樋野(ひの)電機工業は松江市の中海のほとりに本社を構え、各種制御盤の設計、製造を担う。松坂好孝社長のかじ取りのもと、自社製品の開発やITツールの活用に挑戦している。松坂社長と総務部の宮本康子さん、遠藤清二顧問税理士に業績数値の透明性と会社の信頼性を高める取り組みを聞いた。

展示会を足がかりに全国に販路を開拓中

──一昨年、創業50年を迎えたそうですね。

松坂好孝社長

松坂好孝社長

松坂 創業者である樋野義廣が工作機械や溶接機等の修理を行う事業をはじめたのがルーツです。2008年に私が経営を引き継ぎ、社長に就任しました。  その後、リーマン・ショックや震災が起こった際は、半導体等の部品調達難に陥りました。現在も当時と似た状況に直面しています。ただ、コロナ禍で制御盤設計の需要は落ち込んでいたものの、空調設備業界を中心に引き合いが活発になってきています。

──製品の納入先は全国の電力会社や自動車メーカー、研究機関など多岐にわたっています。日ごろ取り組まれている営業活動は?

松坂 例年、東名阪エリアで開催されている「機械要素技術展」という展示会に出展していて、4月に名古屋会場でブースを出展したばかりです。早速商談化した案件もあり、展示会は新規顧客を獲得する上で大切な接点になっています。

──事業面の強みを教えてください。

松坂 まず制御盤のハード、ソフトウエア両方の設計を行えること。それと、試運転からメンテナンスまで一貫してサポートできる点です。制御盤製造のみを請け負う企業は数多くありますが、設計からシステム立ち上げまで実施できる企業は限られるのが実情です。

──技術力を生かしたオリジナル製品を扱われているとか。

松坂 クリの外皮の傷入れを自動で行える「ぽろたんカッター」という機械を販売しています。当社が開発した制御盤を採用することで、どんな形のクリも真ん中に切れ目を入れられるようにしました。「ぽろたん」とは、果樹研究所(茨城県つくば市)が開発したニホングリの品種で、渋皮を簡単にむけるのが特徴です。この機械を用いると、8時間の連続稼働で約9,600個のクリの傷入れを自動化できるため、食品加工会社から喜ばれています。

──事務所や工場をバーチャル見学できる3D画像を自社サイトで公開されています。

松坂 就職活動中の学生は、志望企業の詳細をインターネットで調べるのがいまや当たり前。われわれに興味を持ってもらうための施策を検討していたところ、東京都内の企業が同様の取り組みを行っているのを知り、地元在住のカメラマンに依頼して映像を撮影してもらいました。学生を中心に反響があり、会社の雰囲気がわかると好評です。

──採用に効果はありましたか。

松坂 今年4月に2名の新卒者が入社しましたが、当社を知るひとつのきっかけになったそうです。われわれは20年以上にわたり「3S(整理・整頓・清掃)活動」にも取り組んでおり、工場見学会を開催してきました。それがコロナにより見学者の受け入れが困難になるなか、バーチャル見学をPRツールとして有効に活用しているというわけです。

左から、2020 年に新築された事務所(左)、多岐にわたる業種の制御盤を製造する、整理、整頓が行き届いた工場内

左から、2020 年に新築された事務所(左)・多岐にわたる業種の制御盤を製造する・整理、整頓が行き届いた工場内

四半期業績検討会で自社の立ち位置を確認

──遠藤清二先生と顧問契約を結ばれたのは2015年と聞いています。

松坂 顧問税理士を探す際に、複数の会計事務所に問い合わせをしましたが、親身に対応してくれたのが遠藤先生の事務所でした。顧問契約を結んで以来『FX2』を活用した業績把握と決算対策、資金繰りの相談など、きめ細かくサポートしていただいています。

遠藤清二顧問税理士

遠藤清二顧問税理士

遠藤 ITツールに詳しく、数字に強い経営者というのが松坂社長の第一印象でした。実際、金融機関とのミーティングの場で、社長自ら《変動損益計算書》を元に業績を説明されるのが習慣になっています。

──《変動損益計算書》のどのような項目に注目されていますか。

松坂 近年は高騰著しい電気料金をはじめとする水道光熱費の変動も気になるところですが、一番注目しているのは、限界利益率と損益分岐点売上高ですね。というのも、月によってそれらの数値に顕著な差が生じるためです。

──なぜでしょう。

松坂 当社の特徴として官公庁や大手企業との取引が多く、注文が年度末の3月と12月に集中する傾向があります。製品の完成に2〜3カ月を要する案件では、仕入れや外注費が先行して発生し、売り上げ計上が半年後にずれ込む場合もある。したがって、限界利益率などの推移を入念にチェックしておく必要があるんです。業績を詳細に把握し、対策を話し合う場となっているのが四半期ごとに開催している「業績検討会」です。

──業績検討会で討議されている内容は?

