10代前半から25歳前後までの若者を指す「Z世代」。米国で「ジェネレーションX」、「ジェネレーションY」に続く世代として名付けられたのがはじまりだ。彼らの気質や消費傾向をもとに、“いまどきの若者”の心をつかむヒントを探ってみた。

プロフィール
はらだ・ようへい●1977年生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー等を経て、マーケティングアナリストとして活躍。2022年4月芝浦工業大学教授に就任。「マイルドヤンキー」「さとり世代」「伊達マスク」など、若者消費を象徴するキーワードを世に広めた若者研究の第一人者として知られる。『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『メガヒットのカギをにぎる!シン世代マーケティング』(ぱる出版)ほか著書多数。
スマホ第一世代の根幹をなす「チル」と「ミー意識」

──「Z世代」と呼ばれる若者と日ごろ接して感じることは?

原田 2年前に『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』という書籍を上梓(じょうし)し、「chill(チル)」と「ミー意識」がZ世代の特徴であると述べました。その印象は現在も変わっていません。
 チルとは「chill out」の略で、「まったりする」といった意味です。彼らは「ゆとり世代」(1987~95年生まれ)と比べると、進学やアルバイト、就職活動などにおいて、不安や競争の少ない環境で成長してきた結果、チルという価値観を持つようになりました。働き方改革やワーク・ライフ・バランスが喧伝(けんでん)されるご時世になったことも、こうした価値観が広がった一因といえます。
 そして、Z世代に顕著ながら一見するだけでは分かりにくい、過剰な自意識をミー意識と名付けました。
 彼らはツイッターやインスタグラムなどのSNSを駆使した発信意欲が高く、周囲から「いいね」をもらって自己承認欲求を満たしています。自分自身を大きく見せようと、SNSのプロフィルを"盛っている"人も少なくない。若者はいつの時代も自意識過剰なものでしたが、Z世代は組織に尽くす「for all」の感覚が薄れる一方、「for me」の意識は非常に強くなっていると感じます。

──教鞭(きょうべん)をとられている大学でもZ世代を意識されることはありますか。

原田 大学では、消費者行動論やデジタルプレゼンテーションなどの講義を担当しており、原則、対面形式で授業を行っています。学生たちの成長を促すには、リアルの講義がもたらす緊張感や、生のコミュニケーションが大切だと思うからです。オンラインの講義なら極端な話、横になってゲームをプレイしながらでも参加できてしまう。Z世代の人たちは誰かと議論したり、恋愛したりする機会がここ数年、とみに減っています。そうしたリアルの体験の場がごそっと抜けてしまっているので、少しチャイルディッシュな印象を受けています。

際立つ情報拡散力

──若者の間で、位置情報共有アプリがはやっていると聞きます。

原田 友人同士あるいは恋人同士で、スマートフォンのGPS機能で現在地を共有する「ゼンリー」というアプリが人気です()。自分のいる場所だけでなく、スケジュール共有アプリで予定を公開している学生もいます。こうしたネットサービスを抵抗感なく利用できてしまうのは、隠し事がなく健全だなと感じる半面、大人になれば秘密のひとつやふたつあってしかるべきなのに……と複雑な気分で眺めています。

──消費者としてのZ世代に注目が集まっている背景は?

原田 いくつか理由がありますが、まずZ世代は中高年層よりもSNSの利用率が高く、強力な情報拡散力を持っています。彼らは、思春期に使用しはじめた携帯電話がスマートフォンだった「スマホ第一世代」でもある。たとえ若者がメインターゲットでない商品でも、Z世代の人たちに特徴や魅力を伝えられれば、彼らの投稿を起点に、他の世代に拡散される可能性があります。企業は「情報の拡散役」として彼らの存在を無視できなくなっているのです。
 それと、Z世代はゆとり世代などよりも、消費意欲が旺盛である点が挙げられます。これはツイッターやインスタグラム、ティックトックといった、消費意欲をかき立てるSNSや動画アプリが普及している点が大きい。さらに、フリマアプリユーザーが拡大しているのも見逃せません。例えば、若者の間では「スマホショルダー」という、肩にかけるスマホ専用の小さなバッグがはやっています。万一、値の張るスマホショルダーを購入して失敗しても、フリマアプリに出品して売ってしまえばよいわけです。
 ひと昔前の2009年ごろには、クルマ離れ、お酒離れなど「若者の〇〇離れ」が盛んに言われました。そのような傾向は近年、徐々に薄らいできていると感じます。

