寄稿

「7000プロジェクト」を追い風にして事務所総合力を強化しよう

国の目標2万件の3割強、7千件を目指す運動

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 平成24年3月末に中小企業金融円滑化法が終了したことを受け、国は、その後の中小企業対策として、経営革新等支援機関制度を創出し、金融機関との連携による経営改善支援のため405億円の予算措置をしました。しかし現在のところ、その利用件数は2千件程度で、当初予想の1割程度にとどまっている状況にあります。

 平成26年5月末現在、認定された経営革新等支援機関数は21,535機関で、税理士、税理士法人、公認会計士が18,213機関で約85%を占めています。そのうちTKC会員は6千を超え、全認定支援機関の約3割となっています。

 そこでTKC全国会は、国が予定している支援企業2万社の3割超にあたる7千企業の経営改善計画策定を支援する「7000プロジェクト」を立ち上げ、その活動を開始したところです。

 認定支援機関制度のそもそもの創設理由は、わが国経済の基盤をなす中小企業が窮境にある中で、金融機関を中心に、さまざまなプロフェッショナルが各地域で支援ネットワークを形成し、互いに手を携えて支援することが眼目とされていました。

 その中で本施策は、認定支援機関である税理士等が関与先の経営改善計画策定を支援し、その実行段階までをモニタリングするという過去にない着眼点による新基軸の施策といえます。本施策の成果を挙げることは、国の今後の中小企業施策にとって、また地域金融機関にとって、職業会計人の未来にとって非常に意義のあることだと思います。

プロの語源は「公益に奉仕を誓う(Profess)」

 税理士、公認会計士は税務と会計のプロです。しかしプロとはそもそもどんな意味の言葉なのでしょうか。

 Profession(専門職)のProfessとは、「公言する、あるいは明言する。」という意味で、プロとしての知識や技量を公言することを指します。そして公言するからにはプロとしての結果を出さねばなりません。

 先日、TKC全国会顧問、甲南大学大学院教授の河﨑照行先生と懇談する機会があり、この言葉(Profess)について話が弾みました。河﨑先生はこの言葉の語源は「宣誓する。ないし誓う」という意味であり、誰に対して何を誓うのかと言えば、「神に対して、公益に奉仕することを誓うことである」と話されていました。

 そういえば、TKC全国会はこれまでも時代に即した国の政策を真正面から受けとめ、税務と会計のプロとして、公益に貢献してきた歴史をもっています。

 近年の例では、平成16年に「TKC全国会電子申告推進プロジェクト」を立ち上げ、圧倒的な勢いで国税の電子申告の数を伸ばして、国の電子政府実現に向けた施策に大きく貢献したことは、まだ記憶に新しいところです。

 このたびの「7000プロジェクト」においても、TKC会員は、税務・会計のプロとして、先の電子申告に次いで、国(公益)に奉仕をすることを誓う「Profess」の活動として実践することが期待されています。

経営改善計画策定「実践会」など、推進環境は万全

 TKC全国会の事業目的の一つに「中小企業の存続・発展に資する活動」があります。この目的は、TKC全国会創設50周年に向けた戦略的な活動においても、社会に向けたミッションとして、次の3項目を掲げています。

①中小企業の黒字決算割合の向上に向けた支援。
②決算書の信頼性向上に向けた支援。
③中小企業の存続基盤強化に向けた支援。

 もし、「7000プロジェクト」の成果を挙げることができなかったらどうなるでしょうか。TKC全国会は、税務・会計の専門家として中小企業支援を行うと言いながら力のない団体であるとみなされ、行政機関や金融機関などからの信頼を低下させることになりかねません。

 そしてなによりも、経営革新等支援機関として認定を受けていながら、疲弊している関与先企業の倒産を阻止できないという懸念があります。

 本プロジェクトの対象企業は、年商3億円以下でそのメインは年商1億円以下としていますが、中小企業再生支援全国本部の統括プロジェクトマネージャー藤原敬三氏は、「いま経営改善計画策定支援事業の対象を広げています。210万社の赤字法人すべてが対象です。しかし実は黒字法人も対象となりうるのです。また、この事業を利用すれば保証協会から別枠保証も付くので、リスケした関与先、赤字関与先に限定せず新規借り入れにも利用可能です。」(『TKC会報』平成26年5月号)と、多くの企業が対象になりうると説明しています。

 このたびの経営改善計画策定支援は、われわれTKC会計人にとって初めて経験することではありません。すでに平成15年から3年間活動した「第2次成功の鍵作戦」において、「経営計画策定支援のための実践知識」「業績改善の着眼点」「中期経営計画策定支援」等々、職員ともどもさまざまなスキルアップ研修と実践的学習により、経営革新支援法(後の中小企業新事業活動促進法)による経営革新計画の承認を多数支援してきました。さらに、中小企業金融円滑化法の再延長の際には、地域金融機関との覚書締結に基づいて経営改善計画の策定支援を担ってきました。

 昨年度は、認定支援機関となるための実践的な研修を経験し、本年6月以降は、具体的な事例に基づく経営改善計画策定支援「実践会」を全国的規模で開始するに至っています。

 さらに7月末からは、専任講師による経営改善計画策定支援のための「継続MASシステム」の研修が全国各地で始まっています。

 このようにTKC会員の取り組みを支援する環境は完全に整備されています。あとは会員の行動あるのみです。

継続MASを駆使し、第1ステージの足腰強化を

 ここで重要なことは、各事務所が1件、2件のレベルではなく、すべての巡回監査担当者が一人最低1件ないし2件以上を支援する事務所全体の取り組みとすることです。これを「事務所総合力」を高める追い風としていただくことを願っています。

 今年は、TKC全国会創設50周年に向けた戦略的な活動の第1ステージの初年度にあたりますが、第1ステージの活動と7000プロジェクトは別々の活動ではありません。会員事務所として「7000プロジェクト」を全国会戦略目標達成の第一歩と位置づけて、継続MASシステムを駆使して取り組み、事務所の足腰を鍛える機会にしていただきたいのです。

 最後に、『ドラッカー365の金言』(ダイヤモンド社・上田惇生訳)の一節を紹介します。

「成果に向けた一人ひとりの自己啓発こそが、組織として社会のニーズに応え、個として自己実現するための唯一の方法である。それこそが、組織の目標と個のニーズを合致させる唯一の方法である。(中略)知識労働者も経済的な報酬を必要とする。報酬の不足は問題である。だが報酬だけでは十分でない。知識労働者は、機会、成果、自己実現、価値を必要とする。しかるに、自らが成果をあげることによってのみ、これらを満足させることができる。成果を通じてのみ、現代社会は2つのニーズ、すなわち個から貢献を得るという組織のニーズと、自らの目的の達成のための道具として組織を使うという個のニーズを調和させることができる。」
 目標を達成し、成果を挙げることを通じて、TKC全国会、TKC会員、事務所職員のスキルアップと自己実現が図られます。

 国の予算が利用できる期限は来年3月末までとなっています。本プロジェクトのカウントは、メイン金融機関の捺印をもらった「利用申請書」を各都道府県の「経営改善支援センター」へ送付し、「受理通知書」を受け取り、ProFITへの受理報告を会員が行った時点で、1カウントとみなされます。

 各都道府県のプロジェクトリーダーと連携して、ぜひ早めの準備と行動を開始してください。

(会報『TKC』平成26年8月号より転載)