松坂 役員や経理担当の宮本に加えて遠藤先生にもご出席いただき、直近の業績と見通しを発表すると同時に、課題に対する打ち手をディスカッションしています。その際に重宝しているのが、遠藤先生が作成されているオリジナルの「業績報告レポート」。《変動損益計算書》の主要な項目が網羅されており、前年同月および目標予算と比較したグラフにより、現状の業績にもとづいた当社の立ち位置をひと目で把握できます。あわせて借入金の返済計画など、当面の資金繰りも確認しています。

宮本康子さん

宮本康子さん

宮本 「銀行信販データ受信機能」や戦略給与情報システム『PX2』の仕訳連動機能を用いて、経理業務の省力化を図っています。生産性が向上し、従来仕訳入力に要していた時間を他の業務にあてられるようになりました。

遠藤 樋野電機工業さまでは、商工中金によるTKC全国会提携商品「対話型当座貸越(無保証)」を利用されています。融資条件には、「TKCモニタリング情報サービス」の活用のほか、関与先企業さまと顧問税理士、商工中金の三者が年1回、会議を行うことが規定されていて、決算申告の翌月である8月に事業概況と業績予測について報告する場を設けています。

MISと書面添付の実践で金融機関との連携を強化

──MISの活用により、どのような効果がありましたか。

松坂 5行の金融機関に月次試算表データを送信しており、業績を詳らかにすることで、連携が深まっていると感じます。MIS利用前は金融機関の担当者が月次試算表を受け取りに来られたり、私が支店窓口に持参したりしていました。それが月次および年次決算データをタイムリーに送信できるようになり、非常に助かっています。
 商工中金の融資担当者も月次業績の推移を把握した上でミーティングに出席されているので、よりスムーズに会話できるようになりました。最近では、取引金融機関の担当者から運転資金の融資を打診されることもあります。

──当該融資の条件には「書面添付」の実践も含まれています。

松坂 遠藤先生のすすめにより、ここ5年ほど毎期実践しています。以前は定期的にあった税務調査も、先生と顧問契約を結んで以降、一度も実施されていません。

遠藤 書面添付制度で規定されている意見聴取が行われたこともなく、決算申告書の透明性の高さが税務当局にしっかり伝わっている印象があります。

──抱負をお聞かせください。

松坂 これからも制御盤の設計、製造に特化した事業を展開していくつもりです。インターネットに接続して機器同士を通信させたり、制御盤の制御方法も進化しています。そうした新たな技術動向をキャッチアップしつつ、顧客ニーズに着実にお応えできる企業を目指していきます。

※1 銀行信販データ受信機能…複数の金融機関(銀行や信販会社)から、インターネットを利用して取引データを自動受信し、その取引データをもとに仕訳ルールの学習機能を利用して仕訳を簡単に計上できる機能

※2「書面添付制度」とは

 税理士が申告書作成にあたり次のような項目について、添付書面に記載します。

  1. 関与先にどのような資料、帳簿類が備え付けてあり、どの帳簿類を基に計算し、整理し、申告書を作成したか。
  2. 今期大きく増減した科目の原因及び理由。
  3. 関与先からどのような税務に関する相談を受け、回答したか。
  4. 税理士として関与先の申告書内容について、どのような所見を持っているのか。

 書面添付をすると、調査対象となる前に、税理士に記載内容についての意見を求められることがあります。これを「意見聴取」と言います。この意見聴取で疑問点が全て解決できれば、調査省略となります。また、調査に移行したとしても、既に調査を行うテーマが分かっており短時間で終了するのが殆どであり、税理士・関与先ともに負担が軽減されます。

日本税理士会連合会「書面添付制度をご存じですか?」より引用

(取材協力・遠藤清二税理士事務所/本誌・小林淳一)

会社概要
名称 樋野電機工業有限会社
業種 制御盤設計・製造
創業 1971年7月
所在地 島根県松江市東出雲町揖屋2801-1
売上高 3億5,000万円
社員数 30名
URL https://www.hinoden.com/
顧問税理士 顧問税理士 遠藤清二
遠藤清二税理士事務所
島根県安来市安来町1183番地12
URL: https://endo-ac.tkcnf.com/index

掲載:『戦略経営者』2023年6月号