2022年9月運営会社がサービスの終了を公表

日常が「非日常」に

──彼らを引きつける商品、サービスを開発する際、どんな点を念頭に置けばよいでしょう。

原田 商品ジャンルによって訴求ポイントは異なるので、一概に言うのはむずかしいですが、共通している点を挙げると、美しくて、面白く、なおかつ珍しい写真や動画を撮れること。Z世代の価値観の特徴として、「チル」と「ミー意識」について冒頭でふれました。大前提として、この2つの価値観を根底に置いて、検討する必要があります。

──それらの要素を満たし、Z世代に受けているサービスの具体例を教えてください。

原田 一例を挙げると、Z世代の間では「ものづくりカフェ」がはやっています。オリジナルの香水をつくることができるお店やワインを飲みながら絵を描けるお店、口紅などのコスメをつくることができるお店などです。東京都内にあるビーズ専門店では、スマホストラップやマスクストラップといった、ビーズアクセサリーづくりを体験できるワークショップを開催して、人気を博しています。
 というのも彼らはここ2年ほどの間に、ものづくりが大好きになりました。以前ならふだんはカフェで友人とまったり過ごし、旅行に出かけたときには器づくりなどちょっとした「非日常」を体験して、動画に収めたりするような生活を送っていました。しかし、コロナ禍で友人と頻繁に会うことができず、遠出することもままならなくなった。つまり、友人と遊ぶという日常が非日常になってしまった。そんななか、せっかく友人と会うなら、思い出を残したいというマインドが強くなったんです。
 例えば、和菓子店なら和菓子づくりを体験でき、その場で飲食できるスペースを設けてみるのも手です。そうした試みは、彼らのニーズにマッチするでしょう。デジタル化が叫ばれる時代ではあるものの、関心がものづくりに向いている若者が少なからずいることは、中小メーカーにとって明るい話題といえるかもしれません。

──Z世代にフォーカスする際の注意点はありますか。

原田 最近の若者は環境意識や起業意識が高くなっている、という言説をよく耳にします。メディアがいわゆる意識の高いひと握りの若者を取り上げることで、そうしたイメージが流布していますが、Z世代全体に当てはまるかというと疑問です。SDGs(持続可能な開発目標)に対する意識もそう。例えば、通常より割高な環境認証商品を積極的に購入する若者は、ごくわずかだと思います。

同世代で似かよう感性

──中小企業経営者にアドバイスを。

原田 日本の企業はこれまで、人口ボリュームの多い団塊世代(1945~51年生まれ)をターゲットにしたモノやサービスの開発に力を注いできました。「アクティブシニア」という言葉がありますが、誰しも老化を免れることはできないので、いずれアクティブでなくなる日がやって来ます。
 今の若者であるZ世代は、未来の消費をけん引する存在といえます。彼らが中年になった時に、あらためて彼らのニーズをつかむのは容易ではありません。人は若いころから使いつづけている商品やサービスからなかなか離れられないものです。したがって、若者の嗜好(しこう)をリサーチし、ニーズを把握しておく方が、彼らが中年になったときも、心をつかみつづけられる可能性は高まります。

──欧米やアジア諸国では、Z世代の人口が他の世代を上回りつつあるそうですね。

原田 日本の10歳から25歳までの人口を計算すると2000万人に満たず、総人口の15%ほどにすぎませんが、人口が増加しているアジア諸国をはじめ、Z世代の人口ボリュームは日増しに高まっています。彼らは日ごろインスタグラムやティックトック、ネットフリックスなどを見ているので、美しいと感じるもの、面白いと感じるものなど、似た感性を持つようになってきています。日本のZ世代に受けるモノやサービスは、海外のZ世代にも受け入れられる可能性が高い。よって、海外の消費者を顧客とするビジネスを展開する企業でも、Z世代を分析することは不可欠なのです。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2022年10月号