物価高の進行で、経営環境は厳しさを増していますが、今年末も賞与を支給したいと考えています。中小企業の相場を教えてください。(板金工事業)

 民間企業全体についてみると、今冬の1人あたり賞与支給額は、前年比+1.8%と前年から増額される見込みです。背景として、コロナ禍からの企業業績の回復が挙げられます。

 財務省「法人企業統計調査」によると、経常利益(資本金1,000万円以上、金融機関を除く)は、2022年4~6月期に前期比+5.5%と3四半期連続の増益となりました。業種別にみると製造業は、円安や資源高を受けて原材料コストが増加したものの、自動車や電気関連を中心に部品の供給不足が徐々に緩和されていることから、生産活動が回復しており、4四半期連続の増益となりました。非製造業は、行動制限が緩和され個人消費が回復していることを背景に、小売業や飲食サービス業を中心に増益となりました。

企業規模間格差が鮮明に

 もっとも、今年度の賞与支給については、円安の進行と、業績が賞与に反映されるタイミングの違いを背景として、企業間格差が鮮明となる見込みです。

 まず、為替についてみると、ドル円相場は年初の115円前後から、10月には一時150円を超えて急落しました。企業では、資源価格の上昇にともなう原材料、資材、燃料、光熱費のコスト増に円安が拍車をかけており、収益を圧迫しています。グローバルに事業を展開している大企業では、円安による海外事業収益の増加が円安によるコスト負担を上回ることで、過去最高益を計上する例が散見されました。ただ、中小企業では、海外での事業活動が少ないぶん、円安による収益増加額も小さく、コスト負担が重くなっています。

 また、業績が賞与に反映されるタイミングは、中小企業の方が早く、コロナショックからの業績持ち直しが昨年の賞与にすでに反映されています。今年はこの効果が一巡する中小企業が多いとみられます。

 一方、多くの大企業では、経済の先行き不透明感が強かったことを背景に、21年賞与の増額が抑えられたため、今年度にようやくコロナ禍からの業績回復が反映されることになります。

 今夏の賞与では、この企業規模間格差が鮮明となり、事業所規模100人未満の企業では支給額が前年並みにとどまる一方、事業所規模100人以上の企業では、6%近くの増加となりました。

 この冬の賞与についても同様の傾向が続くと考えられ、中小企業の賞与は前年並みにとどまることが予想されます。

 もっとも、以下の2点から企業規模を問わず、従業員の処遇向上が求められています。第一に、人手不足の深刻化です。とりわけ正社員については、新規求人倍率が足元でコロナ前を上回っており、人材確保のハードルが高まっています。

 第二に、物価上昇が挙げられます。最近の物価上昇を受けて、賃金引き上げが社会的に要請される傾向にあります。クレジットカードの支払いをボーナス時期にあわせて支払う方法が普及するなど、賞与には、労働者の身近な生活を支えるという性質がますます強まっています。

 以上をふまえると、中小企業においても業績が堅調な場合は、賞与の増額を図っていくことが重要といえます。

掲載:『戦略経営者』2022年12月号