掲載日:2011.02.21

「遡及処理基準」の論点整理

第5回 金商法の遡及処理と会社法及び税法との関係

公認会計士 中田 清穂 TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂
いよいよ2011年4月以降に変更する会計処理や誤謬について、「遡及処理基準」が適用されます。従来の日本の会計慣行にはなかった考え方も多く、その論点さえ十分に整理されていない企業も多いようです。このコラムでは、「遡及処理基準」の重要な論点を整理し、解説します。

遡及基準により過去の財務諸表を作りかえるということが、会社法や税法にどのような影響を及ぼすでしょうか。

1.「会計方針の変更」による「遡及適用」の検討

この場合は、会社法上も過年度の計算書類(連結計算書類を含む、以下同じ)は適法に承認されており、「確定」しているので、税務上も修正申告などの必要はありません。

しかし、遡及適用を反映した前事業年度の決算書と当事業年度の決算書の間で、対象となった勘定科目や繰越利益剰余金の額に不一致あるいは不整合が発生します。この点について、まだ税制上の手当ては整備されていない状態です。

実務上の対応としては、当事業年度の確定申告書別表5(一)の期首現在利益積立金で調整する方法があります(参考:あずさ監査法人などの監修による『Q&A決算修正の実務詳解 法務・会計・税務のすべて』374頁)。この場合には、当該調整について別表5(一)の欄外に会計方針の変更により前事業年度の決算書に遡及適用を反映したころによる調整である旨の注記をすることが、国税当局側での混乱を回避する上では意味がありそうです。

2.「誤謬」による「修正再表示」の検討

この場合は、会社法上、過年度の計算書類は適法に承認されたことにならず、「確定」していないことになります。つまり「計算書類の未確定状態」になるのです。(ただし、「会社法上の重要な誤謬」がある場合に限ります。)

したがって、会社法上も過去の計算書類を作り直して、会計監査人の監査の受け直しや、取締役会や株主総会の承認を得るなどの手続きを踏まないと、過去の計算書類は確定した状態にはならないようです(弥永真生など編著『過年度決算訂正の法務』58頁)。税務上は「確定決算主義」なので、過年度の計算書類が「未確定」の状態になると問題が発生します。

ここでは以下の2つのケースに分けて検討が必要になります。

  1. 法人税の規定に従っていなかったか、その計算に誤りがあったケース
  2. (1)には該当しないが、一般に公正妥当な会計処理基準に準拠していなかったケース

(1)のケースは、修正申告や更正請求などの対象になります。修正申告書を提出する際、遡及基準制定前は、過去の誤謬は誤謬発見時の損益計算書で、特別損益項目である「前期損益修正」勘定を見れば明らかなので、修正申告書に過年度の決算書を添付する必要はありませんでした。

しかし、遡及基準制定後は、「前期損益修正」勘定での処理は認められないことから、過去の誤謬が誤謬発見時の損益計算書では明らかになりません。したがって、提出する修正申告書には、「修正再表示」を反映した、問題期以降の全ての決算書を添付しなければならないという考え方が出てきています(参考:前括『Q&A決算修正の実務詳解法務・会計・税務のすべて』371頁)。

これに対して、(2)のケースでは、修正申告や更正請求の対象にはなりません。しかし、「修正再表示」を反映した前事業年度の決算書と当事業年度の決算書の間で、対象となった勘定科目や繰越利益剰余金の額に不一致あるいは不整合が発生します。

この場合は、当事業年度の確定申告書別表5(一)の期首現在利益積立金で調整する方法、つまり(1)の「会計方針の変更」のケースと同じ対応になるでしょう。

ただし、「誤謬」のケースが「会計方針の変更」のケースと異なるのは、過去の決算書が「未確定」になったという点ですから、場合によっては、問題期以降の全ての決算書を添付しなければならないという考え方もあるようです(参考:前括『Q&A決算修正の実務詳解 法務・会計・税務のすべて』373頁)。

現在のところ税制上の手当てがきちんと整備されていないので、将来税務調査が入った際に無用の混乱を避けるためにも、財務諸表、財務書類、決算書および会計帳簿のうちどこまで遡及処理を反映するべきかについて、整理しておくことが必要でしょう。

筆者紹介

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC全国会中堅・大企業支援研究会 顧問
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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