更新日 2010.04.26

IFRS導入とその影響

第2回 概念フレームワーク

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公認会計士 中田 清穂

TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂

日本の会計制度を大きく変えるIFRS(国際財務報告基準)への関心が高まり、検討や対応が始まろうとしています。IFRS導入の背景から、実務に必要なポイントなどを、全10回にわたって連載いたします。

2010年4月26日掲載

 第1回で触れたように、IFRSは当初選択適用が多く認められていました。

 これは、各国の会計基準を寄せ集めて作られていたからです。

 しかし、IOSCOが参加してから、統一ルールとしての性格を強めるために、選択適用を削減していかなければならなくなりました。そこで、削減するための方針としてフレームワークを作成しました。

 したがって、このフレームワークは、会計基準を新たに作成するときや、それまでの会計基準を見直したり、選択適用を削減したりする上で無視してはならない「あるべき考え方」として位置付けられています。

 正確には「財務諸表の作成及び開示に関するフレームワーク」というもので、名称が長いので、「概念フレームワーク」とか「フレームワーク」と言われています。

 概念フレームワークには、以下のような内容が記載されています。

  1. フレームワーク自体の目的
  2. 財務諸表はどのような利用者に利用され、各利用者はどのような情報を財務諸表から欲しているか
  3. 財務諸表を作成する際の大前提
  4. 適切な財務諸表を作成するためにはどのようなポイントに留意しなければならないか(財務諸表の質的特性)
  5. 財務諸表にはどのような項目を記載するべきか(財務諸表の構成要素)
  6. 財務諸表に記載される項目を財務諸表に計上するタイミングはいつにするべきか(財務諸表の構成要素の認識)
  7. 財務諸表に各項目を記載する場合の金額はいくらにするべきか(財務諸表の構成要素の測定)
  8. 財務諸表に記載される項目のうち、重要なカギを握る「資本」についてどのように考えるべきか(資本及び資本維持)

 最近、IFRSへの関心がかなり高まり、上場企業の中には具体的なプロジェクトをスタートさせる動きも出始めています。

 しかしその動きを見ると、IFRSの各基準と各企業での会計方針を個々に突合せる「フィット&ギャップ分析」を "いきなり" 実施しているケースが非常に多いようです。

 IFRSの個々の基準には、底流に基本的な考え方(概念フレームワーク)があるのです。

 この概念フレームワークを理解しないで個別検討を進めると、「フィット&ギャップ」のやり直しなど大きなリスクを伴います。

 したがって、"いきなり" 目先の個々の会計基準やその改訂動向に目を奪われないで、まずは、概念フレームワークを理解することが重要なのです。

 わかりにくいIFRSの中でも、「概念」を取扱っているだけあって、ひときわ難易度が高いものですが、絶対に修得しなければならないのです。

 「絶対に」と表現したのは、"今の" IFRSを理解し、"今後" 変わりゆく方向性を予見するだけでなく、最近の "日本の" 会計基準を理解するためにも必要だからです。

 なぜなら、最近の日本の会計基準は、「会計基準の国際化」つまり「コンバージェンス」として、IFRSに近づけるために新設・改訂されているのですから、IFRSの基本的な考え方(概念フレームワーク)に、当然のことながら影響を受けているからです。

 言い換えれば、IFRSの概念フレームワークを理解しなければ、「日本の会計基準」も十分には理解できず、納得できないまま制度に振り回されて決算対応する、うわっつらな会計人になってしまうのです。

プロフィール

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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