2025年10月号Vol.140
【ユーザー事例2】財務会計から始める、内部事務DX
公会計システム > 埼玉県幸手市
総合政策部 財政課長 山本 悟 氏 / 政策課 政策担当・DX推進担当主査 長野廣彬 氏
- 住所
- 埼玉県幸手市東4-6-8
- 電話
- 0480-43-1111
- 面積
- 33.93平方キロメートル
- 人口
- 48,530人(2025年8月1日現在)
──幸手市では、このほど財務会計システムを刷新されました。その狙いを教えてください。

山本 従来の財務会計システムは導入から10年以上が経過し、更新期を迎えていました。この間に自治体を取り巻く環境も大きく変化しました。コロナ禍を経てリモートワークが浸透し、2023年度には『幸手市DX推進計画』を策定して市役所改革も進行中です。こうした現状を踏まえ、次期システムは多様な働き方やDXに親和性が高いものにしたいと考えていました。
特に喫緊の課題だったのが脱・紙文化です。市には出先機関が10カ所あり、持ち回り決裁に不便さを感じていました。また、書類の保管管理・廃棄にも手間がかかり、保存期間終了後には全課総出で廃棄作業をする状況でした。さらに、出納整理期間になると会計課では平均50時間以上の残業が常態化していました。
将来の人手不足への対応や働き方改革の点でも、定例業務を効率化して、より付加価値の高い業務にリソースを集中させる〈内部事務のDX〉の推進が必要不可欠でした。
選定理由は、機能プラス設計思想
──システム選定で重視した点は。
山本 前提としたのは、今、処理できていることは継承しつつ、伝票起票や財務書類作成などの作業の自動化を図ることです。その上でTKCを選んだ理由として三つ挙げられます。
第一に〈誰でも直感的に使用しやすい〉ことです。財務会計システムの利用対象は全職員であり、誰もが戸惑わずに利用できる点を評価しました。その一例が画面上に常に表示されているガイダンスです。これにより、操作に困った時にもヘルプから情報を探す手間がかからず便利です。また、予算編成では、ボタン一つで前年度以前の執行状況を確認できる──など、インタフェースも洗練されているなと感じました。
第二が〈ノンカスタマイズでも多様な機能を備えている〉ことです。新システムではパッケージシステムの導入をベースに、機能強化や法令改正に迅速に対応してくれるかという点も重視しました。加えて、TKCシステムはクラウドサービスのため、①定期的なサーバの入れ替えが不要となる、②利用契約のみでサービスが利用可能となる──など、事務面での軽減が図れる点も評価しました。
第三が〈システムの設計思想〉です。正直、機能面では各社ともに優劣をつけ難かったですね。その中でも、プレゼンで印象的だったのが「コロナ禍でのリモートワークに対応するため、予算要求の積算データをエクセルで分散入力・システムに取り込める機能を追加した」という話です。これを聞いて、ユーザー視点で臨機応変に動いてくれる事業者との印象を持ち、ここが提供するシステムならば長期的に安心して利用できそうだと考えました。
小さな改善を重ね、未来を変える
──今後の計画を教えてください。
山本 「TASKクラウド公会計システム」は、10月の予算編成から運用がスタートします。ただ、今年度の執行については現行システムでの運用となるため、まずは新旧システムが混在する時期を乗り切り、その後に電子決裁を導入して定着を図る考えです。その次には電子請求書への対応も構想しています。現在、市では約2,000件の債権者から年間2万5,000件の請求書を受領しています。これを電子データで受領し、システムに連携することで、原課と会計課の作業負担を大幅に軽減できるでしょう。その点ではペポルインボイスにも大いに注目しており、先行事例を研究するとともに例規改正の検討を進めています。
将来的には電子契約の導入も視野に入れています。実施計画や予算編成・執行等に加えて、契約・支払い事務なども財務会計システムとデータ連携することで、業務プロセスのさらなる効率化につながると期待しています。
長野 幸手市のような規模の団体ではDXを一気に推し進めようとせず、小さな変化を積み重ねて職員が無理なく馴染めるようにすることが肝要でしょう。小さな変化であれば、成功も決して難しくありません。その成功体験が新たな挑戦への意欲となり、継続的な改革につながると確信しています。
DXについては計画に沿ってできることから順次進めています。今年度からはBPRにも着手し、その一環として9月には職員による窓口体験も実施しました。これにより、UX(ユーザーエクスペリエンス)の視点を醸成するとともに、日常業務では見落としがちな課題点などを見つけて業務改善につなげることを目指します。
ただ、BPRは部分的な業務改善ではなく、業務プロセス全体を再構築し、業務効率やサービス品質を向上させる取り組みです。そのため各課に〝丸投げ〟するのではなく、行政改革担当として伴走支援に努め、今後も市役所を〝変える〟ことにチャレンジしていきたいと考えています。
──内部事務のDXを進める上で、システムに期待することは。
山本 財務会計に次いで、文書管理システムの導入などにより文書の保管管理・廃棄にかかる作業の見直しも進めたいと考えています。
DXは息の長い取り組みです。明確な将来ビジョンを持ちながら、その実現のために小さな変化を日々重ねていくことが重要でしょう。より質の高い〝持続可能な行政サービス〟の達成へ──自治体とともにシステムも進化し、これからも常に最適な存在であり続けてくれることを期待しています。

左から長野主査、山本課長