更新日 2010.08.23

IFRS導入とその影響

第10回 初度適用

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公認会計士 中田 清穂 TKCシステム・コンサルタント
公認会計士 中田 清穂
日本の会計制度を大きく変えるIFRS(国際財務報告基準)への関心が高まり、検討や対応が始まろうとしています。IFRS導入の背景から、実務に必要なポイントなどを、全10回にわたって連載いたします。

2010年8月23日掲載

 IFRS第1号「初度適用」は、初めてIFRSで財務諸表を作成する際に、絶対に従わなくてはならない基準です。
 また、初めてIFRSを適用して財務諸表を作成する場合には、適用初年度の財務諸表を過去の財政状態や業績と比較できるようにするために、前年度の財務諸表もIFRSに準拠して作成しなければなりません。そして、前年度の財務諸表をIFRSに準拠して作成するために、前年度の"期首の"貸借対照表、すなわち前々年度の"期末"貸借対照表もIFRSに準拠して作成する必要があります。

 金融庁の中間報告では、最短で2015年に提出する財務諸表からIFRS強制適用です。
 そうすると、日本で最初にIFRS強制適用の義務を負うのは、2015年1月に有価証券報告書を提出する"10月決算の企業"になる可能性があります。
 内部統制対応の時のように「どうせ3月決算の企業からだから、3月決算の企業の様子を見極めて、うちは最低限のレベルでゆっくりやればいいや」とタカをくくっている12月決算の企業などは、注意しておいた方がいいでしょう。

 話を適用初年度の前々年度の期末貸借対照表に戻します。
 日本で最も多い3月決算の企業の場合、適用初年度は、最短で、2014年度(2015年3月期)になるでしょう。そうすると、前々年度の期末貸借対照表とは、2012年度の期末貸借対照表になります。
 この2012年度の期末貸借対照表をIFRSに準拠して作成するのです。当然"過去に遡って"IFRSに準拠する必要があります。基本的には、ずっと前からIFRSで財務諸表を作成し続けてきたかのように、2012年度の期末貸借対照表を完成させなければならないのです。
 特にIFRSは資産・負債中心の基準ですから、2012年度の期末時点で、IFRSの基準での定義を満たし、認識規準を満たす資産や負債を計上し、IFRSの基準に沿った測定方法で金額を決定します。

 ここを誤解されている方が多くいるようなので、注意してほしいのです。
 「2012年度の期末貸借対照表は従来の日本基準でしか作れないから、その後からIFRSを適用していけばいいのだろう」という誤解です。

 2015年に提出する有価証券報告書に記載するのは、2012年度の期末貸借対照表から、3つの貸借対照表と2つの損益計算書、そして2つのキャッシュ・フロー計算書ですが、これらを有価証券報告書に記載するためには、ずっと前の期からの財務諸表もIFRSを適用したものがなければ、2012年度の期末貸借対照表をIFRSベースで作成できるわけはないのです。

 では、何期前まで遡ればいいのか...。答えは"できる限り"です。

 そこで今注目されているのが、IFRS第1号「初度適用」にある遡及の免除規定です。
 これは、いくつかの項目については、過去に遡らなくても良いという規定です。
 その中で、実務上もっとも関心が高いと思われる免除規定が、有形固定資産の「みなし原価」です。

 原則的な処理では、まず、期末の有形固定資産を取得した時点まで遡ってIFRSベースの取得原価を算出することになるため、不動産取得税や登録免許税なども取得原価に含めて算出する必要があります。そして、税法上の耐用年数ではなく、実際に利用する年数を耐用年数として減価償却を行って期末の帳簿価額を算出しなければなりません。

 しかし、免除規定として、「みなし原価」を選択適用することが認められています。

 「みなし原価」とは、過去の取得原価や過去からの減価償却などとは全く関係が無く、期末時点での公正価値をそのまま簿価とする方法です。それを起点として次期以降は「原価モデル」でIFRSベースの減価償却をしていけばよいのです。
 ただ、この場合すべての資産を公正価値で評価する必要があります。したがって、「有形固定資産はIFRSの遡及はしないで、みなし原価でやればいいや」という安易な考えは危険だと思います。

プロフィール

公認会計士 中田清穂 (なかた せいほ)
TKC連結会計システム研究会・専門委員

著書
『内部統制のための連結決算業務プロセスの文書化』(中央経済社)
『連結経営管理の実務』(中央経済社)
『SE・営業担当者のための わかった気になるIFRS』(中央経済社)

ホームページURL
有限会社ナレッジネットワーク http://www.knowledge-nw.co.jp/

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