見えそうにない。ウィズコロナにおいても効率よく商談を進めるうえで、インサイドセールスの重要性はますます高まっていくことだろう。

(本誌・中井修平)

掲載:『戦略経営者』2022年2月号