資材価格の高騰が続いていますが、今年も夏季賞与を支給したいと考えています。中小企業における相場を教えてください。(家具小売業)

 今年の夏季賞与額(1人あたり)は、民間企業全体で前年比+2.6%と2年連続で増加する見込みです。これは、賞与算定のベースとなる所定内給与(基本給)が増加することが主因です。

 所定内給与が増加した背景には、物価高と人手不足があります。多くの企業で賃上げが実施されており、連合の第5回回答集計結果によると、今年の春闘での賃上げ率(定期昇給を含む)は+3.67%と1993年以来30年ぶりの高い伸びになりました。例年よりも高めに設定された組合側の要求に近い水準で妥結するケースが多く、企業側の積極的な賃上げ姿勢が鮮明となっています。

 大企業だけでなく、中小企業でも、賃上げの動きがみられます。春闘では、中小企業の賃上げ率は+3%台半ばに達しており、大企業と比べても遜色ない伸びになっています。特に人手不足が深刻化している宿泊・ホテル業では、中小企業の賃上げ率が大企業を大きく上回っており、人材確保を目的とする賃上げが実施されていることがうかがえます。

 もっとも、春闘の結果は、労働組合がある企業が対象です。中小企業の労働組合組織率は低いため、労働組合を持たない企業にまで賃上げが波及するかという点には留意が必要です。ただ、多くの中小企業が人手不足に直面していることを踏まえると、賃上げ圧力は中小企業にも広がっている可能性があります。

支給額にメリハリを

 ただし、中小企業の賞与の伸びは、大企業と比べて小幅になると見込まれます。これは、多くの中小企業の収益が引き続き厳しい状況にあるためです。日銀短観2023年3月調査によると、22年度下期の中小企業の経常利益は、前年比▲10.7%と減少が見込まれています。資源高や円安による原材料コスト増を販売価格に十分に転嫁できなかったため、増収にもかかわらず減益となっています。なかでも、製造業が同▲23.5%と、非製造業(同▲6.4%)に比べて減益幅が大きくなっています。

 非製造業では、国内家計のサービス消費やインバウンド需要の回復が収益を下支えした一方、製造業では、海外経済の減速が収益回復の足かせになったとみられます。中小企業では、支給時期直前の業績が賞与に反映される傾向があるため、賞与の支給月数の引き下げが基本給増加による賞与の押し上げ効果を一部相殺すると予想されます。

 大企業と中小企業の賃金格差が拡大すると、より良い条件を求めて転職者が増え、中小企業の人手不足が一段と加速するリスクが高まります。そうした状況を防ぐためにも、余力がある企業においては、賞与を含めた賃金の引き上げを積極的に検討することが望まれます。他方、十分な余力がない企業においては、賞与を一律で引き上げるのではなく、個人の実力や成果に応じて、賞与の支給額にメリハリをつけることもひとつの案です。これにより賞与支給総額を抑えながらも、優秀な従業員の処遇改善が図れるほか、従業員のモチベーションを高める効果も期待できます。

 賞与増額を含む賃上げの原資を持続的に確保するためには、人件費の増加を販売価格に適切に転嫁する必要があります。さらに、人的資本への投資により従業員の能力を高め、生産性を引き上げることも求められます。「人への投資」は岸田政権が掲げる「新しい資本主義」の柱となっており、人材育成の訓練経費を補助するための制度が創設されています。こうした支援策を積極的に活用し、個々の企業で生産性を引き上げる取り組みが期待されます。

掲載:『戦略経営者』2023年6月号