左から永野尚総務人事担当部長、青木純一財務経理担当係長、郷古千陽財務経理担当主任、渋谷浩司顧問税理士

左から永野尚総務人事担当部長、青木純一財務経理担当係長
郷古千陽財務経理担当主任、渋谷浩司顧問税理士

宮城県成人病予防協会は、健康診断業務を主軸に活動する一般財団法人である。「すこやかな人生すこやかに」との理念のもと、仙台市内の3カ所の拠点で予防から治療まで一貫したサービスを提供している。コロナ禍における組織の現状と、TKCシステムを活用した業務改善の成果について、永野尚総務人事担当部長を中心に聞いた。

豊富な健診メニューで年間40万名を受け入れ

県内各地で健康診断を行う巡回検診車

県内各地で健康診断を行う巡回検診車

──協会の概要を教えてください。

永野 当協会は県民の生活習慣病予防を目的に、1963年に発足しました。
 主たる事業は健康診断業務です。仙台市内にある1病院2診療所で、人間ドックおよび健康診断を実施しているほか、循環器、消化器を専門とする病院の運営を行っています。

──駐車場に巡回健診用のバスがとまっていました。

永野 胃胸部検診車等16台の巡回検診車を保有しています。県内各地の自治体や事業所に赴き、各種健診を提供しています。最も忙しいのは夏場。日中、検診車がほぼ出払った状態になります。そもそも巡回健診は、初代理事長である黒川利雄元東北大学総長が、がん撲滅のため胃がん検診の巡回をはじめたのがルーツとされています。

──巷間(こうかん)、健診控えが言われていますが。

永野 当協会における健康診断の受診者は、年間40万名にのぼりますが、2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響で38万名まで減少しました。21年度については回復基調ですが、影響が若干残る見込みです。検温、手指消毒やパネルで検査ブースを仕切るなど、感染対策を徹底しながら実施しています。

──運営している診療所の特色は?

永野 胃・大腸の内視鏡検査体制が充実しているところでしょうか。検査は最先端の内視鏡機器を用いて実施し、実施件数は組織全体で年間約2万件におよびます。この件数は、地域においてかなりの規模だと思います。また、附属病院の仙台循環器病センターとの連携により、予防から治療までを担っています。

──「第6波」のなか、どのような運営を?。

永野 県内でも感染者が急激に増加しており、懸念しています。感染防止を図るべく、病院では現在、ご家族の方も含め、入院患者さまへの面会は控えてもらっている状況です。テレワークで日常業務をこなすのは難しく、部門間の打ち合わせを極力オンラインで実施するなどして、感染対策を強化しています。

仙台市泉区にある協会の業務管理棟

仙台市泉区にある協会の業務管理棟

──デジタル化の進捗(しんちょく)はいかがでしょう。

永野 医療現場におけるデジタル化に以前から取り組んでおり、電子カルテの導入もそのひとつ。仙台循環器病センターを移転する1年前に導入し、運用状況を確かめてから移転しました。いま注力しているのが管理部門のデジタル化です。業務改善プロジェクトを立ち上げ、メンバーが人事労務と財務経理の2チームに分かれて方策を討議しています。顧問税理士の渋谷浩司先生には、第三者の視点から課題点を抽出してもらいました。

渋谷 関与先企業の経営者から協会の田中理事長を紹介され、課題調査の依頼を受けてお付き合いが始まりました。理事長と副理事長に調査結果を報告したところ、お二方とも改善意欲が大変高く、実行も支援してほしいと要望いただき、業務改善への取り組みがスタートしました。

日常業務の省力化を図り「4つのレス」実現へ

──昨年、TKCシステムを導入されたと聞きました。

永野 渋谷先生に2カ月間にわたり調査していただき、先生から提案されたのはペーパーレス、キャッシュレス、入力レス、そしてチェックレスという「4つのレス」です。会計ソフトをTKCシステムに切り替えたのも、業務改善の一環にほかなりません。採用の際に候補に挙がったのはTKCを含め、2種類のソフトでした。

──TKCシステムを選択された決め手は?

