更新日 2026.06.25

株式会社 KPMG Forensic & Risk Advisory
シニアマネージャー
渡辺 慎一郎
従前より、子会社(特に海外子会社)の不正に悩む日本企業が後を絶ちません。そこで、当コラムにおいて、5回にわたり近年の不正事例の傾向や注意すべき法規制の動向、不正の原因および必要な対策とその実務事例を解説します。
当コラムのポイント
- 最近の傾向として、経営者不正が増加している
- 国内外の内部通報や取引先管理に係る法規制には注意を要する
- 不正の最大の原因は「一人仕事」であり一人仕事対策が不正対策の基本だが、今後はデータを有効に活用したモニタリング手法の高度化が必要不可欠な時代となる
- 目次
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1.最近の第三者委員会等や相談事例の傾向
(1) 第三者委員会等の設置事由の傾向
第三者委員会ドットコムから、第三者委員会・特別調査委員会等の設置状況から、設置事由として下記の傾向が確認できます。
2024年1月~2025年6月までの第三者委員会等の設置事由としては、「着服・横領(経費・水増し発注等)」と「会計不正(架空売上・在庫評価・原価付替等)」が多く、海外子会社の不正を設置理由とする事案も多々見られました。次いで、「検査・品質不正・性能偽装」と「雇用調整給付金・保険不正請求等」に係る事案が多くみられました。
2025年7月~2026年4月までの第三者委員会等の設置事由としては、「着服・横領(公私混同・不正支出・キックバック等)」が全体の半数以上を占めており、海外子会社での発生が多く含まれています。次いで「会計不正(架空売上・架空計上・在庫評価・循環取引等)」が確認できます。「検査・品質不正・性能偽装」「雇用調整給付金・保険不正請求等」に係る事案は大きく減少しましたが、自社または子会社の経営者による着服・横領等の不正の件数の増加が目立ちます。
(2) 最近の相談事項や社会的なニュースの傾向
最近の相談事項の傾向は、第三者委員会等の設置事由の傾向とほぼ同じですが、取適法対応に関する事項や通報を契機とした不正調査・情報持ち出し等に係る調査の依頼が増えているほか、海外子会社の経営層による不正や取引先に係る不正の疑義に関する相談も増えています。
また、社会的に関心事の高いニュースでは、マルウェアやサイバー攻撃のほか、取適法に係る行政指導が増えています。
(3) 最近の不正事例の傾向に係る注意点
会計不正や着服・横領に係る不正では、財務諸表に与える影響が重大となる可能性がある場合、会計監査人や証券取引所からの第三者委員会等の設置の圧力が高まります。そのため、中堅の上場企業の会計不正等に係る第三者委員会等の設置件数と比較すると、大規模な上場企業における第三者委員会等の設置件数が少ない点には注意を要します。
第三者委員会等が設置されない場合には、公表されることがないものの、相談件数等を踏まえると、実際には相当数の不正が発生している可能性が高いと考えられます。
2.必要となる対策の方向性
(1) 経営者不正対策
上場企業の経営者不正の対策としては、経営者による不適切な行為が認められた場合に退任を容易にできるコーポレートガバナンスの制度強化が基本的な施策の一つとなります。
一方、子会社の経営者不正対策としては、経営者との委任契約書・役員就任許諾書に不正疑義発生時に不正調査協力義務を明記し契約義務を課することが有用です。会社と役員との法的関係は「委任」のため、経営者不正の疑義が発覚した時点で経営者が辞任すると委任契約は解除されてしまうことから、非常に重要な対策です。
(2) 注意すべき法規制への対応
日本では2026年1月に取適法が施行され、施行前後の時期から多くの企業が行政指導等を受けています。海外でも、近年、EUや中国などで取引先管理に係る法規制が強化されています。
また、多くのサーベイ結果では、不正の発覚経路の第1位は内部通報とされています。日本では、公益通報者保護法の改正法が2026年12月から施行されます。EU各国でも公益通報者保護法の制定・施行が相次いでいます。
こうした中、グローバル通報制度を導入する企業も増えつつありますが、当該制度を本社に導入しただけでは有効ではなく、海外各国の公益通報者保護法・労働法、個人データ保護法等の要求事項を踏まえたうえで、個々の海外子会社での対応が必要となります。これらの点は第2回のコラムでさらに解説します。
(3) 一人仕事対策とデータ活用型のモニタリング
不正の主な原因の一つは、一人で何でも業務が完結してしまう“一人仕事”の状況です。そのため、不正対策の有効な対策の一つとして「一人仕事対策」が挙げられます。具体的には、職務分離・内部牽制の確保ということになりますが、管理業務の人員が少ない子会社では、業務を二人以上に分担する職務分離や内部牽制の確保が非常に難しいケースが多々生じます。そのため、一人仕事の状況でも、マネジメント層による承認時に異常点の有無を審査・確認するプロセスを確立することや会議体等での報告事項のレビューの際に異例事項とその理由を追求する項目を拡充することが非常に重要となります。これらの点は、第3回のコラムでさらに解説します。
また、不正対策としては、現地・現物の確認を行う内部監査は極めて重要ですが、先般のコロナ禍のような状況が再発する可能性は否定できません。そのため、本社が海外子会社に係る各種のデータを活用したモニタリング手法を確立することは非常に有用です。この点は第4回のコラムでさらに解説します。
3.基本用語の整理
最後に、当コラムで出てくる重要な概念について、以下に用語の定義を記載しておきます。
(1) 不正
組織または自己のため、他者を欺くことを目的とした意図的な作為または不作為であり、結果として、損失を被る被害者が発生し、組織および自己が利得を得るものです。ビジネスでの不正には「資産の不正流用(現金や会社財産の着服等)」「不正な報告(会計不正や品質データの改ざん等)」「汚職(贈収賄、カルテル、利益相反取引等)」があります。
(2) 職務分離
企業や組織内で業務を分担し、特定の業務プロセスに対して複数の人員が関与する体制を設けることです。これにより、一人の担当者が業務のすべてのプロセスを独占的に管理できないようにすることで、不正行為の防止や内部統制の強化が図られます。
(3) 内部牽制
一つの取引や業務プロセスに複数の担当者を関与させ、お互いにチェックし合うことで不正を防ぐ仕組みです。
(4) モニタリング
統制手続等が実際に実行されていることを確認することや有効に機能していることを評価することです。承認・報告プロセスのように、日常業務の中で行われるモニタリングもあれば、内部監査のように独立的に行われるモニタリングもあります。
(5) 取適法
従来の下請法を改正して2026年1月から施行された「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」の通称であり、従前の下請法と同じく書面交付義務や60日以内の支払サイトの定めのほか、支払時の振込手数料の相殺や手形払いの禁止などを定めています。
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渡辺 慎一郎(わたなべ しんいちろう)
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