寄稿

今こそ、会計指導力を強化し、「税務と会計の一気通貫」を守ろう

自計化推進の3つのキーワード

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 「TKC全国会の新成長戦略2021」では、今年からの3年間を「第1ステージ」として、「TKC会員事務所の総合力強化と会員数の拡大」を行動テーマに掲げ、「1、会計指導力の強化」「2、書面添付推進」「3、決算書の信頼性向上」「4、会員数拡大」を挙げています。第1項目「会計指導力の強化」の具体策として、「経営者の計数管理能力向上」「関与先の業績管理体制構築」「月次決算体制構築」の3点を支援するとしていますが、これらは、いずれも中小企業の自計化推進において最も重要なキーワードです。

1、TKCシステムを使って会計指導力を強化し、企業の存続発展に貢献しよう。
 ①経営者の計数管理能力の向上を支援する。
 ②関与先の業績管理体制の構築を支援する。
 ③巡回監査を通じて月次決算体制の構築を支援する。

企業経営者主導の自計化が進んでいる

 『平成25年版中小企業白書』(中小企業庁)によれば、会計ソフト利用企業の割合は、小規模企業においては60.1%、中規模企業においては85.8%となっており、中小企業のほぼ7割が自計化している状況にあります。

 このまま企業経営者主導の自計化が増加すれば、会計事務所に対して税務申告のみを依頼する、いわゆる年一決算の増加が危惧されるばかりでなく、市販の会計ソフトのほとんどは、税務処理も可能なので、決算書作成も企業側だけで行うようになる可能性があります。税務申告用の帳簿や決算書を作るだけの市販ソフトに、中小企業が慣れるのは簡単で、そこには会計事務所の入る余地はあまり残されていません。

 このような事態が進むことは、中小企業に対して信頼性の高い情報開示を求める時代の流れに逆行するとともに、会計事務所経営に大きな影響を来します。業界全体の大きな問題と言えます。

 中小企業の自計化は避けて通れない流れであり、気がついたときには、「時すでに遅し」です。「会計で会社を強くする」時代にあって、経営者による単なる経理事務合理化だけを目的とする自計化であってはならないはずです。

 今こそ、会計事務所主導による自計化が強く求められているのです。

自計化の目的は「会計で会社を強くする」こと

 しからば会計事務所主導によるTKC自計化システムの「強み」はどこにあるのでしょうか。

 そもそもTKCシステムは、TKCの創業の理念「職業会計人の職域防衛と運命打開」を目的とし、関与先企業の存続発展を願ってTKC会員が自ら開発に関わっているところが最大の強みです。

 TKC方式の自計化システムにおいても、その点は同様であり、その強みは、TKCの飯塚真玄会長が言われている内容に従えば、次の通りです。

①巡回監査と月次決算による関与先の黒字化の支援と適正申告の実現
②「365日変動損益計算書」の活用による部門別業績管理体制の構築
③金融機関等から信頼される月次の「試算表」と「決算書」の作成
④決算申告事務の合理化(「40日決算体制」の構築)
⑤TKC方式の書面添付(調査省略体制の構築)
⑥決算書等の自動電子申告(市販ソフトでは自動化できません)
⑦「記帳適時性証明書」の活用による関与先に対する金融支援策
⑧会計データの確実な保存(BCP対策)
継続MASの活用による短・中期経営計画の策定支援
⑩「TKC経営指標」の経営改善ベンチマーク指標としての利用
⑪月次・四半期の業績モニタリング・サービスの提供
⑫関与先の財政状態とリスク分析に基づいたTKC企業防衛制度の推進
⑬やりがいのある仕事の創出と優秀な職員の育成と定着

 多くのTKC会員によって練り上げられたこれらの強みは、すべて「会計で会社を強くする」ための実践指針と言えます。

今、会計指導力が求められている

 最近の国の中小企業政策は、厳しい内外の経営環境を勝ち抜くため、中小企業の潜在力・底力を最大限に引き出し、中小企業の財務経営力を高めることが眼目とされています。

 すなわち期中発生主義会計により、タイムリーな月次決算を行い、経営者自らが、会計数値を読み、部門別や予算管理を駆使して、日々の経営に活かすとともに、自分の言葉で自社の決算内容を語り、経営計画書を作成し、将来の経営について説得力ある説明ができる自立型経営を求めています。

 TKCシステムの強みを強みとして活用することは、まさにこのような自立型経営を支援することです。

 会計事務所主導による自計化は、会計人による会計指導力の発揮につきます。

 TKC全国会飯塚毅初代会長は、昭和51年12月号の『TKC会報』で次のように述べています。

 「税法であれ、会計であれ、テクニックの指導は易しい。しかし、経営が人間による経営である限り、結局は、その経営者の心を、どう方向づけ、どう指導していくか、が最後に問われる所である。会計人が、ビジネス・ドクターといわれる以上は、会計人は、経営者の心の指導能力も身につけておかねばならない。ニーチェは、『偉大とは方向を与えることである』と言ったが、経営者という人間に方向を与えていく仕事、それはこの世で最も偉大なる仕事であり、会計人はその任に耐えるだけの自己の人間性の錬磨に励まねばならぬ。」

 

 最後に、TKC全国会坂本孝司副会長の『会計で会社を強くする』(TKC出版)から会社を強くする要点の一部を紹介します。

(1)現状を正しくつかむ。
 ・発生主義会計で処理しているか?
(2)将来を見通す。
 ・経営計画書を作成し、PDCAサイクルを定着させているか?
(3)税理士を積極的に活用する。
 ・企業を税務・会計・経営全般にわたってトータルに支援できる税理士を活用しているか?
(4)金融機関と上手に付き合う。
 ・決算書や経営計画書を自分の言葉で説明できるか?
(5)「新時代の会計」に対応する。
 ・コンピュータ会計法に準拠した会計システムを採用しているか?
 ・会計で会社を強くする発想の会計システムを使っているか?
 ・「中小会計要領」による会計処理をしているか?
 ・会社法で新設された「会計参与制度」を知っているか?

 「会計で会社を強くする」新しい時代に入っていることをすべてのTKC会員が自覚したいものです。

(会報『TKC』平成26年5月号より転載)