青木 公益法人会計基準に完全準拠していて、高いセキュリティーが確保されていること、そして仕訳を分散入力できるクラウド型のシステムである点にも魅力を感じました。デモを複数回行ってもらい、機能を確かめられたのも大きかったです。『FX4クラウド』に移行して1年がたちますが、業務効率化が進展しつつあります。

渋谷 会計システムの選定に際しては、はじめからTKCシステムありきではなく、フラットな状態で機能を比較し、検討してもらいました。

──会計ソフトを移行後、どんな点が変わりましたか。

青木 従来は病院、診療所それぞれから請求書等の書類を事務局に送付してもらい、われわれ財務経理担当が仕訳入力していました。また、健診部門と病院部門で異なる会計ソフトを利用していたため、病院部門のデータをCSVファイルで切り出し、健診部門のソフトに読み込むなど煩雑な処理が必要でした。これらをTKCシステムに一本化したことにより、データ連携の手間がかからなくなり会計数値をタイムリーに把握でき助かっています。

──以前はタイムラグが生じていたわけですね。

郷古 病院部門のデータ取り込みが月単位であったり、請求書、伝票等の書類送付に時間を要したり、タイムラグがありました。現在は事務局だけでなく、各拠点で『FX4クラウド』を利用しているので、現場ごとに仕訳入力でき、会計データを即座につかめる体制になっています。クラウド型システムの利点ですね。

──ふだんどのような機能を活用していますか。

青木「マネジメントレポート(MR)設計ツール」機能により、さまざまなオリジナル帳表を作成しています。例えば、診療科別業績一覧表は院内会議で配布し、経営分析資料として役立てています。

郷古 システムで作成、承認した伝票が、仕訳や支払予定データに変換されるのも便利です。なおかつ、インターネットバンキング振込用データを作成し、未払仕訳も自動計上できるようになりました。これまで伝票を用紙で出力して上長に捺印してもらう必要がありましたが、システム上で承認できるようになり、ペーパーレス化が図れています。

青木 インターネットバンキングの入出金明細を受信し、仕訳を簡単に計上できる「銀行信販データ受信機能」も活用しています。仕訳入力の省力化につながっているのはもちろん、口座残高と帳簿残高が一致しているか確認できるので安心です。

──課題として挙がった、キャッシュレス化の現状は?

地下鉄泉中央駅前の仙台循環器病センター

地下鉄泉中央駅前の仙台循環器病センター

渋谷 組織全体の月間の経費精算件数を集計したところ、駐車場代やタクシー代など、300件ほど発生していることがわかりました。精算に備えるため、各拠点で小口現金を保管していて、その管理にコストと時間を要していました。そこで、TKCシステムへの切り替えにあわせ、クラウド型の経費精算ソフトを導入。スマートフォンでタイムリーに精算処理を行えるのに加え、小口現金残高も5分の1まで減らせました。

──残業時間削減等の効果はありますか。

青木 昨年6月、1名の財務経理担当者が異動となり、2名体制になりました。にもかかわらず残業が実質ゼロの状態で推移しているのは、業務改善が進んでいる証左であると捉えています。

渋谷 特筆すべきは、組織内でシステム操作に詳しい方が多いところです。『FX4クラウド』移行当初から、伺書作成機能や業務システムとの連携機能などフル活用されています。

──今後の方向性と課題についてお聞かせください。

永野 業務効率化を図るべく、デジタルツールをさらに活用してルーティン業務を自動化していきたいと考えています。計算、集計といった単純作業は、機械が得意とする領域。人が行うとミスは避けられません。業務改善はまだ途上にあります。直近のテーマとして、改正電子帳簿保存法の施行を受け、電子取引データの電子保存に着手する予定です。

(北日本統括センター・種市比登志/本誌・小林淳一)

会社概要
名称 宮城県成人病予防協会
設立 1963年10月
所在地 宮城県仙台市泉区本田町8番26号
職員数 496名
URL http://www.mygsji.or.jp
顧問税理士 税理士法人Sincere
顧問税理士 渋谷 浩司
(本社)宮城県名取市那智が丘2-5-11 2F
URL: https://sincere-tax.jp

掲載:『戦略経営者』2022年3月号